るーとらの秘密基地
blog「日のすきま」  
松吉
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嘘つきえんぴつ

  花はみえない
  春はきちがい
  嘘つきえんぴつ
  祈るんだ

 まだ静かなところへ行くことのできないわたしは、その途中、 古い学校のある駅で降りることにした。

 駅の階段を下りれば、もうすぐそこは学校の大きな門で、わた しは小さく身震いして門をくぐった。

 たくさんの木が生い茂る構内は、建物がそこにあることの方が まったく不自然なくらい、緑の葉っぱが勢いよく溢れ出していて、 いったい人々はここに何を学びに来るのか、わたしには見当がつ かなかった。

  日差しの斜め
  影の斜め
  れんげの斜め
  雲の斜め

 たくさんのいろんなものが渦巻く大きな所を出発して、静かな ところへ向かう鉄道はどこまでもまっすぐと続いている。静かな ところへはこの鉄道一本で行ける。ほんとうに間違いなく、それ はこの先にあるんだ。

  ええなあ
  川の流れは
  たゆたゆと
  含羞って
  なあ

 広げられる書物の文字は、ここの地面に浸みいって、長く厳し い寒さを越え、来るべき新しい日に、美しい花々を咲かせるため の糧となっているのだろう。色とりどりの花、むせかえるくらい の生命の息吹き、壮大な営みを前に、わたしはただ呆然と立ち尽 くす。木々が言う。おのれを流れとして生きること。おのれを流 れとして生きること。わたしにはその意味がわからない。

  声をたてずに
  上げる叫びだってある
  いちにちいちにち
  折り重なる
  透明な 叫びがある

 根から水を汲み上げ、日の光を緑の身体に受け、空へと呼吸をす ること。太くしなやかなその腕に幾多の生き物を育ませること。  けれどもそれはわたしには叶わないことだろう。
 なぜなら。
 わたしはここに生まれてしまっているのだから。

  生まれたことの幸福と
  全世界を断絶させる孤独の希求と
  つまりは
  奇跡のような言葉が欲しいだけなんだ

 自己の中の譲渡不能なものは流れの中で浮かび上がる。
 おまえはまだ生まれていない。
 門扉は開かれているのに、外の景色は見えるのに、
 わたしはまだここから出て行けない。
 その門はここのいちばん古い木を切り倒して作られた。
 そうして作られた出入口になんの意味があるのかはまったくわか らないけれど、わたしは毎日その下をくぐっている。

 やわらかく風にそよぐ木々のざわめきがきこえる。
 静かなところへと向かう汽車がまた今日も通って行く。

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 たくさんのいろんなものが渦巻く大きな所を出発して、静かなと ころへ向かう鉄道はどこまでもまっすぐと続いている。静かなとこ ろへはこの鉄道一本で行ける。ほんとうに間違いなく、それはこの 先にあるんだ。