2001年 Photo & Poem 特集 10月号


 
 仲秋の道を行く
            
yk

ななかまどの朱が 午後の秋風にゆれている
足下に続くドウダン・ツツジの生垣は紅(くれない)に燃え
柿の葉も 照れたように赤みを帯びる

山腹でひとり抜きん出た明るさを見せているのは漆の木だ
これだけは釣り竿の先のような細い枝までが真っ赤っか・・・

つらい冬を迎える私たちを慰めるかのように
これからは 日増しに
暖かみのある色合いが増えて行く

願わくは
私たちの人生も
このような華やぎとともにありたい

晴れ渡った空の下
今ひとり仲秋の道を行く

(秋色 それはなぜか
 夕焼けに似ている・・・)

そんなことを想いながら



実 り
             nonya




のびやかな風の指先が

大地のたてがみを

慈しむように撫でつけると



さわさわと歓声をあげて

きんいろのうねりが

遥かな山の麓まで駈けていく



約束は果たされた



澱みない自然の営みは

たったひとつの答えをめざして

とうとうと流れ下り

時のほとりでうずくまる者達に

真の豊かさの在処を指し示す



確実に熟れていく

大地の端に突っ立って

背筋を這い上がる

透明な泡立ちを

声にすることもできずに



あおいろときんいろが

尽き果てるあたりの

微かな稜線に想いを馳せる

未だ実ることを知らない

自分がいる









作者のHP http://www.interq.or.jp/rock/nonya










             
かのっぴ


いのちの終わりで

穂は黄金色になる

そして穂はまた

いのちの始まりでもある


実りは生

種は地に落ち

死の季節をやり過ごし

温かい季節に芽吹き

また恵みの穂をつける


収穫は死

死を食して生をつなぐ獣たち

生きるのみならず快楽を貪る獣たち

死の季節を極度に恐れるがゆえに

穂を飼いならし その死を食す


生とは実り

彼等に豊かに穂が実ることは

果たしてあるのだろうか

終わりであり始まりでもあり

終わりながらも生を与える

豊かな実りはあるのだろうか









作者のHP 
http://www11.u-page.so-net.ne.jp/sc4/kano-i/subpage3.html







「ホンニョ」・・・それが並びゆく景観
                                      
                                                       yk


 
稔りに稔った田んぼの穂波が

しだいしだいに刈り取られて

そのあとに 次々とホンニョが立ち並んでゆく

 
時に そぼ降る雨の中

時に 秋晴れの昼下がり

ホンニョは ただの愚直な男のように

田んぼを見守ったり

じっと空を見上げたりする
 

ホンニョ・・・ 

 
このホンニョが「 穂仁王 」から来ていると知ったときは

子供心にかなりの衝撃が走った

どこかユ−モラスな愛称のような響きが 

突然 いかめしい仁王像に激変したのだから無理もない
 

ホンニョ・・・
 

東北

殊に 我が郷土宮城県北や岩手県南では

このやりかたで稲を干す
 

田んぼに 長い杭を人力で突き刺し

「 キ 」の字状に 短い横木をくくりつけ

そこに 刈り取った稲の束を順次積み重ねて行くのであるが

できあがった全体像は

確かに がっしりとした大男のようにも見える
 

ホンニョ・・・
 

それが「 穂仁王 」であることを知った暮れ方

立ち並ぶ無数のホンニョが 

夕景の中 黒い仁王の一群と化した
 

今年もまた その穂仁王が並びゆく季節となり

安堵と郷愁が錯綜する中

今度は背後で ほんとの仁王が私を睨む





































ヨイヤマ
                 
くた




秋の連休の最終日に

剣神社のほうらい祭りがある

小さな町のことで

老若男女こぞっての縁日というところだ



小学校低学年の女の子がボールを投げ

オッチャンが外れたボールを「当たり」に押し込んだ

女の子は半分怖がりながらも

自分よりも大きなピンクパンサーを受け取り

見上げた母親に

「あれがオッチャンの手口なんやで」

と言い放たれた



四つの息子が足を止める店は

ゴムボール釣りで

けなげにも「これ したい」とはまだ言えない

黙ってついてくれば

何かはやらせてくれるものだと思っている 

お父さんだって空気鉄砲打ちたい 



クーガのお面にしとこか

それと 焼きとうもろこし



田舎町の縁日には

思春期の女の子達が

目一杯のオシャレをしてやってくる

僕の田舎でもそうだったが

神社や出店には不釣り合いな彩りで

