定義:原始関数 primitive function
関数f(x)に対して、F'(x)=f(x)を満たす関数F(x)を、つまり、その導関数がf(x)である関数F(x)を、
f(x)の原始関数と呼び、以下の記号で表す。

なお、この記号は、f(x)の原始関数全体を指している[和達『微分積分』79;]。
→個々の原始関数と積分定数
※この原始関数を不定積分と呼ぶこともあるが、「不定積分」なる用語の定義は統一されていない。
したがって、「不定積分」なる用語を用いる場合には、それが何
を指しているのかを、
その都度、書き手から読み手に対して、つまびらかにしておく必要がある。
このあたりの事情については、小平『解析入門I』p.165を見よ。
※つまり、原始関数は、微分の逆算として定義される。
他方、(定)積分は、微分とは無関係に定義付けられた上で、
解析学の基本定理によって初めて、微分の逆算=原始関数と結び付けられることに注意。
(略記法)
∫1dxを∫dx、
などと、略記する。[吹田新保『理工系の微分積分学』75;]
【文献】
・吹田新保『理工系の微分積分学』73;75;
・小平『解析入門I』164
・和達『微分積分』79
定理:f(x)の原始関数どおしの関係と積分定数
F(x)をf(x)の区間Iにおける一つの原始関数とすると、
f(x)の区間Iにおける全ての原始関数は、Cを定数として、
F(x)+C
の形で表される。
定数Cを積分定数 integral constant; constant of integrationと呼ぶ。
(証明)
F(x),G(x)を、それぞれ、区間Iにおけるf(x)の原始関数の一つであるとする。…仮定@
区間Iにおいて、
( G(x)−F(x) )'=G'(x)−F'(x) ∵関数の和差の微分
= f(x)−f(x) ∵仮定@
=0
つまり、関数G(x)−F(x)の導関数は、区間Iにおいて常にゼロとなるから、
平均値定理の系より、G(x)−F(x)は区間I上で定数である。
この定数をCとおけば、
G(x)−F(x)=C
∴G(x) =F(x)+C
【文献】
・吉田栗田戸田『基礎解析』129;
・矢野田代『社会科学者のための基礎数学』98;
・吹田新保『理工系の微分積分学』73;
・和達『微分積分』78-9;
・小平『解析入門I』164]
定理:∫F'(x) dx=F(x)+C
・[青本『微分と積分1』109;
・ 和達『微分積分』79.]
定理:線形性
[矢野田代『社会科学者のための基礎数学』99; 青本『微分と積分1』109-110; 和達『微分積分』78-87.]



f(x)の原始関数(の全体)をF(x) 、g(x)の原始関数(の全体)をG(x)とおく。
原始関数の定義と記法より、このことは以下の二通りに表現することができる。
F'(x)=f(x)、 G'(x)=g(x) …@
、
…A
(1への証明)
{F(x)±G(x)}'=F'(x)±G'(x) ∵関数の和差の微分公式
= f(x)±g(x) ∵@
いま得られた式 {F(x)±G(x)}'= f(x)±g(x) は、原始関数の定義と記法より、
「F(x)±G(x)はf(x)±g(x)の原始関数(の全体)である」と表現でき、以下の記号で表せる。

