EurActiv 2008年10月3日/10月17日更新
農薬:バランスを適切に取っているか? 情報源:EurActiv, 3 October 2008, Updated: 17 October 2008 Pesticides: Striking the right balance? http://www.euractiv.com/en/sustainability/pesticides-striking-right-balance/article-175831 訳:安間 武/化学物質問題市民研究会 http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2008年10月20日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/eu/euractiv/081017_debate_pesticides
農薬は作物を害虫やげっ歯類、菌類から守るために重要であると考えられている。しかし、それらはまた、水汚染のような環境的ダメージを引き起こし、人の健康へのリスクをもたらす。潜在的な健康リスクには、がん、遺伝的障害、免疫系損傷などがある。 そのような植物防疫製品(訳注:農薬)の影響に対して公衆の懸念が高まる中で、欧州委員会は2006年7月に、農業における危険な又は過剰な農薬使用から人の健康と環境を守ることを目指した提案一式を発表した。これらの提案が採択されると、現在のEUにおける農薬承認に関する1991年指令と置き換えられる。 欧州委員会の”農薬パッケージ”は、二つの提案からなる。 EU市民の食品についての一般的な不安に関するEurobaromete(訳注:欧州委員会の世論調査)は、63%が果物や野菜の残留農薬について懸念していることを示している(EurActiv 08/02/06)。 ■論点 植物防疫製品の上市に関する規則案 (Draft Regulation) 植物防疫製品(訳注:農薬)の上市に関する規則案は下記を提案している。
農薬の持続可能な使用のための共同体行動に関する指令案は、農薬の理性をわきまえたな使用と化学物質を使用しない植物保護方法への依存を推進することを目指していおり、下記を提案している。
新たな規則の最も議論ある点のひとつは、農薬の製造において使用される物質のための、いわゆる”カットオフ基準(cut-off criteria)”を含める提案である。実際に、欧州委員会は、潜在的に深刻なリスクを人と環境に及ぼす広範な”有効”成分、すなわち内分泌かく乱物質及び、発がん性及び遺伝毒性物質に関する市場での禁止を提案している(EurActiv 13/07/06)。 欧州議会と閣僚理事会は、現在までのところ、この措置を支持している(EurActiv 24/10/07 & 24/06/08)。しかし、農民団体と農薬製造者らは、提案されている禁止は、科学よりも”仮定”に基づいていると主張している。彼らは、そのような禁止による健康への便益が、産業へ及ぼす経済的コストと農産物の生産高の低下に勝る野かどうかを調べるために科学的なリスク評価を実施すること主張している(EurActiv 05/02/08)。 持続可能な食料生産の確保という点で農薬の役割に関する議論もまた、物価上昇という文脈の中で起きている。実際、いくつかの研究は、農薬の制限はヨーロッパ全体の農業生産性と自給の低下とともに、食料価格の上昇と食料輸入依存の増大をもたらすと主張している。 ■立場 ”我々は、今日そして将来の市民が彼らの健康を農薬の使用によって危険にさらされず、安全で、きれいで、豊かな環境から利益を得ることができることを確実にすることを望む”と述べて、EU環境委員スタブロス・ディマスは2006年に農薬戦略を明らかにした。 しかし、提案された農薬の上市認可に関するEU側の改定案は農薬産業と農民団体を怒らせた。 ヨーロッパの農民と組合を代表するCOPA-COGECAは、現状の形では、”農薬パッケージ”は、消費者が望む健康的な作物を農民が栽培する機会を著しく低減し、食料の入手可能性に影響を与えると主張している。 ”誰でも化学物質の使用は最低限に抑えられなくてはならないということに同意する。今日、このことは”安全で確固とした科学に基づくアプローチを通じてなされている。我々は、このやり方を維持することを望む”と述べている。また、”議会がしているような、単純な量的削減が農薬のもっと持続可能な使用をもたらすとする主張は、誤解を招いている”とし、したがって改善されたEU法規は、目的と消費者との正直で公平なこれらの製品の長所及び短所に関する対話を導入しなくてはならない。 ”作物保護製品(訳注:農薬)の80%までを失うことは、EUの農業を持続可能ではないものにし、食料輸入への依存の増大を招く”と、 カットオフ基準(cut-off criteria)アプローチを警告しつつ、COPA-COGECのルック・ピーターズは述べた。 COPA-COGECAはまた、”筋道の立たない””農薬パッケージ”を批判している。”それは、実在しない統計上の農薬使用の削減目標に基礎を置くことを望んでいる。それは、ある国では実現できない緩衝ゾーンを規定し、潜在的にEUにおける全ての単一穀物の栽培のための農薬使用を登録する’パスポート’を要求している”と、COPA の会長ドナル・キャッシュマンは述べた。 欧州土地所有者組織は、この農薬パッケージは、”水や土壌、硝酸肥料のような他の環境法規パッケージと一貫性を持ちながら健康と環境の高い保護レベルを維持し、ハザード・ベースのカットオフ基準(cut-off criteria)ではなく、適切な科学的ベースのリスク評価を通じて持続可能性を促進する”ことを希望している。同組織は、パッケージは土地使用者の活動に有害影響を与える農薬・植物防疫剤(PPPs)の使用の急激な低減をもたらしてはならない”と述べている。 