被団協新聞

トップ >> 日本被団協について >> 被団協新聞 >> 「被団協」新聞2018年3月号(470号)

「被団協」新聞2018年3月号(470号)

2017年3月号 主な内容
1面 【談話】米国の新たなNPRに抗議する
被爆国政府の「高い評価」に驚愕
ヒバクシャ国際署名 全国自治体の過半数首長が署名
2面 ヒバクシャ国際署名連絡会 被爆者と出会うカフェ
知人に署名を依頼 集まった409筆
【宮城】県内自治体を訪問 仙台市長が署名
国会議員から署名 核兵器廃絶望むメッセージも
ビキニ被災から64年 被災船員の「労災」申請と国家賠償要求訴訟
非核水夫の海上通信 163
3面 山場を迎えるノーモア・ヒバクシャ訴訟
被爆者運動から学び合う学習懇談会 「被爆者として言い残したいこと」に学ぶ
【長崎】被爆体験者訴訟 被爆地拡大へ 政治的解決を
4面 相談のまど 亡くなった父の被爆者手帳 手元に残したいのですが…

 

【談話】米国の新たなNPRに抗議する

日本被団協事務局長 木戸季市

Photo

 米国のトランプ政権は2月2日、新たなNPR(核態勢見直し)を公表した。広島・長崎の被爆者は、怒りに震えながら抗議する。
 今回の見直しでは、通常兵器への報復にも核兵器使用の可能性を打ち出し、また小型核兵器の開発を盛り込んだ。どんなに小型の核兵器でも、ひとたび使われればその被害は甚大であり、報復によって核戦争になる危険がある。
 トランプ大統領は、広島・長崎につづいて核兵器の地獄を出現させるのか。
 私たち被爆者は、北朝鮮の核兵器開発も絶対に許せないが、今回の見直しが北朝鮮の核兵器開発に口実を与えかねないと危惧している。世界の安全はおびやかされ、危機が深まるばかりである。
 今回の見直しは絶対に認められない。
 ふたたび被爆者をつくるな。誰にも私たちが体験したような地獄を味わわせてはならない。核戦争が起これば人類は滅亡する。滅亡から人類を救う唯一の道は核兵器の廃絶である。被爆者のこの訴えが、戦後72年目にしてようやく、昨年の核兵器禁止条約に実った。核兵器廃絶の声は世界の趨勢になっている。NPRは、世界の流れに正面から逆らうものである。
 トランプ大統領に、NPRの即時撤回を要求する。
 河野太郎外務大臣は、米国のNPRについて、即時に全面支持を発表した。私は耳を疑った。これが唯一の戦争被爆国の外務大臣の言葉と信じられるか。「核兵器のない世界への思いは共有している」と言いながら、その一方で禁止条約の交渉会議に参加せず、禁止条約に反対し、米国の核使用を容認する。日本の外務大臣として恥ずかしい限りである。
 日本政府が、米政府に対しNPRの撤回を求めることを要求する。


被爆国政府の「高い評価」に驚愕

共同通信編集委員 太田昌克

Photo

 米国のトランプ政権が2月2日、新たな核戦略指針「核態勢の見直し(NPR)」を公表した。NPRは冷戦終結後、各歴代政権が策定してきた核超大国の核戦略を巡る最重要文書だ。今回の「トランプNPR」の大きな特徴は、以下の3つと考える。
 ①「核兵器の役割低減」を追求してきたオバマ政権の核運用政策を大幅に見直し、核使用に柔軟性を持たせ、サイバー攻撃や甚大な通常兵器攻撃に対する核報復に道を開き、核使用の間口を従前より広げたこと=「役割」の増大
 ②既存の核戦力より爆発力が低い数~十数キロトンのいわゆる小型核を戦略核の屋台骨である潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に搭載、さらにオバマ政権が退役させた海洋発射型核巡航ミサイル(SLCM)を復活させること=「能力」の増強
 ③包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准しない方針を明確にする一方、核軍縮・不拡散の具体的取り組みを明示せず、オバマ政権が志向した「核なき世界」と事実上決別したこと=核軍縮への消極姿勢

