双眼望遠鏡、海を渡る! APM/LZOS 130/f6 BINO その3
西オーストラリア、Springhills Farm編 (滞在2011年5月1〜6日)
公開:2011年5月8日
更新:2011年5月23日 *一部内容を訂正しました。
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南天の天の川。双眼望遠鏡の
右上付近に南十字星とコールサック、右側にηカリーナ、左側端に縦になったさそり座、いて座が見える。右側のファインダーの所に見えるのが、大マゼラン雲。
(Cannon EF15mm F2.8 Fish Eye + Eos Mark V MkII. f2.8 30sec. ISO3200.
三脚固定撮影)
*双眼望遠鏡の右下の灯りは、とても“元気”なご老人Yさん。「あれ〜、おかしいなあ〜、ぶちっ.....」。
2011年のGWは新月、さあどこへ行くか?
今年(2011年)のゴールデンウイークは新月だ。このチャンスを逃す手はない。真っ先に考えたのは、ニュージーランド・テカポ。High Lander で遠征だ! と昨年から意気込んでいたが、今年に入ってクライスト・チャーチが大地震。テカポへは、ここを拠点に移動するのが一般的で、ルートが見えなくなってしまった。しばらく待ったが、見通しが立たない。ちょうどその時、趣味人社の「西オーストラリア・天体観測ツアー」の広告が目に入った。おお、ちょうど良い、とさっそく申し込んだ。ところが定員オーヴァーで、しかも、この連休に飛行機の座席を追加確保するのは、極めて難しい、との事。そうこうしていたら、東日本を大地震が襲った。地震は南下し、富士山でも地震。次は関東大震災か? と身構えた。原発も情報隠蔽と愚かな記者会見を見て絶望的になり、GWどころでなくなった。ところが3月後半になり、まあまあ少し見通しも立ってきた。そもそも、関東大震災はいつか必ず起きるものだし、今までも、そう思ってやってきた。原発は、依然厳しい状況ではあるが... 当然、ツアーにはキャンセルが出た。という訳で、地震のためにテカポへは行けなくなり、西オーストラリアへ行けることになった。
カルネ
機材はカルネを利用して運搬するという。High Lander なら、トランクと一緒に飛行機に預けて行けるし、送料もかからない。公共交通機関で移動の時は、何と言ったってHigh Lander だ。ただ、APM- Bino の架台に載せれるようにすれば、導入装置が使える。架台に載せるためのアングルを製作しようか... いや、待て..... これは、もう二度と無いかもしれない、ハレの舞台ではないのか。こんな時に、“生涯を友とするBino” を持っていかなくてどうする! High Lander は優秀だけど、APM- Bino とは全く比べ物にはならない。よし、持って行くのだ! 最高の西オーストラリア観望の旅にしよう!
さあ、それからが大変。出発は4月30日なのに、4月8日には機材の梱包を済ませ、送付しなければならない。カルネは日本国内、そしてオーストラリアで開封のチェックがあり、扱いは相当乱暴との事。ハード・ケースをあてがったら重くて大変だし、送料を考えただけでも恐ろしい。既成の段ボールがあるが、私のAPM- Bino には、どう分解して組み合わせても、無駄な空間が大きい。送料は、大きさと重さで決まるので*、大きさは必要最小限に抑えたい。そこで、段ボールをオーダーする事とした。いろいろな会社に問い合わせたが、迷う事無く、高山包装に注文した。前夜に何社か問い合わせのメールを送ったが、高山包装は翌朝一番に回答が来たし、また、問い合わせにも的確に即答。そして、痒くない所にまで手が届く素晴らしい対応。すぐに、重量機材運搬にも耐えれる軽くて丈夫な箱を作ってくれた。これなら、またあるかもしれない(?)遠征に、幾度も使える*。ちなみに、段ボール箱を注文する時、開ける面を基準に「縦×横×深さ」の順でサイズを注文する。例えば30×30×100cmの箱というと、100cmの筒で、30cm角の面が開く箱となる。もし、大きく開けて出し入れする場合は、30×100×30cmという注文となるので注意が必要だ。 また、注文枚数が多くなれば単価は安くなるが、1枚の注文だと相当割高となってしまう。
*どうやらカルネの場合、段ボールの再利用はダメらしい。また、一つのカーゴを丸ごとチャーターして運搬するので、場合によっては、ダウンサイジングしなくても、送料は同じかもしれない。知らなかった...
