ハリスが療養の上海から下田へ戻って1年半。ヒュースケンの所在が見えない。ヒュースケン、何処へ？　

所在を追う手掛かりはヒュースケンの日記と公文書だ。1858年６月９日で日記は途切れ、1861年１月１日から再開される。日記が途切れた間、1859年４月に細部を改めた条約書をヒュースケンがハリスの代理として下田奉行中村出羽守から受け取っている。幕府にその記録が残っている。これでヒュースケンの所在を確認できる。確認できるだけだけど。
　できるだけって何？　ヒュースケンが受け取ったのは通商条約書の差し替えだ。記録公文書にはこうある。条約書の本文紙は閒合紙^{マニアイガミ}、表紙は大和錦、条約書の包装は上島桐御箱、であって、その中身ではない。条約の日本文揮毫は髙木幸次郎、オランダ語揮毫は森山多吉郎である。なんてコッタ、これで条約の何がわかるッテンダ。

　通商条約は先のペリーの交わした神奈川条約の補足だとしかとらえていない日本側。1ドル銀貨は一分銀3ケ、長崎開港、アメリカ市民の治外法権1857年３月１日の補足会議で話し合われた。だが、交渉中の通商条約第二条でアメリカ側が日本での永住権を持つとハリスは交渉した。永住権は通商のための必要項目だとハリスは強く唱える。この第二条により日本に不運が宿りアメリカが利を得ることになる。実際に批准された通商条約ではこの規定が三条に盛り込まれる。
　通商条約の本旨ではないが宗教に関する取り決めもある。信仰の自由だ。居留地でのキリスト教会建設を認めさせた。ハリスもヒュースケンも宗派を共にするキリスト教徒。二人の出会いは米国の教会だった。キリシタン禁令以来の日本の宗教鎖国が貿易交渉の中でいともたやすく破られた。

　アジアの東のはてで鎖国をしている日本江戸幕府と通商条約交渉を交わすハリスを援けて、条約の素案作りを終えたばかりだ。ヒュースケンは1858年１月２日、深夜の地震の時、喜劇「女学者たち」を読んでいた。 　 　

　いや、だからと言ってヒュースケンの洋風学識に恐縮することはない。彼は劇中のクリタンドルの台詞に共鳴している。いわく、
　　「学問は大馬鹿を作る」
　それに、モリエールはフィラマントに結婚相手は「学者がいい」と言わせてから、学者ぶる哲学好き姉妹を好まないアンリエットに「普通の人の暮らしがいい」と言わせる。そして物語は平穏に向かい大団円の結末。これがモリエール。パリ市民の喝さいを受ける。ヒュースケン、ページを綴って溜飲を下げニコリとした。

　

　007
ブルボン小劇場のヒュースケン

KhasyaBook mini アーカイブ/ヒュースケン

　●ヒュースケンの予見
　1856年1月28日、蒸気船聖ジャシント号は米国を出港、欧州を経て………

　●タウンゼント・ハリス、コロンボでハルワを食す
　ハリスの1856年1月1日1日の日誌にこうある………

　●ヒュースケンが、ゴールで記したこと
　ヘンリー・ヒュースケンは日本へ向かう途中、セイロンのゴールで………