これが21世紀ワールドだ−SFの先の先へ

 21世紀の世界では、どのような夢が実現していくのでしょうか。このページでは、21世紀に私達の生活や社会、ものの考えかたや世界観を大きく変えることになるテーマに絞って、こんな世界が間近に実現しようとしている、という科学技術の最前線の姿をまとめてみました。
 このページは、常に最新の情報とデータを取り込んで、紙のメディアやテレビではなかなか見えてこない鮮度の高い「21世紀ワールド」となるよう心がけていきます。これからも時々、覗いて見てください。

 忘れてはならないのは、こうした夢と期待の半面、20世紀から持ち込まれる負の遺産もまた大量に引き継がれるという点です。核兵器や地雷、生物化学兵器の脅威、人口爆発、地球温暖化、エイズ、富の偏在、情報格差、貧困と餓えの拡大、テロリズムの恐怖、等々。「21世紀の科学は問題解決型の科学」とも言われ、私たちはテクノロジーの発達に合わせて、これらの問題を解決していく視点が必要です。
 21世紀が抱える数々の危機についてはページを別立てにして、「未来が壊れていく−21世紀の21大危機」にまとめてあります。最後尾にあるメニューから入ることも出来ます。このページと併せてぜひご覧下さい。


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パソコンとネットの進化は止まらない

 <いま時代はユビキタス社会へ>
 いま、時代のキーワードはユビキタスである。欲しい情報がいつでもどこでも手に入る社会を、「ユビキタス(遍在)コンピューティング社会」と言い、IT革命によって私たちの社会が迎えようとしている「知の共有社会」を意味する。ユビキタス(ubiquitous)とはラテン語のubique(=everywhere)から来た言葉。もともとは「神は同時にいたるところに存在する」というような意味で使われていたが、コンピューターが神に代わって現代の知性を担い始めている、という認識から、ユビキタス・ネットワーク時代、ユビキタス情報社会、あるいは単にユビキタス社会などのように用いられている。
 2004年版情報通信白書によると、日本のユビキタス関連市場は2010年には2003年の3倍の、87兆円規模に膨れ上がる。(04年7月6日読売夕刊)

 <ブロードバンドで情報通信の世界は一変>
 ユビキタス社会実現への推進力となっているのが、ブロードバンドだ。ブロードバンドとは直訳すれば「広帯域」で、従来とは比較にならないほどに超高速大容量の通信インフラのことを意味し、DSL(デジタル加入者線)、ケーブル、光ファイバーなどが媒体となる。ブロードバンドがモバイルと結合することにより、情報通信の世界を一変させるほどのパワーを持つ。これによりパソコン画面での見やすい動画像が可能となり、BSデジタル放送でパソコン化の道を進むテレビとの境界はなくなっていく。通信と放送の融合は一挙に進む。さらにケータイがパソコンやテレビの機能に限りなく近づいていき、一方ではノートパソコンが通信機能を内蔵して小型軽量化し、ケータイに近くなっていくなど、この面でも境界がなくなっていく。パソコン、テレビ、ケータイ、デジカメ、デジタルビデオが一体化したような新しい情報端末がすでに現れつつある。出先からパソコン化したケータイで、自宅の冷蔵庫の中身を確認したり、風呂を沸かす、エアコンを操作する、ビデオの予約録画をする、などはすでに現実の話だ。
 大和ハウスは、携帯電話を使って家中の設備機器や家電を制御するシステムを開発、システム一式で価格は70−80万円程度。

 §ウェブコラム§
 IT時代のサービス拠点として21世紀に飛躍的な発展を遂げるものと期待を集めているのが、コンビニだ。20世紀のコンビニは「モノ」を売る拠点だったが、21世紀のコンビニは、インターネットを中心としたIT社会の拠点となり、銀行や郵便局、自治体の行政窓口などが行っているサービスのほとんどが集約されていく、という見方もある。21世紀の早い段階で、コンビニは全国で現在の2倍の7万店舗、500メートルごとに1店舗が当たり前となると予測されている。
 <ケーブルレスで情報機器結ぶブルートゥース>
 ブルートゥースという言葉もまた、広く使われるようになってきた。パソコン同士や、パソコンとデジカメやプリンターなどの周辺機器を、ケーブルを使わずに近距離無線で結ぶ技術で、これによって、オフィスや家庭のパソコン周りがケーブルでごちゃごちゃして機器を移動させることも出来ない、という悩みは一気に解決される。米シリコンバレーで2000年12月に開かれた開発者会議には、5000人が訪れるという関心の高さで、日本でもブルートゥース対応のパソコンが発売され始めた。2005年には世界の10億台以上の機器がブルートゥース対応になるという予測も出ている。

 <パソコンはウェアラブル(着る)の時代へ>
 奇抜なSF的発想と見られていたウェアラブル(身に着ける)パソコンは、さまざまなメーカーが開発にしのぎを削っていて、数年後には最もスマートで使いやすいパソコンの姿になると期待されている。
 中でも本命とされているのは、ヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)と呼ばれるもので、ベルトで頭に装着し目の前に位置する小さな表示装置によって、50−60センチ前方に10−13インチ型くらいの大きさのカラー画面が浮かんでいるように見えるものだ。
 島津製作所、三菱電機、日立製作所、ミノルタ、日本IBM、オリンパスなど、多くのメーカーがこのタイプの試作品を完成させ、すでに商品化の時期を検討しているところもある。重さは70グラム程度のものが多いが、ミノルタは完全なメガネ型にして表示装置を親指大にまで小型化し、25グラムという軽さを実現している。
 問題は入力をどうするかだが、NTTドコモはウェアラブルパソコンの入力用として、腕時計型の装置を開発した。この装置が指の動きをキャッチして、キーボードがなくても必要なコマンドやデータを入力できる。小型マイクにより音声でパソコンに指示を伝える装置を開発したメーカーもある。
 2003年9月に幕張メッセで開かれた「WPO EXPO2003」には、パソコン本体をベルトで腰に巻くかハンドバッグのようにぶら下げて持ち歩くタイプのHMDが、産官学共同チームの開発により出展された。
 頭に装着するHMDに対して、腕時計型パソコンや、指輪、ペンダントなどに組み込んだ超小型パソコンなどを試作しているメーカーもある。
 米の市場調査会社によれば、ウェアラブルコンピューター市場は2005年には数千億ドルから最大3兆ドルになると予想される(01年1月1日付け朝日新聞)。
 フランスでは「ジャケットコンピューター」が開発された。内ポケットに携帯電話機能があり、ボタンがアンテナになっていて、キーボードは前身頃の打ち合わせ部分にくっついている。首からぶら下げるスカーフ型のパソコンも開発された。(01年4月24日読売夕刊)

 <紙のように薄く折り曲げられる夢のディスプレー登場>
 キヤノンが樹脂を使った紙のように薄いディスプレーを開発した。ディスプレーを束ねて電子雑誌や電子新聞として使えるほか、動画の表示も可能で、内容が変化する電子ポスターなどとしても使える。いったん表示させると電源がなくても消えないのが特徴で、表示させたまま持ち歩いて電源のあるところで表示内容を手直しするなどの作業が可能だ。キヤノンは2001年中に単一色製品のサンプル出荷を始め、2007年を目標にカラー化を実現する。現在の厚さは0.25ミリだが、今後さらに薄くすることを目指す。解像度もさらに改善をはかり、将来的には新聞の文字を鮮明に表示できるようにする。
 国立4大学と42企業は、産学協同により厚さ0.2ミリと紙並みの薄さのディスプレイを、5年後をめどに開発する。携帯電話などに使われている有機エレクトロルミネッセンスの技術を使い、薄さを極めたシートディスプレイをめざす。(2002年8月9日朝日)

