冬の日
兄を埋めた。枯葉を丁寧に寄せて、兄が横たわるだけの穴を掘った。兄は目を半眼に開き、笑ったように口を歪ませていた。
ゆうべ兄は近所をうろつき、あちこちの番犬に吠えられていた。家々の主たちは、番犬の吠え方でまた兄がうろついているのだろうと噂しあった。
翌朝私が会社で事務をとっていると、幼稚園にお送りした後の若い主婦達が、私の所へやって来て、兄が死んでいると言った。気味が悪いから片付けてくれと。
マンションの自転車置き場近くのコンクリートの上に、兄は横向きに倒れていた。首筋から少しの血を垂らしていて、血はまだ固まっていなかった。
烏がやったのかも知れないと主婦のひとりが言った。烏が兄をつついているのを見たと言う。はじめは生ゴミか何かを食べているのだと思ったわ。大きな黒い羽を広げて何かを覆っていた。
兄の身体を抱えると、首筋の血がすーと垂れた。足の間から少しの尿を漏らした。
兄の身体はまだ暖かく、何かのきっかけでまた動き出すかと思えた。だが半分開いた目は、何も見ていなかった。
兄を穴の底に横たえ見下ろすと、それはただの死体だった。私はその死体に少しずつ土をかけ、枯葉で覆った。枯葉は冬の日差しに温もった。
事を済ませて仕事に戻ろうとした私に主婦たちが、すみませんねえ、とねぎらいの言葉をかけた。私は小さく会釈をした。
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