2001年Photo&Poem特集 No.7

    
11月号
   






 想
          
 銀色




カレンダーの厚みがなくなって、

なんだか寂しくなる。



仕舞い込んだ冬物を取り出して、

去年のことを思い出し笑い。



毎年こうやって時間を過ごし、

確実に年を経ていく。



着古した衣類にみつける

暖かな毛糸に編みこまれた、

幸せな思い出。







作者のHP http://www.rinku.zaq.ne.jp/bkacc704/





































































秋の深まりは どこか まどろみの 海に似て
                                           yk




庭先に出たら

さまざまな落ち葉



白茶けたコンクリ−トの上に

ひからびて

かるく まるまって



ふと それを

浜辺の貝殻のようだと 思った



運び寄せた波は

時の波だろうか

いまも

風が たがいの位置を変えたりもする



葉脈を流れていたはずの

血のようなもの

全うされた 生の 余韻



潮騒が聞こえるような気がして

耳を澄ます



太古から

波のようにくりかえされてきた

生の営み

かすむ 想い



小春日和の午後の日射しに

落ち葉たちは どこかしら

できそこないの 標本のよう



足下には 寄る年波

ひたひたと 寄る年波

自分の影を もてあましたりもする昨今だが・・・



つましく居並ぶ霜枯れた草の葉先

そのまどろみを見つめる



おだやかな秋の日射しの

その光の中に

遠く 時の海の 水平線が

見える ような

気がした





















 秋の湖水
               yk




深山(みやま)の 湖を取り巻いているのは山ばかりなので

「 文明 」 も 「 社会 」 も 

ここからはすべてが隔離され

まるで古(いにしえ)のそれと全く変わらぬ営みが

ただ延々とくり返されているように見えるのであった



眼前にある風景は

まぎれもなく現実であり

同時にまた

想い出のようでもあり

さらにまた

伝説のようでもあり

どこかしら

未来のようでもあって



息をするたびに

冷涼な気が鼻腔や胸にしみて

思いがしだいに透きとおってくる

耳も目も 

奥深い静寂に洗われて新しくなる



< 今までのことは いったい何だったんだろう?>



葦の先にアキアカネが止まり

次の瞬間 一陣の風にかき消されるように消えた

ときおり ゆっくりと微風が吹いて

さざなみが西日を煌めかせる



凪いだ湖面はすべてを映す

やがて

真一文字の水面が

本来の規矩に思えてきて

心も 水と光だけになる

















夕陽に向かって
                   
くた




加賀一の宮駅裏の公園から


手取川にかかる橋を歩き

まん中のちょっと手前で

深く 一息




  トン トン トン トン

  公園の方から二つ過ぎの僕がやってきた

  夕陽に眩しそうな顔をしながら

  誰の後をついてきたのやら



  タ タ タ タ 

  公園の方から小学校に入った僕が走ってきた

  変身ポーズをとる間に

  皆に追いこされてしまった



  ガー ガー ガー ガー

  公園の方から自転車の僕がやってきた  

  少年野球のユニフォームで

  はじめて試合に出た日の帰り
   



  みんな夕焼けになって消えていった
  



  もう公園の方からやってくる

  僕はいない と

  談笑しながら

  三十過ぎの夫婦が歩いてきた



  あれは父と母

  かと 見ているうちに

  何も言わずに微笑みをたたえる

  六十過ぎの夫婦になって通り過ぎた  



  水の流れと葉ずれの音が

  山から降りてきて橋を通り過ぎた   




タン タン タン タン

あれは誰 と公園の方を見ると

五つになる息子が走ってきて

僕の手を引っ張った



トン トン トン トン

遅れて公園の方からやってくる

二つ過ぎの弟は

夕陽に眩しそうな笑い顔



そうか もう家に帰ろうか 














作者のHP http://www.hamq.jp/i.cfm?i=kuta











シーソー

                  
夜行星


 

あいまいな

バランス感覚が

かもしだす

ぼくときみの

浮き沈みの構図

向かい合ったときの

視線の高さを気にして

微妙にくずれる

前かがみと背中そらしの

かけひき

 

心に汗して

つりあっているだけでは

ものたりなくて

二人で比べあう

支えている重さと

抱えている重さ

 

空に少し

きみが上がっていくとき

うれしさのあまり

ぼくは少し意地悪な気分になる

お互いを

信じていることと

信じられていることの充足感を

その笑い声は

どれほど感じているんだろう

ぼくがここで飛び降りたりすることを

決して疑ってない

きみの笑顔を盗み見ながら

青空に湧き立つ雲に

問いかけてみる









作者のHP http://homepage1.nifty.com/yakousei/































OLD PIANO SONATA
                                 
夜行星

 

忘れられていた

部屋の片隅の記憶

うっすらと積み重なっていた

音のない日々の音階

 

張りつめた静寂を開いてみたのは

幾分錆付いた金具の

モノトーンの思い出話

 

ひとつひとつ

君の手のなかで

語られるGの旋律が

やがていくつもの

古い午後の調べを

色褪せた五線譜の中に

浮かび上がらせて

 