梱包は、そうとう厳重にやらないと危険だ。全体の重さの30%は、段ボールとクッションだと思ってくれ、との事。APM- Bino は、左右の鏡筒、連結フレーム + EMS、三脚(普段はピラー脚を使用しているが、遠征の場合には地面の水平が保たれないので、Vixen の三脚:HAL 130 を使用)の4つに分けて梱包した。まず、段ボールの内側はエアピロ(12.5×8cmの連結空気袋)を二重に貼り付け、そして各パーツをエアー・クッションでぐるぐる巻きにして入れた。隙間もエアピロで充填。そして段ボールは、開閉面を中心に、布製ガムテープで頑丈に補強した。
現地に着いてさっそく機材を見たら、チェックされた箱はどれも開けっ放しで、何とAPM 鏡筒の箱は、花が咲いたように中からエアピロが飛び出してた。恐るべし、税関。幸いダメージは無く、組み立ててみたら、光軸調整ノブは真っ直ぐ手前を向いたままで、光軸はきっちり合ってる。このBino のフレームには、常に20Kg以上の重さがかかっているのにビクともしないし、再現性も完璧だ。流石である。
観望機材
このツアーのキャッチ・コピーは、「西オーストラリアで、存分に天体写真を撮ってみませんか?」だ。参加14名で眼視派は、私ただ1人。同じ天文を趣味とするのに、片や「どうしてこんなに素晴らしいものをもっと見ないのだろう。」、一方で、「どうしてこんなに素晴らしいものを撮らないのだろう。」と両者は全く向いている方向が異なるのは不思議だ。私の場合は、まだまだ存分に見きれていない事もあって、撮る時間があったら、少しでも見ていたい。写真なら、ヴェテランが撮ったものがいくらでもネットで見れるので、特に撮りたいとは思わない、というスタンスなので、このツアーでは、完全なアウェイ状態だ。私の機材は送った機材の総重量が40Kgを超えていて(後日 、請求書が届いたら、62sだった。何でこんな重さになったのか?...)、参加した皆様を圧迫するのではないか、と心配していたが、皆、重量級の赤道儀(しかも2台)を中心とした物凄いものばかり。そもそも参加している方々は、南半球に幾度も訪れている超ヴェテラン〜プロの方々がほとんどったので、私なんか全然かわいい初心者の方だった。幾度もいらしている方が、前回撮影した写真をA3サイズにプリントし、ファームへのお土産として9枚持ってきていたが、流石としか言いようがない素晴らしいものだった。
左:塩ビ装備のiPhoneとPC。接着は、梱包に使った繰り返し貼れるガムテープ。 右:アイピース。
私が持ち込んだのは、APM- Bino
とEMS対空双眼鏡、そしてCanon
10×42 L IS WP
とTC-E2
テレコンビノ。パソコンはステラ・ナビゲーターでリアルタイム星図表示、さらにiPhone
でStarmap
PRO
とDSS Browser
を使用。パソコンとiPhone
は0.4mmの赤色塩ビシートでカヴァー。ナイトビジョン・モードもあるけれど、この方が断然使い易い。iPhone
も、シートの上から普通に操作できる。また、iPhone
は、一晩中使っても余裕綽々の予備バッテリー:PES-8800
も持参した。何と8800mAもあり、大地震の後、イザという時も考え購入した。
アイピースは、EWV
32mm とNAV-HW 17mm
(+ Eic)、Nagler Type 6 5mm
で、フィルターは、笠井
Hβ
とSuper
Nebula Filter HT、そしてBaader
Neodymium Moon & Skyglow フィルター。南半球の大きな天体を主体に低倍中心のラインナップ。普段、スーパー・ナビゲーターを入れているCORONADO
のケースに入れて持ってきた。双眼鏡は、全て手荷物。
椅子と小机はファームのものを使用。ただ、低空観望用に小さいステップ、三脚安定用の板、そして快適に機材を広げるため格安テーブルを途中のホームセンターで購入した。日曜というのに、朝7時から開いている。
さあ、来い。やるぞ!
