2001年 Photo&Poem特集 No.3  7月号





               












Kitchen
                    nonya




背中越しに交わす

他愛ない会話がいい

近すぎず 遠すぎず

君の側にいられるのがいい



あまり上手じゃないハミングの周りで

立ち昇る湯気が和らぐ

とても懐かしいにおいの風下で

閉じかけた自分がほころぶ



つまらない喧嘩をした後も

君はお皿の触れ合う音で

答えてくれた

気まぐれなプレゼントを贈った後も

君はシンクとガスレンジの間で

スイングしてみせた



心が少しへこんでいたら

僕は君の背後から

付け合わせのプチトマトを狙う

振り向きもせずに

つまみ食いを企てた僕の手を

軽くたしなめてくれるだけで

心に温かい空気が充填される

僕は半日分だけ浮かび上がれる



それはさておき

今日はスペシャルハンバーグ目玉焼き添え



やすらぎを真ん中に置いて

さあ 向かい合おう




































10 YEARS AFTER
                             nonya





プチトマトの実がついたと

子供のようにはしゃぐ君の瞳は

まだ昨夜の喧嘩のことを

忘れていないよと言っている



後ろからのぞき込む

バツの悪い僕の視線は

幼いトマトと君の横顔の間を

おそるおそる綱渡りする



互いの手の内が

分かり過ぎるゲームは

どちらかが潔く負けなければ

いつまでも終わらない



今日の朝食は

かなり焦げたハムエッグと

苦いだけのコーヒー

息の詰まりそうなダイニングの片隅で

今日は君の大好きな

ケーキを買って帰ろうと思った



自分の荷物は自分で背負わなきゃと

偉そうに言っておきながら

君の荷物に甘えやわがままを

忍び込ませた僕の負い目は

ますます君を強くさせ

ますます僕を情けなくしていく



微妙なバランスのとり方とか

正確な距離の計り方とか

そんなことばかり学んだ

10年間だとは思いたくない



よく似たふたりと言われるけれど

君は今でも君らしく

僕は今でも僕らしいと

信じていたい



いつもの曲り角で

何気なく振り返ると

僕のあやふやな後ろ姿に

君はまだ手を振ってくれていた















作者のHP  http://www.interq.or.jp/rock/nonya/











午後2時13分 イルカ通りにて
                                      
かのっぴ





35℃



紙で出来た淡い街を僕は踏みつけている

弱々しい光と温かすぎる熱に包まれている

甘すぎる炭酸飲料は内側で僕を溶かす

ただでさえ淡い僕は紙細工になる





石畳



陽がよどみをつくっているあのあたりで

そのゆったりとした流れに身を任せていた

目を閉じた僕は優しすぎる時と戯れながら

逃げ水といっしょに人目を避けて消えていった





街路樹



風は忘れっぽい僕に気づいてもらうために

木の葉で音をたてながら通り過ぎていった

蝉は木の葉の音に重なることで記憶を呼び覚ます

幼い頃に夢中で泳ぎながら浴びた水飛沫を













作者のHP http://www11.u-page.so-net.ne.jp/sc4/kano-i/index.html#contents
















































Growth
                    nonya





コンクリートの舗道から

唐突にはみ出してしまった

名も無き草



引き千切られても

踏みにじられても

へらへらと風に揺れている



雑草になりたい



光と水のことだけを

考えたい

光合成することだけを

目指したい

隣りのフェンスに巻き付くことだけに

集中したい

ささやかな花を咲かせることだけに

憧れていたい

密かに種子をばら撒くことだけを

企みたい

枯れてしまうことなんて

理解できなくていい

真っ直ぐに成長することだけを

夢見たい



青く晴れ渡った昼下がり

太陽が南中した瞬間を

永遠に実感することができるDNAが

欲しくてたまらない
























作者のHP  http://www.interq.or.jp/rock/nonya/











紫陽花
               
ひろゆき



僕の町に

万里の長城はないけれど

青紫の

美しいアジサイがある



僕の町に

ピラミッドはないけれど

咲いたばかりの

小さなアジサイがある



いとしい

思い出のような














作者のHP  http://www26.tok2.com/home/yashiropoem/
































青い風景
                   
織部夕紀




静かな雨に濡れている

アジサイの色も

車の轍も

青く滲んで

昨日届いた手紙の一行も

青くなる

書き始めたときから

何日も後に書いた追伸の

暗号のような言葉が

また雨に滲んで

見えなくなりそうで

震える手で

大好きな本の

大好きな台詞の中にある

キーワードを

見慣れた文字の隙間にはさんでみる



「愛してる」

と滲んだ文字が

指先に染みる



青い風景

アジサイ色の道

通りすぎていく車の音

よみがえる

あなたの声

遠くの窓から






















紫陽花
                 
夜行星




春のほころびを待って

静かに開いた花弁は

まだあどけなさの残る

通りの看板娘

行き交う人の視線に

ほんのりと

ほほに赤みを湛えて

 

