要請書

2003年10月

アメリカ合衆国スミソニアン航空宇宙博物館館長 
ジョン・デイリー殿
アメリカ合衆国大統領
ジョージ・W・ブッシュ殿

日本原水爆被害者団体協議会

要 請 書
復元B29爆撃機エノラ・ゲイの展示について

 米スミソニアン航空宇宙博物館は、広島に原爆投下したB29爆撃機「エノラ・ゲイ」を完全復元し、12月から同機を一般公開すると発表しました。一般公開の説明文は、エノラ・ゲイの性能などに多くを割き、原爆投下については「1945年、最初の原子兵器を広島に落とした」など短くふれるにとどまるといいます。また、デイリー館長は「ここは技術の博物館であり、技術的進歩に焦点をあてた」と説明している、と伝えられます。
  私たちは、深い驚きと怒りを禁じることができません。エノラ・ゲイがもたらしたものは、 原子爆弾によって無残に殺された10数万の命の損失であり、今日まで原爆被爆者を苦しめつづけている深い傷と放射能障害です。広島でその年のうちに死んだと推定される14万人のうち65%は、戦闘とは縁のない幼子たち、女性たち、老人たちでした。この、前例のない非人道で国際法に違反する残虐な被害をもたらしたエノラ・ゲイを「技術的進歩」の証として称賛することは、広島・長崎の被爆者として、とうてい受け入れることはできません。
  貴館は1995年にも、エノラ・ゲイの特別展示を計画したことがあります。当初計画は、被爆の事実を伝える一方、「原爆投下は正しかった」という主張も紹介することになっていましたが、「空軍協会」「全米退役軍人協会」などの強い圧力によって被爆資料の展示が中止に追い込まれたことを、私たちはよく記憶しています。この経緯を知る者から見れば、今回、あえて「被爆の惨禍」を覆いかくし、「技術的進歩」に焦点をあてる名目でエノラ・ゲイの展示をおこなうことは、貴館が「原爆投下は正しかった」という側の立場を選択したと見なさざるをえません。
  エノラ・ゲイの展示をおこなうのであれば、原爆が人類にもたらした「惨禍」をも隠さず展示すべきであります。原爆投下の歴史の見方にさまざまな立場があろうとも、「考える材料は提供する」ことが、アメリカの民主主義なのではありませんか?
  貴国政府は、2000年の核不拡散条約(NPT)再検討会議で「自国の核兵器の完全な廃絶を達成」すると「明確に約束」しております。「約束」に忠実ならば、貴国は核兵器廃絶の世論醸成につとめる国際的責務を負っているのであり、今回の展示も、「ふたたび広島を繰り返さない」決意のもとに、おこなわれるべきであります。そうしてこそこの展示が、被爆者に核兵器廃絶への希望を与え、貴国への平和愛好諸国民の信頼を増大する機会になることを、私たちは確信するものです。

 私たちは、あなた方に要求します。
  12月に予定されているB29「エノラ・ゲイ」復元機の一般公開にさいしては、同機により投下された原子爆弾の被害を示す写真や資料を、あわせて展示してください。
  もしそれができないのであれば、いま計画されているエノラ・ゲイの展示をとりやめてください。

署名  「被団協」新聞11月号  声明・要請