EHN 2019年12月6日
連邦政府のテストは
BPA とその他の化学物質への
暴露を著しく過小評価している


研究者らは、連邦機関は BPAへの暴露を推定するのに非常に不正確なテストを用いていると言う。
このことは、我々の体内に入ってくる他の多くの有害化学物質にもあてはまる。
ブライアン・ビエンコースキー

情報源:Environmental Health News, Dec 06, 2019
Federal tests 'dramatically' undercount BPA and other chemical exposures

Researchers say federal agencies use highly inaccurate tests to estimate exposure to BPA
- findings that extend to multiple other harmful chemicals that get into our bodies
By Brian Bienkowski
https://www.ehn.org/how-much-bpa-in-our-bodies-2641524955.html

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2019年12月14日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_191206_
Federal_tests_dramatically_undercount_BPA_and_other_chemical_exposures.html


 本日発表された分析によれば、化学物質ビスフェノールAが人々の体内にどのくらい存在するかを調べるために連邦政府によって使用されているテストは我々の暴露を著しく過小評価していた。

 人々の BPA への暴露を推定するための最も一般的なテスト手法は、我々の体内のその化学物質のかなりの割合をおそらく勘定にいれていないと、研究者らは言う。連邦政府はこれらのテスト手法に依存する結果、現在の暴露レベルは非常に低いので、我々の健康を害することはないという結論を導き出している。

 しかし、その基本的な仮定は最早有効ではなく、同じ方法でテストされて安全であるとみなされている他の数百の化学物質にも影響がある劇的な結論をもたらすと、研究者らは言う。

 ”BPA は健康リスクをほとんど及ぼさないという FDA の結論を含んで、無視できる暴露レベルは規制決定の基本であったので、人間の健康へのリスクもまた著しく過小評価されているという緊急の懸念を本データは提起している”と著者らは本日、『ランセット・糖尿病・内分泌学』誌に発表された下記の記事に書いた。
Correspondence|Online First
BPA: have flawed analytical techniques compromised risk assessments?
Roy Gerona, Frederick S vom Saal, Patricia A Hunt
Published: December 05, 2019, DOI: https://doi.org/10.1016/S2213-8587(19)30381-X

 毎日、我々の全ては缶詰の内面処理、紙レシート及びプラスチック容器中で使用されている BPA に暴露している。それは内分泌かく乱物質と呼ばれるグループの中で最も悪名高く、体内のホルモンを擬態し変更する化学物質である。BPA は、がん、糖尿病、肥満、不妊及び行動障害を含む広範な健康問題に関係している。

  BPA による健康リスクを検証するにあたり、連邦規制官と独立系科学者らはその化学物質が我々の体内にどのくらい存在するのか知る必要がある。これは見た目よりも難しい。体は BPA を迅速に代謝するので彼らは、体が元の化合物(BPA)を分解した後に形成される代謝物又は化合物を調べる必要がある。

 2000年代初め頃までは、代謝物のための標準がなかったので、科学者らは代謝物を元の BPA に戻すために酵素溶液を用いてそれを測定するという”間接的テスト”として知られるプロセスを使用しものであった。しかし現在では科学者らは代謝物を直接測定することができ、彼らはそのような直接的測定は間接的テストに比べてはるかに正確であり、尿中にもっと多くの BPA を示すことを知っている。

 問題は、間接的テストは、アメリカや欧州連合を含む世界中の規制当局(訳注1)が暴露レベルを評価するための”黄金律(gold standard)”となっているということである。

 ”このことは古い手法は非常に不正確であることを示している”と、この新たな分析の共著者であり、ワシントン州立大学の研究者であるパット・ハントはアメリカ食品医薬品局(FDA)を参照しつつ、 EHN に述べた。”それは、我々はもっと良いツールを持っているということである。我々が使用していたツールは荒削りで、非常に不正確であった”。

 FDA は、ハントの様な独立系科学者らの忠告に反して、酵素を用いて代謝物を元の BPA に変換する間接的手法をまだ用いており、現在我々が暴露しているレベルで BPA は安全であるとみなしているので、このテスト結果の相違は重要である。そして FDA がその化学物質が安全であると言い続ける理由の一部は、FDA は BPA への人間暴露は無視できると断言していることである。

  マサチューセッツ大学アマースト公衆衛生健康科学部門の環境健康研究者であり、その新たな分析には関与していないローラ・バンデンバーグは、 FDA が古い標準を使い続けるのは多分、なにか悪辣な理由があるからというわけではないであろうと述べた。

 ”もし新たな手法が機能すると考えるなら、何故、新たな手法を作り出さないのか”と EHN に述べ、追加的標準におけるコストの追加がもう一つの要素であろうと付け加えた。

 しかし、その新たな分析は BPA だけではなく、もっと広い範囲の化学物質についても意味合いがあると彼女は述べた。下記を含む数百の他の内分泌かく乱化合物は現在、FDA により同じ間接的手法を用いてテストが行われている。プラスチック商品容器及び身体手入れ用品中のフタル酸エステル類;焦げ付き防止調理鍋及び撥油・撥水用品に加えられるペル−及びポリフルオロアルキルサブスタンス(PFAS);難燃剤;及び BPS や BPZ のような他のビスフェノール類。