夜露対策
ここのファームは、夜半からの夜露が相当凄い、との事。いつものように、バッテリーとヒーターを使う訳にはいかない。一応カイロは用意したが、APM- Bino のフードはけっこう長く、対物レンズは、一度も曇らなかった。反面、アイピースとファインダーは曇る。ドライヤーは持ってきたけれど、撮影機材の繋がっているブレーカーを落とす危険は避けなければならない。結局、使う時以外は 小まめにタオルでカヴァーしておくと、結構結露予防となって良かった。捨てても良いタオルを沢山持ってきて正解。でも明け方は、けっこうお手上げ状態になり、特に、Sky Surfer III のファインダーは拭くこともできず、全く使えなくなった。もし、また来る機会があるなら、DCコンバーター + ヒーターも考えて良いかもしれない。
朝もやと霧で、まるで湖のほとりのようなファーム
南天という麻薬
南半球へは、幾度か訪れた。新婚旅行は、タヒチ。もう30年近く前だけれど、本当に小さな島にヤシの木が1本生えていて、これに満月がかかる、というロマンチックな夜。天文超休眠中だったので、南十字星を確認しただけに終わった。1999年には、仕事でアルゼンチンへ行った。バルデス半島へ足を伸ばした時、タクシーの運転手に頼んで夜中に暗い所に行ってもらって、双眼鏡で南天の星空を体験した。最初、街中で夜空を見た時、オリオン座も月も逆立ちしているので、とにかく不思議な感覚だった。頭でわかっていても、とにかく奇妙。mini BORG 50 BINO にも書いたけれど、もしヨーロッパが赤道直下にあって、少し南北に船で行ってみれば、すぐに地球が丸い事が理解できていただろうし、歴史も随分違っていただろうと思う。
ファームに着いた時の空。期待は、ますます高まる。
初日、快晴。日本のこの季節とは違って、遠くまでスッキリ見える。だいたい数百m先がモヤっているようでは、系外銀河が良く見える訳が無い。まだ完全に暗くなっていないのに観望開始。土星はくっきり、シーイングは良い。まだ6時半だというのに、普通にソンブレロが見える。しかも、最近の関東の空でORION で見るのより、ずっと良い。何なんだ、この空は! 暗くなってきて、馬頭にチャレンジ。もう沈み行く西の空にあるのだけれど、どうしても、このBino で馬頭を見てみたかったので、Hβフィルターを持ってきたのだった。晴れた日は毎日30分位見ていたけれど、馬頭の位置が、見る度に違う。最初、反対側にくびれて見えたりして、苦笑してしまった。結局最後まで明確には確認できなかったのは残念。ただし、オリオン大星雲は、わずかに色付き。
さて、初めての南天の望遠鏡での観望。まずは定番から。まだ完全に暗くなる前から天の川が見えている位だから、南十字星のコールサックは、雲が無ければいつでも普通に確認できる。NAV-HW 17mm で見るジュエル・ボックスは、本当に色がきれい。EMS 対空双眼鏡は実視界が11°もあるから、これらが余裕で一望できる。他にも、NGC4337、4339、4103、4349、4609 等を観望。
この周辺の天の川は物凄くて、どこを見ても下手な散開星団より星の密度が濃い。TC-E2 テレコン・ビノで、もっと物凄い天の川になるか、と思いきや、もともと十分過ぎる位に星が見えているので、あまり役に立たない。むしろ、Canon 10×42 L IS WP で天の川下りをすると、星々の密集度がより把握でき迫ってくる感じで、きれいな二重星やエータ(η)カリーナ等が普通に手持ちの双眼鏡で眼の延長として見えるのに、ただただ、ため息が出てしまう。さらにAPM- Bino + NAV-HW 17mm でこれをやると、しばらく絶句の後、ため息に声が混じる。だこれらは、全て恒星である事と、そして銀河の大きさを考えると、改めて驚嘆してしまう。
続いて、すぐ下のはえ座のNGC4372 を経由してケンタウルス座のα星(太陽から最も近い恒星:リギル・ケンタウルス/αケンタウリ)を確認の後、ω 星団を訪れた。NAV-HW 17mm で見たら、思わず、「おっ、あ、おお〜! これは凄いい〜っ!!」、と声が出てしまった。眼前に迫る巨大な球状星団だが、その粒子感と双眼望遠鏡ならではの立体感は、とにかく凄いとしか言いようが無い。北半球で球状星団を大口径で臨んでみても、こんな像は望めないだろうと思う。しばらくして、M13 をはじめ、たくさん球状星団を見てみたけれど、迫力という点では、ω は格段に別格だった。また、時間によって、つぶつぶ感の凄さが違った。ケンタウルスAも、写真のように暗黒帯が見え、圧巻。他の天体もそうだったけれど、一晩に幾度も訪れ、その度に、ここに来て本当に良かった、と思った。他にも、NGC5460、5286、5662、5617、5316、5281、M83、68 あたりをチェック。
さあさあ、物凄い天の川を移動してη カリーナへ。怒涛の南天の攻撃は続く。これもNAV-HW 17mm で見ると、本当に凄い。天体写真のように星雲が切れ込み、雲のようにもこもこと浮かんでいるように見える。2日目の夜、短い時間だったが、さらにスカッツと抜けた時があった。その時、Super Nebula Filter で見てみたら、さらに立体的に割れて浮かんで見えた。またまた思わず感嘆の声が出てしまった後、しばらく絶句。これではまるで宇宙遊泳ではないか。周囲はそこら中がガスを伴った散開星団だらけで、何を見ているのだか、さっぱり同定できない。どこを見ても絶景。おお、何という南天、恐るべし南天!
