被団協新聞

非核水夫の海上通信【2015年】

このコラムは、川崎哲氏(ピースボート地球大学)によるもので、
「被団協」新聞に2004年6月から掲載されています☆☆

2015年12月 被団協新聞12月号

メキシコ市 自主的武装解除

 10月の国連軍縮週間にピースボートはメキシコ市で被爆証言会を開催した。同市が進める「自主的武装解除」とセットの行事だ。
 「自主的武装解除」とは、市民が自主的に持参した銃などの武器を当局がその場で破壊するというプログラムだ。普通のおばさんやおじさんが次々と小銃や猟銃や手榴弾を持ってくるのには驚いた。入手先は聞かないことになっている。家にある武器を夫の留守中に妻が持ってくる例も多いという。その場で現金7千ペソ(5千円)と景品のタブレットに交換する。私も来賓として景品を手渡した。
 警官が、弾が装填されていないことを確認して電動ノコギリで銃を破壊していく。
 子ども用テントでは、水鉄砲を他の玩具に換えてくれる。行事の様子は大々的に報道された。
 これで実際武器が減るのかと聞いたところ「おそらく、少しは」。問題は根深い。
川崎哲(ピースボート)

2015年11月 被団協新聞11月号

情報公開 制度を駆使する市民連動

 オーストリアの「誓約」文書への賛同の広がりを豪州(オーストラリア)政府は核兵器禁止条約につながるものとして「心配している」。9月、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が豪州の情報公開法に基づき、こうした公電や会議録を開示させた。それによれば、豪官僚は昨年12月のウィーン人道会議を受けて、もしNPT再検討会議が失敗に終われば「核兵器禁止条約交渉をNPT外で行うという主張を勇気づける」と外相に警告していた。米の核の傘に頼る国としてこれは脅威であり、ウィーン会議ではNATO諸国と共に「核軍縮に近道はない」とする「共通のテーマを掲げた」。
 開示された120ページ強の文書に日本の動向は出てこない。しかし日本政府内でも同様の議論がされているのだろう。違うのはここまで情報公開する制度とそれを駆使する市民運動の存在だ。
川崎哲(ピースボート)

2015年10月 被団協新聞10月号

30年後の世界 民主主義の未来は

 ピースボートに今夏乗船した日、韓、中、印、ネパールの学生たちと、30年後のアジアと世界のビジョンについて語り合った。
 「国連は解体する」。多くの学生が今の国民国家制度を前提とした世界の秩序は長くは続かないと感じていた。確かに中国やインドは一国家として存続するには大きすぎる。国家をはるかに超える力を持つ企業も生まれている。
 学生の多くは民主主義という制度も長続きしないと考えていた。「もっと効果的で合理的な制度」になるだろうとの発言も出た。実際、開発独裁の中国やシンガポールなど、東アジアには民主主義の伝統はあまりない。日本もその一例だ。
 安保法制論議で浮かび上がったのは、立憲国家の手続きを無視し「効率よく」権力者に権限を集中するという発想だ。その先にあるのは何か。人間の価値に優劣をつける企業型国家への道だろうと思う。
川崎哲(ピースボート)

2015年9月 被団協新聞9月号

禁止条約交渉 核保有国抜きでも

 5月のNPT再検討会議は成果文書なく終わったが、核の非人道性と禁止条約の必要性を国際社会に強く印象づけた。8月の被爆70周年は国際的な世論喚起の機会となった。では次に来るのは何か。
 秋の国連総会に期待する声がある。NPT会議では国連総会の作業グループ設置が議論された。だが注意したい。核保有国などは全会一致で作業するグループを提唱している。つまり保有国が拒否権を持つということだ。
 核兵器禁止条約交渉には、最初は保有国の参加は必須ではない。地雷禁止の場合も主要保有国抜きで条約が作られた。それでも禁止規範が形成され保有国への包囲網となった。保有国参加の必要性を過度に強調することは、今日の機運をそぐ危険がある。廃絶には最終的に保有国の参加が不可欠なのは当然だ。だが今の局面では、保有国抜きでも禁止交渉を開始すべきだ。
川崎哲(ピースボート)