リンゴ飴と空気人形を持って

短い参道をいったりきたり

もちろん その中に初恋の君なんかを

映し出しているのだが

側を歩いてる妻よ

君と出逢うずっと前のことだ



知らない町に来てもう五年

ここで生まれた二人の子供には

ここがふるさとになってしまった



家に帰る途中の抱っこで

二人とも眠りに入った

こちらもふるさとの縁日を期待して

ふとんに入ったのだが

いつものように夢を見ることはなかった

休み明けには仕事の溜まった街へ


雑踏の中から聞こえてくる

     ヨイトコーラセーノ 

              ヨーイヤマー

振りかえると消えてゆく







                                


 

作者のHP http://www.hamq.jp/i.cfm?i=kuta










時の流れの中で
                             銀色



時の流れの中で、

僕が小さかったころの面影は  
     
どこかに追いやられてしまいました。

けれどまだ、僕の周りを
すり抜けて行く残像が

僕に「帰ろう」と言っています。

ここで立ち止まれば帰れるのかもしれません。

でも僕たちは前に進むことしか、出来ない。

時間というものは、時の間の存在するもの。

狭間にいる一つ一つの僕たちは

いつでも沢山の世界の僕を見つめて、

囁きあって暮している。

「帰ろうよ」

そんな声が何処からとも無く聞こえてきて、

僕は懐かしくてたまりません。

未来へと続くこの路は、

まるで硝子のように脆く美しい。

踏み外せば僕の体は時間という欠片で

ずたずたに引き裂かれてしまいます。

僕は未来を見る力も、

未来に飛ぶ翼もないけれど、

着実に歩いている。



僕が暮したこの街は、

刻々と姿を変えて

生活を変えて

存在しています。

存在というものはあやふやで

とても寂しいことだけど、

ここに居るという記憶をもとに、

僕はまだ

未来への路を

たどっています。


時間という大きな流れの中で

僕はあっぷあっぷしながら

おぼれないように

泳いでいます。










作者のHP http://www.rinku.zaq.ne.jp/bkacc704/










 秋 晴 れ
                 nonya



胸のいちばん奥に

隠し持った優しさと

同じ色をしている空



描きかけた風の行方を

そのまま空に残して

居眠りをしている雲



澄みきった葉擦れの囁きに

柿の実は頬を染めて

うっとりと枝にもたれかかる



古い日記の一頁で折った

紙飛行機が金木犀の香りにのって

心のきざはしに不時着する



新しい靴紐を不器用に

浮かれ気分に通しながら

あてどなく問いかける



今日はどこへ行こうか



光を頬張り過ぎた空は

何も答えずに

満面の笑みを

地上にふりまくだけ










2000.10.16

作者のHP  http://www.interq.or.jp/rock/nonya/






 秋 晴
          
榎本 初




大漁のいわし雲に漁夫が胸を躍らせるという

のは本当のことであって男たちは勇んで海へ

漕ぎ出していきそれは漁りであってもいいが

漁りというのが群れた魚を追って尽きるの

ならば労働に過ぎなくて胸を躍らせるなど

なくて漁りというのは実は海から空へ翔ける

ことでありいわしと戯れて雲を追いかけて

帰る道すがら雲が一つの空すら持っていない











作者のHPアドレス http://www1.gateway.ne.jp/~well/ 

















空 よ
              
加藤




馬鹿な事をしていた

屑を貯めこんでいた

これが大切な物だなんて

雲の裂け目に見惚れた隙に

風がさらった願い事

お前の絶望は幻だ

想像上の他人が作ったモノだ

人間の根性に慣れすぎたんだ

誰かと誰かの間に沈殿している

普段には見向きもしないのに

人前では磨きたてて見せる

実は眩暈と肩凝りの原因であった

それは御立派な屑どもだ

とっても良い眼差しをしてる

感動できないとダダをこねて

座りこんでいる泣き虫じゃない

心が大きな両手になって

空を掴もうとしているんだ

屑でできた背骨はいらない

空を仰いで仰いで

光を掴んで立ち上がってやる















作者のHP http://www.f4.dion.ne.jp/~hermit/





2001年 Photo&Poem特集 (詩の提供をご快諾下さったみなさん ありがとうございました。) 
 
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