滝谷の岩稜 |
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ザイル担いで穂高の山へ、 明日は男の度胸だめし、チョコサイコラホイ 鳥も止まらぬ滝谷尾根で、 若き情熱を燃やしけり、 チョコサイコラホイ (安曇節より) 初めて北穂の頂上に立った時、飛騨側に 切れ落ちた絶壁に足がすくんだ。 第一尾根だ、第二尾根だと言われても、 どこが尾根なのか、谷全体が切り立った 絶悪の岩壁にしか見えず、ましてや人間が 立ち入ることなど、想像もできなかった。 その後、会社山岳部でロッククライミングを 習い、そして何回か穂高岳に通う中に滝谷 は、私たち山仲間の憧れとなっていった。 毎夏の涸沢合宿では、仲間たちが交替で、 滝谷の各ルートに挑み、私自身も、先輩に つれられ、あるいは後輩をつれて、滝谷の 各尾根を登攀することができた。 当時のカメラでは、登攀しながら写真を撮る ことは、殆どできなかったが、数少ない写真 から、当時の記憶をたどってみたい。 |
第二尾根 北山稜 ( '59/8/2 )
涸沢交替合宿で、前パーティーのM・大先輩が下山を一日延ばし、次パーティーの私は一日早く入山して、 交替日のこの日滝谷へ連れて行っていただいた。 私にとってははじめての滝谷であったが、快晴にめぐまれ、大ベテランのMさんがザイルを支えてくれている という安心感で、さしたる恐怖感ももたず、トップでスムースに登ることができた。登攀を終えP2の岩の上に 腰を下ろして、クラック尾根、第一尾根、ドーム中央稜、第四尾根など、滝谷の地形やルートを教えていただ いたが、ゲレンデの岩場とはけた違いに大きなスケールの垂壁を登っているクライマーを見て、とても人間技 ではないと驚いたものである。 この登攀で自信をつけた私は、岩登りに魅せられて、休日毎に奥多摩のつづら岩、越沢バットレス、時には 三ツ峠にまで出掛けるようになり、1〜3年後には、よきパートナーにも恵まれて、これら滝谷の各ルートを 登ることができた。 |
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北穂より前穂 | P1、P2と笠 | クラック尾根 第一尾根 |
P2を見上げる | P2への登攀 | P2より第一尾根 | P1より第一尾根 北穂山頂 |
滝谷・ドーム |
前日、前穂高東壁を目指して、奥又白本谷の雪渓を登り始めたものの、濃いガスにはばまれて引き返した。 この日も朝から厚い雲におおわれ、北穂の稜線に立った頃からガスが出始め、やがてキリション、小雨と変 わり、雨中の登攀となった。パートナーは初めてザイルを結び合うN君(リーダー)、Tさん。天候のせいもあった が、登攀中時々不安がよぎり、一歩を踏み出すのに躊躇することもあって、技術的にはそれほど困難なルート ではないはずなのに、私にとってはかなりショッパイ登攀であった。 |
この年の夏の合宿では奥穂南稜、滝谷・ドーム中央稜を登ったが、いま一つ達成感がえられなくて、もやもや した気分でいたところ、相棒のM君に誘われ、後輩のI君と3人で滝谷に挑戦することになった。 (第1日・9/2) 今回は北穂小屋泊まり、登攀用具のザイルや金物はあるものの、合宿の時にくらべれば格段に少ない荷物 のサブザックで、涸沢からは北穂東稜の岩登りも楽しみながら、そして最後は夕立に追いかけられながらも、 明るいうちに小屋に入ることができた。 (第2日・9/3) 濃いガスで見通しのきかないB沢の急傾斜を、いつ落石が来るかと緊張感いっぱいで下降すること1時間強。 取り付き点への細いバンドを見つけてトラバース、第一尾根側にまわりこんで、登攀開始。 オーダーは、M・私・I の順でザイルを結ぶ。クラック尾根の名前通り、殆どクラックとリッジの登り、30mザイル 2本で、尺取虫のように、クライミングとジッヘルを繰り返す。天気はキリション、時々トップの姿がガスの中に 消える。 ミドルでは写真撮影のチャンスは全くないが、このルートのクライマックス、通称じゃんけんクラックで、一寸の間 I 君にジッヘルをたのんで、なんとかシャッターを押すことができた。 核心部を過ぎる頃から雨粒が大きくなりだし、近くの岩小屋に逃げ込んで一服していたが、ここはつい先年の 11月はじめ、季節外れの猛吹雪で滝谷で数パーティーが遭難した時、この岩小屋でも何人かが疲労凍死した ところらしいと判って早々に立ち退いた。 (小屋発;7.10、登攀開始;8.30、めがねのコル;9.10、T5;10.40、T8;11.05、終了;11.20 ) 小屋に戻って昼寝をしているうち雨があがり、そのまま寝ているのも勿体ないと第二尾根にでかけた。 このルートは前年M先輩に連れて行ってもらった滝谷の入門コース。 主稜をくだり、適当な地点で北山稜にトラバース。ほとんどフリークライミングで、P2直下の1ピッチと、前回 混雑していてパスしたP1下の水野クラック 1ピッチのみザイルを結んだ。( 14.50 〜 17.40 ) (第3日・9/4) 今日も濃いガス、その上強風が滝谷の底から吹き上げていた。