2015年8月 被団協新聞8月号

戦後70年 国家の壁こえる市民の交流

 今年のピースボート被爆者航海の最終寄港地はホノルルだった。被爆二世の日系人らの市民団体が交流会を開いてくれた。オハナ・アーツという子ども楽団による広島の禎子をテーマにしたミュージカルは圧巻だった。来年は来日するという。
 ハワイ約140万人のうち、約15%が日系人だ。広島にルーツをもつ人も多い。ホノルル市は広島市と姉妹都市で平和首長会議のメンバーでもある。コールドウェル市長が一行を歓待してくれた。
 同市は長岡市とも提携している。長岡は真珠湾攻撃を展開した山本五十六の故郷で、45年8月1日には米軍の空襲を受けている。
 両市はいま平和を祈念する花火大会を行なっているのだと市長が笑顔で語ってくれた。戦後70年となる8月15日には長岡花火を真珠湾で打ち上げる。市民の交流は、ときに国家の壁を容易に越えるものだと再認識した。
川崎哲(ピースボート)

2015年7月 被団協新聞7月号

ウラン産業 将来性ないと示せ

 モンゴルは非核の国として知られている。ロシアと中国に挟まれながら一国非核地帯を宣言しており、北東アジア非核地帯構想の強いサポーターだ。韓国とも北朝鮮とも外交関係があるので、対話の場になる。
 6月、ウランバートルでNGOの対話会合が開かれた。
 地元テレビにインタビューを受けた。質問は「モンゴルのウラン採掘をどう考えるか。環境被害はないか。ウラン採掘はモンゴルの非核地位を傷つけないか」だった。鉱業の国モンゴルでは、ウラン採掘を進めるかが論争になっている。
 私はウラン採掘の環境、健康上の問題、核拡散の危険について説明すると共に、福島の被害についても話した。事故以来多くの国が脱原発を決め、日本ですら原発依存を下げようとしている。ウラン産業に将来性はないと世界に示せるようになることが、日本の責任だと思う。
川崎哲(ピースボート)

2015年6月 被団協新聞6月号

プルトニウム 保有量の把握公開を

 核不拡散条約(NPT)再検討会議が開かれるなか、ピースボートや原子力資料情報室など日本の4団体代表は日本政府の国連代表部に宛てて、プルトニウム保有に関する情報公開の改善と、六ヶ所村の再処理工場の稼働の当面見合わせを求める要請書を送付した。
 日本は現在47トンのプルトニウムを保有している。うち約11トンは国内、残りは海外(英と仏)に置かれている。原発から出た使用済み燃料を英仏で再処理してもらっているものだ。最近、英国内で「日本分」とみなす量が2トン増えた。今後さらに1トン増加するという。だがこうした増加について日本政府当局はきちんと把握、公開してこなかった。
 プルトニウムは核兵器に転用可能な物質であり、その保有量を最小化することは核セキュリティサミットや日米首脳間でも合意されている。その管理把握と情報公開は、国際的責任である。
川崎哲(ピースボート)

2015年5月 被団協新聞5月号

責任と義務 福島の教訓は

 今回のNPT再検討会議は、2011年の福島原発事故以後初めての再検討会議となる。本来、福島の教訓を踏まえて原子力の安全性や平和利用を根本的に見直す議論があるべきだが、その兆候はない。
 「NPTには原子力の平和利用に対する全ての国の権利が定められている。だがこれらの権利は責任と義務を伴うものである」
 これは福島事故の翌年に開かれたNPT準備会合でオーストリア政府代表が福島に言及し語った言葉である。事故以後4年、原子力安全の向上に関しいくつか閣僚会議は開かれたものの、特筆すべき実質的進展はない。
 今年3月、国連防災会議を仙台で開催しながら、安倍首相は福島や原発にほぼ言及しなかった。
 今も続く福島事故の惨害を伝え、原子力の安全性や防護体制を論じ、安易な原発輸出入に歯止めをかけることこそ日本の責務ではないか。
川崎哲(ピースボート)

