2002年Photo&Poem特集1月号

 


















 ある真冬の情景                                    

                  yk  





山並みの稜線は 遠く幽かに

見渡す限り 幾重にも連なって

空に向かって繊細なシンフォニ−を響かせる



どういうわけか きょうは

浮いた雲さえ まったく動かず

山の一本杉も眠ったまま



時は午後

季節も真冬の行き止まりのこととて

風の時計もいつしか消えた



空は明鏡の湖面のように澄み切って

その青みの奥の奥

永遠への遊歩道が見えてくる

















 


冬の遊歩道
           
織部夕紀




いつもと違う帰り道

いつもと違う

水色の冬空



この道のむこうは

空と大地がつながっているようで

いつまでも

歩いていたくて



でも今は ひとり

冬空は低く

低く私の上にのしかかってくるようで



次の曲がり角で

いつもの道に戻ろう



冷たい夜に

さらわれないうちに













作者のHP http://www.asahi-net.or.jp/~nk3y-tnb/







 

 
誰かに逢えそうな道
                  星粒




ここは ひとつの

嫁いだ街の 道に過ぎない。



頑なな私の

歩いてきた

無数の道の

一本の道に 過ぎない



しかし

ひなびた街ではあっても

其処かしこに

陽だまりが生まれて

ずっと歩きつづければ

わたしのような

よそものが

誰かに逢えそうな予感を

抱いて

こちらとすれ違うかもしれない。



とうのむかしに

雲のように胸に浮かんでいた

明るい兆しなど忘れてしまったかのようだが



こうして

ほんの少し背中があたたまると

誰かに

逢えそうな道だと

想う



其れがこどもでも

其れがおとなでも

其れが野良犬でも

むこうからちいさな 

点だったものが

こちらへ近づいてくる



ひなびた街の

ひなびた



陽だまりの道がある。










作者のHP http://www.avis.ne.jp/~peanuts/watasinosi.htm






 