Aで左辺を書きかえると、
(証明終わり)
(2への証明)
{ k F (x) } '= k F ' (x) ∵関数の定数倍の微分公式
= k f(x) ∵@
いま得られた式 { k F (x) }'= k f(x) は、原始関数の定義と記法より、
「k F (x)はk f(x)の原始関数である」と表現でき、以下の記号で表せる。
Aで左辺を書きかえると、
(証明終わり)
(3への証明)
∵上の定理1より
∵上の定理2より
(証明終わり)
定理:部分積分法 integration by parts
[矢野田代『社会科学者のための基礎数学』103;青本『微分と積分1』115-7; 和達『微分積分』83-4;
吹田新保『理工系の微分積分学』74; 高橋一『経済学とファイナンスのための数学』87;
小平『解析入門I』170.]
∫f(x)g'(x)dx=f(x)g(x)−∫f' (x)g (x)dx
(適用例)∫log |x| dxの計算 、
(証明) 関数の積の微分公式を原始関数の語法で言い換えただけ。
関数の積の微分公式より、{ f (x) g (x) }'= f ' (x) g (x) + f (x) g ' (x)
この式は、原始関数の定義と記法に従えば、
「f (x) g (x) は f '(x)g(x)+f(x)g '(x)の原始関数である」と表現でき、以下の記号で表せる。
∫{ f ' (x) g (x) + f (x) g ' (x) }dx = f (x) g (x)
原始関数の線形性より、これは、以下のように書きなおせる。
∫f '(x)g(x)dx +∫f(x)g '(x)dx = f (x) g (x)
左辺第1項を右辺へ移項すれば、
∫f(x)g'(x)dx = f(x)g(x)−∫f' (x)g (x)dx
(証明終わり)
定理:置換積分法 integration by substitution(積分の変数変換公式)
[吉田栗田戸田『微分・積分』110-1.矢野田代『社会科学者のための基礎数学』101-3;
青本『微分と積分1』111-5; 和達『微分積分』81-3; 吹田新保『理工系の微分積分学』74;
高橋『経済学とファイナンスのための数学』80.]
φ(t)をtの微分可能な関数とする。x=φ(t)とおけば、
以下のように、xの関数のxについての原始関数は、tの関数のtについての原始関数に変換される。
∫f(x)dx=∫f(φ(t))φ' (t)dt
(覚え方) 左辺のf(x)のxにx=φ(t)を代入、左辺のdxに dx =(dx /dt)・dt=φ' (t)dtを代入。
すると、右辺になる。
(証明) 合成関数の微分公式を原始関数の語法で言い換え。
設定:
二つの関数y=F(x) =∫f(x) dx と x=φ(t) があるとする。…@
すると、原始関数の定義と記法により、y=F(x)の、xについての導関数は、
…A
となる。
他方、x=φ(t)は微分可能な関数であるとし、
そのtについての導関数を、φ' (t)で表すことにする。…B
さて、このような二つの関数y=F(x) =∫f(x) dxとx=φ(t)との合成関数y=F(φ(t))を考える。…C

本題:
Cでつくった合成関数y=F(φ(t))をtで微分する。
合成関数の微分公式:dy/dt = dy/dx・dx/dtより、

ABを用いて右辺を変形して、

= f (φ(t)) φ' (t) ∵@でx=φ(t)と設定したから。
この式は、原始関数の定義と記法に従えば、
「F(φ(t))はf(φ(t))φ' (t)のtについての原始関数である」と表現でき、以下の記号で表せる。
F(φ(t)) =∫{ f(φ(t))φ' (t) }dt
この左辺F(φ(t))は、F(φ(t))=F(x) ∵@でx=φ(t)と設定
=∫f(x) dx ∵@で=F(x) =∫f(x) dxと設定
だから、これを左辺に入れて、
∫f(x) dx=∫{ f(φ(t))φ' (t) }dt
(証明終わり)
(具体例)
a,b,nを自然数の定数とする。
xの関数のxについての原始関数(の全体)∫(ax+b)n dx を、
t=ax+b すなわちx=φ(t)=(t−b)/a=t/a−b/aとおいて、
tの関数のtについての原始関数(の全体)に置きかえると、
∫(ax+b)n dx=∫(t n/a)dt
設定:
関数(のグループ)y= F(x) =∫(ax+b)ndx とx=φ(t)= t/a−b/aがあるとして、
その合成関数(のグループ)y=F(φ(t))を考える。 …@
なお、原始関数の定義と記法から、y=F(x)の、xについての導関数はf(x)=(ax+b)n=tnである。すなわち、
…A
本題:
@の合成関数(のグループ)y=F(φ(t))をtで微分する。
合成関数の微分公式:dy/dt = dy/dx・dx/dtより、