昨日と同じに、B沢を下降してクラック尾根を 捲き、クラック尾根取り付き点を左に見送って第一尾根T3に立ち、いよいよ登攀開始。オーダーは昨日と同じ。 Cフェース下部の凹角は快適に登り30m一杯で、小テラスに立つ。この上がこのルートの最難関、凹角の上 の方に大きな岩がオーバーハング状に挟まっていて、その上には浮石が乗っている。トップはアブミを使って 右手からハングを乗り越す。ザイルを握る手に汗がにじみ、見上げる首が痛くなるが、時々拳大の石が落ちて きて体をよじってやりすごし、一瞬たりとも気が抜けない。 トップが岩陰に消え、30m一杯で「よし、着いたぞ。」の合図。このピッチ、ラストはアブミの回収で苦労したが、 何とかザイルで引っ張りあげた。この上は浮石の多い急斜面を慎重に登ってT2に立つ。 Bフェースは、最初の1ピッチが山場。左上白い岩の基部に向かって登り、そこから右上に折り返す。フェース の真ん中の小岩峯「人形」の頭に立つまでのトラバースが微妙なバランスを要求されて一寸ショッパイ。 この頃から次第にガスがうすれ、時々足元から切れ落ちた大絶壁が顔をだして高度感満点、気分は爽快。 「人形」の上のバンドを左に回りこみ、凹角に取り付いて1ピッチで T1。ここまでくれば第一尾根は戴きだ。 Aフェースは簡単、M君から「トップをどうぞ」と言われ、好意にあまえて最後の2 ピッチをトップで登る。 終了点の岩塔の下で握手を交わした足元にはちしまぎきょうが紫色の花を重そうにかしげていた。 (小屋発;7.30、 T3;8.15〜8.30、 ハング乗越し;10.15、 T2;10.30、 T1;11.25、 終了;12.00 ) 天候には恵まれなかったけど、気心の知れた3人で、難しいと言われていた岩壁を登りきった満足感に浸 りながら小屋の中でまどろんでいると、M君「今からならまだ帰れるぞ」ということで、小屋のお兄ちゃんに 上高地のタクシーの予約を頼んで、大急ぎで南稜をかけおりた。 (小屋発;13.30、 上高地;18.35、 松本より夜行列車で帰京 ) |
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明神橋 | べにばないちご | 入道雲 | B沢を下降 | クラック尾根と 第一尾根 |
クラック尾根と 第一尾根 |
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クラック尾根登攀 | 第一尾根Cフェース | 第一尾根A・Bフェース | 登攀終了 | みやまししうど |
今日の相棒は後輩のAr君。第三尾根に向かうK君、In君とつれだって涸沢BCを出発、快調に南稜を登って 稜線までいつものように1.30’。松濤岩から南峰のガレをトラバースして、C沢左俣の下降にはいる。 クラック尾根取り付きのB沢に比べれば傾斜もゆるく、晴天で見通しがきくので、あの時ほどの緊張感はない が、落石を起こさぬよう慎重に下る。 右俣との合流点で、第三尾根組と別れ、ふみ跡をたどって第四尾根上のスノーコルに立ち、登攀開始。 Aカンテ、Bカンテと、トップを交替しながら快調に登り、Cカンテで先行パーティーに追いついて時間待ち。 滝谷は初めてのAr君、ややビビッタか、or 先輩に美味しいところを譲るつもりか、「トップをお願いします。」 ということで、Cカンテで硬い岩の感触と高度感を楽しみ、ツルムの頂上まで数ピッチは私がトップを続けた。 ツルムは第四尾根上のピークで、快晴のこの日、滝谷の真っ只中に屹立した岩峰に立つと、周囲は全て 絶壁が切れ落ち、まさに天馬に跨ったような爽快な気分だ。 ツルム頂上で一服しながら、先行パーティーがDカンテで苦闘している様子を観察、彼らがやっと乗越した のを見て腰を上げる。今度はAr君がトップで最後の難関を2 ピッチ、後は傾斜の落ちた草付きの斜面を 登って登攀終了。 いわうめの咲く斜面に座って、快晴の滝谷とその上に連なる笠・抜戸の山並みを眺めながら弁当を開いた。 (BC発;5.10、松濤岩;6.40、スノーコル;7.40〜8.00、Cカンテ下;9.15、ツルム;10.00〜11.00、終了;11.30) 予想以上に早く終わったし、滝谷に霧一つない快晴で、こんな滅多にないチャンスにそのままBCに帰るのは 勿体無いと北穂山頂からキレットへの縦走路をしばらく降り、滝谷のよく見えるテラスで、午後の一時をすご した。 先年、ガスと小雨の中を登ったクラック尾根、第一尾根が目の前にそそり立ち、第一尾根ではCフェースの オーバーハングに挑んでいるクライマーが豆粒のように眺められて、急いで望遠レンズのカメラにおさめた。 (北穂高山頂発;15.00、 BC着;16.15 ) |
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南アルプス遠望 | C沢左俣下降 | C沢左俣を振返る | スノーコルより | 登攀開始 | 第三尾根 | 第三尾根 |
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Cカンテ | ツルムのガリー | ツルム頂上 | 先行パーティーを写す | 登攀終了 | 第一尾根を バックに |