 <パイオニアは衣服に貼れる超薄型ディスプレー>
 さらにパイオニアは2002年2月、有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)を使って、衣服に貼り付けることの出来る超薄型ディスプレーを開発した。画面の厚さは0.2ミリで曲げることが出来、衣服やバッグに貼り付けたり腕に巻くなど、さまざまな使い方が可能という。(02年2月21日朝日)

 <52インチ相当の大画面楽しめる眼鏡型軽量ディスプレー発売>
 オリンパス光学工業は、わずか85グラムの軽さで、2メートル先に52インチ型の大画面があるように見える眼鏡型の軽量ディスプレイを開発した。DVDプレイヤーや家庭用ゲーム機などに直接接続して大画面で楽しむことも出来る。01年11月1日に発売され、価格は5万6000円。

 <部屋に一歩入れば、仮想現実ワールドが広がる>
 パソコンやディスプレイの小型軽量化の流れの一方で、パソコンによるバーチャルリアリティー(仮想現実)の世界を、大型ディスプレイに映し出したり、部屋全体をディスプレイにするなどの迫力あるものにして、美術館や博物館あるいは外国の観光地や遺跡の中を進むような体験を可能にしたり、映画の主人公のように空中を飛んだり架空の世界で活躍するような空間を創出しようという試みも進んでいる。
 東大、米イリノイ大などは共同で、日米の大型バーチャルリアリティー装置をインターネットで結び、お互いが同じ仮想空間の中で相手と対話したり、共同で仮想物体を作ったり動かしたりする「空間共有システム」の開発に取り組んでいる。東大先端科学技術研究センターには、バーチャルリアリティーの再現室があり、眼鏡型の表示装置をつけて中に入ると、部屋全体の壁に立体映像が出現して、どのような角度からも見ることが出来、実際に仮想世界の中にいる感じになる。離れた場所にいる者同士が同じ表示装置を使えば、仮想の共同作業も可能だ。
 
 <バーチャルリアリティーと実世界の境界を撤廃>

 研究者の間には、「カメレオンスーツ」という宇宙服のような装置を着けることにより、バーチャルリアリティーと実世界をシームレス(継ぎ目なし)に結合しようという試みもあり、物語の主人公のように、空想上の世界での冒険や探検を「体験」することが可能になる。また、現実と仮想現実を重ね合わせるMR(ミクストリアリティー=複合現実感)の試みも、さまざまな研究グループが実用化段階まで進んでいて、キヤノンと基礎技術研究促進センターが設立したMRシステム研究所は、目の前の現実の光景の中に、CGによるモンスターが出現し、それを専用の銃で撃って倒す迫力満点のゲームを試作した。
 01年3月に横浜市で開かれたMRの体験型展示会では、現実の街の中に仮想の建物が現われるゴーグル型モニターや、自分の手のひらに水溜りが出現して中からイルカやエイが飛び出して相手の手のひらに移して遊ぶソフトなどが人気を集めた。このMRはゲームなどのエンタテインメントはもちろんのこと、医療や災害現場での復旧作業など、さまざまな分野での応用が期待されている。
 02年2月28日から3月10日まで、東京都写真美術館で開催された第5回文化庁メディア芸術祭では、このMRを応用した「コンタクトウォーター」というエンタテインメントが、デジタルアート・インタラクティブ部門の優秀賞を授賞し、実際にゴーグルを付けて参加した一般の入場者たちは驚異の初体験に感嘆の声を上げていた。

 <嗅覚、味覚、触覚など五感のすべてを記録・再現へ>
 バーチャルリアリティーの研究の中で、これまで視覚や聴覚に比べて再現技術が遅れていた嗅覚、味覚、触覚などについても、記録・保存・再現の研究が進んでいて、郵政省は「五感に関する研究会」を設置した。研究者の間には「やがてはあらゆる感覚を完全に再現できる」という期待も強く、実現すれば、バーチャルリアリティーの中で架空の体験を含めてあらゆる体験を追体験出来るようになる。
 総務省は01年3月8日、インターネットで香りや触感を相手に送信する実験を行なった。実用化されれば、食品などの電子商取引やゲーム、遠隔医療などに応用が期待される。
 
 <思い出記憶装置で、過去に見た光景や行動を追体験>
 「思い出記憶装置」というとSFファンタジーのようだが、東京大学の教授・学生グループが現在、この開発に取り組んでいる。2000年10月9日付け日経新聞によると、ウェアラブルコンピューターにカメラ付き眼鏡や小型マイク、歩数計、心拍系などを組み込んで、目にした光景やその時の気分など五感情報をすべて蓄積する。あとからバーチャルリアリティーで再生すれば、過去の体験の臨場感あふれる追体験や、他人の体験のを味わうことも可能となり、報道分野や娯楽分野での応用が期待されるという。

 <目にセンサー埋め込んだジャーナリストが現場報告>
 イギリスの研究グループは、2010年ごろには目にセンサーを埋め込んだジャーナリストが、事件や事故の現場から、テレビカメラなしで視神経を通して見た映像をそのまま視聴者に伝える時代になると予想。現在の技術でも充分に実現可能だとしている。(2000年5月2日付け毎日夕刊)


人間が車を運転する時代は終わる

 <2015年ごろに半自動運転が実現、やがて完全自動運転へ>
 人間がハンドルを握り、アクセルとブレーキを踏みながら車を運転する時代は、21世紀のかなり早い段階で終わりそうだ。まずは2010年代に、車同士や道路との情報のやり取りで、衝突防止や車間距離を確保する半自動運転が実現し、やがて21世紀の車は完全自動運転となっていくものと見られている。
 その第一歩とされる高度道路交通システム(ITS)を検討している電気通信技術審議会が1999年2月に答申した予測によると、ITSの市場規模は2015年に7兆4000億円に達する。答申によると、ITSはまず2002年ごろに高速道路の自動料金収受システム(ETC)導入から始まり、2005年ごろには車に衝突防止レーダーシステムが搭載される。2015年には、運転の半自動化が進んで、車の周囲1メートル以内に人や自転車が近づくとセンサーが感知して車が自動的に止まるタイプが普及していく。

 <車と道路が情報をやりとりするスマートウェイは2003年に>
 高度道路交通システム(ITS)に効率良く対応するためには、車の側の進化と並行して、道路の側の革命も急がれていて、建設省は1999年2月に関係省庁や関連業界などとともに「スマートウェイ推進会議」を発足させた。スマートウェイとは、ITを駆使して車と道路が情報をやりとりし、事故の未然防止や渋滞解消などを図る次世代ハイテク道路のことで、「知能道路」とも呼ばれる。カーナビを使う道路交通情報通信システム(VICS)や自動料金収受システム(ETC)とも密接不可分の関係にある。スマートウェイの第1号は、2003年春、第2東名高速の四日市IC−豊田IC間で開通される予定だ。

 <トヨタが自動走行バス、2005年には実用化めざす>
 トヨタは1999年10月、静岡県の東富士研究所で自動走行バスの実験を公開した。高度道路交通システム(ITS)の一環で、専用道では路面に埋め込まれたセンサーによって隊列で自動走行し、一般道に出ると手動運転に切れ替える。この日は、1.5キロのコースを、3台の試験バスが走行した。前方車両との車間距離や障害物も、バスのセンサーが検知して自動的に加速や減速を行う。トヨタは2005年の愛知万博での会場間輸送で実用化をはかりたいとしている。