 広島に足を運んだオバマ大統領の時代が遠い昔のような、冷戦時代の思考様式に回帰した古色蒼然たる核戦略である。その最大の「標的」は、2014年のクリミア併合以来、米国との関係が最悪状態にあるロシアだ。
 プーチン政権は「核やその他の大量破壊兵器の使用への対応として、また通常兵器を用いた、国家の存立そのものを脅かす侵略時において核使用の権利を保持する」との軍事戦略を採用し、欧州諸国には「核の脅し」のシグナルを近年強めている。トランプ政権はそんなロシアに対抗しようと核の役割を増大させ、核抑止力を強化するとの名分で、SLBMへの小型核配備によって一時間内にロシアを核攻撃できる能力獲得に舵を切った。
 こんなトランプNPRは、大きなリスクと問題点をはらんでいる。紙幅の都合で詳述できないが、ロシアは今回のNPRを受け核戦力への傾斜を一層深める可能性が高い。核使用の間口をサイバー攻撃などに拡大し、小型核戦力の拡充にも力を注ぐはずだ。
 また、SLCMの新たな導入は中国の核政策コミュニティーを刺激し、中国が同様の能力取得に乗り出す恐れがある。そうなると、米ロ間の軍縮交渉の閉塞状況は固定化され、中国の核戦力増強と北朝鮮の核開発でアジアの安全保障環境はさらに不安定化する。

 問題の多いトランプNPRに対し、河野太郎外相は「抑止力の実効性の確保と我が国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメント」を明確にした点を「高く評価する」との談話を発表した。朝鮮半島情勢を意識した対応とはいえ、「高く評価」には驚愕した。
 この談話からは、被爆国が長年背負ってきた特別の責務と使命を果たそうという高邁な気概が何ら感じられず、現代的な核リスクの低減に向け行動力を発揮しようとの意欲も窺えない。そこから見えてくるのは、日米同盟の盟主が差し掛ける「核の傘」が、ただただ強大であればいいとする、「偽装の被爆国」の荒涼たる政策的現実である。


ヒバクシャ国際署名 全国自治体の過半数首長が署名

Photo Photo
Photo Photo

 自治体首長のヒバクシャ国際署名が2月20日現在1788都道府県市区町村の過半数の1010首長になりました。知事は次のとおり。(敬称略)

秋田県  佐竹 敬久
岩手県  達増 拓也
宮城県  村井 嘉浩
山形県  吉村 美栄子
茨城県  大井川 和彦
栃木県  福田 富一
埼玉県  上田 清司
神奈川県 黒岩 祐治
長野県  阿部 守一
滋賀県  三日月 大造
京都府  山田 啓二
奈良県  荒井 正吾
兵庫県  井戸 敏三
広島県  湯﨑 英彦
島根県  溝口 善兵衛
鳥取県  平井 伸治
香川県  浜田 恵造
徳島県  飯泉 嘉門
長崎県  中村 法道
沖縄県  翁長 雄志


ヒバクシャ国際署名連絡会 被爆者と出会うカフェ

Photo

 ヒバクシャ国際署名連絡会は2月15日、東京・渋谷の「ロフト9渋谷」で「被爆者と出会うカフェ」を開きました。
 被爆者12人を含む約40人が参加。被爆者の話を初めて聞く人も多く、高校生、大学生など若い人が目立ちました。被爆者を囲んで2~4人ほどのグループに分かれ、感じたことや発見したことなどのメモをとりながら1時間半じっくり懇談(写真)。終わりに全体で感想を述べあいました。
 被爆者は「今日は十分に伝えることができたと実感できた」「若い人が聞いてくれるのはうれしい」などと発言。参加者から「原爆の被害が現実のこととしてあったことを実感した」「核兵器が実際使われるとはどういうことなのかよくわかった。大学でもこういうことを学ぶべきだ」「『自分が感じたことを伝えてほしい』という言葉が印象に残った」「市民社会の中で先頭を切っている人の話をきいて、私も続いていきたいと思った」「ちょっとずつでも伝えて同じ気持ちをもつ人を少しでも増やしたい」などの発言がありました。


知人に署名を依頼 集まった409筆

―署名に同封の手紙から―

 ヒバクシャ国際署名事務局あてに、国内外から毎日署名が送られてきます。署名への思いが記された手紙が同封されていることがあります。1通ご紹介します。

 昨年8月ごろから核兵器禁止・廃絶に何かできることはないかと考えていました。何もできないまま10月に入り、突然の解散総選挙のさなか、ICANノーベル平和賞受賞のニュースに接し、手紙で友人・知人・親戚に署名のお願いをすることを思い立ちました。
 年賀状で付き合いのある約120名に手紙と署名用紙・返信用封筒を同封して署名をお願いしたところ、予想以上に80名近い方から総計409筆も集まりましたので郵送いたします。
 核兵器禁止条約への各国の批准が進むこと、特に核兵器保持国と同盟国、私たちにとってはアベ自公政権に代えて「核抑止論の誤りから脱却し、核廃絶に真剣に取り組む政府」の実現に向けて行動したいと思っています。(神奈川・男性)