 ”この研究が提起する重要な疑問のひとつは、この問題はどのくらい広がっているのかということである”と、ハントは述べた。

連邦政府のテストに関する最近の懸念

 EHN は先月、アメリカ食品医薬品局の BPA 科学の取り扱いについての 1年間にわたる調査結果を下記の記事で発表した。
Exposed: How willful blindness keeps BPA on shelves and contaminating our bodies Published by EHN on Nov 15, 2019

 その調査は、内分泌かく乱化合物に関する現代科学技術への”故意の盲目(willing blindness)”を発見し、アメリカの規制当局は多分、現在のテスト手法と規制体制を損なわずに維持し、厳しい調査を回避するという意図を持って、科学的公正性(scientific integrity)の周辺で運用しているかもしれないと結論付けている。

 情報公開法を通じて得られた数百のeメール及び数十のインタビューを用いた調査が下記を示した。
  • FDA と産業側科学者らは、 BPA 暴露と関連していることが知られている影響を検出することができない数十年古い研究手法使用し続けている;
  • 連邦政府職員間のeメールは有害性の証拠を無視する努力を示唆している;
  • FDA による偏向したデータ解釈手法;
  • FDA 規制規制官と国立健康研究所(NIH)の健康担当官との間の BPA の安全性に関する見解、及び公衆に伝えられるメッセージに関する著しい不一致

 その調査は、「BPA の毒性に関する大学と規制当局の見識を結びつけるコンソーシアム(CLARITY) Consortium Linking Academic and Regulatory Insights on BPA Toxicity 」と呼ばれる FDA 共同主導の数百万ドル(数億円)規模のプロジェクトに焦点をあてた。 2012年に立ち上げられたその取り組みは、政府側の在来の規制技術研究と学術的科学者らの研究を統合しようとするものである。

 我々の報告書は、両陣営間の研究手法とデータ解釈に関する著しい不一致、及び共通認識を得るための方法として宣伝されていることは、その議論ある化学物質を覆う科学的行き詰まりをさらに固定しているように見えることを発見した。

 今回の分析は、 FDA のテストは不適切であるとする学術側の主張を補強するものである。その CLARITY 研究で FDA 自身のデータは、実験された中で最低の用量でラットに影響があった証拠を示した。しかし著者らはその新たな分析中で、”人間の BPA 暴露は無視できるという仮定に基づき、FDA は CLARITY データ及びその他の多くの研究中の有害な低用量影響を考慮しなかった”と書いた。

 FDA は、新たな分析にコメントするよう求めた我々の要請に回答しなかった。

テストが広範な二者間の不同をもたらす

 新たな分析は、直接的テスト手法と古い手法を比較したときに、 BPA 暴露レベルに大きなギャップがあることを発見した。例えば、研究者らが妊娠中期の 29人の妊婦の尿を両方の手法を用いて比較した。直接的テスト手法を用いて、彼らは BPA の平均レベルは、最近の全国健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey: NHANES)における成人の平均より 44倍高いことを見つけた。彼らが古い間接的テスト手法を用いた時に、平均 BPA レベルは直接的テスト手法より 19倍低かった。”重要なことには、間接的及び直接的手法による結果の相違は、暴露が増大するに従い顕著に増大した”と著者らは書いた。

 間接的テスト手法は人間の BPA レベルに関する大量のデータを供給していたと、著者らは付け加えた。だから新しい分析は、我々の生活、我々の体、及び我々の発達中の子どもの体に広がる化学物質から我々は安全であると我々に告げるために使用されてきた大量のデータに疑問符をつける。

 バンデンバーグは、アメリカにおける化学物質はテストで 3つの重要な手順を踏む。すなわち、どのようなレベルで健康影響を引き起こすかを見るためのハザード評価;どのくらい多くの化学物質が食品や製品中に存在しており、我々はどのくらい暴露しているかを見るための評価;及び健康影響を再びチェックするための人々の暴露に基づくラボ評価−である。

 もし暴露評価が人々は取るに足らない量しか暴露しておらず、影響がないと言えば”、評価全体を狂わせると彼女は述べた。

 ハントは、このことは、”[代謝物]を直接的に測定するための標準の必要性を強調している。我々は親(元の)化学物質のための標準を持っているが、代謝物のための標準を持つことは、それらを可能な限り正確に測定するために重要である”と述べた。

 ”他のどのようなことも同様に、科学は前進しており、その新たな直接的手法は利用可能な最良の手法である”とハントは述べた。”人間がいかに高く暴露してるかを見るために、[以前の全国調査」からのデータに戻って再分析するか、又は新たな調査を実施する緊急の必要性がある”。


訳注1:現状レベルの食品包装中の BPA への食事暴露は安全であると結論づける国際的な主要機関
(出典:JAMA Network 2018年3月21日
訳注:当研究会が紹介した BPA 論争関連情報


化学物質問題市民研究会
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