 お天気
             
ひろゆき



あんまり天気が良いので

太陽が僕と君と犬を引っ張って

公園に連れてきた

ああ こうしていると

本当に気持ち良いね

うちでテレビを見てるよりずっと

幸せだね

尻尾だって ほら

こんなに振れている

今度は植物園に行こうよ

お日様の分まで

お弁当を作ってさ












































 
散歩道
             
加藤



しっとりとした土を踏む音

耳もとに融けた雪の滴

見つけに来たもの

あちらから冷たい風

こちらへ千切れた雲

体の中から日の光

期待しなかったもの

感謝しているみたいな

さりげない挨拶

微笑み返しただけ

体の中から日の光

鈴の音のような冬の匂い

姿の見えない雀の声

探しにきたもの

歩いて来た道

ここから見える景色

少し先の屋根だけ見える東屋

振り返れば光の道

体の中から日の光

この先は光の萌える道

歩き慣れてしまった道

だけどいつもと違う道

再び出会う道

新しく出会う道

愛しい何かが

一秒先から包む道











作者のHP http://www.f4.dion.ne.jp/~hermit/












 枝・ヒヨドリと空
                    七呼




枝がキイと鳴きます

鳴いているのはヒヨドリですが

あまりにも、枝と一つになるようにいるので

それはもう枝がさえずっているかのように聞こえてきます

冬の日

その鳴き声を羨ましがる一人の空は

その声を、遠く広く響かせて

自分の泣き声をかき消していました



























 雪 色
               七呼





解かされる

それは雪の意思ではなく



解けたいのではなく

解かされてしまう



それは報い



色彩 それは様々であるからこそ

景色は調和されていて



雪色



その白はその調和を壊した



そして報いとして

解かされてゆく



でもそれは無実の罪



全ての目を奪うほどの白

それに嫉妬した景色達の仕業



春に出逢うことのない雪



その留まりたかった思いだけが

僅か その景色の中

小さな光る雫

その中にだけ残る



解かされた雪

その色 雫色



太陽は償う



その事実 見抜けず

解かしてしまったことを



春先 照らされた雫

その中に僅か 雪色



その雪色 



僅かに春を映し

出逢うことはなかった






























 雪の夜

           
夜行星




しんしんと

ふける夜の中

ただようつぶやきを拾いながら

舞い降りる白い雪のピース

ほんの些細な風に

大きく揺られながらも

ポッカリ空いた

パズルの枠を埋める

道路も

家の屋根も

庭の木々も

昼間つぶやいた記憶の分だけ

刻んだ枠を白く埋められるのだ



こんなふうに

全てが肩書きを失う

白と黒だけの世界で

こころを満たせたら

色を覚えるたび

曖昧になってきたことばもいらず

互いの好みの配色に

合わせようともがくこともなく



ぼくらはもっとすなおになれる

ぼくらはずっとやさしくなれる



降り続けるつぶやきの結晶

きみのほんとうの声は

いったいどこに積もったのだろう
















作者のHP  http://homepage1.nifty.com/yakousei/index.html













  雪一夜
              榎本 初  



 ほのかな晶〈ひかり〉を落としていく



 やわらかく あたたかく

 白は

 殷賑の街を抱きしめて
 


 顔上げて 頬笑んで

 君は

 小さな靴跡を置いて行き



 ひた歩き 細雪

 僕は

 千の星霜を見つめながら



 心の宝 探しながら

 天は

 ほのかな晶を落としていく



 たしかな晶を落としていく












作者のHP http://www1.gateway.ne.jp/~well/ 












      AM BEAT
                            かのっぴ




触れると痛い空気に囲まれ

明けきらない闇を照らす

街灯と車のヘッドライトと

向こう側には沈みかけた月



霧に包まれたサイクリングロードで

かつてそこを駆け抜けた軽便鉄道の

内燃機関のイメージを借りて

昨日までの命を燃料にして

軌道に刻む靴音のリズム

吐き出す白い蒸気



熱い液体を送り出すポンプと

徐々に熱気を帯びる司令塔

心のソロと体のビートが

今日を生きるためのマーチを奏でる

毎朝繰り返される即興演奏の熱いライブ



前進するにつれ増える群集の

渾然とした音と熱気のなかで

静かに目を閉じて耳を澄ませば

熱い演奏はまだ響いている

歌詞も曲もない

ポジティブなメッセージがこめられた

自分のなかのビート



ふと気がつくと

朝の空気はもう痛くはない





















 飛行機雲
              nonya



ぼんやり聞こえてくる爆音に

何気なく顔を上げたら

商店街の細長い空を

斜めに過ぎる飛行機雲



吹きつのる季節風に

端から少しずつ擦れていく

頼りなげな白線は

何処かで見かけたことがある



欠けたチョークで描いた

不恰好な相合傘

自分の名前の隣には

あこがれの君の名前



人影の絶えた放課後の

教室の匂いに息が詰まりそうで

思わず黒板消しを掴んで

思い切り乱暴にかき消した



ときめきと後ろめたさは

消し損ねたチョークの跡となって

心の一番深い所へゆっくりと

沈んでいったと思っていた



遠い目をして眺める

青く凍てついた空に

すっかり忘れていたはずの

君の名前が消え残る




妙に照れくさい想い出に

無理に歪めた唇を

薄荷の匂いのする風が

そそくさと掠めていった











作者のHP http://www.interq.or.jp/rock/nonya











WHITE

                                     夜行星

 


しろいみち

このみちは

いつからここにあるんだろう

誰にも見えない

名前さえわからない

ただ

誰かがとおったような気配だけ

影のようにわだかまって



このみちは

どこに続いているんだろう

目的のない旅人が

いつのまにかまよいこみそうな

そしてそのまま

とどまっていたいような

やわらかな欲望



きみの目が

みていたゆるやかな記憶

ぼくの目が

忘れようとしていた遠い坂道

そのどれもが

みだした足元から

じんわりと

雪解けのように

にじみ出てきそうだけど



今は

もうやめておこう

季節の風が

ゆっくりと廻ってきて

とかしだす

春の道しるべが

行く先を決めるまで













作者のH作者のHP http://homepage1.nifty.com/yakousei/index.html








         
 ひろゆき





冷たい風が

痛みを運ぶ



まるで

怒りのように



我慢するしかないのだ

と僕は自分に言い聞かせる



戦ってはいけない

もがいてはいけない

悲しい顔をして


じっと耐え続けるのだ



冬とは

そんな季節なのだ

肩を丸め

首を引っ込め

じっと足元だけを見つめて

歩いていこう



どこまでだって

歩いていこう

この痛みが

なくなる日まで













 作者のHP http://www26.tok2.com/home/yashiropoem/








 2002年Photo&Poem特集1月号

  

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