南天、といえば、大小マゼラン雲を抜きには語れない。大マゼラン雲は、EMS 対空双眼鏡を持ってしても、大きくはみ出してしまう程、巨大。この雲にはタランチュラという蜘蛛がいるけれど、これもNAV-HW 17mm で堪能。Super Nebula Filter を装着すると、背景の黒がぐっと締まり、写真のように輪郭が明確になる。基本的には、NAV-HW 17mm ばかり使っていたけれど、これにEiC を付けたり、フィルターを付けたり、時間によっても表情が違ったり、同じ対象物でも、幾度も堪能できる。
小マゼラン雲には、美しい球状星団NGC104 がある。最初、ω 星団 の迫力に圧倒され、また、今まで球状星団には迫力ばかり求めていた傾向があったけれど、球状星団は皆同じではなく、小型のものや遠方にあるものでも、それぞれに趣きがあるのを大いに認識した。近傍のNGC362 も訪れたけれど、EMS 対空双眼鏡では、これらが余裕で同一視野に全景が収まる。しかし、Canon 10×42 L IS WP は凄い。超広角装備で来たけれど、ある程度倍率はあった方が良かった。Canon 10×42 L IS WP で見ていると、もう眼が望遠鏡と直結している感じだ。これだけでも十分見え、これだけでも十分楽しめる。
みんなの機材(一部)。
丘の上にカメラを設置している人もいた。
途中、雲が出てきた。雲は真っ黒で、乳白色の空を隠してくる。日本は逆だ。雲が出てくると、灯りが反射して灰色に見える。そういえば、ヘッドライトで照らさなくてもそこそこ行動できる。そうか、これが星明りか! 翌日、冒頭の写真を撮ったが、拡大してみたら、右の鏡筒に星が反射して写っていた。う〜ん、これはまた来てしまうかもしれない。鼻をつままれてもわからない程暗い空なら、星は見えていない。
また晴れてきて、とにかく南天でしか見れないものを見続けた。じょうぎ座の、NGC6067、5999、6005、6087、ふうちょう座のNGC6101、さいだん座のNGC6397、近傍のNGC6231、ぼうえんきょう座のNGC6584、くじゃく座のNGC6752、レチクル座のNGC1313、等々。それから、大変消化不良だったおとめ座、かみのけ座のdeep skyを訪れ、一周(一蹴ではない)。とにかく良く見える! さらに空に出ている星雲・星団を片っ端から見まくった。気が付けば、さそり座、いて座がひっくり返って上がってきている。早々に、日本の夏の星雲・星団も制覇。その後、さそり座 、いて座は天頂を通過して、夜が明けてくる。皆、完全に夜が明けるまで10時間以上、びっちり活動し、夜明けと共に寝、昼に起きる。そこからブランチで、一日が始まる。また、深夜、夜食・デザートが出るのはありがたい。ここで一休みするので、朝まで続けられるのだ。今まで幾度も来られた方々の努力の蓄積と、天文ツアーならではの配慮に、ただただ感謝、である。個人で来たら、こうはいかない。昼間は20℃以上、夜は下がっても10℃位まで。寒さ対策はいろいろしてきたけれど、暖かい夜は、ダウンジャケット無しで、星を見ながらうとうと寝られる。手袋も使わなかった。だから観望も夜通し続けられた。
望遠鏡のカヴァーは、OAカヴァーがおすすめ。帯電防止、風通し抜群、形状対応自在、軽量、廉価。ただし、雨の恐れがある時はダメ。
