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長崎平和推進協議会への公開質問状

 長崎市の外郭団体長崎平和推進協会は1月20日、被爆体験を語る「継承部会」総会で、被爆語り部に「国民の間で意見が分かれている政治的問題についての発言を慎む」よう要請、反響が広がっています。(「被団協」新聞2006年3月号参照)
  日本被団協は以下の公開質問状を長崎平和推進協会に送りました

2006年4月11日

財団法人 長崎平和推進協会
理事長 横瀬 昭幸 殿

日本原水爆被害者団体協議会
      代表委員  坪井 直
      代表委員  山口仙二
      代表委員  藤平 典
      事務局長  田中煕巳

公開質問状

 貴協会には日頃から、被爆者問題でいろいろとお世話になっていることに、感謝申し上げます。
  さて、貴協会が1月20日付で、被爆体験継承部会総会で被爆者に提示した「政治的問題についての発言自粛」文書に、私たちは、貴協会の真意を推しはかることができず、驚きを抑えることができないでいます。貴協会はその後、「平和案内人」にも同じ内容の自粛を求めたと報道されています。
  被爆者は、自らの被爆体験を語ることによって、このような悲惨が「世界のどこにでも繰り返されてはならない」と訴えています。そしてこの悲惨が、61年前のあの日あの時に、たまたま起きたものではなく、戦争の結果として起きたものであること、しかもあの日の悲惨は、あの日と直後だけの問題ではなく、被爆者を生涯にわたって苦しめつづけていることを語っています。
  被爆者の話を聞いた人びとが、最後によく質問することは、「核戦争を起こさせないために、みなさん方のような被爆者をふたたびつくり出さないために、私たちはいま、何をしたらいいのか」ということです。被爆者は、それぞれの生涯を通じて思ったこと、感じたことを率直に語って、平和を守りつづけていくために、みんなが考え、それぞれの立場で努力されることを訴えて話を結んでいます。
  今回の「自粛文書」は、そのような、被爆体験にもとづく被爆者の平和への願い、それを実現するためにやるべきことについての誠実な話を規制することにならないでしょうか。
  私たちは貴協会の真意を確かめたく、いくつかの点で質問をさせていただきます。この質問は公開を前提にしており、貴協会の返答についても公開することをあらかじめご承知いただきたいと思います。

問1  貴協会は、「核兵器廃絶と世界恒久平和の実現」を目的に掲げておられます。この課題は、私たち被爆者にとっても人生をかけた課題であり、その実現に向かって、日々努力を重ねています。しかし、核兵器保有国による核兵器の保持、実験はつづき、核抑止力論はいまも世界政治を脅かしています。 最近では日本国内でも、核兵器の所持と使用を容認するような意見が出てきていることに、私たちは危惧を持っています。
   貴協会が「国民の間で意見が分かれている」問題での発言の自粛を求めることは、実質的に証言者の誠実な意見に口を封じることになり、貴協会の目的にも反することになるのではないでしょうか。

問2 昭和天皇はかつて、「戦争終結にあたって原子爆弾投下の事実をどう受け止めたか」という記者の質問に答えて、「戦争中であることだからやむを得ないと思っている」と答えられたと聞いています。被爆者の多くは、「戦争であっても、核兵器の使用は絶対に許せない、使うべきではない」と考えています。このような歴史的発言についてもふれてはならないということにならないでしょうか。

問3 憲法第9条は、先の大戦によって2000万人を超すアジアの市民に犠牲を強い、戦闘や空爆や原爆により300万人を超す日本国民が犠牲になった戦争への反省のうえにたって制定されました。この犠牲者のなかには、広島、長崎の原爆犠牲が大きな重さをもって位置づいています。被爆者の「戦争を繰り返してはならない」という話のなかに、この憲法第9条の大切さや改定に反対する話題が出てくることがあっても自然なことです。戦争による犠牲をなくす問題について「自粛」を求めることは、貴協会の「恒久平和の実現」という目的にも反することになるのではないでしょうか。

問4 有事法制の一環としてつくられた「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(国民保護法)は、核兵器が使われた時のことも想定しています。しかもその保護策として、「国民保護に関する基本指針」で「風下を避け、帽子、雨ガッパ等により放射性降下物による外部被ばくを抑制する」など、被爆国の政府がつくった対策とは考えられない幼稚さです。こんなことでは核兵器による被害はとうてい防げないことについても、発言を自粛せよとおっしゃるのでしょうか。

問5 原爆投下によって、広島や長崎の町並みは破壊され壊滅しました。山川草木もすべて焼かれ、壊滅し、放射能で汚染されました。核兵器による環境破壊は、歴史に前例を見ない大規模なものです。原爆の被害者は、人間の尊厳を踏みにじられ、無惨な死を強いられました。人権は全く無視され、侵害されたのです。貴協会が自粛を求めておられる「環境、人権」は、「他の領域の問題」ではなく、原爆被害そのものです。これを被爆者が被爆体験のなかで語るのは、ごくごく自然なことです。それにふれないで、どんな被爆証言をせよとおっしゃるのでしょうか。

問6 いまつづいている原爆症認定訴訟の原告の多くは、入市・遠距離の被爆者で、裁判では残留放射線や黒い雨、放射性降下物などによる低線量被ばくが問題になっています。放射性降下物や低線量被ばくの恐ろしさは、チェルノブイリ原子力発電所の事故で明らかです。被爆者が原子力発電所やイラク、コソボの劣化ウラン弾による低線量被ばくに不安を持つのは当然です。このような不安にも言及するなとおっしゃるのでしょうか。

問7 被爆者の多くは、乳幼児だった人をのぞいて、軍国主義教育を受けて育ってきました。被爆者が証言のなかで、歴史のことや、教育のことの大切さにふれるのは、自分たちが間違った道をある時期歩んだことへの反省があるからです。死ぬことを美化するのではなく、生きることの大切さを説き、戦争につながる道を歩まないように説くことは、「世界の恒久平和」を打ち立てる基礎ではないでしょうか。貴協会は、このような被爆者の反省も「政治的」だとおっしゃるのでしょうか。

問8 最後に、これまでは当然のようになされてきた被爆者の被爆証言の内容
について、このような「自粛」要請をなされたのはなぜか、その経過と事情をご説明いただきたいと思います。

  以上が公開質問です。貴会がこの質問に、4月末日までに、誠意を持ってお答えいただくよう、要請いたします。

日本原水爆被害者団体協議会
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