T3 で大休止、登攀前の腹ごしらえ
をする。
岩登りに大分慣れたとはいっても、
登攀前は不安と緊張の交錯した
重苦しい感じが心の一隅を占める
ものだが、この時は初めてザイルを
結ぶ相手だったし、ガスが次第に
霧雨に変わってきたりで、一層その
気持ちが強まってきていた。
そんな気持ちを見透かされるような
気がして、談笑している二人から離
れた。
ふと足元をみると、ガスに濡れ、
冷たい風に揺れながらくもまぐさ
が咲いていた。
ファインダーの中で、揺れ続ける花
を見つめている中に、いつの間にか
不安は薄れていった。