農薬製造者を代表する欧州作物保護協会(ECPA)は、”提案は農薬の認可に不必要な新たな障害を導入し、欧州委員会の革新目標(innovation agenda)に反する行動である”と、主張する。特に、ECPAは、EUレベルで物質が承認される前に国家の規制当局が暫定的な認可を授与することができるという現行のシステムを廃止することを非難している。”我々は、意思決定手順を改善するためになされた努力を評価するが、現在4〜6年かかっている決定を将来は2年にするということを期待するのは非現実的であると信じる”と、ECPAのディレクター ジェネラルのフリードヘルム・シュミダー博士は述べた。 ECPAはまた、物質の安全性評価のための”ハザードベースのカットオフ基準(cut-off criteria)”は、純粋に政治的認識に基づいていると信じるとして、強く拒絶した。規制担当ディレクターのユーロス・ジョーンズは、そのようなアプローチは、”数十の物質廃止と、その結果としての数百の安全な使用廃止に導く”と警告した。その代わり、ECPAは、”潜在的な物質のハザードだけではなく、製品の科学的なリスク評価に基づく認可システムを維持すること”をヨーロッパの規制当局に求めている。 ECPAはまた、”立法者が十分に情報に基づく決定を行うことを可能とするために、新たな規制が採択される前に、提案されているカットオフ基準(cut-off criteria)の作物保護に与える影響、及び食料の安全性、食料価格、入手可能性に与える影響のヨーロッパの評価を実施すること”を、欧州委員会に求めている。 ベッドフォードシャー州(英)にあるクランフィールド経営学校の講師シーン・リッカードは最近、”もし、欧州議会が、現在の農薬の85%を市場から廃止するという最も厳しい削減シナリオ押すことに成功すると、家庭の食費の著しい増加が起きる”と主張している。彼は、EUの穀物生産高は約1億トン減少し、”穀物価格は事実上2倍となる”と予測した。トマトと野菜brassica(野菜の一族でブロッコリ、キャベツ、ほうれん草などを含む)の価格もまた2倍になるであろう。 シジェンタ社とバイエル作物科学社の代理としてイタリアの研究所ノミスマによって実施された、将来のヨーロッパの農業における植物防疫製品(訳注:農薬)に関する最近の研究もまた、農薬に関する過度に厳格なEUの規則はヨーロッパの食料自給を低下させ、食料価格の高騰と、農業ー食品分野における失業をもたらすと主張している(EurActiv 05/02/08)。 ノミスマの研究に言及して、農業ビジネスの世界的なリーダーであるシジェンタ社は、欧州委員会の影響評価やその他の様々な利害関係者による評価は主に、”農薬使用の環境と散布者及び消費者に与える欧州委員会提案の直接的影響に焦点を当てていた”が、ノミスマ研究の結果は、”提案の間接的影響は直接的影響よりはるかに大きい”ことを示した。 シジェンタによれば、”EUにおける我々の課題は、植物防疫製品(訳注:農薬)の評価においてハザードとリスクの間の合理的なバランスを作り出すことであり、それは農民がヨーロッパにおける高品質の食料の持続可能な生産に用いるために極めて重要なツールである”。もし我々がそのようなバランスを見つけることに失敗して農民にこれらのツールを与えなければ、我々は、我々の食料供給をEUの国境を超えて品質と持続可能性基準がそれほど厳しくない外部に調達するというリスクを負うことになる。これは、ヨーロッパの消費者にとって不必要に高い食料価格と農業ー食品産業の失業という脅威をもたらす”と同社は警告する。 ヨーロッパの生鮮及び加工果物と野菜分野を代表する協会は、もし欧州委員会の提案が法律になるなら、”高品質生産に及ぼす広範な影響を考慮すること”をEUの政策決定者らに求めている。彼らは、同産業分野は既に統合方式を採用して化学物質の使用を削減していると述べており、”十分に幅広い植物保護の解決方法はこれらの技術の成功を確実にするために非常に重要である”としている。 欧州委員会の農薬戦略はいくつかの環境及び健康団体により批判されており、彼らは最も有害な製品を廃止する欧州委員会の能力への疑いを表明していた。 ”欧州委員会の戦略は将来展望のない継ぎ当て仕事である。達成すべき実施可能な目標や農薬税のような市場ベースの手段がない”と、環境NGOの連合である欧州環境局(EEB)の事務局長ジョーン・ホンテレツは述べた。真に持続可能な農薬の使用は、”段階的に農薬使用を減少する、又は強力な農薬製造者への農民の依存を少なくさせる”ことを意味しなくてはならなかった”とホンテレツは述べた。”広く我々の水を汚染しているような最悪の農薬は直ぐに禁止されなくてはならない”。 欧州環境局(EEB)はまた、同団体が言うところの”欠陥のある地域認可”を批判した。それは、会社は'country-shopping'に行って認可を得て大きな市場にアクセスし、国内市場において農薬を拒否する諸国政府の力を弱めることになる。 ”産業側のロビーストは、会社のとり巻きカーボーイのように振舞い、厳格な規制の結果について根も葉もない噂を振りまいている。実際に、提案されている規制はヨーロッパの農業を支援するものとなり、有害な農薬によって及ぼされるリスクを低減するものである。たとえあっても、実際にはわずかな農薬しか禁止されないであろう”と環境団体である農薬行動ネットワーク(PAN)の欧州コーディネータ、エリオット・キャンネンルは述べた。 非営利の科学協会ラマッチニ協会(Collegium Ramazzini)は、農薬への暴露は、特に妊婦や子どものような脆弱な集団へ深刻な健康リスクを及ぼすことがよく知られていると言及している。したがって、同協会は、”EUに対し、がんを引き起こす又は脳、生殖系、免疫系へダメージを与えることが分かっている、あるいはその疑いがある農薬を禁止するよう強く促す”。 関連情報
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