2日目も同じように片っ端から観望、観望。ただ、個人で来ていた方々をはじめ、できるだけ多くの方々に双眼望遠鏡を覗いていただいた。これは、機材を自慢したいのではなく、少しでも多くの方に双眼望遠鏡の良さを知ってもらいたいし、何より感動を分かち合いたかったためである。南天オールスターズばかりでなく、土星や地上風景も相当インパクトがあったようだった。初めて見る方も多く、その良さを認識していただいたのは嬉しかった。昨日と比較し、平均してシーイングは今一だったけれど、一時抜群の時があり、これは昨日より圧巻。またまた、「おおお〜っ。」と声が出てしまう。
夜中に一段落。せっかく来たし、時間もたっぷりあるので、私も写真を撮ってみる事にした。それが冒頭の写真。空を天の川が二分していて、その中央に南十字星とコールサック、右側にηカリーナ、左側 端にはさそり座、いて座、双眼望遠鏡の右ファインダーには大マゼラン雲が写っている。魚眼レンズを使って、まるでプラネタリウムにいるみたいに撮ってみた(当然、実際はプラネタリウムとは比較にならない位、遥かに凄い)。小マゼラン星雲は別の構図の写真には写っているけれど、この写真では双眼望遠鏡に隠れてしまっている。それにしても、今のデジカメは凄い。ISO3200が常用できるので、三脚固定撮影で普通に星野写真が撮れてしまう。 しかも、ミラーアップもしていない。天体写真はズブの素人だけれど、南天一望!のような写真が撮れて、実に満足。その直後から雲が出てきて、この日はこれにて終了。
3日目は、前半曇り。でも、雲の隙間からでも随分楽しめる。ω 星団なんて、薄雲を通しても見えるので驚愕。これじゃ月みたいじゃないの。夜半過ぎから晴れてきたけれど、シーイングはちょっと今一。ああ、どんどん眼が贅沢になっている...
農場の1日
お世話になったロッジ
農場の1日は、まったりと過ぎて行く。何せ、夜に行動するのが目的だから、皆、昼まで寝て体力温存。私は、超時差苦手人間で、どんなに遅く寝ようが、休日だろうが海外であろうが、同じ時間に起きてしまう。結局、ここでも毎朝8時にはシャワーも済んでいる状態だった。寝るのは、午後のひと時。
食事の合図は、カウベル。ガラガラガラ、と鳴ると、皆部屋からゾロゾロ出てきて、羊になった気分だ。12時がブランチ。5時半が夕飯、そして深夜には食事やデザートが食べられるよう、万全の準備をしてくれる。天文用に特化した特別なサイクルで、しかも、日本人の口に合ったものを常に気遣いしてくれる。デザートも甘さ控えめだ。6時半を過ぎると、ファームの灯りは全部消え、食器洗いも我々と同じ赤色ヘッドライトでやってくれている。コーヒーや紅茶は、常時好きなだけ飲めるのはありがたい。滞在は我々だけだけれど、きりもりしているロビンさん*に本当に感謝!
*ちなみに、ロビンというのは男の名前。スペルを聞いたら、Robin
ではなく、Robyn
だった。
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昼間、農場の動物達を気の向くまま見たりもする。希望すれば、羊毛刈りや、夜のハンティング等、農場体験もできるらしい。羊達は、のどかに「メ〜。」と鳴くが、誰が聞いても完全な日本語の「メ〜。」なので、皆爆笑。たいへんきれいな鳥(インコ)も飛んでいたけれど、望遠レンズを持ってこなかったので、残念ながら撮れなかった。スーツ・ケースの重さは23s以内でとても厳しい、と聞いていたので(といっても、以前より3s増えたので相当助かった)、何度もチェックし、手荷物がどんどん重くなった。こちらも7s以内に、と言われていたが、 西洋人の体重+巨大な手荷物を考えると、おそろしく不平等だ。という訳で、まあこの位なら、という程度に抑えた。でも、お土産のスペースも皆無で、今回は、行く前に、もうお土産 のチョコレートは届いていた。便利な世の中である。
怒涛の4日目!
