米国医師会 JAMA Network 2018年3月21日
科学者らは、ビスフェノールAは安全であるとする
FDA の声明は時期尚早であると考える

ジェニファー・アバシ
情報源:JAMA Network, March 21, 2018
Scientists Call FDA Statement on Bisphenol A Safety Premature
By Jennifer Abbasi
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2675909

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2018年4月2日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/180321_
JAMA_Scientists_Call_FDA_Statement_on_BPA_Safety_Premature.html

 内分泌かく乱化学物質であるビスフェノールA(BPA)に関する最近(2018年2月23日)の米国食品医薬品局(FDA)のプレスリリースは、同局の外の科学者らから広範な批判を浴びた。

 同プレスリリースに示された食品及び獣医学担当のFDA 副長官ステファン・オストロフ博士による 2月の声明は、ラットを用いた 2年間の研究のピアレビュー前の報告書案は、BPA は食品容器及び包装のために現在認可されている使用にとって安全であるとする同局の以前の決定を支持したと述べた。

 報告書案とプレスリリースが発表された同じ日に、FDA 長官スコット・ゴットリーブ博士は、”BPA は現在認可されている用途で安全であるとの結論を継続する”とツイートし、”プラスチック添加物 BPA は大きな脅威ではないことを政府の研究が発見”という見出しの NPR の記事シェアした。

 しかし、研究者や医師などを含む約18,000人の会員を擁する国際的な専門家組織である内分泌学会は、FDA のプレスリリースに懸念を表明する声明を直ちに発表した。同学会、並びに JAMA (米国医師会のジャーナル)によるインタビューを受けた実験動物及び人間への BPA 及び他の内分泌かく乱物質の潜在的な健康影響を研究している科学者らは、FDA のメディア及び公衆への声明は時期尚早であり、不完全であると述べた。

手法を検討する

 このプレスリリースに関してコメントすることを拒否した FDA は、2012年に赤ちゃん用ほ乳びんと子ども用シッピーカップの中での、翌年には幼児用粉ミルクの缶の中での BPA の使用を禁止した。FDA はこれらの規制は安全性の懸念よりむしろ、産業側によるこれらの用途のためのこの化学物質の放棄(industry abandonment of the chemical for these uses)に基づいていたと明示していた。この化学物質は産業に対する公衆の圧力のために、特にプラスチックの飲料用ボトルとプラスチックの食品容器での使用は減少したが、それでも多くのアルミ缶の内面ライニングで見いだされる。BPA はまた、いくつかの医療機器やスポーツ機器、プラスチック製おもちゃ、歯科用詰め物、及び店の領収書など、他の広範な製品で使用されている。

 新たな議論は、政府と大学の科学者らとの間の 「BPA の毒性に関する大学と規制当局の見識を結びつけるコンソーシアム(CLARITY-BPA) Consortium Linking Academic and Regulatory Insights on BPA Toxicity 」と呼ばれる共同研究の周囲に向けられている。内部の機関である国家毒性計画(NTP)、国立環境健康科学研究所(NIEHS)、及び FDA は BPA 暴露による潜在的なあらゆる健康影響を調査するために、この10年の早い時期に CLARITY-BPA を立ち上げた。

 2019年8月に予想されるプロジェクトの最終結論は、二組の結果に基づくであろう。ひとつは、主に BPA を暴露させたラットの成長、臓器重量、及び腫瘍発症からなる”主研究(“core study)”であり、FDA の国立毒性研究センターで実施されたものである。もうひとつは、生殖、心血管系疾病、神経行動、及び免疫への影響を含んで、同じげっ歯類における他の評価項目を検証する、NIEHS から資金提供を受けた米国大学における 13 の研究である。

 オストロフ副長官の最近の声明は主研究中の主に、予想したことが起きなかった結果(null results)に目を向けており、それはまた、特に数ある評価項目の中でも生存、発情周期、精子数、及び血清プロファイルを評価した。NTP によりパブリックコメントのために発表されたその報告書は4月26日の公聴会で外部ピアレビューを受けることが予定されている。

