2011年12月23日 欧州委員会
内分泌かく乱物質の最先端の評価

情報源:STATE OF THE ART ASSESSMENT OF ENDOCRINE DISRUPTERS
Final Report
Project Contract Number 070307/2009/550687/SER/D3
Authors: Andreas Kortenkamp(訳注*),
Olwenn Martin, Michael Faust, Richard Evans, Rebecca McKinlay, Frances Orton and Erika Rosivatz
http://ec.europa.eu/environment/endocrine/documents/
4_SOTA%20EDC%20Final%20Report%20V3%206%20Feb%2012.pdf


訳注* Professor in the Institute for the Environment, Brunel University

訳注:ケムセックによる紹介
ChemSec News 2012年2月21日 このEUの報告書は、
今日の科学が内分泌かく乱物質のリスクをとらえていないことを示している

訳:安間 武/化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年3月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/eu/EC/111223_endocrine_disrupters.html


エグゼクティブ・サマリー

 この報告書は、欧州委員会環境総局から委託を受けたプロジェクト”内分泌かく乱物質の最先端の評価”の結果を示すものである。

 この報告書は、2002年以来のこの分野の科学の進展を要約するものであり、植物防疫製品規則(PPPR (1107/2009))(訳注1)、新殺生物剤規則(the new Biocide Regulation)(訳注2)、REACH (1907/2006)のような欧州連合(EU)の重要な化学物質規則(REACH)の中で、内分泌かく乱物質がどのように扱われているかを記述している。

 過去20年の間に、多くの内分泌関連の人間の疾病が増加傾向にあるという証拠が強まっている。統一された診断基準がないので、この疾病の時間的な傾向の正確な記述は難しいことが多いが、これらの困難が克服できたところでは、疾病傾向が明確になってきている。適切な生殖と発達のための能力に有害な影響がある。野生生物の個体数が影響を受けており、時にはそれが広がっているという証拠がある。

 これらの傾向には複数の原因があり、化学物質曝露が関与しているという証拠が強まっている。それにもかかわらず、特定の化学物質をリスク因子として特定することには著しい困難がある。特に、曝露が起きた後に化学物質が組織の中に長い間留まることがない場合、感度が高まる期間に曝露を測定することができない時には、曝露との関連性を検出することは不可能である。

 広範な実験室での研究が、化学物質曝露は人間及び野生生物の内分泌系の障害に寄与するという考え方を支持している。発達の重要な期間における曝露が、後にならないと明確にならない不可逆的で遅れて現れる影響を引き起こすことがある。これらの毒物学的特性が、内分泌かく乱化学物質を、残留性・生物蓄積性・有毒性化学物質はもちろん、発がん性物質、変異原性物質、生殖毒性物質と同等の懸念ある物質と考えることを正当化する。

 WHO/IPCS(WHO / International Programme on Chemical Safety)によって開発された内分泌かく乱化学物質の定義は、人の健康と生態毒性学的なハザード及びリスク評価に適用可能であると一般的に受け入れられている。

 内分泌かく乱物質の特定のために国際的に合意され確認されたテスト手法(OECD)は一般的に有用であるとみなされているが、それらの方法は既知の内分泌かく乱作用影響の限定された範囲しかとらえることができないということが認められている。野生生物種に影響を及ぼすことのできる化学物質の特定について大きなギャップが存在する。これまで、比較的コスト効果のあるスクリーニングレベルの分析における明確な結果から有害影響の可能性を推論することは不可能であった。

 広範な内分泌かく乱影響のための合意され確認されたテスト方法は存在しなかった。多くの場合、テスト用に開発することができるであろう科学的研究モデルでさえ見当たらない。このことは、人と野生生物への有害影響を見逃す可能性とともに、少なからぬ不確実性をもたらす。

 EUの重要な化学物質規則で規定されている情報とテスト要求は、国際的に合意され確認されたテスト方法で測定することができる広範な内分泌かく乱影響をとらえていない。現在利用可能で最も感度が高く適切なテストと、感受性が高められた生命の重要なある期間をカバーすることができる曝露摂取テストは実施されていない。

 EU加盟国とその他の組織による内分泌かく乱物質を規制するための提案の概観は、ある共通性と合意領域を明らかにした。議論は、 物質と混合物の分類・表示・包装に関する規制(CLP)(Regulation No 1272/2008)(訳注3)による有効性ベースのカットオフ値に基づく内分泌かく乱物質の取扱いについての提案にある。そのような値は大きく任意性があり、科学的に正当性があるとはいえない。

 規制目的のための内分泌かく乱物質の定義は、有害性と内分泌関連作用モードに関する基準に依拠しなくてはならない。もっと早い時期の様々な加盟国及びECETOC (欧州化学物質生態毒性および毒性センター)(訳注4)を含む他の組織による提案に基づき、有害影響を生じない、又は内分泌関連作用モードを示さない物質を除外することにより段階的な方法で進める意思決定ツリーアプローチが開発された。人又は野生生物にとって関連性がないことを示す影響を生成する物質もまた意思決定ツリーから除外した。最終的な規制決定は、証拠の重みアプローチでの物質の毒性学的特徴の考慮に基づく。この証拠の重みアプローチは、影響の深刻性と特殊性及び不可逆性のような要素と共に有効性が考慮されなくてはならない。不動の決定基準としての厳格な有効性ベースのカットオフ値は推奨されない。データのギャップがある場合にデータ提供のインセンティブを与える手順が示唆される。内分泌かく乱物質についてのは規制的決定は、今なお開発されるべき証拠の重み手順に依拠しなくてはならない。

