The Guardian 2018年8月11日
一人の男の苦難がモンサントの秘密を暴露
モンサント自身の記録が、
グリホサート除草剤のがんとの関連の真実を明らかに
ケアリー・ジラン

情報源:The Guardian, Aug 11, 2018
One man's suffering exposed Monsanto's secrets to the world
Company's own records revealed damning truth of glyphosate-based herbicides' link to cancer
By Carey Gillam
https://www.theguardian.com/business/2018/aug/11/
one-mans-suffering-exposed-monsantos-secrets-to-the-world?CMP=share_btn_tw


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2018年8月16日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_18/
180811_Guardian_One_mans_suffering_exposed_Monsantos_secrets_to_the_world.html

 その評決は世界中に伝わった。世界最大の種子及び化学品会社のひとつに対する驚くべき一撃をもって、サンフランシスコの陪審員らはモンサントに対して、同社の除草剤への暴露により引き起こされたと主張する、がんで死期が近づいている男、ドウェイン・ジョンソンへの賠償金として 2憶8,900万ドル(約318憶円)を支払わなければならないと告げた。

 本年 6月にバイエル社(Bayer AG)の一部門となったモンサントは、消費者、農民、政治家、そして規制当局に対して、同社のグリホサート除草剤ががん及びその他の健康問題に関連するという数多くの証拠を無視するよう説得することに数十年間を費やしている。同社が採用した一連の戦術のうち、あるものはタバコの安全性を擁護するために科学的文献を抑圧し、操作し、同社の宣伝に従わないジャーナリストや科学者に嫌がらせをし、無理強いして規制当局と結託するという、タバコ産業が使用したのと同じ筋書きであった。実際にサンフランシスコ訴訟におけるモンサント側の主任弁護士の一人は、その経歴書でタバコ産業を擁護する仕事を自慢しているジョージ・ロンバルディであった。

 現在、この訴訟で一人の男の苦しみを通じて、モンサントの秘密の戦略が世界中に明らかにされた。モンサントは、自社の科学者の言葉、同社のeメールを通じてあぶり出された破滅的な真実、内部戦略報告書、及びその他の通信により、努力の結果を台無しにされた。

 陪審員の評決は、モンサントのラウンドアップ及びその活性成分であるグリホサートに関連する銘柄が、それらを使用する人々に対して重大な危険を及ぼしたことを示したのみならず、モンサントの担当者が”悪意と抑圧”をもって行動したという”明白で説得力のある証拠”を示した。

 裁判における証言と証拠は、科学的研究の中に見られる警告の兆候は 1980年代初頭にまでさかのぼり、その後の数十年間で増大していることを示した。しかし、有害性を示すそれぞれの研究にもかかわらず、モンサントは使用者らに警告をせず、あるいは製品の再設計を行わず、それらは安全であることを示す彼ら自身の科学を作り出すことに努めた。同社はしばしば、独立性を、そしてそれにより信頼性を装うよう企まれた代作者の論文を通じて公的領域に彼らの科学を繰り出した。また、同社が安全性のメッセージを推進し、有害性の証拠を押さえこむために、環境保護庁の担当者らにいかに密接に働きかけていたかを陪審員らに示す証拠が明らかにされた。(訳注1

 ”陪審団は、この長期にわたる裁判に終始注意を払い、その科学を明確に理解し、また真実を隠そうとするモンサントの役割を理解した”と、ドウェイン・ジョンソンと同様な主張をする他の原告をも代表してアメリカ中で活動する数人の弁護士の一人、アイミー・ワグスタッフは述べた。

 この裁判と評決は、学校の運動場の保全者として繰り返し大量のモンサント製ラウンドアップ及び他のグリホサート除草剤銘柄を散布して、深刻で致命的な非ホジキンリンパ腫を発症した 46歳の父親を特に懸念した。医師は、彼は恐らく長くは生きられないと述べていた。

 しかし、派生する効果はもっと広く、世界的な影響がある。もう一つの裁判が 10月にセントルイスで行われることになっており、損害賠償裁定額は、数十億ドル(約数千億円)ではないとしても、数億ドル(数百億円)以上になる可能性を持つ概略 4,000人の原告がいる。彼らはすべて、彼らのがんがモンサントの除草剤への暴露により引き起こされたということだけでなく、モンサントはその危険について長い間知っており、それを隠していたと主張している。訴訟を指揮している弁護団は、現在までのところ、モンサントの内部の書類から集めた証拠の一端に光を当てただけであり、今後の裁判でもっと多くのことを明らかにする計画であると述べている。

 モンサントは、何も悪いことをしておらず、証拠は不正確に述べられているという立場を取っている。同社の弁護士らは、彼らの立場を擁護する多くの確固とした科学的研究を持っており、それらをもって今回の評決に対して上訴すると述べている。そのことはジョンソンと彼の家族がほんの僅かでも損害賠償金手にするのに数年かかることを意味する。一方、ジョンソンは化学療法の次の段階に備えているので、彼の妻アラセリは、夫婦と二人の幼い息子を支えるために二つの仕事を掛け持ちしている。

 しかしこの裁判や他の裁判が長引く中で、ひとつのことが明白である。すなわち、これは、がんで死に近づいている一人の男についてだけのことではない。グリホサート除草剤は世界中で非常に広く使用されているので(年間概略、8憶2,600万キログラム)、その残留は一般に食品や給水系、そして土壌や大気のサンプル中で見いだされる。アメリカの科学者らはこの除草剤の残留物質を雨水中で検出している。暴露はいたるところで行われており、事実上逃げることはできない。

 リスクを認めることは公衆の保護にとって重要である。しかし規制当局は、グリホサートをヒト発がん性がおそらくある (a probable human carcinogen)と分類した世界保健機関の最高権威のがん科学者らの発見を一笑に付して、非常に長い間、独立系科学者らの警告を聞き入れることをしなかった。

 かなり前から行われている企業の秘密が、今、暴かれている。

 最終弁論で原告側弁護士ブレント・ウィスナーは陪審員にモンサントに責任を課すべき時であると告げた。この裁判はモンサントの”審判の日”であったと彼は述べた。

 ケアリー・ジランはジャーナリスト、そして著者であり、食品産業研究の非営利団体であるアメリカ知る権利の公益研究者である。彼女のツイッター @careygillam をフォローすることができる。


訳注1:関連記事
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