EurActiv 2008年12月19/22日
EU:有毒な農薬禁止に関する合意に到達

情報源:EurActiv, 19 December 2008 / 22 December 2008 updated
EU reaches deal on banning toxic pesticides
http://www.euractiv.com/en/environment/eu-reaches-deal-banning-toxic-pesticides/article-178202

訳:安間 武/化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年12月24日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/eu/euractiv/081222_EU_ban_pesticides.html


背景
 農薬の影響に対する公衆の懸念が高まる中で、欧州委員会は2006年7月に、農業における農薬の危険な又は過剰な使用から人の健康と環境を守ることを目的として”農薬法案(パッケージ)”を発表した。このパッケージはヨーロッパにおける農薬の使用と認可を厳しくすることを求めた規則COM(2006) 388 final)と農薬の持続可能な使用のための共通の目標と枠組みを規定する指令COM(2006) 373 finalからなる。

 農薬法案(パッケージ)に関する利害関係者の議論は主に、市場認可のための農薬成分の評価としてリスクベースからハザードベース基準へのシフトに注がれた。人の健康と環境に潜在的に深刻なリスクを及ぼす農薬成分に関する市場での禁止(”カットオフ基準”)が健康・環境NGOによって称賛され、産業側からは厳しく批判された。

EUの更なる情報
その他の情報
 EU加盟国と議会の交渉は、人の健康と環境に対する潜在的なリスクのために禁止されるべき農薬成分は何かについての長い論争に終止符を打ち、議論ある農薬”パッケージ”に関して妥協に達した。

 12月17日の夕方の非公開会談で合意に達した妥協案は、多くの危険な農薬を禁止し、いわゆる植物防疫製品の全体的使用を削減することを取り決めることである。合意文書は現在、1月中旬の議会での承認に向けて準備中である。

 新たな上市認可の手続きは、EUを3つの地域(北部、中部、南部)に分けて実施され、各地域内で農薬の相互承認が規則となる。しかし、加盟国は特定の環境又は農業の状況に基づき、ある農薬を禁止することが許される。

 また下記の禁止が導入される。
  • ある種の高い毒性の化学物質、すなわち遺伝毒性、発がん性、生殖毒性を有する物質(もし、その影響が実際に無視できないものならば)、及び
  • もし顕著なリスクを及ぼすとみなされるなら、神経毒性、免疫毒性、及びある内分泌かく乱性を有する物質
 しかし、この合意は、作物栽培に本質的に必要である(エッセンシャル)と証明されれば、上述の両グループの化学物質はその後5年間使い続けることが許される。もし証明されなければある有害物質を含む農薬は、もしより安全な代替が存在することが示されるなら3年以内に代替されるべきこととなっている。

 農薬の持続可能な使用に関する合意
  • 農薬の全体削減目標とともに農薬のより安全な使用に関する国家行動計画を作成するよう加盟国に求める
  • 加盟国当局による承認がある場合の例外を除いて、作物への空中散布を禁止する
  • 水生生物を保護するために緩衝地帯のような適切な措置を確立するよう加盟国に求める
  • 公園や学校のグラウンドのような公共の場所での農薬の使用を禁止する、又は最小限の要求として、そのような場所での農薬の使用を最小にする

立場

 ”我々はこの三者間の協議を容認することはできない”と欧州作物保護協議会(ECPA)の上席報道担当官のフィル・ニュートンは述べ、イデオロギー、不安、感覚に基づくカットオフ基準による間違った科学に基づく”悪い法制定”であると説明した。

 特に、禁止されるべき潜在的物質のリストに内分泌かく乱物質を含んでいることが問題であると彼は述べた。内分泌かく乱物質の現在の基準は、”不正確な仮定”に基づく”暫定的な定義”に過ぎず、科学的に証明されていない多くの物質が関係しているとニュートンは述べた。

 ”提案された法案が基づく科学的情報の欠如についての我々の疑念や懸念は無視されている”と欧州作物保護協議会(ECPA)規制担当ディレクターのユーロス・ジョーンズは付け加えた。

 しかし、現在までの法制定過程が、食品分野及び食品チェーンに科学的法制定の必要性について”全員異議なし”の高まりをもたらしたことは間違いないと強調した。

 欧州農民を代表する COPA-COGECAの事務局長ペッカ・ペソネンは、妥協は完全なものではなく、特にある種の物質の認可がまだハザードベースであり、”我々はリスク−ベースの意思決定に賛成である”と述べた。彼はまた、内分泌かく乱物質のカテゴリー化に関するECPAの批判に賛意を示した。

 ペソネンは一般的に、より厳しい農薬規制に反対しているわけではなく、もし農薬成分や農薬の使用が欧州農民に禁止されるなら、それらの使用は輸入農産物に対しても禁止されるべきである。そうでなければ、最終消費者はやはり禁止された農薬を含む輸入農産物を購入する結果となり、欧州農業の競争力は大きく損なわれるであろうと彼は付け加えた。

 欧州青果物協会(フレシュフェル・ヨーロッパ)は、妥協案で導入された追加的カットオフ基準は加盟国間で合意された以前の妥協案に比べてもっと活性の高い成分を廃止することになると言及した。信頼できる影響評価を通じて詳細に結果が評価されなかったことは残念である。

 ”ある本質的な活性成分が使用できなくなることは園芸分野にとって大きな影響があるであろう。将来、特にマイナーな農産物においてある種の害虫を管理することが深刻な問題となる”とフレシュフェル・ヨーロッパはその声明の中で述べた。したがって、加盟国は、”もしある種の害虫を食い止めることができないならば、ある種の活性成分の使用を継続するための緩和条項の恩恵を受ける必要がある。したがって、ある地域では、そのような条項は経済的に生存できる園芸を維持するために重要である”とフレシュフェル・ヨーロッパは付け加えた。

 健康と環境関連の非政府組織(NGOs)は、環境保護を通じてより良い健康の方向への第一歩として、またEUがこれ以上遅れることなくよりよいシステムに向かって動くことを可能とする方法として、この合意を注意深く歓迎した。

 農薬行動ネットワーク(PAN)ヨーロッパ、健康環境連合((HEAL)、欧州環境事務局(EEB)は、EU全体の農薬ブラックリストの作成を意味するものとして歓迎し、”ヨーロッパの最も危険な農薬を市場から、したがってEUで栽培される農産物から取り除くものであるとして”この妥協を喝采した。

 彼らはまた、加盟国は農薬使用の削減のための国家行動計画を作成する必要があるという事実を歓迎し、2014年から統合害虫管理を適用するという考えを称賛した。

 しかし彼らは、この合意の大きな欠点は、EU域内で危険な農薬を拒否するかどうかに関して加盟国の統制力を弱めることになるEUを3つの認可地域に分割する案をやめるよう求めた欧州委員会の要求を取り入れなかったことであると述べている。


次のステップ

  • 2009年1月12-13日:農薬パッケージに関する議会第二読会
  • 2010年中旬:法案発効

関連リンク

欧州連合
ビジネス・産業界
NGOs

■訳注:関連情報


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