【宮城】県内自治体を訪問 仙台市長が署名

Photo

 2月5日、宮城県原爆被害者の会「はぎの会」とヒバクシャ国際署名連絡会宮城の6人が仙台市役所を訪問し、郡和子仙台市長と面談しました。
 「はぎの会」の木村事務局長があいさつし、被爆体験にふれ、被爆後3日間しか生きられなかった父の「無念でならぬ」という最期の言葉を背負い、同じ思いは誰にもさせないと核兵器廃絶運動に取り組んできたと述べました。国会議員時代から被爆者を支援していただいている郡市長から署名をいただくことは、ヒバクシャ国際署名を広める上で大きな力になると感謝を述べました。
 連絡会の代表が「ヒバクシャ国際署名」の意義や、集まった署名数、県内自治体の首長や議長を訪問し31自治体が署名していること、7つの議会が政府に対し「核兵器禁止条約を批准せよ」との意見書を提出したことなどを報告しました。
 それを受けて郡市長は「はぎの会の活動についてよく存じ上げている。仙台にも被爆2世・3世も含め多くの被爆者がいらっしゃることも知っている。国連や海外でも被爆者の方が体験談を話されていることが、核廃絶運動の大きな武器になっている。お体が大変な中、訴えていただいていることに頭が下がる思いでいる。トランプ大統領が『小さな核兵器』について言及していることへの怒りの思いは共有している。核廃絶は人類の目指すべき姿なので署名をしっかり国連に届けてほしい」とのべ、署名用紙にサインしました。
 市長の署名をきっかけに、署名がまだの首長には再度面談を要請し、全首長からサインをもらう決意を新たにしました。
(国際署名連絡会宮城)


国会議員から署名 核兵器廃絶望むメッセージも

 ヒバクシャ国際署名への賛同国会議員は2月20日現在、現役議員49人、前議員6人です。署名には「核兵器はいつどんなときも、私たちが愛する全ての人々を危険にさらしています。核兵器廃絶により、命輝く青い地球を未来に残そうとする貴団体の活動に賛同します」などのメッセージが寄せられています。(以下、敬称略、順不同)
【衆議院議員】
〈自民〉宮路拓馬 薗浦健太郎 あかま二郎 菅原一秀 〈立憲〉初鹿明博 西村智奈美 阿部知子 青柳陽一郎 佐々木隆博 荒井聰 本多平直 辻元清美 岡本あき子 道下大樹 長尾秀樹 〈希望〉笠浩史 本村賢太郎 田嶋要 白石洋一 前原誠司 〈公明〉佐藤英道 井上義久 斉藤鉄夫 〈共産〉畑野君枝 志位和夫 本村伸子 藤野保史 宮本徹 〈社民〉吉川元 〈無会〉菊田真紀子 〈無〉青山雅幸
【参議院議員】
〈民進〉大野元裕 宮沢由佳 古賀之士 杉尾秀哉 藤田幸久 森本真治 真山勇一 柳田稔 〈公明〉谷合正明 〈共産〉小池晃 井上哲士 倉林明子 辰巳孝太郎 山添拓 武田良介 市田忠義 〈沖縄〉伊波洋一 〈国声〉平山佐知子
【前議員】水戸将史 郡和子 真島省三 斉藤和子 梅村さえこ 野間建