 その声明は、助成金受領者データを含む統合報告書は将来発表されるであろうと言及したが、助成金受領者による 9 編の CLARITY-BPA 記事はすでに論文審査のある専門誌(peer-reviewed journals)に発表されていたことを言わなかった。これらの研究のいくつかは低レベル暴露での有害性を見つけた。主研究もまた、最も低い暴露用量で乳腺腫瘍の増加を発見したが、それは FDA 声明の中で軽視されていたと研究者らは述べた。

 その声明に反応した政府の外の科学者らは、深い失望を表明し、なぜ規制当局は議論ある化学物質の安全性について調査の半分だけに基づいて声明を発表したのか疑問を呈した。

 ”私は、規制当局の科学には現代科学の残りの部分と我々が承知していることが欠けているにもかかわらず、彼ら自身の科学について、彼らがひとつの展望を主張することができるということに驚いて、ものも言えない”と、甲状腺と脳解剖学評価項目に関する CLARITY-BPA 研究の主研究者である、マサチューセッツ大学(UMass)アマースト校の内分泌学者トーマス・ゼラー博士(PhD)は述べた。

 その声明は特に問題がある。それは CLARITY のもっと大きな目的は規制当局と産業側の研究室で用いられている標準毒性テストが内分泌かく乱物質の安全性を決定するために適切であるかどうか決定することであるからであると、彼は述べた。その懸念は、CLARITY-BPA 主研究の様な毒性研究は、内分泌かく乱物質の影響を検出するためには感受性が十分ではないかもしれない経済協力開発機構(OECD)の国際テスト・ガイドライン中に詳細が記述されている評価項目を使用しているということである。(訳注:原文の OECD international test guidelines へのリンクは切れているので、OECD Guidelines for the Testing of Chemicals にリンクを張った。)

 この種の毒性テストは、動物は死ぬか? それらは肉眼形態学的問題を生じているか? それらは明白ながんを発症しているか? ということを見るために使用されていると、内分泌かく乱物質を研究しているテキサス大学オースティン校の毒性学者アンドレア・ゴア博士(PhD)は述べた。”そのテスト手法が悪いわけではないが、内分泌かく乱化学物質に対しては、それは非常に不適切であると考えられる”。

 1960年代、70年代及び80年代に開発された古典的な毒性学テスト手法は、臓器の重量を比較することに大きく依存している。しかし今日、規制関連以外の内分泌学者らは、遺伝子発現又は細胞表現型の変化と特定の健康及び行動に関する結果との関連の様なことを探す最先端の手法を使用する。

 このことは、少なくともある程度、大きな矛盾を説明できる。すなわち、研究室での細胞研究が、BPA をホルモン系をだましてかく乱する化学物質としてまず同定した後に、政府と産業側が実施した BPA に暴露させた実験動物の研究は、一般的に有害影響を明らかにすることができなかったが、一方、大学研究所の多くの研究が低用量での影響を示した。

多くの文献と規制側研究との断絶

 マサチューセッツ大学(UMass)アマースト校の内分泌学者で環境健康科学者であり、内分泌学会の報道担当の任にあるローラ・バンデンバーグ博士(PhD)によれば、大学研究者らは出生前の発達中に BPA に暴露させられたげっ歯類の生殖器官及び機能、脳と神経行動、及び代謝への影響を含む健康影響を報告する数百の研究を発表している。

 ”多くの影響について深刻な懸念を提起する多数の独立系研究者による相当数の動物研究がある”と、内分泌かく乱物質と子どもの健康を研究しているニューヨーク大学医学校の小児科医レオナルド・トラサンデ博士(MD)は述べた。

 加えて、100を超える疫学的研究が、人々の BPA 暴露と疾患の転帰(disease outcomes)を示していると、バンデルバーグは述べた。横断研究が生殖疾患、代謝疾患、及び行動学的問題との関連を示しており、一方、前向き研究が若年期の BPA 暴露を後年の肥満及び注意欠陥症や強迫性障害(訳注:ウィキペディア)に見られるものに類似する行動学的問題に関連付け始めた。

 それにもかかわらず、いわゆるガイドライン対応研究は、米国食品医薬品局(FDA)欧州食品安全機関(EFSA)、及びカナダ保健省の食品部門(Food Directorate)を、現状レベルの食品包装中の BPA への食事暴露は安全であると結論づけることに導いた。

