EHN 2009年6月22日
除草剤がヒト細胞を殺す
”不活性”成分に関する議論が激しくなる

解説:クリスタル・ガモン(Environmental Health News)

情報源:Environmental Health News, Jun 22, 2009
Weed killer kills human cells. Study intensifies debate over 'inert' ingredients.
By Crystal Gammon, Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/
roundup-weed-killer-is-toxic-to-human-cells.-study-intensifies-debate-over-inert-ingredients


オリジナル:
Glyphosate Formulations Induce Apoptosis and Necrosis in Human Umbilical, Embryonic, and Placental Cells.
Nora Benachour and Gilles-Eric Sralini*
University of Caen, Laboratory Estrogens and Reproduction, UPRES EA 2608, Institute of Biology, Caen 14032, France
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/tx800218n

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年6月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_090622_weed_killer_kills_human_cells.html


 世界中の庭、農場、公園などで使用されているラウンドアップ(訳注1)は、長い間一番売れている除草剤である。しかし今、研究者らはラウンドアップの不活性成分(補助成分)のひとつがヒト細胞、特に胎芽、胎盤、臍帯の細胞を殺すことがでできることを発見した。

 この新たな発見は、製造者が農薬に加える溶剤、保存剤、界面活性剤、その他の物質など、いわゆる”不活性”成分についての議論を激しくすることになる。4,000 種近くの不活性成分の使用が米環境保護庁によって認可されている。

 ラウンドアップの活性成分であるグリホサート(訳注2)は、アメリカで最も広く使用されている除草剤である。EPAによれば、毎年、約1億ポンド(約45,000トン)がアメリカの農場と芝生に散布されている。

 現在まで、ほとんどの研究は、ラウンドアップ中の不活性混合物よりもグリホサートの安全性に向けられてきた。しかし、この新たな研究で、科学者らはラウンドアップの不活性成分が、農場や芝生で使用されているものよりもはるかに希釈された濃度であっても、ヒトの細胞に有毒影響を増幅することを発見した。

 ある特定の不活性成分 POEA(polyethoxylated tallowamine)(非イオン系界面活性剤ポリオキシエチレン獣脂アミン)は、ヒトの胎芽、胎盤及び臍帯の細胞に対して除草剤自身よりもはるかに毒性が強く、研究者らはこの発見を”驚くべきこと”と呼んでいる。

 ”このことは、ラウンドアップ調合中の「不活性成分」は、不活性ではないということを明確に確認している”とフランスのカエン大学の研究著者らは書いている。”さらに、市場で入手できる企業秘密のこの混合物は、ラウンドアップ処理された大豆、アルファルファ、トウモロコシなどの作物や芝生、庭などの残留レベルであっても細胞を損傷し殺すことすらある”。

 同研究チームは、ラウンドアップはホルモンの生成を阻害することにより妊娠の問題を引き起こし、胎児の異常な発達、低出生体重、又は流産をもたらす可能性があるのではないかと疑っている。

 ラウンドアップの製造会社モンサント社は、この研究で使用された手法は現実的な条件を反映しておらず、1970年代から販売されている彼等の製品は指示された通りに使用されれば安全であると主張している。過去35年間にわたり数百の研究がグリホサートの安全性に向けられてきた。

 ”ラウンドアップは、他のどのような農薬よりも最も広範なヒト健康安全と環境データのパッケージがある”とモンサント社の報道官ジョーン・コンベストは述べた。”それは公園で使用されている。学校を守るために使用されている。ラウンドアップに関する膨大な研究がある”。

 EPAは、グリホサートは指示された用量で使用すれば毒性は低いと考えている。

 ”グリホサートのリスク評価は懸念のレベルより十分に低い”とEPA報道官デール・ケムリーは述べた。EPAは、グリホサートをグループE化学物質と分類しているが、それはヒトにがんを引き起こさないという強い証拠があることを意味する。