ひとあめ降り注ぐごとに

空の温みを湛え

少しずつ

おとなの顔になっていく

傘の居並ぶ

下の風景

 
ひといき入れた梅雨空に

つかのまの晴れ間がさす

 

慣れないしぐさのままで

ほほえんでいる

においたつような

むらさきの麗人

 

雫のピアス光らせて













  作者のHP  http://homepage1.nifty.com/yakousei/index.html

 











すぐり
                
yk



すぐり 酸塊

その実は
のスケルトン



すぐり 酸塊

それは 凝縮された 生命(いのち)の
宝珠



すぐり 酸塊

自身もさながら小宇宙にして

かつ 空を映して光る




すぐり 酸塊

さみどりの葉陰の

愛らしき
連珠





















あかい実のうた
                        
夜行星




あかいあかい

そのきらめきを

運ぶ調べ



寡黙な土の愛情と

陽気な風の温もりと

生い茂る葉からこぼれ来る

夏の陽射し



ゆっくりと

流れゆく主旋律に乗って

丹念に

磨いて

磨かれて

内側まで研ぎ澄まされた

その宝石の

あかいあかい

命の輝き



それはいつ

ついばまれるのだろう

不意に幸運を得た小鳥によって

この雲ひとつ無い空を

永遠に

その囀りひとつに

閉じ込めたまま



それはやがて

どこで生まれるのだろう

新たなる

このうたの始まり












作者のHP  http://homepage1.nifty.com/yakousei/index.html











半分の夏
              
星粒




ビアホールの賑わいに

すどおりの主婦はわたくし

半分の夏

半分の安い西瓜を買いました。

腎臓のよわいひとには

西瓜が効果的ですので。



虫網を抱いて

虫をさがしにいくこどもたちは

デパートで売っていることを知りません。

過去のような

とりのこされた

水彩画の

風景が

ここいらあたりには

存分

残っているので

すだれをおろして

うたたねします。



半分の夏



海の無い

半分の夏



線香花火は

ヒグラシが鳴くまでお預けです。









作者のHP http://www.avis.ne.jp/~peanuts/watasinosi.htm











く も
                     夜行星




青空にゆったりと

浮かんでいる

流れる夢の襞

とても柔らかそうで

思わず触れてみたくなる

手を伸ばせばとどきそうで

この縁のないキャンバスの上

きみはどこからどこへいくのか

風の筆でなぞられるがままに

いくつも表情を変えながら

ついさっきまで

同じ地面の上で空を映していた

水たまり

自転車でとおりかかった

近くの川の流れ

きみを追いかけたぼくの額から

消えていた汗の粒

そのどれもが

今のきみに見え隠れする気がして

 


だからかな

この懐かしさはどこからくるのか

空に聞いてみるまでもなく

なごんでしまう

きみのなみだを受けた日の

てのひらのぬくもり













作者のHP  http://homepage1.nifty.com/yakousei/index.html












雨あがり
               
織部夕紀




この風のなかに

どれだけの夏が生きているのだろう

一瞬の雨に洗われた

冷ややかな空気のもとで

重なる雲や

鮮やかな花の色に

何かを感じとろうとするほど

待ち遠しい季節ではないのに



風は確実に季節を呼ぶ

いつでも

私の足もとや耳や髪の近くを通り

神経の隅のほうから

感覚を揺らしはじめる



確実なものと

曖昧なもの

そのどれもが一雨ごとに

浄化されてゆく

たとえむせるように陰鬱な

梅雨の薫りの中でさえ

ときどき崩れ落ちるようにして

洗われていくのがわかる



風に揺られてもう一度辺りを見た



確かな夏の光

私はそのとき

長い航海へ発つ準備を始める
















作者のHP http://www.asahi-net.or.jp/~nk3y-tnb/












               
かのっぴ



澄み渡る青空

夏の匂いの原っぱ

洗濯物 農家の軒先

帽子の影に隠れて

原っぱの段差に

そっと腰掛ける

ここには駅があった

電車は今もあるけど

人たちの出会いと別れは?