 <5台の自動車が自動運転で障害物よけて、つかず離れず走行>
 自動運転による5台の自動車を一緒に走らせるテストが、2000年11月21日、茨城県つくば市の通産省工業技術院のテストコースで行われた。自動運転で5台の車を同時に走らせたのは世界でも初めてという。車には通信衛星やレーザーなどを使って、車間距離や位置を瞬時に認識しあうシステムと、ハンドルやブレーキなどを制御する自動運転装置を搭載し、1周3キロのコースを時速50キロで走行、コース途中に置かれた障害物を巧みに避けたり、二手に分かれて列を組んだ後に再び合流するなど、複雑な動きを見事にこなしていた。

 <日産は一足先に車線維持システムを「シーマ」に搭載>
 こうした21世紀の自動運転への流れを先取りする形で、日産自動車は2001年1月12日にフルモデルチェンジで発売した「シーマ」に、世界初の車線自動維持システムをオプションで搭載した。車に取り付けた小型カメラが走行中に車線を感知し続け、車が車線を越えそうになると警告音を鳴らし車線の中央を走るようにハンドルに力を加える。車線変更のために方向指示器を点灯させた時は、機能が解除される。前方の車との車間を一定に保つ車間制御システムや、ブレーキの効きめを自動制御するシステムもセットで搭載される。価格は42万5000円。

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ロボットが街に、家庭にやってくる

 <トヨタがトランペット吹きロボット>
 トヨタ自動車は2004年3月11日、開発中の人間型ロボット2体を公開した。このロボットは「肺」から「口」に空気を出し、両手や指を使って人間と同じようにトランペットをあやつって演奏する。05年の愛知万博で一般に披露される。

 <ロボットが東フィルで「運命」を指揮>
 ソニーのロボット「QRIO(キュリオ)」がついに、東京フィルハーモニーを率いてベートーベンの交響曲第5番「運命」を指揮! これはSFの世界ではなく、本当に起きている現実の出来事である。2004年3月9日にリハーサルを行い、13日のコンサートで本番を披露。

 §ウェブコラム§
 「鉄腕アトム」が誕生したのは、2003年という設定だ。日本のロボット研究者の多くは、少年時代にアトムに憧れ、熱狂して育った人たちだ。
 西欧では、キリスト教というバックグラウンドの影響から、人間型ロボットへの反発が強いと言われるが、日本の場合は、森羅万象すべてに人間と対等な命があるとする風土や仏教観に加え、「鉄腕アトム」から受けている影響は無視出来ない力となっているようだ。
 <顔の表情が人間そっくりに変わるロボット登場>
 大阪大学の研究グループは、人間とうまくコミュニケーションを取ることが出来るロボットづくりに向け、ロボットの顔の表情をさまざまに変えたり、人間が触れた時の強さを認識させる研究を進めている。この研究の一環として開発した「リプリーR1」というロボットは、まばたきをしたり瞳を動かしたりする。口を開けた時には白い歯が見える。介護用などでロボットが家庭に入ってきた時には、人間との意思疎通をはかる上でロボットの表情が果たす役割は、大きいと見られている。
 東京・有明で03年11月に開催された「2003国際ロボット展」では、人間と同じ自然なしぐさや表情を再現するロボット「アクトロイド」が注目を集めた。

 <ソニーが転んでも起きる人間型ロボット、人間も識別>
 ソニーは02年3月19日、転んでも自分で起き上がることが出来、人間を識別したり感情を推測することが出来る二足歩行人間型ロボット「SDR−4X」を発表した。身長58センチ、体重6.5キロで、人などにぶつかって倒れても手を突いたり、かがんだりしてショックを和らげ、自分で立ち上がる。5万語以上の言葉を認識し、話し相手の気持ちを見分けて話しかけたり、歌うことも出来る。
 この前身となったのは、ソニーが2000年11月に発表した「SDR−3X」。全身24箇所の関節を一括制御する方式で、片足でバランスをとったり、アップテンポのパラパラを踊ったりする。両腕でバランスを取りながら、直進、横歩き、旋回などが出来るほか、「回れ右」など20の言葉を認識し、返事をする。同社のロボット犬「アイボ」と同じく人間の遊び相手として開発され、アイボと同じ企画の制御技術を用いている。
 ロボットの開発にあたっているソニーや本田技研は、「ロボットはパソコンより巨大な産業になる」という認識で一致しており、今後10年以内にエンターテインメントロボットを、音響・映像やパソコンを並ぶ事業の柱に育成する。

 <本田技研が人間型ロボット「ASIMO」、多彩な夢実現へ>
 本田技研工業は01年、世界で初めて、二足歩行する人間型ロボットト「ASIMO(アシモ)」を商品化した。同社の試作ロボット「P3」をベースにして軽量化し、法人向けに年間数十体程度の少量生産でスタート。手と足に小型コンピューターとセンサーを内蔵し、階段の上り下りはもちろん、手を使った運搬作業など人間に近い動きをする。当面はイベントやエンターテインメント用、教育用などを想定して売り出し、将来的には家事や介護用、災害現場での救助用など、多彩な需要が見込まれるとしている。
 本田技研は「ASIMO」のリースを実施中。リース先としては、博物館や科学館など公共性の高い施設やイベントなどを想定している。「ASIMO」は2000年大晦日のNHK「紅白」にも登場し、出場歌手たちの間を一人で堂々と歩いて出てきて、ステージ中央で歌手と手をつないでステップを踏むなど人間並みに振舞い、観客やテレビ視聴者の度肝を抜いた。ロボットが出演した最初のテレビ番組として、ロボット史に残ることは間違いない。
 
 <「働く人間型ロボット」も登場>
 経済産業省が民間企業や大学などと共同で開発を進めている、世界初の「働く人間型ロボット」の試作機5種類が2002年4月10日、つくば市の産業技術総合研究所で公開。身長154センチ、体重58キロとほぼ人間並みの大きさで、人間と一緒に机を持ち上げて運んだり、病室の患者に薬を届けるなどのデモンストレーションが披露された。このプロジェクトでは、工事現場などで人間のパートナーとして働くロボットの開発を進め、実用化に結びつけることを目標にしている。

 <ロボットは21世紀の巨大市場形成へ>
 本田技研では、ロボットを自動車に次ぐ21世紀の主力事業と位置付けて社を上げて取り組む方針で、「ロボットは21世紀にパソコンを上回る巨大市場になる」という見方を強めている。このため本田技研は社長直轄の新組織「ヒューマノイド企画室」を設置、当面は「ASIMO」を中核機種として、人間型ロボットの商品化戦略に全力で取り組む。同社は「ロボットが社会に溶け込める環境づくりを目指す」としている。
 
 <富士通もロボット発売、東大なども続々と開発進む>
 一方、富士通は二足歩行のヒューマノイド(人間型)ロボット「HOAP−1」を発売する、と01年9月10日発表した。身長48センチ、体重6キロで、1体500万円程度となる見込みで、今後3年間で研究機関などを中心に100体を販売する。(01年9月11日毎日)
 東大の研究グループも01年3月、人の顔を認識して「○○さんですね。こんにちは」などと言いながら手を挙げてあいさつをする二足歩行ロボット「JSK−H7」を開発・公開した。介護や福祉などを担うロボットとしての実用化をめざしたいとしている。

 <三菱重工はシーラカンスのロボット完成>
 人間型とは別に、さまざまな動物のロボットを製作する研究も急速に進んでおり、三菱重工業は2000年12月25日、「生きた化石」といわれるシーラカンスと姿形も動きもそっくりのロボットを完成させ、福井県駿河市に開館予定の科学館「アクアトム」に納入すると発表した。体長70センチ、重さ12キロで、大型水槽の中を自由に泳ぎ回り、バッテリーが切れそうになると自分で充電器まで泳いで行って充電する。販売価格は水槽や制御システムを含めて数千万円。三菱重工業はこれを第1弾として、魚ロボット「三菱アニマトロニクス」の商用化を進める。
 