Aを用いて右辺を変形して、

この式は、原始関数の定義と記法に従えば、
「F(φ(t))は tn/ aのtについての原始関数(の全体)である」と表現でき、以下の記号で表せる。
F(φ(t)) = ∫ tn/ a dt
この左辺について、
F(φ(t))=F(x) ∵x=φ(t)と設定
=∫(ax+b)n dx ∵F(x) =∫(ax+b)ndx と設定
だから、
∫(ax+b)n dx= ∫ tn/ a dt
基本的な関数の原始関数
[吉田栗田戸田『微分・積分』105-9;矢野田代『社会科学者のための基礎数学』99;青本『微分と積分1』110-7; 和達『微分積分』79-84; 吹田新保『理工系の微分積分学』74-5; 高橋『経済学とファイナンスのための数学』84-5.]
・
[和達『微分積分』79.]
(なぜ?)
原始関数の定義と記法より、左辺の原始関数は、その導関数が1となるxの関数の全体を指している。
F(x)=xの導関数は、F'(x)=1となるから(∵)、F(x)=xは、左辺が指す原始関数のうちの一つである。
定理より、一つの原始関数がF(x) =xなら、
他の全ての原始関数は、任意の定数をCとして、F(x)+C=x+Cで表せるから、
∫dx= x+C
・
※pが整数でない場合はx>0とする[矢野田代『社会科学者のための基礎数学』99]
(なぜ?)
(i) pが整数である場合
原始関数の定義と記法より、左辺の原始関数は、その導関数がx p となるxの関数の全体を指している。
F(x)= x p+1/(p+1)の導関数は、F'(x)= x pとなるから(∵)、
F(x)= x p+1/(p+1)は、左辺が指す原始関数のうちの一つである。
定理より、一つの原始関数がF(x) = x p+1/(p+1)なら、
他の全ての原始関数は、任意の定数をCとして、F(x)+Cで表せるから、
(ii) pが整数でない場合(x>0とする)
原始関数の定義と記法より、左辺の原始関数は、その導関数がx p となるxの関数の全体を指している。
F(x)= x p+1/(p+1)の導関数は、F'(x)= x pとなるから(∵)、
F(x)= x p+1/(p+1)は、左辺が指す原始関数のうちの一つである。
定理より、一つの原始関数がF(x) = x p+1/(p+1)なら、
他の全ての原始関数は、任意の定数をCとして、F(x)+Cで表せるから、

(なぜ?)
原始関数の定義と記法より、左辺の原始関数は、その導関数がe xとなるxの関数の全体を指している。
F(x)= e xの導関数は、F'(x)= e xとなるから(∵)、F(x)= e x は、左辺が指す原始関数のうちの一つである。
定理より、一つの原始関数がF(x)= e xなら、
他の全ての原始関数は、任意の定数をCとして、F(x)+C= F(x)= e x +Cで表せるから、

(なぜ?)
原始関数の定義と記法より、左辺の原始関数は、その導関数がa xとなるxの関数の全体を指している。
F(x)= a x/log aのxについての導関数は、
F'(x)= (1/log a) (a x)' ∵(1/log a)は定数だから、関数の定数倍の微分公式より。
= (1/log a) (a x log a) (∵)
= a x
となるから
F(x)= a x/log aは、左辺が指す原始関数のうちの一つである。
定理より、一つの原始関数がF(x)= a x/log aなら、
他の全ての原始関数は、任意の定数をCとして、F(x)+C= a x/log a +Cで表せるから、
[吹田新保『理工系の微分積分学』75; 矢野田代『社会科学者のための基礎数学』103; 和達『微分積分』83-84;]
(なぜ?)方針:部分積分法:∫f(x)g'(x)dx=f(x)g(x)−∫f' (x)g (x)dx をf(x)=log|x|, g(x)=xとして適用
f(x)=log|x|とすると、f '(x)=1/x (∵)、g(x)=xとすると、g'(x)=1だから、
f(x)=log|x|, g(x)=xとした部分積分法の等式は、
∫log|x|dx=log|x|・x−∫dx
= xlog|x|−x−C ∵1の原始関数
∵t=ax+bと戻す