ビキニ被災から64年 被災船員の「労災」申請と国家賠償要求訴訟

 1954年3月1日アメリカがマーシャル諸島ビキニ環礁で行なった水爆実験「ブラボー」により、放射性降下物=死の灰をあびた日本の漁船・第五福竜丸の被災から64年を迎えます。
 漁獲した魚から放射性物質が検出されたことから、全国18の港で水揚げされた魚の検査が行なわれました。同時に船体や乗組員も検査を受けましたが、54年の年末で検査自体が打ち切りとなると、その後は船員たちの健康調査もなされませんでした。
 2016年2月、高知県と宮城県在住の元船員と遺族ら10人が全国健康保険協会船員保険部に「労災」認定を求めて申請しましたが、17年12月労災不支給の決定が出されました。これをうけ18年1月、再申請を行ないました。船員保険部では、病気と被ばくとの因果関係調査のため、有識者会議(代表=明石真言・量子科学技術研究開発機構執行役)を設置して検討し、「放射線による健康影響が現れる程度の被ばくがあったことを示す結果は確認できなかった」とする報告書をまとめています。
 アメリカの太平洋での核実験は1956年以降も続けられ、イギリス、フランスも行なっています。放射性降下物がばらまかれる海を、漁船のみならず貨物船等も航行していましたが、被害の全容はわかっていません。
 健康調査を継続せず、調査結果を公表しなかったことにたいする国家賠償を求めて、元船員と遺族45人が16年5月9日高知地裁に集団提訴しました。この裁判は今月16日結審し、7月20日に判決が出る予定です。
 (第五福竜丸展示館学芸員・市田真理)


山場を迎えるノーモア・ヒバクシャ訴訟

Photo
大阪地裁判決(1月23日)
原爆症認定集団訴訟
全国弁護団連絡会
事務局長 宮原哲朗

原爆症認定集団訴訟とノーモア・ヒバクシャ訴訟

 被爆国である日本の政府は、原爆放射線の人体への影響について、戦後一貫して極めて狭い考え方に固執してきました。このことは認定行政つまり厚労省の認定基準に典型的に現れていますが、これは被爆者の願いに背き、裏切るものです。そして私たちが裁判の柱に据えたのは、昨年国連で採択された核兵器禁止条約の基礎となった核兵器の非人道性、つまり被ばくの実態、被爆者の証言でした。私たちの集団訴訟はこのような被爆者の願いを可能な限り前進させることを目的にしたものです。
 2003年4月にはじまった原爆症認定集団訴訟は、09年8月6日の麻生内閣総理大臣・自民党総裁と日本被団協との間で締結された「確認書」により終結に向かいました。しかし厚労省は確認書4項の「訴訟の場で争う必要のないよう」という約束を守らず、非がん疾患を中心とした認定行政は著しく狭いまま、つまり司法判断と行政認定の乖離は依然として埋まっていませんでした。厚労省のこのような姿勢の根底には、残留放射線の外部ないし内部被曝の問題を著しく軽視する、あるいは無視する態度にありました。このため7地裁(東京、名古屋、大阪、岡山、広島、長崎、熊本)で121人の被爆者が原告になってノーモア・ヒバクシャ訴訟が提訴されました。
 厚労省はすべての原告について「平成25年新方針」で見直しを行なって、24人の原告が認定されましたが、このことはノーモア訴訟には厚労省が「平成25年新方針」から外れているので認定できないとした原告のみが残され、その原告が裁判で次々と勝訴していることを意味します。つまり裁判所が勝訴判を決下したことは、「平成25年新方針」とその運用が否定されたことを意味するのです。

正念場を迎える運動

 ノーモア訴訟ではこれまでに20カ所の裁判所で判決が下され、広島地裁の12人全員敗訴という、松谷最高裁判決以降の多くの判決の流れを無視した異常な判決を除けば、集団訴訟の流れを受け継いだ勝訴判決が続いています。
 また昨年から今年の前半にかけて広島と大阪の両地裁、大阪、広島、名古屋、東京の各高裁と連続して判決があり、ノーモア訴訟は最大の山場を迎えようとしています。私たちはこの連続した判決の機会を捉えて、日本被団協の提言を基本としつつ、認定制度の抜本的な改善をはかる運動を強めなくては、と考えています。日本被団協の提言は、病気の軽重では段階は設けていますが、爆心地からの距離や入市の時間によって認定の成否を決めておらず、ここに多くの被爆者の共感を得るゆえんがあります。
 また私たちは、原告団長の山本英典さんのように、胃がん、大腸がん、狭心症、脊椎障害など次から次へ襲う病苦の中で、長く苦しい裁判を強いられている原告を、1日も早く裁判から開放する、つまり裁判の全面解決も求めています。 
 被爆者にとって戦後の72年間は、凄惨な地獄を生き延びた証人として全世界の人々に核兵器の速やかな廃絶を訴え続けた時代でしたが、この願いを実現する大きな第一歩が、国連の核兵器禁止条約の採択でした。原爆の被害は決して過去の問題ではなく現在の課題であるとともに、核兵器は人類と共存できないという意味で未来にもつながるものです。「条約には署名も批准もしない」と明言する日本政府とのたたかいは容易なことではありませんが、今が解決に向けた正念場なのです。