 さらに、EPAと米農務省(USDA)の双方は、 POEA を不活性成分と認めている。動物脂肪に由来する POEA は米農務省(USDA)により有機と認定された製品中に存在することが許される。EPAは、公衆又は環境にとて危険ではないと結論づけている。

 カエン大学の分子生物学者ギレエリック・セラリニに率いられたフランスのこの研究チームは、この結果は健康当局がラウンドアップの安全性について再考する必要があることをハイライトしていると述べた。

 ”ラウンドアップ除草剤の使用認可は、その毒性影響が混合物中で使用される他の化合物に依存し、増幅されるので、明らかに変更されなくてはならない”とセラリニチームは書いている。

 除草剤の安全性についての議論が最近、世界最大の大豆輸出国の一つであるアルゼンチンで勃発している。

 アルゼンチンの科学者らと活動家らが、作物への散布地域の近くに住む人々の間に出生障害とがんの発生率が高いと報告した後、ある環境団体が先月、最高裁に対しグリホサート使用の暫定的禁止を求める請願を行った。科学者らはまた、両生類の遺伝的奇形をグリホサートと関連付けた。さらに、昨年スウェーデンで科学者チームが、グリホサート暴露は非ホジキンリンパ腫に罹っている人々にとってリスク要素であることを発見した。

 不活性成分(訳注3)はしばしば、活性殺虫成分に比べて精査が十分に行われない。特定の除草剤調合は企業秘密として保護されているので、製造者らはそれらを公開することを求められていない。モンサントはグリホサート系除草剤の最大製造者であるが、いくつかの他の製造者も異なる不活性成分をもった同様な除草剤を売っている。

 米オークランド市の環境団体である環境健康センターの研究理事キャロライン・コックスによれば、”不活性成分”という言葉は、しばしば誤解を与える。連邦法は、害虫を損なわないすべての農薬成分を”不活性”として分類していると彼女は述べている。従って、不活性成分は必ずしも生物学的に又は毒性学的に有害性がないということではない−それらは単に害虫や雑草を殺さないというだけのことである。

 EPA報道官ケムリは、EPA はこの不活性成分とその製品がどのように使用されるのかを農薬が承認されるときにはいつも考慮していると述べた。目的は、”もし製品(農薬)が表示されている指示通りに使用されるならヒト健康も環境も害されない”ということを確実にすることであると述べた。ラウンドアップのラベル要求のひとつは、両生類及びその他の野生生物を保護するために淡水の中、または近くで使用されるべきではないとしている。

 しかし、不活性成分のあるものはヒト健康に影響を与える可能性があることが分かっている。多くの活性成分が、活性成分を服、保護装備、細胞膜を通過させるのを助けることにより、あるいはその毒性を高めることにより、その効果を増幅する。例えば、クロアチアのチームは最近、アトラジンを含む除草剤調合がDNA損傷を引き起こすことを発見したが、そのことはがんをもたらす可能性があるが、アトラジンだけではDNA損傷は起きなかった。
 POEA は、1980年代には除草剤中で共通の不活性成分であり、当時研究者らはそれを日本におけるある中毒に関連づけた。医師らはラウンドアップを意図的に又は事故で飲んだ患者を検査し、その病気及び死亡はPOEAによるものであり、グリホサートによるものではないと結論付けた(訳注4)。

 POEA は、動物の脂肪に由来する界面活性剤又は洗剤である。POEA は、除草剤が植物の表面にしみ込み、除草剤をより効果的にするために、ラウンドアップやその他の除草剤に加えられる。

 ”POEA はグリホサートが植物の細胞の表面と相互反応するのを助ける”と、この研究には関わっていないノースカロライナの国立環境健康科学研究所(NIEHS)の科学者ネギン・マーチンは述べた。POEA は水の表面張力−多くの表面で水を小滴にする特性−を弱め、そのことがグリホサートが植物の表面で分散し、浸透するのを助ける。

 フランスの研究では、研究者らは4つの異なるラウンドアップ調合をテストしたが、それらは全て芝生及び農業用に推奨されている用量以下の濃度で POEA とグリホサートを含んでいる。彼等はまた、POEA とグリホサートのどちらが胎芽、胎盤、臍帯により害を及ぼすかを調べるために別々にテストを行った。

