The Hill 2016年10月31日
弱いものいじめのモンサントが
グリホサートとがんを関連付ける科学者らを攻撃

キャリー・ギラム

情報源:The Hill, October 31, 2016
Bully Monsanto attacks scientists who link Glyphosate and cancer
By Carey Gillam, contributor
http://thehill.com/blogs/pundits-blog/healthcare/303597-
bully-monsanto-attacks-scientists-who-link-glyphosate-and


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2016年11月10日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_16/
161031_HILL_Monsanto_attacks_scientists_who_link_Glyphosate_and_cancer.html

 モンサント社に手を出すな。それが現在、農薬産業界によって発せられているメッセージである。それは、広範に使用されているモンサント社の除草剤ラウンドアップの主要な有効成分であるグリホサートのがんとの関係をあえて宣言した国際的ながん科学者らのチームに本格的な嫌がらせをしているからである。

 2015年3月に世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)の研究者らが”グリホサートはヒトに対する発がん性がおそらくある (probably carcinogenic to humans (Group 2A))”と宣言した後、モンサントと米・穀物協会(Crop Life America)のお友達が国際がん研究機関(IARC)へのアメリカの資金提供を断つための働きかけに専心しているワシントンで、産業界は大威張りである。産業界はまた、米・環境保護庁(EPA)が IARC の分類を完全に拒絶し、モンサントと農薬同業者に年間数十億ドル(数千億円)の販売をもたらすグリホサート除草剤の継続使用に青信号を出すよう要求している。

 EPA は、グリホサートを再登録審査プロセスの一部として5年以上、評価をしており、当初はその作業を昨年中に完成すると予想されていた。その後 EPA は2016年末までに審査を完了するであろうと述べたが、現在は最終報告書を発表する前の2017年になるであろうと述べている。

 その作業は、EPA が IARC の分類と取り組むために引き延ばされているが、そのことは農薬産業に対して法的及び経済的の両方に影響を及ぼす。EPA は産業側の反対に抗して、グリホサートに関する科学的研究を検証するために、4日間の公聴会を開催することを計画していた。しかし、その会議は”不必要”であり、”不適切”であるとみなしていた産業界は、EPA によって審議会に指名されたある科学者らに異議を申し立て、10月18〜21日の公聴会を頓挫させることに成功した。EPA はその公聴会を”延期”したが、まだスケジュールを再調整していない。

 現在、産業側に立つ米・下院議員ラマー・スミスは、EPA担当官をグリホサート懸念の件で、IARC と関わることを非難し、EPA に対して産業側が推進している”健全な科学(sound scienc)”に依存するよう求めた。下院の科学・宇宙・技術委員会の議長であるスミスは、IARC は”活動家の役割”を演じており、EPA 担当官はその活動を支援していると非難している。

  EPA 長官ジーナ・マッカーシー宛ての2016年10月25日付け手紙の中で、スミスは EPA がグリホサート再登録を終えることを遅らせていると不平を言い、説明のために EPA 担当官を彼の委員会に出頭させるよう求めた。ラウンドアップが、がんをもたらしたと主張する人々による訴訟を受け流しているモンサントもまた、 IARC のメンバーに対して彼らの働きに関連する文書を見直すよう要求している。同社は、IARC の成果を”似非科学”と呼び、IARC のメンバーは、”選挙によらない、非民主的な、外国の組織”であると主張している。

 自分たちの身分に関する攻撃に慣れていない IARC 作業部会のメンバーはいささか打ちのめされた。何といっても、グリホサート検討委員会を構成するこれらの科学者らはエリートであり、常に独立性のある専門家であるとみなされ、世界中の最高の研究所から招聘されるような人々であった。フィンランドのヘルシンキにある欧州化学物質庁(ECHA)の上級科学者で毒性学の専門家であるフランク・ル・キュリユーはそのチームの一員である。環境毒性学研究に専門性を持つ疫学博士(Ph.D)であり、ボルドー大学の労働疫学・公衆衛生学准教授であるフランス人科学者イサベル・バルディも同様である。

 専門家らはまた、オーストラリア、ニュージランド、カナダ、オランダ、ニカラグアからも来ていた。毒性データに関する業績で受賞している EPA の国立計算毒性学センターのマシュー・マーチンを含んでアメリカからも何人かが参加した。国立がん研究所の名誉教授である科学者アーロン・ブレアは IARC チームの議長を務めた。ブレアは、職場及び一般環境中の化学物質はもちろん、農薬暴露に関連するがんやその他の疾病を評価することに特化した研究における専門知識を持っている。

 彼はその業績に対して多くの受賞をしており、また、EPA を含む多くの国内及び国際的な科学検討会に従事している。彼はまた、職業及び環境要因のがんに関する 450以上の文献の著者でもある。

 モンサントと農薬産業が彼らを追いかけているという事実に彼らは唖然とさせられている。IARC は先週、産業側の行動により、ある者は”威圧感”を感じたと述べる声明を発表した。

 ”我々はこのような強い反応と起きていることを予想していなかった”と、 IARC のグリホサート作業部会に参加したイタリアのラツィオ地域健康サービスの労働疫学部門長フランチェスコ・フォラスティエーレは述べた。”我々は、我々の仕事をしている。我々は他の問題、すなわち経済的影響があることを理解していた。しかし我々の誰もが政治的課題など持っていない。我々は、IARC 基準に従って多くの証拠を評価しながら、単に科学者として行動しただけだ”。