もう4日目だ。今日は快晴の予感十分で、朝から思いっきり気合が入っている。明日は天候不順、との情報が入っていたので、皆今晩にかけている。夕飯を済ませ、まだ夕暮れの中で観望開始。まだ暗くないのに天の川が見え、空も良い。今日も、まだ紺色の空なのにソンブレロがしっかり見えている。馬頭は30分で切り上げ(といっても、その前に燃える木やM78 あたりはしっかりチェック)、南天に望遠鏡を向けた。というのも、今日は南天NGC 巡り決行! そして星図とにらめっこしながら、理解を深めたかった。
南天の空は、肉眼でかなり同定できるので、等倍ファインダーがあれば、メジャーな天体の導入はすぐにできてしまう。初日、南天初心者だったけれど、スーパー・ナビゲーターのスイッチを入れたのは夜半過ぎだった。APM-Bino の右側ファインダー台座にはレーザー・ポインターが付いていたが、今回持っていく訳にはいかないので、Bino をカルネで送った後、High Lander で使っているSky Surfer III を持って行く事にした。現地に来て装着しようとしたら、台座に入らない! またしても、やられてしまった。流石にヤスリは持ってこなかったので、フレームにガム・テープで固定した。望遠鏡が天頂付近を向くと、ファインダーもずれる。南天の星の動きはまだ全然把握できておらず、初日もさそり座・いて座が天頂を通過して驚いたし、角度も随分違って移動していくし、望遠鏡の周りをぐるぐる回って片っ端から観望していているので、少し時間が経っていきなり空を見上げると、さっきまで見ていた見慣れた星座が一瞬わからなくなる時もある。
ちなみにスーパー・ナビゲーター。南天に行っても設定を変える必要は無い。いつも通り、基準星を2つ選択すれば良い。カノープスが燦然と上の方で輝いているし、他にも目立つ明るい星が沢山あるので、基準星選びには苦労しない。
さて、南天NGC 巡り開始。最初は南十字星から。空が良いので、一から全部見直した。ジュエル・ボックスNGC4755、コールサックを皮切りに、見えなかったものも含め訪れたのは(以下の星座も、訪れたものを列記 。ただし漏れや誤りもあると思う)NGC4609、4337、5158、4463、4349、4103。
はえ座は、NGC4372、IC4191、NGC4833、4372。
コンパス座は、NGC5823、近傍の5822。
おおかみ座は、二重星ξ、η、三重星μ
をチェック。
続いてケンタウルス座。今日のω 星団NGC5139 は、一段と凄い。まるで毛玉のように星々が連なって広がりを見せている。大人気の電波銀河(ケンタウルスA)NGC5128 の暗黒帯は、いつもよりくっきり見え、何度見ても飽きない。大口径で見たら、どうなるのだろう。NGC4945 のエッジ・オン銀河も見ごたえがあった。 その他、NGC5419、5367、5408、5483、5460、5266、5139、5307、5286、5460、5138、5662、5606、5617、5316、5161、4936、5161、5102、4930、4709、4696、4373、IC3370、NGC3680、4835、3918、4976、IC3896、NGC5281。
りゅうこつ座は、望遠鏡をどこに向けてもガスを伴った散開星団だらけで、このあたり全部が一つの巨大な天体みたいだ。いろいろな色の星が散りばめられ、宝石箱のよう。どの星々の間にも星間ガスがあり、まるで蛙の卵のように見える。最初、南のプレアデスがどれだかもわからなかった。今日のη カリーナ星雲NGC3372 は、さらにコントラストが上がり、圧巻。南のプレアデスIC2602 は、本当にプレアデス星団みたいにひんやりと鋭い光が眼を刺してくる。南北でも見える季節が同じで、兄弟のようだ。また、NGC3324 もジュエル・ボックス同等以上に美しい。NGC3114 もきれい。また、二重星ST397 (だと思う)は、青と黄色の色の対比が本当に美しかった。その他、 番号を列記すると、NGC3293、3532、3572、3603、3579、IC2714、Mel.101、105、IC2581、NGC3247、3119、3114、3211、C2501、2488、NGC2867、3136、2808、2822、IC2488、NGC3059、2526。