満たされていく

止まっていた時間

この部屋の

片隅で

塗り残されていた

最後の色合い










作者のHP http://homepage1.nifty.com/yakousei/




















 紅〈くれない〉
                  榎本 初


紅葉の美しさなどというのはどこにもなくて ・紅葉〈こうよう〉
ただ楓の葉自らが頬を火照らせていくだけで
山野に錦絵が描かれていくなど人が言うのは
思慮がない筋違いもいいところであって或は
人がたかだか一万年の青二才に過ぎない証で
あるとも言えてこの蒼い星は三十八億年の間
弛みなく謳う踊る生命万物主演の舞台である ・
弛みなく〈たゆみなく〉

舞台の端に佇んでいる僕の瞳が朱色ではない
赤いのでもない紅の一枚に堪えられないのは
秋空とのコントラストが目映いからではなく
秋空との別れ荼毘の炎が揺れるからでもなく
ただ紅の色をしているからというだけであり
他に理由などなくてそれは紅色の葉が美しい
という意味ではなく意味なんて在りはしない

ただ生きているというだけでよいのであって
紅の葉はただ生きていて歌であり舞であって
暮れることのない光を浴びているのであって
僕らは弱輩者は意味というものを添えないと
日が沈んでしまうと思い込んでおり臆病者で
弱虫でステップを踏んで小股でぎこちなくて
形振りかまわず冬へ向かう顔が紅潮していく ・
形振り〈なりふり〉

 


作者のHP http://www1.gateway.ne.jp/~well/






















夕暮れ
             nonya




剥き出しになった電線に

切り刻まれた夕日から

滲み出すオレンジ色の血潮



一夜にして枝葉を落とされ

無念の拳を空へ突き上げる

街路樹の黒い影



夢見るように

朽ち果てていくことさえ

許されずに



いきなり

季節を寸断されてしまった

殉教者たち



不条理な胸やけが

ささくれた胃壁を

思う存分逆なでする



行き場を失った怒りが

はけ口を求めて

小さな傷口に殺到する



本当は何に

苛立っているのか

それすら分からずに



自転車のペダルを

力任せにこぎ続ける

行く手に



高層ビルは

ふざけたパステル色に

上気して



頬をなで切る風が

決して生易しくない

夕暮れ















作者のHP http://www.interq.or.jp/rock/nonya


 


 





     
  自転車
                             
下社裕基



          
ゆっくりと

        夕方が下りてくる

        わたしたちの一日に

        わたしたちの家に

 

        だれも

        あらそったりしてはいけない

        生徒も 先生も



        ただ まな板の音がして

        ルウの溶ける匂いがして



        道も

        あらそってはいけない

        刈りこんだ草や

        高慢な人と



        坂道をころがる

        自転車も

        ただしずかに

       下りてこなきゃいけない



        わたしたちのまわりに

        詩が

        このように

       下りてきてくれたら・・・・



       湖をたたえた

       わたしたちの日々の瞳のうえにも



       毎日が しずかに

       暮れていきますように

       わたしたちが子どもだった日の

       ながい夕方のように

       ゆっくりと

 






















































 輝く時

             nonya



自分が輝いていたという記憶は

心の溺れ谷の底に沈んでしまった

空想の鞄をどこかに置き忘れたから

好奇心はもう旅をしなくなった



何も見えなくなってしまった瞳で

情報という名の灰を受け止めながら

夢も掴めなくなってしまった握力で

時間の背びれにしがみついていた



そんな自分を好きになれなくて

他の誰かを装ったりもしたけれど

光の中でかざさなければ

輝かないものなんてもういらない

自分自身を素直に生きて

もう一度 輝いてみたい



誰もが心のフィヨルドに

光の石を隠し持っていることを

忘れている



日常の分厚い苔に覆われたその石は

ただうずくまっているだけじゃ

輝かない



こだわりの足枷をひとつずつはずして

自由になった心の底で

光の石は転げ始める



動き出した心の壁にぶつかりながら

囚われの苔を削り落として

光の石は輝き始める



多面体の光の石が

心じゅうをカラカラと転げまわる



くすぐったくて

くすぐったくて

大きな口を開けて

腹の底から笑えたとしたら



その時こそ

本当の自分が

輝く時













作者のHP http://www.interq.or.jp/rock/nonya










































 
秋葉織(あきはおり)
                     榎本 初




焦げ茶色のカーディガン


はおり


そぞろ歩く 公園の歩道


わたり


夏の日に見た

ぶっきらぼうなアスファルトを忘れて


ひらり


かさなり


しゃしゃっ しゃしゃっ

靴底から伝えられて


ただ ぬくもり

を 祈り


かおり ではなく

葉がほぐれていく におい


焦げ茶色のカーディガン


陽のひかり 滲んできました














作者のHP http://www1.gateway.ne.jp/~well/


    2001年Photo&Poem特集 No.7

    
11月号
   
※著作権はそれぞれの作者のみなさんに帰属します。

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