EHN 2016年2月17日
専門家らが連邦当局に世界で最も多量に使用されている
グリホサート除草剤を再評価するよう要求

ブライアン・ビエンコースキー(EHN)

情報源:Environmental Health News, February 17, 2016
Experts call on feds to re-evaluate
the world's most heavily used herbicide
By Brian Bienkowski(EHN)
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2016/feb/
glyphosate-roundup-monsanto-cancer-endocrine-disruptor-science

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年2月25日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_160217_Experts_call_on_feds_to_re-evaluate.html

 グリホサートに関して発表されているデータのレビューの中で、健康科学者らは、世界中の規制当局が除草剤の健康影響を見直す”緊急の必要性”があると考えている。


 化学物質の世界的に広がった爆発的な増大について懸念する健康科学者らのグループによれば、アメリカとヨーロッパの保健当局はグリホサート除草剤の安全性と健康影響についての前提を洗い直す必要がある。

 火曜日(16日)に発表された科学的レビューは、グリホサートの使用は遺伝子組み換え作物”ラウンドアップ・レディ”(訳注1)が導入されて以来、20年間で15倍の成長で急増していると警告している。彼らによれば、政府の健康当局は、その除草剤がどのくらい食物と人々の体内に入り込み、我々の健康にどのような影響があるのかを適切に監視することを怠ってきた。

 ”地球上の誰もが暴露している又は今後暴露するであろうから、今こそ世界の科学及び規制分野のコミュニティーはグリホサートを見直すことを求めるべき時である”と、ベンブルック・コンサルティング・サービスの農業経済学者でありコンサルタントであり、このレビューの上席著者であるチャールスス・ベンブルックは述べた。

 発表されたレビューによれば、除草剤としてのグリホサートの使用は、1970年代に最初に使用されて以来、指数関数的に増加している。『Environmental Health』誌に発表されたこのレビュー研究は、14人の健康科学者を著者としており、そのほとんどが大学の科学者である。環境健康科学(Environmental Health Sciences)の創設者で上席科学者であり、EHN.org の発行者であるピート・マイヤーズはこの報告書の筆頭著者である。

 グリホサートはラウンドアップとしてよく知られているが、また様々な商品名でも売られており、世界の歴史上最も多量に使用され農場化学物質(農薬)である。1974年以来世界中で概略 940万トンのこの化学物質が畑に散布されている。今月の初めに発表された別のベンブルック報告書によれば、その75%近くは最近10年間に使用された。

 データをレビューした科学者らによれば、そのよううな増大は、政府の基準と安全レベルが公衆と環境の暴露リスクの現実と調和していないことを意味する。

 同報告書によれば、米国国家毒性計画、米・疾病管理防止センター及びドイツ連邦リスク評価研究所のような国家保健機関は、単になすべき活動をしていないということである。

 ”1980年代後半以来、人の健康リスクを特定し定量化することに関連する研究は、ほんのわずかしか米環境保護庁(EPA)に提出されていない”と著者らは述べ、そのような評価は”最新の科学”に基づいている必要があると付け加えた。

 多くの除草剤の主要な有効成分であるグリホサートは、哺乳類には存在しない植物の酵素を抑制することによりその効力を発するので、当初はこの化学物質は人間や他の脊椎動物にはほとんどリスクを及ぼさないと考えられていた。

 しかし、グリホサートへの暴露はそのように無害ではないかもしれないことを示す証拠が増えてきた。米・農務省は2011年に300の大豆のサンプルの30%にグリホサートを見出し、また英・食品基準局は2012年に109のパンのサンプル中に 27のそれを見出した。

 グリホサートは肝臓と腎臓の障害、出生障害に関連しており(訳注2)、潜在的にホルモンの適切な機能をかく乱する。近年、科学者らはスリランカ及びインドと中央アメリカの一部で広まっている腎臓疾病に少なくとも部分的には関係しているのではないかという疑いを持っている。

 昨年、世界保健機関の国際がん研究機関(IARC)は、昨年(2015年)3月にグリホサートをヒトに対する発がん性が疑われる(possibly carcinogenic to humans)からヒトに対する発がん性がおそらくある (probably carcinogenic to humans)に変更した(訳注3)。

 レビューの中で特定された主要なギャップのひとつは、内分泌かく乱性テストの欠如であるとミズーリ大学の生物学者であり、レビューの共著者であるフレデリック・ボンサールは述べた。グリホサートは、後に多くの健康影響を引き起こす可能性のある人のホルモンへの影響を示す証拠が増大している。