 <ロボットの知性が人間に追いつくのは2040年ころか>
 ロボットといえば20世紀末までは、工場の生産ラインに組み込まれた産業ロボットのことを意味し、その姿形はおよそ人間とは似ても似つかぬものだった。だがここにきて世界中で、ロボットを人間社会に溶け込むような存在にしようという研究が急速に広がっている。
 ロボット研究の第一人者である米カーネギーメロン大学首席研究者のハンス・モラベック博士は、2000年10月9日付け日経新聞のインタビューの中で、現在のロボットの知性は昆虫レベルだとしながらも、今後30年でコンピューターの性能は100万倍になるといわれることから、ロボットの知性は2030年にはサル並みになり、2040年には人間のレベルに追いつくと予想している。

 <三菱重工業が学習して推論する集積回路開発>
 三菱重工業は2002年8月8日、自分で学習して推論できる集積回路を開発したと発表。脳の細胞「ニューロン」の構造とよく似ており、過去の経験を蓄積し、故障を事前に予知して自分で直すことが出来るなど、人口知能に近づいている。5年後をめどに工業用機械に搭載する。(2002年8月9日朝日)

 <松下も自ら学習し成長するソフトの開発着手、2015年実用化へ>
 2000年12月30日の日経新聞によると、松下電器は、人間の赤ちゃんが周囲の世界のことがらを学んで賢くなっていくように、自ら学び成長するソフトウェアの開発に着手した。コンピューターの専門家だけでなく、認知心理学や発達心理学の研究者の協力を得て、長期の先端技術研究として取り組む。東大、北大、米カリフォルニア大などの研究者とも手を組んで、2015年ごろの実用化を目指す。

 <知能を自然発生させて意識を持つチップ、2010年にも>
 京都大学ではさらに驚くべき研究が進んでいる。1月1日付けの日経新聞によれば、「デジタル・アインシュタイン・プロジェクト」と呼ばれる研究で、シリコンチップの中で知能を自然発生させようというものだ。チップに「複雑系の理論」を応用することにより、チップが人間と同じように認識・学習する能力を持ち、さらには「意識」を持つようになる、という。そのためには、毎秒1兆回以上の計算能力が必要となるが、2010年までに実現することを目指している。

 <ロボットたちのサッカー大会開幕>
 02年6月19日から、ロボットのサッカー大会「ロボカップ2002福岡・釜山」が開催。試合を前に、ロボカップ国際委員会は、「選手」のロボットを公開した。浅田稔・阪大教授が開発した身長48センチ、体重6キロの人間型ロボットで、足を振り上げてボールを蹴り上げたり、ガッツポーズも取る。(02年6月13日朝日)

 <ロボットのサッカーチームがワールドカップに出場する>
 日本経済新聞社が99年11月から12月にかけて、世界の約250人の科学者・技術者を対象に今後の科学技術の動向についてアンケート調査した結果によると、21世紀にはロボットのサッカーチームがワールドカップに出場するようになると予想した人が32%、また人口知能が創造した文学作品などがベストセラーとなると予想した人が38%だった。(2000年1月31日日経)


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目に見えない微小テクノロジーが進む

 <100万分の1ミリの世界を征するものが21世紀に勝つ?>
 ナノメートルというのは、1ミリメートルの100万分の1のことである。このナノの世界での技術開発をめぐり、いま世界の研究者がしのぎを削っている。分子や原子を自在に操って、これまでに存在しなかった新素材や半導体、医薬品、さらには目には見えない極めて微小な機械や、自己複製する新物質などを作りだそうという試みだ。アメリカは、ナノテクノロジーを情報通信(IT)やバイオに次ぐ戦略分野として位置付け、2001年度の科学技術プロジェクトの目玉として、約5億ドル(約530億円)を投じて開発を進める。日本も産官学で年間約50億円をつぎ込む共同研究を2001年度からスタートさせる。

 <ナノテク市場、2008年には92兆円に>
 産官学で構成するアメリカのナノテク推進組織「ナノビジネス・アライアンス」は、2001年12月、ナノテクを応用した製品やサービスの世界市場規模は、2008年に7000億ドル(約92兆円)に達するという見通しを発表した。ナノビジネス・アライアンスには、NASAのほか、ヒューレット・パッカーズ、ライス大学など約30の団体が参加しており、米政府の国家ナノテクノロジー戦略が強力な推進力となって、製造業、IT、バイオなど広い分野で新たな市場を生む、と予測している。(01年12月28日日経夕刊)

 <富士通は専門のナノテク研究センター設置>
 富士通は2000年12月、ナノテク研究に集中的に取り組むための組織として、子会社の富士通研究所により「ナノテクノロジー研究センター」を設置した。当面は外部からのスカウトを含め10人の研究スタッフでスタートし、内外の大学や研究機関と提携して、シリコンに代わる新しい電子素材の開発や、スーパーコンピューターが100年かかる計算を一瞬にしてこなす「量子コンピューター」の開発、バイオへの応用、などの研究開発を進める。

 <ナノテク使い、直径2.75ミクロンの世界最小ワイングラス>
 NECとセイコーインスツルメンツ、姫路工大は2000年12月7日、ナノメートルサイズの極小物体を自由に作ることの出来る超微細加工技術を開発したと発表し、ナノテクノロジーを応用した試作品として、直径2.75ミクロン(1ミクロンは100万分の1ミリメートル)、高さ12ミクロンの世界最小サイズのワイングラスを公開した。普通サイズの20000分の1の小ささ。この技術を使って、金属並みの強度を持つ超小型コイルやパイプも作れることが確認されたという。

 <血管を流れて病気を発見・治療するマシンから、悪魔の病原体まで>
 ナノテクノロジーで最も期待されている成果の一つは、極微小の医療診断マシンで、血管の中を進んで人間の体内を巡り、病気の部位を発見したり、体内で自ら治療にあたったりする。まさにSF映画の「ミクロの決死圏」の世界そのものだ。
 これとは反対に危険性が指摘されている適応としては、ナノテクノロジーを使って自己複製する新しい病原菌を作り出すことが可能になるという点だ。悪意を持つ集団や個人がこの技術を手に入れ、制御不能の病原菌が世界にばら撒かれる結果になったら、人類の滅亡に直結する重大な事態となる。

 <テーブルの上に乗る超小型工場もすでに開発>
 ファナックやセイコーインスツルメンツなど機械、電機メーカー7社は1999年、共同で超小型の工作機械を組み合わせた「マイクロファクトリー(超小型工場)」を開発した。工場の「広さ」は、縦86センチ、横1メートルで、超小型のロボットアームや金属を削る電解加工装置など7つの機械を装備しており、最も背の高い機械でも97センチほど。8種類の歯車を作ることが出来、直径1センチのギアボックスを作ることも出来る。この工場を足場に、小さなロボットや機械を効率的に量産出来る技術の確立を目指す。

 <蟻の大きさのロボットが原発配管などを点検>
 三菱電機、住友電機工業、松下技研は1999年6月、蟻ほどの大きさで原発の配管などの中に入って傷や異常をチェックして回るロボットを共同開発した。このロボットは縦5ミリ、横9ミリ、高さ6.5ミリと大きめの蟻ほどのサイズ。重さは0.42グラムだが、自分の重さの2倍以上の重さの1円玉を動かして進む力がある。毎秒2ミリの速さで前後左右に自由に動き回ることが出来る。通産省の「マイクロマシンプロジェクト」の一環として進められているもので、配管の中を5−10台のロボットが隊列を組んで進み、内部で合体したり分離したりすることも出来る。研究グループは発電プラントなどを停止しなくても管を点検・補修出来るマイクロロボットの実用化を目指している。