 ”ビスフェノールAに関するおびただしい文献と、規制側の研究ガイドラインから出てくるメッセージとの間に大きな断絶がある”と、国家毒性計画(NTP)の上席科学者ジョン・ブッチャー博士(PhD)は述べた。3,000万ドル(約30億円)の納税で賄われる CLARITY-BPA プログラムは、これらの断絶を理解するために立案されたと、彼は述べた。

 全てのデータが収集され、合成される前にプレスリリースを発表するという FDA の決定について問われたブッチャーは、”もし我々が同時に、一緒に評価するために、主研究情報として利用可能な助成金受領者情報のすべてを手にすることができていれば良かった。そのプロセスは最適ではなかった”と、述べた。

初めから緊迫

 助成金研究からの発見は割愛し、ガイドライン研究だけから結論を引き出すことにより、FDA は研究プログラムのまさにを前提を切り落としたと述べた。

 ”CLARITY の核心は臓器重量が実際に安全性を評価する最も感度の高い方法であるかどうかについて決定することである”とゼラーは述べた。

 しかし、その研究は初めから波乱を含んでいたと彼は述べた。早くから大学の研究者らは研究のために選ばれるラットの系統、及びBPAを経口投与するために用いられる方法について懸念を表明していた。

 そして2014年に FDA の科学者らは、”彼らの協力相手である大学研究者に相談なしに、主研究の不完全版である”90日 CLARITY-BPA パイロット研究に関する記事”を発表した。大学研究者にとって残念なことに、その記事は低用量 BPA 食事暴露は安全であると示唆したものであった。そのパイロット研究はまた、2014年の FDA の最後の BPA 安全評価のための文献とデータの中にも含まれていた。

 初期の研究は CLARITY-BPA 実験プロトコールの問題を明らかにした。コントロール・グループのラットの血液中には BPA が存在し、不注意にこの化学物質に暴露していたことを示していた。その汚染源は特定されておらず、バンデルバーグによれば、その問題がもっと大規模な主研究中で解決されたのかどうか、不明である。

   ”私が知る限り、彼らは」テストさえしなかった”とその主研究について彼女は述べた。”だから、彼らはパイロット研究に問題があったことを知っていたが、我々はその問題が継続しているのか、あるいは解決したのかについて、証拠を見ていない”。

光り輝くアイディア

 ゼラーは、 FDA は CLARITY の結果がどのように報告されるのかについて大学研究者らと合意した内容を一度ならずそむいたと述べた。彼やその他の人々は FDA への産業側の影響を非難している。”私は、 FDA はこの全体のことがらについて産業グループと連絡を取っていたということを強調しなくてはならない”と彼は述べた。”彼らは現代科学を化学物質の安全性決定に関与させないという、ひとつのシステムを作り出した”。

 そのパイロット研究の記事の後は、ゼラーは FDA が時期早々の声明を発表しても驚かなかった。現在の彼の恐れは、化学産業が、国家毒性計画(NTP)のウェブサイトに 8 月に発表されることになっている助成金研究から生データを彼ら自身の目的に合わせて細工するかもしれないことである。

 国家毒性計画(NTP)のブッチャーによれば、来年が期限の最終統合報告書はピアレビューを受けるであろう。助成金受領者は、必要があれば彼らのデータを明確にするために相談を受けるであろうが、彼らをその文書作成またはレビューに関与させるのかどうか明確ではない。”我々は彼らの論文を調べ生データを見るので、彼らのところに立ち戻り、我々は彼らが見つけたことを完全に理解していることを確認するであろう”と、ブッチャーは述べた。

 懸念ある BPA 及びその他の化学物質は、まさに有害な非常に多くの類似の化学物質で代替され始めているので、化学物質の毒性をテストする最良の方法を見つけるための努力は、おそらくもっと緊急を要するようになっている。

 ゼラーは、失望と懸念にもかかわらず、 CLARITY のような研究パートナーシップは公衆のよき健康のために化学物質の安全性を理解することにとって非常に重要であると信じている。”規制側の人々と独立系科学者の間のこの協力は、光り輝くアイディアであり、化学物質を規制するために世界の状況を実際に変えることができる機会であるように見えた”と、彼は述べた。


訳注:BPAの有害性に関する議論



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