 他の IARC 分類のメンバーでもあるもう一人の作業部会メンバーのオーストラリア人疫学者リン・フリッチは、チームの作業は堅固であり、産業側のチームの信用への攻撃は不当であると述べた。

 ”私は、このようなことを全く予想していなかった”と、がんの職業的原因を専門とし、オーストラリアのカーティン大学で特別栄誉教授の肩書を持つフリッチは述べた。”我々は、独立しており、科学を見ただけである。我々は証拠に基づき、何が許容でき、何が結論となるかに関する厳格な規則を持っていた。我々は証拠に基づき正しい決定をした”。

 同チームは、新たな研究をしたために非難されたのではなく、すでに実施された研究を検討し、様々な所見がどのような意味をなすのかを決定しようと試みたことを非難された。メンバーは最近の研究はもとよりもっと古い研究についても分析し、用いられた手法、結果の一貫性、及び研究基準への固守のレベルを吟味した。

 じっくり検討すべき動物研究はたくさんあったが、人間の健康問題へのグリホサートの関連を見るものは少なかった。人間のがんに関する証拠は、ほとんどが農業現場での暴露研究に由来していた。同グループは最良の研究が非ホジキンリンパ腫(NHL)(訳注1)とグリホサートとの間の明確な関係を示したと結論付けた。同チームはグリホサートを多発性骨髄腫を関連付けるつながりがあったが、この疾病の証拠はグリホサートをNHLに結びつける証拠ほど強くなかったと、同グループは結論付けた。

 同チームはまた、暴露後、稀な腎臓種及びその他の健康問題を発症した動物を示したいくつかの研究を評価した。これらの研究は併せて、実験動物におけるグリホサートの発がん性の”十分な証拠”を提供した。さらに IARC チームは、暴露した人間の末梢血液中でのDNAダメージの発見を含んで、グリホサートに由来する遺伝子毒性と酸化ストレスの強い証拠があると結論付けた。同チームはまた、ひとつの研究の中で、グリホサート薬剤が近くで散布された後、人間の染色体がダメージを受けたことを示したことは注目すべきことであると述べた。

 全体として、IARC は、グリホサートは非ホジキンリンパ腫(NHL)を引き起こすことができるという”限定的な証拠(limited evidence)”があり、グリホサートは実験動物にがんを引き起こすことができるという”説得力のある証拠(convincing evidenc)”があると結論付けた。その結論は、人間の発がん性について”十分な証拠(sufficient evidence)”があったとすることができたであろうが、アメリカ連邦政府によるひとつの大規模な研究はがんとグリホサートの関係を示さなかったと、フォラスティエーレは述べた。

 同チームは最終的に、証拠の重みは、グリホサートは決定的に発がん性がると言えるほど強くはないが、”恐らく”発がん性があるとする警告には十分余りある証拠があると結論付けた。

 ブレア、フォラスティエーレ、そしてその他の人々は後に、彼らは IARC チームの仕事に全く満足しており、複雑な仕事の貫徹を誇りに感じているという事実を語った。

 ”我々は全て、可能な限り使用を最小にするべきである”とフリッチは述べ、”最もリスクのある人々は、農民や園芸職人のようなグリホサートを多量に使用する人々であり、彼らはその使用を削減をすべき人々である”と彼女は述べた。

 モンサント及びその他の産業関係者は、そのような種類の話が根付くことに耐えられない。そのことが我々がこれらの科学者を中傷し EPA にがんの懸念を無視する様圧力をかける異常な努力を見る理由である。特に今月、米・穀物協会(Crop Life America)により提出されたEPA宛てのひとつの書簡は、EPA のグリホサート精査を緩めるための産業側の努力の深さを示している。

 米・穀物協会(Crop Life America)は EPA に、ラウンドアップのようなグリホサート配合製品に関する独立研究の必要性を宣言するのは不適切であると告げた。EPA は、国立環境健康科学研究所(NIEHS)の国家毒性計画(NTP)と、製剤製品中のグリホサートの役割と製剤毒性の相違を評価するための研究計画を策定するために共同研をしたと9月に告げた。しかし明らかに EPA は産業側の同意を得ることを無視した。

 ”我々はまた、なぜ EPA が、登録者からの情報を得ずに国家毒性計画と共同で研究プログラムを策定したのか疑問である”と米・穀物協会(Crop Life America)は書いた。”もし、登録又は製品の登録に関連する特定の疑問に対応するためにデータが求められるなら、登録者がこれらのデータの適切な情報源であろう”。

 産業側のEPAへのメッセージはけたたましく、明確である。すなわち、独立研究と国際的な科学発見は、グリホサートのような数十億ドル(数千億円)の農薬の保護に優先すべきではないということである。公衆は成り行きを見守り、結果を待ち、EPA が産業側の主張に耳を傾けないことを願うばかりである。

Carey Gillam is a veteran journalist, formerly with Reuters, who directs research for U.S. Right to Know, a nonprofit consumer education group focused on food safety and policy matters.
Follow @CareyGillam on Twitter https://twitter.com/careygillam


訳注1:非ホジキンリンパ腫(NHL)
非ホジキンリンパ腫/ウィキペディア
 ホジキンリンパ腫(ホジキン病)以外の全ての多様な悪性リンパ腫を含む一群である。和訳はやや無理やりで、医療現場では通常英語名を使用する。日本では、びまん性大細胞型 (diffuse large cell type) が圧倒的に多い。日本ではホジキン病は少ないため、悪性リンパ腫の多くがこのびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫 diffuse large B cell lymphoma である。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る