 <ワイヤレスで画像データを送信するマシンも>
 もう少し大型のものとしては、デンソー、三洋電機、東芝が開発した「管内自走環境認識用システム」がなかなかの優れものだ。2000年に開催されたマイクロマシン展に出品されたこのマシンは、直径1センチ、長さ7センチの芋虫型。世界初の完全ワイヤレス型マイクロマシンという触れ込みで、電力はレーザー光で供給し、細管の中を進んで内部をカメラ撮影し、画像データを電波で送信する。

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水素がエネルギーの主役に踊り出る

 <石油の時代は2010年で終焉、次の主役は水素に>
 21世紀初頭の新エネルギーの本命として各方面から熱い期待を集め、さまざまな分野で実用化が始まっているのが、水素を燃やす「燃料電池」と呼ばれる小型の発電システムだ。ネーミングの悪さから一般には難解なものと受け止められているが、簡単に言うと、水を電気分解して水素と酸素を作り出す流れをそっくり逆にしたもので、水素を空気中の酸素と結合させて水を作り、その過程で電気を発生させるものだ。これにより排出されるのは水がほとんどで、水素の供給方法によっては二酸化炭素も排出される。騒音・振動も少なく、クリーンエネルギーの本命とされている。各国の政府機関や企業が競って、さらなる効率化と低コスト化をめざしてプロジェクトを進めている。
 1999年4月、英オックスフォード大学で開催された石油問題シンポジウムで、メジャー首脳や産油国代表が一致したのは、「石油がエネルギーの主役でいられるのは2010年まで」という点であり、21世紀は「石油時代の終焉」という認識だった。いまや「20世紀が石油の時代なら、21世紀は水素の時代」というのは、世界的な共通認識といっていい。

 <クリーンな上に、抜群のエネルギー効率>
 クリーンだけではない。燃料電池の魅力は、抜群のエネルギー効率にある。原発の場合は、電気として利用できるのは発生エネルギーの30%程度だが、燃料電池は35−40%が電気として利用でき、同時に発生する熱も利用すれば80%近いエネルギー効率を得られる。

 <日本だけで2010年には1兆円市場を形成>
 経済産業省の「燃料電池実用化戦略研究会」は01年1月22日、国内の燃料電池市場は、自動車と家庭・業務用を合わせて、2010年には1兆円市場を形成するという報告書をまとめた。それによると、燃料電池は2010年までに自動車で5万台、家庭・業務用で210万キロワットが普及。2020年には、自動車の6.9%にあたる500万台が普及して市場規模は8兆円になり、家庭・業務用では1000万キロワットが普及。家庭用の普及率は23%になると予想している。

 <燃料電池車による配送実験スタート>
 米運送会社のフェデックスは03年7月から、GM製の燃料電池自動車による配送業務の実験を、東京都内でスタートさせた。丸の内や霞が関地区で約1年に渡り、ホテルや企業に書類などの荷物を集配し、走行状態や耐久性能などをテストする。燃料となる液体水素は、03年6月に開設された有明水素ステーションで補給し、1回の満タンでば400キロを走ることが出来る。

 <トヨタとホンダが世界初の燃料電池乗用車を納入>
 トヨタ自動車とホンダは、02年12月2日、計5台の燃料電池乗用車を、内閣官房、環境省、国土交通省、経済産業省などに納入した。燃料電池自動車の実用化は、世界で初めて。トヨタ自動車とホンダは同日、米国内にも納入し、1、2年の間に日米で、計50台を販売。
 トヨタ自動車は世界初を狙い、5人乗りスポーツ用多目的車(SUV)「クルーガーV」をもとにした燃料電池車の公道試験を重ねてきた。三菱自動車工業も三菱石油に協力を要請し、三菱グループの総力を挙げて開発に取り組んでいる。
 フォードやダイムラークライスラーなど海外勢も競い合っている。シドニー五輪では、ゼネラルモーターズ(GM)グループの、ドイツ・オペルが開発した燃料電池車が、マラソンの先導車として世界中の人々の視線の中を走行した。2010には世界で年間100万台の新車に、水素を燃やす燃料電池が搭載されるという見通しもある。またこれからの船舶の動力としても有力視されている。
 ダイムラークライスラーはバスを実用化の突破口として、2003年に燃料電池バス30台を欧州10都市で販売し、気体水素を供給するスタンドを各都市に設置する。同じドイツのBMWも2003−2004年までに燃料電池車を量産する準備を進めており、政府や業界と協力して、水素補給施設を、2010年までに国内の約3000カ所に設置する。

 <燃料電池車、一般行動で走行試験>
 燃料電池自動車による一般公道での初の走行試験は、01年3月2日、横浜で行われ、日本での燃料電池車実用化に向けた一歩として注目を集めた。公道を走ったのはダイムラー・クライスラーの試作車で、横浜のほか東京や広島でも走行試験をして、安全性や排出ガス、燃料消費量などのデータ収集を行ってきた。マツダも01年6月12日、横浜市内の同社研究施設で、燃料電池車の公開走行を行なった。

 <ボーイングは燃料電池旅客機>
 米ボーイング社は、燃料電池を使った旅客機の開発に着手する、と01年11月27日発表した。プロペラ機のエンジンやジェット機の補助動力などに利用し、排ガスの総量を減らすのがねらい、という。いまのところ、ジェットエンジン本体への利用は技術的に困難としているが、将来の実用化に向けて大型機用の燃料電池技術も蓄積していく。

 <工場ではもう導入、家庭用も2004年に商品化>
 工場などでは導入が始まっているところも多く、横浜市の東芝京浜事業所では200キロワットの燃料電池を設置して、都市ガスから取り出した水素を燃やして工場に電気と温水を供給している。
 東芝、三菱電機、富士電機なども、工場や事業所、病院などを対象に普及の突破口を開こうと力をいれている。
 ビルや家庭への導入も、実用化を視野に入れたさまざまな開発研究が進行中だ。家庭用のイメージとしては、エアコンの室外機のような装置で価格は冷蔵庫や洗濯機並みとなり、2005年から2010年ごろにかけて究極の家電製品として普及していくものと見られている。
 日石三菱は2001年7月から、ナフサから水素を取り出す方式による家庭用燃料電池の試験運転を開始。2004年に商品化して市場に本格投入。価格は標準的な1キロワットの発電システムで100万円程度になるが、最終的には20万円程度にまで下げたい、としている。また東京ガスも、天然ガスから水素を取り出す方式による家庭用燃料電池を開発し、2004年に実用化。家庭向け燃料電池をめぐる競争は一気に激化しそうだ。
 東洋紡も、耐熱性の高い「イオン交換膜」を開発し、燃料電池事業に本格参入する。これによりエネルギー効率の高い燃料電池が可能になるとして、家庭用やコンビニなど小型店舗用としても普及をはかりたいとしている。(01年1月21日各紙)
 ソニーも小型燃料電池の開発に成功し、業界初の家電向け燃料電池の実用化に向け、全力を挙げている。(01年8月10日朝日)

 <三菱重工は2005年に家庭向け発売>
 三菱重工業は、家庭向けのベランダ据え置型燃料電池を2005年に発売する、と02年6月12日発表した。都市ガスから水素を取り出す方式で、出力1キロワット。発電時の熱を利用して給湯器も兼ねる。価格は50万−60万円程度となる。