2015年4月 被団協新聞4月号

原発と核拡散 プルトニウム

 今月末からNPT再検討会議が始まる。今回は、核軍縮の影に隠れてふだん注目を浴びない、重要な問題を紹介する。NPTはそもそも「核不拡散」条約であり、原子力の軍事転用を防ぐことが主目的だ。
 高濃縮ウランやプルトニウムなど、核兵器の材料となる物質を減らすことは、核不拡散の要である。ところが日本は今日、47トンという大量のプルトニウムを保有している。原爆5千〜1万発以上に相当する量で、世界的に突出している。使い道がないばかりか、昨年には申告漏れという失態があった。今後、原発の使用済み燃料を再処理する青森県六ヶ所村の工場が稼働すれば、さらに大量のプルトニウムが生産される。
 近年、核不拡散のために各国にウラン濃縮や再処理の放棄を促す国際的な努力が続けられている。日本がプルトニウム大国に固執することはこうした努力を害するものである。
(川崎哲、ピースボート)

2015年3月 被団協新聞3月号

具体的合意が必要 中東非核地帯

 来るNPT再検討会議が難航するとの見方を裏付ける問題の一つが、中東問題だ。
 1995年のNPT無期限延長にあたり「中東決議」が挙げられた。事実上の核保有国イスラエルにNPT加盟を求め、中東に非核・大量破壊兵器地帯をつくろうというものだ。だがイスラエルは応じるそぶりもみせず、米国はイスラエル支援を続けている。アラブ諸国やイランの不満は募る一方だ。2010年のNPT再検討会議では中東非核地帯のための国際会議の開催が合意された。しかし調停国フィンランドの努力にもかかわらず、会議は開催できないまま5年が経ってしまった。
 二年前の準備会合では、中東問題に進展がないことに抗議しエジプトが退席する一幕があった。イスラエルの核が容認され続けるなら「我々だってNPTを脱退しうる」との暗示的メッセージだ。何らかの妥協と具体的合意が必要だ。
川崎哲(ピースボート)

2015年2月 被団協新聞2月号

NPT再検討会議へ 共同声明

 2010年NPT再検討会議では多くの合意がなされたが、注目すべきは核兵器の非人道性が最終文書に盛り込まれたことである。文書は「核兵器使用がもたらす破滅的な人道上の結末」を憂慮し、それを国際人道法と関連づけ、核兵器禁止条約の提案に言及した。これらはスイス政府が国際赤十字と協力して働きかけた成果である。
 これを受け核の非人道性に関する共同声明が始まる。12年に16カ国で始まった声明は、昨秋第5回では155カ国の賛同を得た。
 一方、核の人道上の影響に関する国際会議が13年から14年にかけノルウェー、メキシコ、オーストリアで開催された。第3回のウィーン会議には158カ国が参加。核兵器国の米英が初参加するなか、多数国が核兵器禁止条約への行動を求めた。一連の会議の成果は、来るNPT再検討会議で第6条(核軍縮)に関する議論という形で引き継がれる。
川崎哲(ピースボート)

2015年1月 被団協新聞1月号

NPT会議 これまでの経過

 今年4月27日から4週間、ニューヨーク国連本部で5年に一度の核不拡散条約(NPT)再検討会議が開かれる。今号から4回にわたり、NPT再検討会議のポイントをお伝えしたい。第1回の今回は、これまでの経過をおさらいする。
 1968年に作られ70年に発効したNPTは、今日の世界の核の秩序を定めるもっとも基本的な条約だ。190カ国が加盟しており、うち米、ロ、英、仏、中の5カ国が核兵器国、それ以外が非核兵器国と定められている。非核兵器国が核兵器をもつことが禁止される(核不拡散)のと引き替えに、核兵器国は核軍縮義務(第6条)を負う。また原子力の平和利用は各国の権利であるとされる。
 インド、パキスタン、イスラエルはNPT未加盟の核保有国だ。北朝鮮はかつて加盟していたが2003年に脱退を宣言し、その後核保有国となった。
 発効から25年が経った1995年、NPTの延長が議論された。無期限延長の決定と引き替えに、核兵器国は「究極的な核兵器廃絶への努力」を約束した。同時に、イスラエルのNPT加盟と中東非核地帯化を求める「中東決議」が採択された。
 次の2000年会議では核兵器国による「核兵器の完全廃絶を達成するとの明確な約束」を含む13項目の軍縮措置に合意。しかし翌年米ブッシュ政権が誕生し、対テロ戦争のかけ声のもとに国連や国際法を軽視する単独行動主義に傾斜した。軍縮の約束は守られず、05年のNPT再検討会議が合意なきまま決裂した。
川崎哲(ピースボート)