被爆者運動から学び合う学習懇談会 「被爆者として言い残したいこと」に学ぶ

Photo
問題提起する八木さん(左)
と根本さん(右)

 ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会は2月3日、第9回「被爆者運動から学び合う学習懇談会」を、東京・四ツ谷のプラザエフで行ないました。
 日本被団協と継承する会が協力して2015年に実施した「被爆70年を生きて『被爆者として言い残したいこと』」調査のまとめを手がけた、八木良広さん(愛媛大学)と根本雅也さん(立命館大学)が、「『被爆者として言い残したいこと』から何を学ぶか」をテーマに問題提起しました。
 調査の回答から、「日本がまた戦争する国になるのではないか」と多くの人が危惧していることや、日本政府に求めたいこととして「9条を厳守し戦争によらない国づくり」を4分の3を超える人が選んでいること、「言い残したいこと」の自由記述は、国策により被爆者にさせられた人たちの次代の人々に送る心からの遺言であることなどが報告されました。
 なお、回答した被爆者への追加聞き取り調査を継続しており、参加者から「聞き取り」への参加申し出もあり、今後への期待も高まりました。


【長崎】被爆体験者訴訟 被爆地拡大へ 政治的解決を

 長崎の被爆地域は被爆当時の長崎市の行政区域と隣接する町村の一部が指定され、爆心地から東西約7キロ、南北に12キロと細長い区域となっています。
 この地域外だったため被爆者と認められていない「被爆体験者」は、第1陣388人が国や長崎県などに被爆者健康手帳の交付を求め、集団訴訟でたたかってきました。
 2017年12月18日、最高裁は387人の上告を退ける判決を言い渡しました。原告側が放射線による健康被害を受けたことに対し「科学的知見はない」とした二審判決を「是認できる」としました。争点の1つだった内部被ばくへの言及もなく、具体的な論拠を示さないまま退けました。原爆投下直後、爆心地周辺に入市したと訴えた1人については審理を地裁に差し戻しました。
 第2陣は161人の原告で、一審判決では10人が被爆者と認められましたが、今も福岡高裁で弁論が続いています。
 「被爆体験者」は申請をすると「被爆体験者精神医療受給者証」という手帳が交付されますが、疾病は限定され、被爆体験と疾病の有無を調べるスクリーニングがおこなわれます。手帳の更新は心的外傷後ストレス障害(PTSD)による影響を調べるため毎年、精神科医の診断が義務付けられています。「ガン、感染症、けが」以外の医療費は支給されますが、原爆が落とされた当時、胎児だった人や、県外在住者には手帳は交付されていません。
 毎年、長崎の被爆者5団体では総理大臣、厚労大臣に要請し、長崎県、長崎市も広島県、広島市とともに八者協などで国に「被爆体験者」の待遇改善要求と爆心地から半径12キロの範囲の被爆地域拡大是正を求めています。被爆体験者もまた高齢化し、時間はありません。政治的な救済を願います。(柿田富美枝)


相談のまど 亡くなった父の被爆者手帳 手元に残したいのですが…

 【問】父(被爆者)が90歳で亡くなりました。被爆者健康手帳を返さないといけないと聞きました。家族としては持っていたいと思いますが、返さないとダメなのでしょうか。

*  *  *

 【答】お父さんにとっては大切な品ですし、ご家族にとってもお父さんにつながる思い出の品ですね。
 被爆者が亡くなったときは、14日以内の届け出が必要です。手続き時に①被爆者健康手帳 ②死亡診断書 ③支給されていた手当証書(原爆症と認定されていた場合は認定証書)を提出することになっています。
 被爆者死亡後の手帳の返却について厚生労働省は以前、日本被団協からの「遺族が手元に置けるように」との要請に対し「被爆者健康手帳の扱いは都道府県知事であり、国としていえないところもある。遺族に返している県もあるようだ。無効印を押して返すことも可能」と回答しています。
 窓口の担当者に「手元に置いておきたい」と申し出てみてください。それでも返却するよう指導された場合には、コピーや写真をとるなどされるといいかもしれません。