帰り際 昔の改札口に

そっと置いてあったノート

落書きでいっぱいになってた












作者のHP http://www11.u-page.so-net.ne.jp/sc4/kano-i/index.html#contents












太陽の季節
                     
かのっぴ



君は明るいね

君は暖かいね

君の光を浴びて

とても気持ちいいよ

君は意地悪だね

君は厳しいね

君の光を浴びすぎて

とても気分が悪いよ

でもこの星の全てのものが

君なしでは生きて行けない

これからは君が

一番元気な季節になるね

その明るさに照らされて

その暖かさに包まれて

僕等は君の季節を過ごす

胸を弾ませながら












作者のHP http://www11.u-page.so-net.ne.jp/sc4/kano-i/index.html#contents









夏の誘惑
                                    キトキト虫+Mr.W氏
   





海という大きなボクの引出しから

青い夏という 夢をひとつ持ち出して

家出気分で 旅に出てみようかな



風が道を教えてる

空も何かを囁いてる

ドキドキすること

見つけに行きたくなる



僕を 見つけにいこうかな

ホントの自分胸の奥に押しこめて

雑踏の中 埃まみれだった毎日



風が口笛吹いてる

波が笑顔で答えてる

ワクワクすること

待ってる気がしてきた



キミを見つけにいこうかな

ボクとキミが出会えるのは

青い青い夏の風景の中



二人きっと 笑顔で出会えるはずさ

季節は 輝き出した

新しいこと始めようよ
















       
作者のHP  http://www.geocities.co.jp/Bookend-Shikibu/7528/









































明日 泣こうと思う
                      
くた




明日

海を見にいこうと思う

君の書いた童話を持って



午前中に行けば

ゆっくりと

思いだすことができるだろう



降っても晴れてもかまわない

どちらにしても

君を思いだしてるだろう




明日

海を見にいこうと思う

君の書いた童話を持って



おそらく

半分も読めはしないだろう

それで十分だ




明日

海を見にいこうと思う



海を見にいこうと思う




そして夜には

空を見ようと思う

君の好きな童話を持って



天の川に広がる

いくつもの物語が

聞こえてくるように



降っても晴れてもかまわない

どちらにしても

君を思いだしてるだろう




ずっと

空を見ていようと思う

君の好きな童話を片手に



もちろん

南十字星に辿り着けないだろう

それで十分だ




七夕

空を見てようと思う



空を見ていようと思う














    作者のHP  http://laguz.gaiax.com/home/kuta













無人駅
             
夜行星




人気の無いホームの先に

妙に景色に溶け込んだ

古いベンチがある

まるで

見送る人の置き捨てた行き先が

幾重にも

溶け合い固まったような色あいで



風に舞った時間の蟠りが

枕木のすき間から萌え出し

殺風景な鉄の軋みに

夏の彩りを添える



子どものころは

いつも気になっていた

この駅の先から

絞られていく一本道

陽炎の向こうに

おぼろげにそびえているものが



用意された路線を巡り

降りるべき駅を探し

見えなかった白地図を

思うがまま塗り潰していくうちに

知らず知らず

乗り越してしまった



「親」という名の駅

その先に続く

ただ一筋の線路は

幾度も曲がりくねって

山間の無人駅を繋いでいく








2001.8.17

作者のHP  http://homepage1.nifty.com/yakousei/index.html












光輝くものばかり見て生きていたい
                                         加藤




酷いバカに見えてしまって 

救いようがないと笑われてもいいから 

光輝くものばかり見て生きていたい

行く先々で善意ばかりを見つけて

心の底からは思いやりを引き上げ

 ダサい奴と言われてもいいから

 手を差し伸べてみたい

光輝くものばかり見て 

空に溶けるくらい満たされてみたい

同じ望みを持って

悉く失敗した人達のように

立派なのは遺骸の装飾品ばかりというのは

 絶対に御免だ

 

 








作者のHP http://www.f4.dion.ne.jp/~hermit/


































夏の思い出
                 
青野3吉




ぼくらはよく遊んだな
 


 そうしたある日

 いつもの川でいつもの通り

 はだかで遊び始めたが

 きみは紺色の水着を着てきたんだ

 そしたら急にふるちんが恥ずかしくなって

 もう一緒に遊べないと

 知ったんだ











作者のHP http://www.geocities.co.jp/Bookend-Shikibu/4507/

















「夏」への想い
                      
yk




大地が歌っている

草となり

花となり

木となって



大地が歌っている

伸び上がるように

せり上がるように



ふと 足元を見る

この土塊(つちくれ)も

大地の一部・・・

つまり

この地球(ほし)のもの?



大地が歌っている

草となり

花となり

木となって



大地が歌う

「夏」への想いは

蒼穹を超え

碧空や

蒼天までも突き抜けて

遙か遠く 宇宙の果てまで

響き渡っているに違いない



大地が歌っている

草となり

花となり

木となって



大地が歌っている

伸び上がるように

せり上がるように



この限りない無音の歌が

君にも聞こえているだろうか?




















Photo&Poem特集目次 
(詩の提供をご快諾下さったみなさん ありがとうございました。)
各タイトルをクリックすると、そのペ−ジに入れます。 
 
5月号
6月号
7月号
8月号
9月号
10月号
11月号
12月号
1月号
2月号
3月号
4月号
春・創作の夢とともに


HOME