みなみのさんかく座は、NGC6025、6156。
じょうぎ座は、NGC6087、5927、5946、6067、6167、6134、5999、6005。
ふうちょう座は、NGC6101。
さいだん座は、NGC6397。
ぼうえんきょう座は、NGC6584。
くじゃく座は、NGC6752、6744、6684、6876、6943。
はちぶんぎ座は、NGC6438。
インディアン座は、NGC7083、7192。
きょしちょう座は、小マゼラン雲、美しいNGC104
を堪能した後、NGC362、460、419、7205、7192、7329。
かじき座は、大マゼラン雲、さらにくっきりと浮かび上がるタランチュラNGC2070 の他、NGC2210、1835、1786、1978、1947、あと5つ訪れる予定だったが、沈みかけていて見れなかった。
レチクル座は、NGC1313。
みなみのかんむり座は、NGC6541、続いて二重星、γ、κをチェック。
みずへび座は、無し。
とけい座は、訪れた時はほとんど沈んでいたので、見れなかった。
ファームの入り口には、アーモンドの木があり、食べられる。
そうこうしている内、さそり座といて座が天頂付近に上がってきたので、これを一巡。初日に驚いたけれど、アンタレスは全く瞬かないし、すもうとり星μ1μ2 も静止したままで、ここでは相撲は取っていない。このあたりの濃い天の川・銀河中心をこの空で天頂で見ると、とにかく圧巻。さそり座のM6、7は肉眼での見え方が全く違う。アンタレス横の暗黒星雲が良く見える。いて座も、M8付近がとにかく明るい。メシエ天体は、双眼鏡で追って、とにかく楽しい。倍率を変えても、双眼鏡でも肉眼でも、どれも大感動。今度は、日本でも見れる星雲・星団も一巡。
気が付けば、やぎ座、みずがめ座、そしてペガスス座も上がってきている。もう秋のものまで見てしまった。二重星めぐりもやった。アイピースはNAV-HW 17mm しか使わなかったけれど、15cm望遠鏡のテスト・スターとして知られる、やぎ座のα1α2ダブル・ダブル・スター(ただし、さらに伴星も二重星)も、この組み合わせ(46倍)で2つずつシャープに分離するので、楽しい。
明け方になり、ファインダーは夜露で失神。アイピースもびしょびしょ。双眼鏡は普通に下ろしたら鼻息ですぐに接眼部が曇ってしまうので、吐く息を抑え気味にしたり、下げた時は双眼鏡を横向きに保持したり、観望も大変になってきた。気が付けば、見事な黄道光が立ち上っている。しばらくしたら、さらに中心部が異様に明るくなってきた。明るさはどんどん増して行き、まるで強力なサーチライトで照らされているみたい。何だこれは、と思ったら、木に隠れて見えなかったが、金星が上ってきたところだった。こんなに明るい金星は見た事が無い。真っ直ぐドーと光が届く。ここで見る恒星も惑星も、光の太さが全然違うように感じてしまう。 金星が上がってくるタイミングで、さあ朝だ、と機材を撤収してしまったが、不覚にも横に水星があり、木星、火星が続いて出てくるのを起きてから知った。 他にも事前の準備不足が相当あったが、もう後の祭り。
黄道光+金星の明かり
もう最終日
5晩もある、と思っていたが、あっという間。昨夜の興奮で、まだ頭がジンジンしている。昼過ぎに、雲が濃くなってきた。天気予報では雨が来る、との事。一応機材は撤収して待機していたが、天候 の回復は夜半過ぎになりそうだ。機材が我が家に届くのは、またさらに3週間後で、乾燥した状態で梱包したい。 迷わずAPM-Bino の梱包を行った。というのも、雨上がりには、きっと最高の空になるのでは、という期待と、長年の夢があったからだった。それは...