 グリホサート、POEA 及び4つの全てのラウンドアップ調合は3つの全ての細胞タイプを損なった。臍帯細胞は特に POEA に感受性が高かった。グリホサートは POEA と結合すると有害性が高まり、POEA だけの場合はグリホサートより細胞への致死性が高かった。この研究はジャーナル『 Chemical Research in Toxicology』に発表されている。

 急速に増殖し化学物質への反応が速い胎芽と臍帯細胞株、及び新鮮な臍帯細胞を用いて、セラリニのチームはこれらの化学物質がどのようにして細胞に結合して損傷させるのかを調べることができた。

 二つの成分が一緒に作用して”細胞の呼吸を制限し、ストレスを与え、自殺に追いやる”とセラリニは述べた。

 研究者らは、遺伝子組み換え生物に関連するリスクを調査する科学委員会であるフランス遺伝子工学研究独立情報委員会から研究資金の一部を得た。ラウンドアップの主な用途のひとつは遺伝子工学的にグリホサートに耐性を持たせ作物である。

 モンサントの科学者らはセラリニの研究で使用された細胞は、不自然に高いレベルの化学物質に暴露されていると主張している。”それは現実世界の暴露で見る限り非常にありそうにないことである。人々の細胞はこれらの化学物質の風呂に入ることはない”とモンサントのもう一人の科学者ドナ・ファーマーは述べた。

 しかし、セラリニのチームはラウンドアップの多くの濃度を調査した。それらは典型的な農業用又は芝生用の濃度から店頭で売られている製品より 100,000倍希釈した濃度までの範囲である。研究者らは全ての濃度で細胞損傷を見た。

 モンサントの科学者らはまたフランスチームが使用したラボ細胞株の使用について疑問を提起した。

 ”これらは、ヒトのような whole organism のモデルとして非常に良いとは言えない”とモンサントの毒性学者ダン・ゴールドスタインは述べた。

 ゴールドスタインは、ヒトには常に自己再生している皮膚や胃腸管の裏地のような環境中の物質に耐性をもつ防御メカニズムがあると述べた。”これらの現象はペトリ皿(最近培養用)の中に隔離されている場合には起こらない”。

 しかし、オークランドの環境団体で農薬と不活性成分を研究したコックスは、これらのラボ実験は化学物質が安全かどうか決定する上で重要であると述べている。

 ”我々は、これらの製品を人間でテストすることは倫理に反すると考えているので、その影響を他の生物種や他のシステムで見ざるを得ない”と彼女は述べた。”実際に他に方法はない”。

 ”毒性又は生理機能メカニズムのラボ研究の90%は細胞株を使用しているというのが事実である”と彼女は述べた。

 ほとんどの研究は、ラウンドアップと合わせてではなく、グリホサートを単独で検証している。ラウンドアップ調合を研究した研究者らはサリニのグループと同様な結論を引き出している。例えば、2005年にピッツバーグ大学の生態学者らはラウンドアップを製造者の推奨する用量でカエルとヒキガエルのオタマヤクシがいっぱいの池に加えた。二週間後に池に戻ると彼等はオタマジャクシいくつかの種の50〜100%が死んでいるのを見つけた。

 250以上の環境、健康、労働のグループがEPAに農薬の不活性成分を特定するための要求を変更するよう請願した。EPAの決定の期限は今年の秋である。
 ”EPAにとっては大きな課題であろう”とコックスは述べた。”しかし、彼等がぜひやらなければならないことだ”。

 製造者が不活性成分を競争相手から秘密にすることを許している法律は本質的に不必要であると同グループは主張している。会社は競争相手の不活性成分を日常的なラボ分析で調べることができるととコックスは述べた。



訳注1:ラウンドアップ
訳注2:グリホサート
訳注3:不活性成分

訳注4:中毒


化学物質問題市民研究会
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