 標準的な連邦政府のテスト手法はほとんど、高用量で化学物質を実験動物に投与することによりなされ、臓器の重量やその他の異常形成の変化のような明白な影響を探しているとボンサールは述べた。”発達組織を見る方法はほとんどなされていない”。

 グリホサートが開発された 1970年代になされた研究は、”非常に複雑”であったと、ベンブルックは述べた。”非常に高い用量範囲での問題は、発達問題と内分泌かく乱に関する研究が化学物質はもっと低いレベルで微妙な影響を持つことができるということを繰り返し示していることである”と、彼は述べた。

 米・環境保護局(EPA)は、昨年の6月の報告書の中で、グリホサートが内分泌かく乱物質であるとする”説得力のある証拠はない”と結論付けた(訳注4)。

 EPA 報道官ロバート・ダグイラードは、EPA はその新たな報告書をレビューするであろうと述べ、また、彼らは 2016年中にパブリックコメント用に発表されることが期待されている人間の健康と生態系の予備的リスク評価を完了しつつあると付け加えた。

 ますます増大する使用と広がる暴露により健康の懸念が高まっている。最もよく使用されているグリホサート除草剤であるラウンドアップの製造者モンサントのような会社の多くの種子は、その除草剤に耐性を持つよう遺伝子操作されているので、グリホサートは、過去10年間にわたり、遺伝子組み換え食物についての議論の渦中にあった。

 トウモロコシやダイズのような作物はそのような除草剤への耐性を持っているので、農民は畑全体に除草剤を散布することができる。このことは雑草が除草剤への耐性をますます獲得するという悪循環をもたらし、従ってますます多量に散布することになる。

 ”グリホサート耐性の雑草の出現と拡散により世界中でもたらされる雑草管理の問題の地理的広がりと厳しさは前代未聞である”と、著者らは書いた。

 グリホサート除草剤は物議をかもしてきており、今や切羽詰まったことになっている。先週、35人の民主党下院議員は、世界保健機関(WHO)の発がん性の発見があったのだから、ダウ・ケミカル社のグリホサート除草剤エンリスト・デュオ(Enlist Duo)を再評価するよう強く促す書簡を EPA に書いた(訳注5)。

 ”EPA は、この発がん性の発見を考慮せずに、そして過去20年間に発表されたグリホサートの発がん性リスクに関するどのような研究をも見ることをせずに、エンリスト・デュオを登録した”と、下院議員アール・ブルームノーアーとピーター・ディファジオの主導の下に議員らは書いた。

 ダウ・ケミカル社は、この新たなレビューに関するコメントの要求に答えなかった。モンサントの報道担当チャルラ・マリエ・ロードは、eメールで、その報告書の懸念は規制機関が発見したことと一致していないと回答してきた。

 ”世界中でどこの規制機関もグリホサートが発がん性物質であるとは考えていない”と彼女は述べた。”規制機関は、この評論の著者らによって提案されたこの種の農薬のテストが必要であるとするどのような健康懸念をも持っていない”。

 同社は1月に、グリホサートがカリフォルニア州の既知の発がん性物質リストに加えられるのを防ぐためにカリフォルニア州環境健康有害性評価局(OEHHA)を訴えた。

 科学者らのグループの声明が連邦政府の政策にどのような影響を与えることができるのか明らかではない。しかしボンサールは、たとえ EPA がテストを変えなくても、それはカリフォルニア州のようにもっと先進的な州が行動を起こすことに拍車をかけることを可能にすると述べた。

 ベンブルックは、独立系の科学者らによって実施されているような現代的なテスト手法は長らく延び延びになっていると述べた。

 地球上の全ての人々に関わることなのだから、たとえ小さくても健康影響の余地があるなら、我々は何らかの警告をせざるを得ない”とベンブルックは述べた。


訳注1
ラウンドアップ/ウィキペディア

訳注2
EHN 2015年8月25日 多くの証拠がラウンドアップと腎臓及び肝臓のダメージとの関連を示す

訳注3
Triple Pundit 2015年3月26日 モンサント ラウンドアップががんに関連するとする WHO の報告書を攻撃

訳注4
インターセプト 2015年11月4日 EPA はモンサントの研究を使った結果、ラウンドアップを大目に見た

訳注5
Congress questions EPA about Dow's Enlist Duo pesticide risks
A version of this article appeared in print on February 15, 2016, in the News section of the Chicago Tribune with the headline "Weedkiller's risks worry lawmakers - After a Tribune investigation, 35 in Congress urge EPA to address potential health dangers posed by a new herbicide" - Today's paper

訳注:関連情報
HEAL Press Release, 17 February 2016
Scientists say regulation of glyphosate weed killer is “out of date”



化学物質問題市民研究会
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