 <ケータイからアウトドア、自販機、鉄道も>
 燃料電池を徹底的に小型化しようという試みも実用化の段階にはいった。米ベンチャー企業は2001年春、フィルム状の燃料電池試作品を公開した。これを使えば携帯電話で1カ月間、ノートパソコンは1週間、充電なしで使える。米モトローラ社もすでに、縦横2.5センチ、厚さ2.5ミリの燃料電池を発表しており、水素供給源であるメタノールのカートリッジを差し替えて補給し、1本のカートリッジで1カ月以上の連続使用が出来る。同社は、携帯電話向け燃料電池は、2007年には16億ドル市場になるとみている。日本ではNECが名刺の半分大の燃料電池を、またソニーもクレジットカード大の燃料電池をそれぞれ開発した。
 東芝は、燃料電池を搭載して電線につなぐ必要のない自販機を試作した。松下電工は燃料電池によるポータブル発電機を開発し、01年に発売。キャンプなどアウトドアの燃料や電源として、また換気が悪いトンネル内や地下の工事の電源など、さまざまな用途に使えそうだ。
 工学院大学らのグループは、水素を液体に溶かした形で提供する方式によって、マッチ箱大にまで小型化した燃料電池を開発した。数百個を直列につないで自動車用や据え置き型として使えるほか、モバイル情報機器への搭載も出来る、としている。(01年4月28日日経)
 鉄道総合技術研究所は、燃料電池を動力源として走る列車の研究・開発を01年度から開始。2010年ごろに実用化を目指し、発煙や騒音が問題となっているディーゼル機関に換わる鉄道の新しい動力としていく。(01年3月26日日経)

 <東芝がケータイ用に手のひらサイズの燃料電池>
 東芝は携帯電話や携帯情報端末(PDA)用として、手のひらサイズの燃料電池を開発した。縦10センチ、横6センチ、高さ3センチで重さ130グラム。高濃度メタノールが入ったカートリッジ1本で、携帯電話6個分の充電で出来、カートリッジを差し替えれば何度でも使える。05年中に製品化する。(03年10月4日朝日)

 <NECが燃料電池内蔵のパソコン開発>
 NECは03年6月末、超微細技術(ナノテク)を応用してノート型パソコンに内蔵出来る小型燃料電池を開発、試作品を公表した。燃料電池は900グラムで、パソコンを含めた重さは2キロ。電源のない場所で毎日8時間使用しても5日間は充電なしで持つことが出来る。

 <カシオが長さ20センチの燃料電池>
 カシオ計算機は04年5月、ノートパソコン向けに世界最小の燃料電池を開発したと発表した。メタノールから水素を取り出す「改質器」と呼ばれる装置を500円玉大に小型化し、電池本体を長さ20センチ、縦横数センチまで小型化した。通常のノートパソコンなら8−16時間の駆動が可能。2007年発売を目指す。(04年5月10日日経)

 <東芝は世界最小の親指大サイズ開発>
 東芝は04年6月、この時点で世界最小となる親指サイズの燃料電池システムを開発したと発表した。小型電子機器向けで、携帯用音楽プレイヤーで最長20時間駆動させられる。燃料は純メタノールで、充電することなく燃料を補給すればすぐに使える。(04年6月25日朝日)

 <水素をどうやって取り出すか、各国がしのぎ削る>
 燃料電池用の水素を取り出す方法については、世界のさまざまな研究グループがしのぎを削っており、天然ガスやメタノール、ガソリン、ナフサなど、コストとにらみ合わせてさまざまな方法が試行されている。ダイムラー・クライスラーは費用や効率性などから、メタノールを使って水素を取り出す方式に取り組んでおり、この場合は二酸化炭素が少量ながら排出される。マツダもメタノール方式を採用する。一方、トヨタとゼネラル・モーターズは、ガソリンから水素を取り出す「ガソリン改善方式」を採用する。
 東邦ガスは水素を天然ガスから製造して供給する水素ステーションの実証実験を01年2月から開始。(01年2月21日日経)

 <東京ガスは雑草から、鹿島は生ゴミから水素発生に成功>
 1999年2月5日の読売新聞によれば、東京ガスは雑草から水素を取り出すことに成功した。100キログラムの雑草があれば一般家庭の1日分の電気とされる20キロワット時の電気を供給するのに必要な水素を取り出せるという。東京ガスの「フロンティアテクノロジー研究所」が、庭で刈り取った雑草を水と一緒に密封容器に入れて、雑草1グラム当たり113ミリリットルの水素が発生することを確認した。東京ガスでは、生ごみなど雑草以外の有機物から水素を取り出すことが出来るかどうか研究を進めている。
 大手ゼネコンの鹿島は、生ゴミを分解して水素を取り出し、燃料電池に使うプラントの開発に成功し、近く発売すると発表した。生ゴミ1トンで一般家庭の2カ月分の電力を得られ、大量に生ゴミが出る食品工場や大型ホテルに設置すれば、リサイクル発電になるという。(01年1月16日読売)

 <日本列島の深海底に眠る? 水素の宝庫>
 いま注目されているのは、日本列島の深海底に大量に眠っているメタンハイドレートと呼ばれる固体だ。低温と高圧によってメタンガスと水が結合したもので、これが燃料電池用の水素供給源になるのではないか、というのだ。日本の天然ガス使用量の100年分の埋蔵量があるといわれ、通産省などが試掘を始めている。
 トヨタ自動車は01年1月8日、このメタンハイドレートを利用して、新しい液体燃料を合成する技術を確立した、と発表した。将来は燃料電池車への活用も視野に入れている、としている。
 
 <熱もそのまま利用、発電所も送電線もいらない発電革命>
 燃料電池の大きな利点は、電気が得られるだけでなく、同時に発生する熱を捨てることなく、温水などの形で利用出来ることだ。これは熱電併給(コージェネレーション)と呼ばれ、工場でも家庭でも利用方法は無限といっていい。
 三井物産は米国の燃料電池メーカーや大阪ガスと共同で、家庭向けの熱電併給(コージェネレーション)システムを開発し、2003年にも発売する。プロパンガスから取り出した水素をもとに燃料電池で発電し、その際に発生した熱も利用する。価格は50万円程度に抑えるとしている。(01年9月4日日経)
 松下電器も燃料電池を使う家庭用の小型コージェネレーションシステムを開発。価格は100万円から120万円程度で、完成した試作機では最大出力1.3キロワット、廃熱により70度の温水が台所や風呂の給湯に使え、年間約5万円の光熱費が節約できるという。
 さらに、「燃料電池」が普及していけば、巨大発電所で電力を作り出し送電線によってはるか遠方の需要地点まで送電するという従来の発電方式は一変し、発電はすべて需要場所で個々に行う分散型となっていく。このことは原発はもちろんのこと、水力、火力とも発電所立地が困難を極めている折から、発電革命ともいえる激変をもたらすと見られている。巨大インフラがいらない、途中の送電ロスもなくなる、などメリットは大きい。

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人類は火星に立ち、移住を始める
 

 §ウェブコラム§
 地表から400キロ離れた空間で1998年11月から建設が始まった国際宇宙ステーションは、日米欧、ロシアなど16カ国の共同作業により、2006年にはサッカーグラウンド大の大きさとなって完成し、宇宙最大の人工物となる。6つの実験施設と2つの居住施設を備え、最大で7人の宇宙飛行士が長期滞在して、さまざまな実験や観測にあたる。この宇宙ステーションは、次のステップとしての月面基地建設や火星への有人探査など、人類が宇宙に飛躍していくための足がかりでもある。 

 <NASAが本気で取り組み始めた人類の火星移住>
 米議会の反対でいったんはつぶれた人類の火星探査計画が、新たな構想のもとに練り直され、21世紀の人類最大の事業として動き出した。1989年にNASAが公表した有人火星探査構想が、4500億ドルという膨大な予算がネックとなって頓挫、この直後に米航空宇宙産業の「マーティン・マリエッタ」は同社の技師のロバート・ズブリン博士に対案となる構想の作成を指示。こうして出来上がったのが「マーズ・ダイレクト計画」で、火星の資源を最大限に利用し、地球帰還用の燃料は現地調達するなどの方式で、NASAの当初構想の10分の1以下の予算で済む。この計画は大きな反響を呼び、NASAはこれをたたき台に新計画案を作成。現在、ズブリン博士は先端宇宙技術開発の新しい企業を興してNASAと委託契約を結び、国際協力によって構想を実現するため活発な活動を展開している。