[和達『微分積分』82]
(なぜ?)
xの関数のxについての原始関数(の全体)∫(ax+b)−1 dx を、
t=ax+b すなわちx=φ(t)=(t−b)/a=t/a−b/aとおいて、置換え積分の公式を用いて、
tの関数のtについての原始関数(の全体)に置きかえると、
∫(ax+b) −1 dx=∫(t −1/a)dt ∵置換積分の具体例の説明を見よ。
∵
∵
∵t=ax+bと戻す
・一般に ∫f(x) dx= F(x)+Cならば、
[和達『微分積分』83]
(なぜ?)
step1:
xの関数のxについての原始関数(の全体)∫f(ax+b) dx を、
t=ax+b すなわちx=φ(t)=(t−b)/a=t/a−b/aとおいて、置換え積分の公式を用いて、
tの関数のtについての原始関数(の全体)に置きかえると、
∫(ax+b) dx= (1/a)∫f(t) dt
この過程を詳しく追うと、以下のようになる。
設定:
関数(のグループ)y= G(x) =∫f(ax+b)dx とx=φ(t)= t/a−b/a(すなわちt=ax+b)があるとして、
その合成関数(のグループ)y=G(φ(t)) =∫f(aφ(t)+b)dx=∫f(t)dx を考える。 …@
なお、原始関数の定義と記法から、y=G(x)の、xについての導関数はg(x)= f(ax+b) = f(t)である。すなわち、
…A
本題:
@の合成関数(のグループ)y=G(φ(t))をtで微分する。
合成関数の微分公式:dy/dt = dy/dx・dx/dtより、

Aを用いて右辺を変形して、

この式は、原始関数の定義と記法に従えば、
「G(φ(t))は f(t)/ aのtについての原始関数(の全体)である」と表現でき、以下の記号で表せる。
G(φ(t)) = ∫ f(t)/ a dt
= (1/a)∫f(t) dt ∵
この左辺について、
G(φ(t))=G(x) ∵x=φ(t)とすでに設定されている
=∫f(ax+b)dx ∵G(x) =∫(ax+b)ndx とすでに設定されている
だから、
∫(ax+b) dx= (1/a)∫f(t) dt
step2:
よって、∫f(x) dx= F(x)+Cならば、
∫(ax+b) dx= (1/a)∫f(t) dt=(1/a)(F(t)+C)
=(1/a)(F(ax+b)+C) ∵t=ax+bと戻す
=(1/a)F(ax+b)+(1/a)C
技術:有理関数の原始関数−部分分数分解
有理関数の原始関数は必ず求められる。
【文献】
・矢野田代『社会科学者のための基礎数学』104-5
・吹田新保『理工系の微分積分学』78-80
・和達『微分積分』84-7.
(reference)
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吉田耕作・栗田稔・戸田宏『昭和63年3/31文部省検定済高等学校数学科用 高等学校 基礎解析 新訂版』啓林館、pp.128-133.
吉田耕作・栗田稔・戸田宏『平成元年3/31文部省検定済高等学校数学科用 高等学校 微分・積分 新訂版』啓林館、pp.104-14.
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年。Pp.73-83.
高橋一『経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、pp.82-85.
小平邦彦『解析入門I』 (軽装版)岩波書店、2003年 p.164.
杉浦光夫『解析入門I』岩波書店、1980年、pp.229-247:1変数関数の積分に特殊な性質(原始関数、…)。
高木貞治『解析概論 改訂第三版』岩波書店、1983年、pp.89-90; 100-102;111:定積分の置換積分法.
青本和彦『岩波講座現代数学への入門:微分と積分1』岩波書店、1995年、107-117.
矢野健太郎・田代嘉宏『社会科学者のための基礎数学 改訂版』裳華房、pp.98-105.
和達三樹『理工系の数学入門コース1:微分積分』岩波書店、1988年、pp.78-87.
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、pp.331:定義;p. 332-334.