Environmental Health News 2018年6月26日
評論
モンサント社のゴーストライティングと強引さは
健全な科学と社会を脅かす

開示された文書は、公衆の健康と民主主義の根幹を危険にさらす
企業による科学の乗っ取りを明らかにする

シェルドン・クリムスキー(タフツ大学)

情報源:Environmental Health News, June 26,2018
Essay: Monsanto's ghostwriting and strong-arming threaten sound science and society
Discovery documents uncover the corporate capture of science,
which puts public health, and the very foundation of democracy, at risk.

By Sheldon Krimsky
https://www.ehn.org/monsanto-effort-to-skew-science-2581194459.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2018年7月19日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_18/180626_EHN_
Monsantos_ghostwriting_and_strong-arming_threaten_sound_science_and_society.html

 ニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジ を当代風の抗議を示すプラカードが通り過ぎるのを見て、私は”科学はピアレビューされる。政治家に承認されるものではない("Science is Peer Reviewed, Not Politician Approved.")と書かれたプラカードに引き付けられた。

 この短い格言は二つの不幸な現実に焦点を当てていた。第一は、科学への信頼を失い、非科学的又は偽科学的な真理主張に基づく行動を選択する人々が増えているということである。そして第二は、他の一部の人々は、科学者らを信用できる知識を生成するための競争において同じ市場の影響を受けるもう一つの利害関係者グループとして見ているということである。

 科学は真理主張の生成者として自分自身の基礎の上に立っている。しかし残念ながら、多くの企業は科学を真理の生成者ではなく、生産への多くの投入のひとつとして見ている。

 企業の科学の乗っ取りの最新の事例は、モンサント社に対する製造物責任に関する大規模な不法行為訴訟において裁判所命令で明らかにされた開示文書の中に見出すことができる。数千の人々が、同社のラウンドアップ除草剤に暴露してがんになり、また同社はラウンドアップの有害影響についての情報を抑制したと主張する訴訟を引き起こした。

 主にモンサント社の内部文書からなる数千ページに及ぶこれらの開示文書は、二つのピアレビューされた公開文書の中で分析された。私の共著者キャリー・ジラムと私は、我々の結果を Journal of Public Health Policy に発表した。カリフォルニア州立大学の哲学部門のリーモン・マクヘンリーは彼の評価を International Journal of Risk & Safety in Medicine に発表した

ゴーストライティング(代作)

 ジラムと私は、科学、学術ジャーナリズム、及び環境規制機関についての、ある企業の見解を説明する三つの主要な傾向を発見した。

 我々の一番目の発見は、科学的著述がモンサントが望んだような結果を生み出さなかった時には、同社が自ら雑誌記事を書き、その記事が発表されるときには外部の科学者らの名前をその文書にリストするために彼らに金を払うことを社内で話し合ったということを示していた。

 そのやり方は、実際にその研究を書いた人物の名前は発表された記事には現れないので、”ゴーストライティング(代作)”と呼ばれている。内部文書から明白なことは、一種の剽窃行為として尊敬されるジャーナルによって大いに否定されている”ゴーストライティング”も、モンサントにとっては通常のビジネス慣行のように見えることである。

関連記事:The Monsanto Papers, Part 1 - Operation: Intoxication (モンサント論文パート1−操作:中毒)

 ゴーストライティング(代作)の実践を示す論文、及び/又はモンサント内部文書中で代作されたといわれているいくつかの論文が、いくつかのピアレビュー誌に発表され、モンサントの除草剤に関連する健康懸念はないと結論付けた。

 我々は、それらの論文は独立系として発表されても、実際には、”独立”であると銘打たれた一連の論文にモンサント社の従業員が、執筆、草案、及び結論の決定に関与していたという証拠を発見した。

出版圧力

 我々の記事の中で共有されている二番目の発見は、同社はそのすべての影響力を用いて、モンサントが同意できない結果を描いたある論文を、その著者らの望みに反して、撤回するよう一人のジャーナル編集者に圧力をかけたということである。その内部文書は、彼らはその役割が知られることを望んでいないことを明らかにしつつ、そのジャーナルに関与するモンサントの従業員の取り組みを記述している。