 <火星協会も発足、居住構想の具体化推進>
 「人類が火星に旅立つ時がきた。決意さえあれば、我々は10年以内に最初の人類を火星に送り込める」。1998年8月、米コロラド大学ボールダー校で、火星協会の創立宣言が初代協会長となったロバート・ズブリン博士によって読み上げられた。火星探検や火星移住構想を推進するため、科学者、技術者、NASA関係者、一般の熱心な火星ファンら900人によって設立された民間組織だ。火星協会は、火星表面と類似点の多いカナダの北極圏に、火星居住棟のモデルを建設し、居住実験などに入っている。

 <国際混成チームで9カ月かかって火星へ>
 21世紀初頭には火星への無人探査計画が目白押しだが、人間を乗せた有人火星探査はいつごろ、どのように行われるのだろうか。NASAが描いている構想の一例としては、現在、建設が進められている国際宇宙ステーションを足場として、火星に向かう大型有人宇宙船を組み立て、そこから火星に向かう。この事業は国際協力の大プロジェクトとして行われ、乗員は各国から選ばれた混成チームになる。片道9カ月の飛行で火星軌道に入り、着陸船で火星に降り立つ。すでに無人探査機が送っていた探査車に移って、火星上を走り回る。この実現時期をめぐっては、早ければ2008年という見方から、2014年ころ、あるいは2020年ころになるのではないかとさまざまだ。

 <20年後の火星への有人飛行めざし、NASAが始動開始>
 NASAのゴールディン長官は01年5月8日に行なった講演で、今後20年以内に火星への有人飛行を実現出来るという見通しを明らかにした。同長官によると、今年から始まった火星探査の長期計画では、観測衛星や探査機をほぼ2年おきに打ち上げ、火星表面の水分や岩石の分析、周辺空間の測定データなどを積み上げて、有人飛行に備える。
 その皮切りとして、NASAは2001年4月に火星探査衛星「2001マーズ・オデッセイ」を打ち上げ、01年10月23日に火星を回る軌道に入った。今後、微調整をしながら火星表面から約400キロの円軌道に入る。NASAは今後、ほぼ2年おきに観測衛星や表面探査衛星を火星に送り、2011年ごろに火星の岩石を地球に持ち帰る。こうして得られたデータをもとに、火星の生命を探るための最適の着陸場所を決定し、2021年ごろに人類初の火星着陸をめざす。
 またNASAは、高出力で寿命が長い原子力エネルギーを使った宇宙探査機を、2009年に火星ヘ打ち上げる。

 <ロシアも火星有人探査構想>
 一方、ロシアの研究者グループも、火星有人探査計画に着手した、と01年4月20日の朝日夕刊が報じている。それによると、現在日本や欧米、ロシアなどが進めている国際宇宙ステーション建設の次のステップとして構想され、ステーション建設に加わった国々に参加を呼びかけて、2010年から2020年ごろの実現を目指す、としている。

 <数百年後には火星を第2の地球に改造>
 火星を将来、人間が住むことが出来る第2の地球に改造していこうという「テラフォーミング構想」も科学者、研究者の間で真剣に検討されている。地球で問題となっている温暖化を火星で人為的に起こして、大気の組成を地球に近いものにするとともに、温暖で豊富な水を持つ惑星に造り変えて、数百年後から数千年後には人間が住めるようにしようという壮大な構想だ。
 しかし、探査の過程で火星に生命が発見された場合、人類はどのような対応をすべきか、世界中を巻き込んだ難しい問題となることは必死だ。その生命が人類に有害な原始的な微生物だった場合などは、複雑な議論になりそうだ。たとえ人類に有害であっても、火星独自の生命や生態系は保護すべきだという議論と、人類の居住圏を拡大するためには有害な火星微生物が犠牲になることはやむを得ないとする議論などが激突することになるかも知れない。

 <NASAが2010年に太陽系外探査機、15年かかって系外へ>
 NASAは2010年をめどに、人類初の太陽系外無人探査機を打ち上げるため、高速宇宙船技術の開発をアラバマ州宇宙飛行センターで始めた。船体には炭素ファイバーなどの軽い素材を使い、秒速93キロとスペースシャトルの10倍以上の速度を出す計画だが、打ち上げてから太陽系を脱出するまでに15年ほどかかるという。

 <異星文明が発信する情報は、恒星間インターネットで受信>
 太陽系内の惑星に人類が移住を始めたり、無人探査機が太陽系外に飛び出していく日が来るのはそう遠くないが、人類が太陽系の外に飛び出していく日は来るのだろうか。それは、異星の文明とのコンタクトがどのように行われるのかという問題になってくる。
 米カリフォルニア大学のティモシー・フェリス名誉教授は、膨大な日数と時間がかかる星間旅行よりも、異なった星の文明が一方的に文明情報を宇宙空間に発信し、それを他の星の文明がいつか受信することを期待する「恒星間インターネット」を提案している。直接的な対話では、片道だけで何万年もかかってしまう公算が大きいが、この方式なら対話はないが、その文明の持つすべての情報や知的財産、歴史と文化などを、まとめて他の星の生命体に伝えることが出来、最も現実的なコンタクトという。

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バイオがITと融合して生命をデザインする

 §ウェブコラム§
 バイオは人間の不老不死を可能にすることが出来るだろうか。老化のメカニズム研究の結果、DNAの鎖の端にあるテロメアと呼ばれる塩基配列の繰り返し部分が、細胞分裂を繰り返すたびに短くなり、ある短さになると分裂しなくなることが分かった。テロメアの長さは若さの指標であり老化の指標でもある。このテロメアを継ぎ足すテロメアーゼと呼ばれる酵素も発見され、これが老化防止の決め手になるのではないか、と熱い視線が注がれている。人類は夢だった「不老」に向けて大きく前進するかも知れない。

 <米ベンチャー企業がヒトゲノム解読宣言>
 米ベンチャー、セレーラ・ジェノミクス社は、2000年6月、世界各国の熾烈な人間の全遺伝子(ヒトゲノム)解読競争から抜け出して、いち早く解読完了宣言を出した。当初は2004年までかかるという見方もあった全遺伝子解読が、予想をはるかに上回る速度で民間企業によって達成された衝撃は大きく、またこのことが生命情報産業の次の新たな段階に向けての競争を生み出している。DNAは、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という4つの塩基が、AとT、GとCの対になって、ヒトの場合は30億対が二重螺旋の形に連なって出来ている。DNAシーケンサー(自動配列解読装置)というハイテク装置300台を使って、この配列を一気に解読した。
 セレーラ社はこの解読結果を、各国の製薬会社や大学などに販売を始めており、日本では東大が契約を結んで有償でデータの提供を受けることになった。セレーラ社は、国際協力で作られる遺伝情報データベースには登録しないとしており、日本学術会議が抗議するなど波紋を呼んでいる。

 <イネゲノムも海外勢が解読、日本は大きく立ち遅れ>
 スイスの農業化学会社と米の遺伝子ベンチャー企業は01年1月26日、共同でイネのゲノムを完全解読したと発表した。
 日本の農水省はアジア各国との国際協力で2004年を目標にイネゲノム解読を進めていたが、完全に先を越された形となった。しかし、スイス企業らの解読成果が独占されるのを防ぐため、農水省は理研の協力を得て解読を急ぎ、年内にも解読データを公表したい考えだ。

