ガーディアン 2016年5月17日
利益相反が疑われる FAO/WHO 委員会
グリホサートのがんリスクについて論争

アサー・ネスレン
情報源:Guardian, May 17, 2016
UN/WHO panel in conflict of interest row over glyphosate cancer risk
By Arthur Neslen
http://www.theguardian.com/environment/2016/may/17/
unwho-panel-in-conflict-of-interest-row-over-glyphosates-cancer-risk

訳:安間 武 (
化学物質問題市民研究会
掲載日:2016年5月24日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/WHO/
160517_Guardian_UN-WHO_panel_in_conflict_of_interest_glyphosate.html

 国連の農薬残留に関する合同会議の議長が、グリホサートを使用しているモンサント社から寄付を受けていた科学研究所を共同運営している。

 火曜日(5月17日)にグリホサートはヒトへの発がん性がおそらくないと裁定した国連の委員会は現在、潜在的な利益相反についての激しい論争に巻き込まれている。国連の残留農薬に関する合同会議(JMPR)の議長によって共同運営されている研究所が、モンサント社から 6桁の寄付金を受け取っていたことが明らかになったが、同社はその物質を同社で最もよく売れている除草剤ラウンドアップの中心的な活性剤として使用している。

 国連のグリホサートに関する食糧農業機関(FAO)/世界保健機関(WHO) 合同会議(JMPR) (訳注:Geneva, 9-13 May 2016 )の議長を務めたアラン・ブービス教授はまた、International Life Science Institute (ILSI) Europe(国際生命科学研究所ヨーロッパ)の副代表として活動している。会議の共同議長は ILSI の健康環境サービス研究所、及びその Risk21 運営グループ理事でもあるアンジェロ・モレト教授であった。

 US right to know campaign (米・知る権利キャンペーン)が入手した文書によれば、2012年に、ILSI グループはモンサントント社から 500,000ドル(344,234ポンド)を、また業界団体であり、モンサント、ダウ、シンジェンタ、及びその他を代表する Croplife International (クロップライフ・インターナショナル)から 528,500 ドルの寄付金を受け取っていた。

 アラン・ブービスは次のように述べた。”私の ILSI (及び二つの部門)での役割は、公共部門のメンバーとして及び理事会の議長としての無償の任務である。理事会は、組織とその科学的プログラムを監督する責任がある”。

 しかし産業側に数十億ドルの影響を及ぼすであろう EU のグリホサート再認可投票の二日前に報告書が発表されたというニュースは、欧州議会のグリーン派議員(green MEPs)と NGOs からの激しい非難を誘発した。

 クライアント・アースの弁護士ビト・ボンサンテは次のように述べた。”もしグリホサートの安全性のレビューが産業側から金を直接受け取っていた科学者らによって行われていたなら、それは明らかに利益相反である。この研究は、グリホサートを認可するかどうかを決定するにあたり、信頼性があるとみなすことは到底できない”。

 欧州議会のグリーン派議員バート・スタエスは次のように述べた。”もしそれが、今週末にもなされる予定のグリホサートに関する EU の決定に影響を与えるために、そのようなずうずうしくも政治的で不細工な試み行ったのではないと言うなら、 FAO/WHO によるこの報告書の発表のタイミングは皮肉であると言えよう”。

 WHO は、報告書の発表のタイミングが EU の決定予定日に近かったのは偶然であり、それは数か月前から予定されていたことであると述べた。

 人類史上最も広範囲に使用されている除草剤グリホサートについての議論は、それに耐性を持つ遺伝子組み換え作物とともに広く使用されているので、ブリュッセルでは非難の矢面に立たされている。その使用はまた、人の健康、近隣の植物相、昆虫、及び動物への関連するダメージの報告がもたらされている。

  ILSI の科学的誠実性に関する議論にはまた、難しい背景がある。2012年に欧州議会は、ILSI メンバーが欧州食品安全機関(Efsa)の理事会とその委員会に関与しているという一連の利益相反の申し立てにより、 Efsa への資金提供を 6か月間、停止した。

  その論争で Efsa 理事会の議長が辞任し、モレトもまた産業側と ILSI の関係を明らかにしなかったので Efsa 農薬委員会の委員を辞職した。

  Efsa において顧問の立場にあったブービスは2012年に打ち切られた。当時、 ILSI は自身のことを”欧州産業界の重要なパートナー”と言っていたが、現在は、科学的及び環境的懸念により導かれる非営利団体であり、ロビーイングや政策的勧告はしないと述べている。

  ILSI に関するこの記述は、 WHO の役人でありグリホサートに関する国連委員会の幹事であるフィリップ・バーガー博士により裏付けられた。彼は ILSI のことを科学的議論のための”集会場所”として最適であったと述べた。

 バーガーは、ガーディアンに次のように述べた。”ILSI は独立団体ではない。それは非常に明白である。民間会社が ILSI とその構造を支えている。しかし、 ILSI と会社の目的は、民間会社と公共部門の間の議論と相互作用のための空間を作り出すことである。ILSI の注力すべき点は、個々の会社ために経済的利益の話題を議論することではない。それは公開討論会以外の何ものでもない”。

 国連委員会の利益相反担当者は、”中立性を損なうかもしれない経済的関係が見える専門家は除外する”と述べている。

 しかしグリーンピースは納得しなかった。EU 食品政策ディレクターであるフランシスカ・アクターバーグは次のように述べた。”必ずしも公平性のイメージ・キャラクターではない Efsa でさえ、 ILSI に関係がある科学者が Efsa の専門家委員会の委員になることを許さない。数百万の人々に影響を及ぼすどのような決定も、完全な透明性と企業の利益に結びついていない独立した科学に基づくべきである”。

 環境活動家らの怒りをび起こす Efsa の評価と同じように、国連の残留農薬に関する合同会議(JMPR)の決定は、公衆は入手することができない産業側の秘密文書に基づいてなされた。

 国際がん研究機関(IARC)− WHO のがん部門−により昨年発表された、公的に利用可能な研究だけを考慮した別の報告書は、グリホサートはヒトに対する発がん性がおそらくあると結論付けた。WHO の担当者は二つの論文の間に矛盾はない、すなわち IARC は潜在的なハザードを特定し、一方 JMPR は関連するリスクを定量化したと述べた。

 バーガーは次のように述べた。”毎年、我々は10〜30の化合物を評価しており、それらの多くはグリホサートより危険で効能が高いということができる。この特定の農薬は遺伝子組み換え作物のため[だけ]に用いられるのだから、我々はこの評価にそのような多くの関心が寄せられることに少しばかり戸惑いがある”。


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