EurActiv 2007年10月24日
農薬:議会は物質に厳しく、使用には甘い

情報源:EurActiv, 24 October 2007
Pesticides: Parliament tough on substances, more lenient on use
http://www.euractiv.com/en/environment/
pesticides-parliament-tough-substances-lenient-use/article-167839


訳:野口知美/化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年11月20日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/eu/euractiv/071024_MEP_pesiticide_law.html


概要:

 欧州議会は、EUの農薬生産における使用禁止物質の範囲を拡大することを票決した。しかし、グリーンズ議員が提案した農薬の厳しい使用制限については部分的にしか認められなかった。

背景:

 2006年7月に欧州委員会が提出した農薬戦略は、植物防疫薬剤(農薬)の上市に関する1991年指令を改正するための規制及び農薬の日常的使用を扱う指令に関する提案をしている。

 欧州議会議員(MEPs)は環境委員会(ENVI)で6月、公共区域周辺での農薬使用を禁止することによって法案を強化することを票決した(EurActiv27/06/07)。[訳注1]

 9月に同委員会はまた、農薬生産における使用可能物質の種類決定基準を強化することを要求した(EurActiv12/09/07)。[訳注2]

論点:

・解毒(Detox)
 10月23日の第一読会採決で、議会は欧州委員会が提案する農薬生産における使用禁止物質リストに潜在的な免疫毒性及び神経毒性物質を加えた。委員会の既存のリストには、発がん性物質、遺伝子毒性物質、内分泌かく乱物質及び生殖健康を害する恐れのある物質も含まれている。

 委員会の計画に基づき、EUは農薬生産において使用可能な"有効成分"リストを作成する。そして、承認された物質を使用して生産された個々の農薬の認可は、各加盟国に任されることになる。

 委員会によると、議会第一読会の採決が加盟国により承認され法律になれば、EUで現在使用されている農薬の約5〜6%は違法ということになる。

 しかし、EU全体での農薬の使用量を今後10年間で50%削減しようとする環境委員会(ENVI)のさらに広範な提案は、議会によって拒否された。議会は、こうした決定を各加盟国に委ね、極めて危険な物質が使用される場合にのみ削減目標を課すこと、すなわち"非常に高い懸念のある有効成分"の使用を2013年までに半減させることを望んでいる。

・認可制度
 欧州委員会の地域ベースのアプローチ(Euractiv22/10/07参照)は、議会によって拒否された。議会は、各加盟国が農薬認可の国家管理を維持することを望んでいる。

 議会はまた、物質の認可期間について委員会よりも短い期間を提案した。欧州委員会は、ほとんどの新規物質には10年の認可期間を、低リスク物質には15年間の認可を、より低毒性の物質に"容易に代替"可能な物質には7年間のみの認可を提案していた。

 しかし議会は、代替可能品に7年ではなく5年の認可期間を、という環境委員会(ENVI)の議員(MEPs)による早くからの要求を支持した。議会はまた、物質認可の更新に関して欧州委員会の案に反対している。欧州委員会は、物質が最初に10年間認可されたら、あとは無期限に更新されることを求めているが、議会は、物質認可の更新は一度きりで"10年を超えない期間"であることを望んでいる。

・散布及び使用
 学校や病院といった公共区域及びその周辺での散布に対する制限は、空中散布の禁止と同様ほとんどの議員(MEPs)が支持した-しかし、影響の及びづらいぶどう園などの区域は、とりわけ特例が認められた。

 さらに、議会は公共区域での農薬使用の全面禁止を支持せず、環境委員会(ENVI)が提案したより制限的な措置のいくつかを拒否した。例えば、農薬散布の意志を周辺住民に知らせることを農家に要求することや、水域10メートル以内を農薬不使用の緩衝地帯とすることを拒絶した。大多数の議員(MEPs)は、緩衝地帯の範囲の決定は加盟国自身に委ねるべきだと言っている。

立場:

 欧州作物保護協会(ECPA)は、ある種の物質の禁止にまで発展した議会の提案に対して強い反応を示し、議会が票決したことがEUの法律になるならば、"欧州の食品産業及び農業は深刻な被害を受けることになるだろう"と述べた。

 こうしたより厳しい規則はまた、農業・食品業界を危機に追いやるであろう、とECPAは主張した。"重要な作物の消滅を防ぐための解決策が、多く農家の場合ほとんど残らないのである"とECPAは記者声明において述べた。

 ECPAは、今後"欧州の有権者のニーズにより良く応える最終結果を生み出すことを意図して、農業・食品業界の農家や栽培者、共同議員、欧州委員会とともに働き続ける"ことを堅く約束した。

 欧州種子協会(ESA)は、議会の票決によって種子産業が板ばさみを解消する"機会を逃した"と考えている。"種子産業は、理論的に種子の真の共同市場を設立する欧州種子市場取引法と、当局が実施可能な相互承認については実際には分からないとする植物防疫剤に関する古くからの指令との間で明らかにジレンマに陥っている"

 欧州人民・欧州民主党(EPP-ED)グループの報告者である議員(MEP)Christa Klassは、議会の票決が"ENVIの提案した根本主義的な方針を調整した"ことに満足の意を示した。Klassはまた、"植物防疫剤の使用を一律に削減すること"を大多数のMEPsが支持しなかったことについても好意的な言及をした。

 社会党グループは、票決の結果に対してより好意的でない反応を示し、キリスト教民主党は農薬使用のさらなる制限を強く要求することなく産業界の圧力に屈したと述べた。

 グリーンズは、議会の票決を"消費者・環境保護における一里塚"として認めたが[訳注4]、欧州統一左翼・ノルウェー緑の左翼(GUE/NGL)グループは、議会の票決について肯定否定両面のある批評を行い、右派MEPsは産業界のロビー活動に"屈した"けれども議会は"農薬使用の削減と消費者・環境保護のための闘いにおいて非常に有用となる規定を承認した"と記者声明において述べた。

 NGO連合‐欧州環境局(EEB)、欧州農薬行動ネットワーク(PAN Europe)、国際化学物質事務局、健康と環境連合(HEAL)‐は、物質リストが拡大されたことについて安堵を表明したが、議会の票決は"MEPsが産業界からの重圧と闘っていることを示す"ものであると述べた。

 PAN EuropeのElliott Carnellは、"欧州議会の大部分は完全に浮世離れしている。欧州の市民たちが食料関連で一番懸念していることは、果物や野菜における高い量の残留農薬である"と非難した。"MEPsは、農薬使用を削減するための具体的な目標を発表することができず、また食品汚染量がこれから下がるという保証も提供しなかった。総合ペスト対策管理の適用の義務期限もない"

 欧州UK農薬キャンペーンのGeorgina Downsは、"敏感な区域周辺での農薬散布に関する]修正案の文言そのものをもってMEPsは、住宅区域や学校のグラウンド、遊び場、その他の公共区域周辺の作物畑にある実質的な非散布地帯において農薬の使用を禁止することを実際に賛成した"と明確に述べた。彼女はまた、"これは非常に前向きな一歩である。なぜなら、現在は農薬への受動的暴露から人々を守るものが何もないからである"と記者声明において述べた。

最新・次のステップ:

 2007年11月26日 農業理事会で政治的合意が可能






化学物質問題市民研究会
トップページに戻る