カルネ総重量は、14名で約1トン! 1人で150sの人もいたという。
長年の夢
雨は止んだが、曇り空。たまに隙間から星が顔を見せるが、ほとんど見えない。とりあえず、仮眠。10時過ぎに、「晴れてきましたよ。」と声がかかった。おお!星がすっきり見えている。雨が空中の埃を一掃。空の黒さが違うし、だいたい星が全く瞬かない。他の方も言っていたけれど、αケンタウリはまるで木星のように、光が真っ直ぐ太く射してくる。こんな凄い空は経験が無い。今回のツアーには、天体写真・ライター・ソフト開発として活躍している古庄さんが同行し、いろいろ指南して下さったが、常連の彼によると、これがここの最高の空で、こんな良い空はなかなか無い、との事。絶好の空、やっと長年の夢を実行する時がやってきた。
私の場合、本格的に観望を始めたのは30を過ぎてからなので(しかも、途中お休み)、しかも観望のチャンスは少なく、見る時はいつもドタバタ。ナビゲーターまかせに天体を次々と導入してあせって見ている。何か表面だけを通過して、地に足が着いていないように感じていた。いつか最高の空で、じっくり肉眼と双眼鏡だけで、星空・星座と対話したい。細かい所より、まず全体像をしっかり見たい。その長年の夢が、ついに叶おうとしている。こんな最高の空で、望遠鏡を向けない最高の贅沢。
星座、といったって、なかなか星を追うのは大変だけれど、ここではきっちり全部が肉眼で追える。南半球の星座を、あらためて一つずつ確認。じっくり見ていると、コントラストと解像度がどんどん上がっていく。一つの星座で10分は見ていたと思う。それから双眼鏡Canon 10×42 L IS WP で見る。色はAPM-Bino で見たときのようには見えないけれど、それでも相当見えるのに驚く。望遠鏡で見ていたので脳が手助けをしているのかもしれないが、最終日だからこそ、双眼鏡が生きている。
今回のツアーに、古庄さんが、南天の極軸合わせの資料を用意して下さった。初日は、皆これに格闘。私には関係無かったが、これも確認しておきたかった。以前、星ナビにも掲載していた図だけれど、実際に双眼鏡で見たら、本当にそのまんまなので驚いた。経験とはいえ、流石だ。天の南極の位置がわかって、何か達成感があり、嬉しかった
初日に撮った、初めての天体写真。随分と避けてきたものだ.....
(Cannon EF15mm F2.8 Fish Eye + Eos Mark V
MkII. f2.8 30sec. ISO3200.
三脚固定撮影)
一番楽しみにしていたのは、天頂のさそり座といて座。この銀河中心は、肉眼で見れば見るほど凄い。ずっと見続けていると、暗黒星雲も暗黒帯も見え方が変わってくる。1時間もじっと見ていると、胸がいっぱいになってくる。そして思った。いつもは系外銀河を望遠鏡を使って一所懸命に見ているけれど、目の前に巨大なエッジ・オン銀河が空いっぱいに広がっていて、しかも肉眼で堪能できるではないか! これが観望できる最大の天体。いままで大き過ぎて、見えな過ぎて、一番肝心な物凄い天体を見落としていた.....
「いや〜、オーストラリアでさそり座といて座を見ていたら、首が痛くなったよ。」というのは、どう?と古庄さん。幸い、先人達が残してくれたコールマンの椅子は、背もたれに首を預けられるので、極上の体験ができた。きっと日本で地平線のさそり座を見たら、「ああ、そのこの下にいたんだな。」と胸が熱くなるだろうなあ。
帰路
朝、雲一つ無い快晴だった。
あっという間の5夜だった。お世話になったSpringhills
Farm
ともお別れ。それにしても、天文用に我々のリクエストにしっかり応えてくれたRobyn
さんとスタッフ、そして経験を生かしてこのツアーをしっかり組んで下さった趣味人の宮崎さん、古庄さん、ツアー・スタッフの方々には、感謝してもしきれない。どうもありがとうございました。
一つの夢が叶い、また一つ、夢ができた。また来るぞ! 今から計画してやる。今度はもっと準備して初心者じゃないぞ。
成田に着いて、いつもはげんなりの帰路だが、リムジン・バスの中で、iPhone
に入っている“ It's not unusual ”
を聴いた。展開は、まるでマーズ・アタック、足取りも軽い。
Thank you Springhills Farm ! Thank you Australia !!
追記
ファームの入り口で迎えるskull
もし、このファームに滞在するなら、サンダルは必需品です。靴底の土(動物の糞入り)が部屋の床を汚しますので、入り口で靴を脱いだ方が良いです。ちなみに石鹸、バスタオルはありますが、シャンプー、歯磨き、ドライヤーはありません。
続く.....!
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