 研究開発プロジェクトを通じて対応されるべきまだ多くの知識のギャップがある。緊急になされるべきことは内分泌かく乱物質を特定するためのさらなる方法である。環境中及び人の組織中に存在する内分泌かく乱物質の全貌を特定するために調和の取れた取り組みがなされるべきである。

 次の勧告がなされる。

  • 最近更新された、又は強化・確認された、国際的に認められたテスト手法を、植物防疫薬剤(農薬)の上市に関する1991年指令(PPPR)及び REACH のテスト及び情報要求の中で実施すること。
  • テストデータの解釈のためのさらなる指針文書を開発すること。
  • 別個の規制クラスとして内分泌かく乱物質(ED)の新設を考慮すること。
  • ”有害性”基準と”作用モード”基準を並行して重み付けるが、これらの基準を評価から物質を除外するために直列に適用することなく利用可能な証拠を扱う証拠の重み手順を開発すること。
  • 証拠の重みアプローチの中で、鉛の毒性、特殊性、深刻性及び不可逆性のようなその他の基準と共に、有効性(potency)を考慮すること。純粋に科学的な基準によって合意に達するという見込みがないために、当該規制の内分泌かく乱物質のための厳格なカットオフ基準としての”有効性”を捨てること。
  • OECD概念枠組(訳注5)を越えて、確認されていないテスト方法を含んで、必要なデータの生成をシミュレートする規制カテゴリーを生成すること。

訳注1:植物防疫薬剤(農薬)の上市に関する1991年指令 (PPPR (1107/2009))関連記事
訳注2:新殺生物剤規則(the new Biocide Regulation)
    P7_TA-PROV(2012)0010 Placing on the market and use of biocidal products ***II
    European Parliament legislative resolution of 19 January 2012 on the Council position at first reading with a view to the adoption of a regulation of the European Parliament and of the Council concerning the making available on the market and use of biocidal products (05032/2/2011 . C7-0251/2011 . 2009/0076(COD))
訳注3:CLP
訳注4:ECETOC (欧州化学物質生態毒性および毒性センター)
訳注5:OECD 概念枠組

訳注ケムセックによる紹介
ChemSec News 2012年2月21日
このEUの報告書は、今日の科学が内分泌かく乱物質のリスクをとらえていないことを示している
EU report shows today's science does not capture the risks of endocrine disruptors / ChemSec News Tuesday, 21 February 2012
 欧州委員会の新たな報告書は、現在の国際的に合意されている内分泌かく乱特性のためのテスト方法から得られた情報と、人の健康と環境を保護するために必要なこととの間にギャップがあることを明確に示している。

 コーテンカンプ教授らによる報告書、”内分泌かく乱物質の最先端の評価”は、2002年以来の内分泌かく乱化学物質(EDCs)に関する科学的発展の綿密なレビューである。このレポートは、EDCsが深刻な健康と環境問題、すなわち時間的には遅れ、不可逆的であり、低用量でおきる影響を引き起こす可能性を強調している。

 報告書の中で、コーテンカンプ教授は、EDCsについて既知の問題に光をあて、内分泌かく乱物質を特定するために今日使用されているテスト方法を精査し、EDCsによって引き起こされるハザードをいかに評価するかに目を向けている。この報告書はまた、科学的観点からの知識のギャップを強調し、EDCsのためのEU基準を完成させる時に考慮すべき必要なことを助言しつつ、これらの発見を規制の文脈に織り込んでいる。

 我々は、EDCsに関連する多くの難しい問題、特に規制の文脈に光をあてているこの科学的に非常に強固な報告書を歓迎する。現在までのところ、化学産業界によってECHAに提出されている登録を見ると、EDC特性に関連する適切なデータが欠如していることは大変なことであると、ケムセセックの上席化学物質アドバイザーであるジャカール・ライトハートは述べた。

 物質のEDC特性を適切に評価することができるようにするために、カットオフ基準としての有効性を使用するのではなく、証拠の重みアプローチを考慮する必要がある。さらに、テストを実施するときには最新の科学的知識が考慮される必要があると、この報告書は述べている。

 欧州委員会は2013年末までに、植物防疫薬剤(農薬)指令(PPPR)にEDC基準を適用するよう提案する義務がある。EDCはまた、REACH及び新殺生物剤規則の中でも特に述べられている。

−この報告書は、PPPR だけでなく、既存の及び今後のEU規則の中で使用されるべき、同等な良いEDC基準の開発のための強固な科学的基盤を欧州委員会に提供するものであると、続けてジャカール・ライトハートは述べた。

訳注:その他の関連情報


化学物質問題市民研究会
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