 <バイオインフォマティクスという新しい分野>
 生命科学と情報技術(IT)を融合したバイオインフォマティクスという新しい分野が、21世紀の科学技術として注目を集めている。セレーラ社による人間の全遺伝子(ヒトゲノム)解読はその典型だ。いまや世界の競争は、解読された膨大な遺伝子情報の中から、意味のある遺伝子情報を見つけ出し、医療や新薬、食品、環境などさまざまな分野で応用する段階に入っている。とりわけ医療面では、ガンや糖尿病、さまざまな難病の治療と予防など、期待が大きい。伊藤忠、三井物産、日商岩井グループなど総合商社は、バイオインフォマティクスを新たな事業分野として開拓するため、ゲノム解読の新会社設立や投資を急いでいる。(01年1月20日日経)
 慶応大学は、バイオインフォマティクスを主要テーマにした「先端生命科学研究所」を山形県鶴岡市に開設し、01年5月13日に開設式を行なった。バイオインフォマティクスのほか、ゲノム工学などのコースがある。

 <DNAチップが世界を変える>
 人間の全遺伝子(ヒトゲノム)の解読はほぼ終了したが、日本はこの分野でアメリカに大きく遅れを取ってしまった。生命科学はいまや、ヒトゲノム解読の成果をもとに、医療や病気予防に活用していく時代に入り、関連製品やサービスは21世紀の一大ビジネスとして熾烈な競争となっている。通産省の試算では、ゲノムの解読・応用にもとづく医薬品、食品などのバイオ産業は、関連分野を含めると2010年には25兆円規模に膨れ上がる。
 その突破口となるのが、DNA断片を数センチ四方の小さな基盤に固定したDNAチップと呼ばれる遺伝子情報解析ツールで、バイオインフォマティクスの最も劇的な応用として、すでに実用化の段階に入っている。人間を含むさまざまな生物の遺伝子を高速・安価に分析出来る。いわばバイオ版の半導体だ。
 このDNAチップは、それぞれの個人ごとに病気の原因となる遺伝子を特定することが出来、具体的な遺伝情報に基づいた治療や投薬を可能にし、さらに病気そのものの発病を防ぐことが期待されている魔法のチップだ。日本がDNAチップで巻き返しをはかることが出来るかどうかに、21世紀の日本のテクノロジーそのものがかかっているといわれる。
 一方で、遺伝子診断がもたらすさまざまな負の問題点も多い。悪意のあるテロリスト集団や排外的な民族主義グループなどが、DNAチップを悪用することは防げるのか。もっと身近なところでは、遺伝病の因子を持つ人が教育や就職、結婚などで差別を受けることをどうやって防いでいくのか。パンドラの箱を開けてしまった人類は、新たな重い責任を負うことになった。

 <DNAチップ開発に企業も続々>
 千葉市のベンチャー企業と九州大学のグループはこのほど、より微量の遺伝子でも簡便に解析できるDNAチップの開発に成功した。省コストと省力化によって、臨床現場でのDNAチップの利用に大きく道を開くものと期待を集めている(1月18日読売夕刊)。
 三菱レイヨンは、研究者や製薬会社などのために、DNAチップのオープンラボ(開放型研究室)を2001年4月下旬から横浜市内に設置し、遺伝子診断市場に本格的に乗り出す。(01年3月15日朝日)

 <人間の臓器を作リ出す再生医療への期待>
 遺伝子情報を活用したり、臓器研究の成果を生かして、いま注目されているのが、病気やけが、火傷などで傷ついたり失った人体組織を、人工的に作った組織に置き換える「再生医療」の可能性だ。カギを握るのが胚性幹細胞(ES細胞)と呼ばれる万能細胞で、この細胞は神経、血液、心臓などさまざまな組織や臓器に成長していくことが出来る。ヒトのES細胞から特定の臓器を作り出す技術に成功すれば、再生医療の革命となる。その場合のガイドライン(指針)づくりも急務とされている。
 米国立衛生研究所は、ES細胞の研究予算として、2002会計年度から年間1億ドルを拠出することを明らかにした(01年8月14日読売夕刊)。
 イギリス議会上院では01年1月22日、ES細胞を分離・培養してクローン技術を人間に応用することを、医療研究に限って認める法案が、世界で初めて可決・成立した。
 日本でもこれまでは倫理上の問題から、ES細胞についての踏み込んだ研究が難しかったが、01年8月1日、政府の総合科学技術会議・生命倫理専門委員会がES細胞の研究指針をまとめ、研究が解禁。国内では、京都大学がマウスのES細胞を使ってドーパミン神経を作り出すことに成功し、また大阪大学もマウスのES細胞から運動神経を作る実験に成功している。
 米ウィスコンシン大学は、すでにヒトのES細胞の大量増殖に成功しているが、このほどヒトのES細胞から血液細胞を作り出すことに成功した。血液細胞を大量に作り出すことが出来れば、輸血や骨髄移植などに利用できるとして、期待を集めている。一方、イスラエルの研究グループはヒトのES細胞から、心筋細胞を作り出すことに成功した。(01年9月4日読売)

 <京大が国内で初めてヒトES細胞を作成>
 京都大学再生医科学研究所は03年1月、国内で初めてヒトのES細胞の作成を始めた。出来た細胞は03年秋以降に、国内の研究者に無償で配布する。(03年1月31日各紙)
 同研究所の倫理委員会は03年11月19日、作成したヒトES細胞を大学や研究機関に分配するにあたっての規則を承認し、全文を公開した。(03年11月20日朝日夕刊)
 同研究所は01年12月、人間の凍結受精卵からES細胞を作る計画を、文部科学省に申請し、02年3月に文部科学省が条件付きで承認した。
 これより先の01年11月、京都大学の「医の倫理委員会」は医学部の中尾一和教授らの研究グループから出されていた、ヒトのES細胞から血管を作る研究を承認する方針を決定。中尾教授らは00年、マウスのES細胞を使って、血管の立体構造を効率的に作る方法を開発していた。
 一方、信州大学医学部は01年12月、ヒトのES細胞を使って心筋細胞への分化の研究などに取り組む計画を文部省に申請した。(01年12月8日日経夕刊)
 また、岐阜大医学部の研究チームは、マウスのES細胞から目のレンズや網膜の視細胞をつくることに成功した。(02年3月31日朝日)

 <テーラーメード医療や、遺伝子そのものを投与する試みも>
 個々人の遺伝子情報に基づいて最適の治療や投薬を行う「テーラーメード医療」についても盛んに研究が進められている。
 国内の製薬会社43社は01年2月1日、日本人約1000人を対象に、ゲノムのどの部分の違いによって、薬の代謝や副作用にどんな影響があるかについての共同研究に着手し、テーラーメード医療の実現を目指す、と発表した。
 また遺伝子そのものを薬として投与する試みも研究され、抗ガン作用のあるインターフェロンを作る遺伝子を脳腫瘍の部分に注入する試みが、2000年4月に国内の大学で試みられている。摘出手術が難しいガンへの治療方として注目されている。
 第一製薬は、血管を新しく作る遺伝子を体内に送り込む遺伝子医薬品を、末梢動脈疾患などの治療薬として、2005年に販売する。大阪のバイオベンチャーが、国内で初めてオリジナルの遺伝子医薬品として開発したもので、第一製薬が国内での販売権を獲得した。(01年1月16日日経)

 <遺伝子を操作して脚に目を持つハエ誕生、人間への応用さぐる>
 スイス・バーゼル大学のウォルター・ゲーリング教授は、目を作り出す遺伝子を使って触覚や羽、脚に目を持つハエを作り出している。同教授は、人間の目を作り出すことも可能だとしており、スイスの眼科医のグループとともに、この遺伝子を使って網膜を作る研究を進めている。視覚を失っている人への再生医療としての応用が注目されている。

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 ドビュッシー作曲 アラベスク 第1番ホ長調

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