 当初、一人の編集者は、ジャーナルのページ中で論文の手法と結果に関する科学的議論を支持することにより、よい出版慣行に従っていた。しかしそのジャーナルがモンサントの元従業員を編集委員会に指名した後、その論文は撤回された。

 その編集主任は撤回声明の中で、”データの意図的な虚偽表示の証拠”は見つからず、・・・その結果は間違ってはおらず、”不正はなかった。”結論はまだ決定的ではないという理由で、その論文を撤回した”と書いた。

規制当局にも波及

 三番目の企業不正の実例は、環境保護庁(EPA)に対して、もう一つの機関、米国保健福祉省の毒性学部門である環境有害物質・特定疾病対策庁(ATSDR)にラウンドアップの有効成分であるグリホサートの評価を遅らせるよう説得するために影響力を行使した取り組みである。

関連記事:Related: The Monsanto Papers, Part 2 - Reaping a bitter harvest (モンサント論文パート2−苦い収穫の刈り取り)

 我々はまた、ジャーナル界は開示文書からモンサントが代作論文を発表したことを知ったにもかかわらず、そして公式の説明、又は撤回の求めがあったにもかかわらず、著者らに行動をとらず、剽窃された論文が公的保存文書中に留まることを許しているということを知った。

”我々の社会は防火壁を守らなくてはならない”

 マクヘンリーの論文は、モンサント草稿の論文がヘンリー・ミラーを著者として フォーブス誌(Forbes Magazine)に掲載されたことを記述して、代作に関する発見を拡大している。

 ”国連からの 3月の熱狂”と名付けられたその論文は、国際がん研究機関(IARC)の発見について議論した。2015年、IARC はラウンドアップの有効成分であり、その他の多くの除草剤−グリホサート−は、”ヒトに対する発がん性がおそらくある(Probably carcinogenic to humans)”こと、及び非ホジキンリンパ腫と関連していることを発見した。

 フォーブス誌はゴーストライティング(代作)について知った時、その論文を削除するという良いセンを持っていた。

 開示文書からのマクヘンリーのもうひとつの発見は、モンサントが民間企業と公立大学のセクター境界をいかにあいまいにしたかを示している。モンサントは、二つのいわゆる”独立”学部に IARC のがんレビューの批判を言いなりにさせるために、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のウェブサイトを支援した。

 開示文書は、モンサントは同大学のウェブサイトのレビューの信頼を落とさないようにするために、この冒険的企てにおいて匿名とすることを望んだことを示している。

 マクヘンリーは、モンサントがその除草剤についての”科学的”メッセージを統括するために、モンサントが行った取り組みを我々に示している。彼は企業の考え方をまとめている:”一方で、モンサントは、神話、狂信、感情、政略、及び証拠の重み全体の検討不履行に反対する科学の強い擁護者として自分自身を公的に表現しているが、他方、モンサントは科学的プロセスを密かに管理することにより可能性ある論駁から自身を守ることを私的に求めている・・・”。

 科学を産業又は政治のしもべに代えてしまう権力から科学的企業を保護することは、現代の民主社会の中心的柱のひとつである。我々の社会はアカデミズム科学と企業部門の間の防火壁を支え、若い科学者とジャーナル編集者をそれぞれの職業的役割の背景にある倫理原則に基づき教育しなくてはならない。

 恐らく、デモ行進の抗議の表示は、”科学はピアレビューされる。企業により吹き込まれるものではない”と書かれるべきであった。

 シェルドン・クリムスキー(Sheldon Krimsky)は、タフツ大学人類及び社会科学の Lenore Stern 教授であり、またどう大学公共政策及び地域医学の助教授である。科学はピアレビューされる。企業により吹き込まれるものではない”と読むべきであった。

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訳注:当研究会が紹介したモンサント関連記事

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