2002年Photo&Poem特集3月号













 早春の抒情
                  yk



雲の色合いに春が仄見える日暮れ・・・

木々の梢も未だ寒気に震えてはいるが
それを取り巻く天の気象は
明らかにあしたの春をたのしみにしているようだ

光の国は下から空を照射して
雑木の山々はセピア色に変身する

さらけ出された気骨のような雑木の大群
陽をうけて欣喜雀躍する生きものたちのさざめき

それにしても
空はなんと精妙に
春のはじめを漂わせて息づいていることか

大きな 大きな こころのように
どうやら 空は変容のすべてを 
ただそのまま受け入れているらしいのだ

肌寒い風の中
人知れず かすかに翳りながら
我が早春の抒情も また
ゆっくりと東へ流れて行く























春のあらし
            nonya



コンビニの袋が

足元から飛び立つ

ゴミバケツのふたが

どこまでも転がっていく



左手で帽子をおさえつつ

ひるがえるジャケットに

まといつかれつつ

理不尽な砂ぼこりに

目を細めながらも

妙に嬉しい

いつもの散歩道



頭のすぐ上で

風が歓喜の雄叫びをあげる

季節の手荒い祝福に

木々は激しくうなずき

電線は狂おしく身悶えする



乱れた前髪をかきあげて

見上げる空に

雲はない



光と水蒸気の柔らかな粒子に

塗りつぶされた空は

もう青くない



少し恥ずかしげな光は

よろめく僕の影を

いつまでも笑っている



春 が いる












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LOVE
            am



青い空を仰ぐよ。冷たい心のままで。

痛みは、痛みのままで。

喜びは、喜びのままで。



全て、そのままで。

どこまでも。

そう、いつか見たあの空まで。



君に届ける言葉を僕はなくしたよ。

君が今、近くにいないのと同じように。

僕たちは、同じままではいないのだから。



通り抜ける風の音を聞くよ

確かな心の共鳴を得て、

僕らは、その先へ向かう。



夢を見ていました。

強く穏やかな、

そして悲しい夢でした。

終わりを僕は知りません。

つま先で立てる大地は、僕の傍にはありません。



曲を奏で、

詩を紡ぎ、

歌を歌う。

僕らの、自己証明。



空は、澄んで、

きっと、僕はそれを忘れない。



「愛してる」



きっと、深く、深く。












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 恩 恵
              七呼




屋根の上

ひなたぼっこの猫

丸まったそれが少し緩む

ふわふわと吹いてきた風

ひげが嬉しそうに

ゆれていた



川の水面

吸い込まれた太陽

きらきらと輝くそれは強く放つ

流れゆく水

鳥たちの足は

仄か温もる



空の手前

悠然たる山

留まり無くす

繋ぐ橋ゆく車

見渡す景色の

見える色 響く音

全て軽やかに私に届く



まるで

柔らかい 見えない霧に包まれ

変化を遂げ

季節を告げるように



ふわふわと吹いてきた風

なびく私の髪

何時もより心地良く



かろやかに 



すべて

巡る季節の恩恵




























 義理チョコと
                AB




クリスマスシーズンには

鴨池で多くの渡り鳥が巣をつくる

昼下がり

缶コーヒー握り

それを

夕暮れまで眺めてる

のがいい

世間では

自分や恋人の誕生日が

イブや大晦日や正月や成人式やバレンタインやひなまつりなんか

と同じ日

だと言って自慢したり嫌がったり

そんなこと聞き流しながら

翼染めて帰ってくるのを眺めてる

のがいい

やがて

そろそろ

一家族めが北帰航をはじめる

この空を

たまった義理チョコや何故か手元に残ったキャンディー

かじりながら眺めてる

のがいい

日がな一日




 







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銀色



未だ咲かぬ

桜の木の下で

僕は横になり

目を閉じる。

花びらが舞う姿を

眼底から掬い上げ、

蕾に重ねて

時をゆく。

泳ぎつづけなければ

死んでしまう魚のように

僕達は廻る季節に

背中を押されながら

暮らしている。

目を開ければ

きっとまだ蕾。

けれど僕の目の中では

桜は今が盛り。

散り急ぎ、

その薄紅の衣を風になびかせて。

桜は今

咲いている。








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 漠然たる日々の願い
                     sou



ひどく目覚めの悪い窓辺で

独り枕を無くし寝場所を探している

そこには 何も無く 静けさが募ってく

どうしようもなく始まる朝が まだ

今日への一歩を邪魔して掴んでる

振り切る 飛び出した外には雪が小高く積もり

一歩歩んでは冷淡が足を伝って泣きそうになる

けど 僕は行かなきゃならない

生きてるから 人は行くんだ



さっき飛び乗った列車が

僕の恐怖に反応して揺れ出す

けど 列車は僕を乗せ 走ってく どこまでも



やっと下り始めた夕日を

眺め独り影を伸ばす

影は空まで伸びて夜を奏でる

独り街灯を浴びまた影が伸びる

小さな丸に僕が収まってる

から 僕は走った 何かを否定したかった

この終わらない日々の真ん中で

歩いてく場所や生きてる意味を教えてください

僕は星に願う 花瓶に水を差すように

朝が怖く無くなりますように















 
覚 醒
                sou




曇り切らない雲を見上げた



風が散った



くだらないNEWSに耳を澄ました



湯気が舞った



冷めかけのCoffeeがふんばる湯気の香りと

いつもと変わらないSTARTへ感じる憂鬱



ひとひらの青葉がひらひらと地に落ちるように

窓から四角い都会へひとひらの自由を投げかけて

ここまできた空しさと切なさを感じ続けた朝



幼年からひたすらしがみついてきた夢と現実

貧乏からの逃避から獲たガムシャラな富とこの現状

比べたくはないけど本当は分からない

生き甲斐を感じない有益な仕事と人との付き合い

ふと思う、この酔っぱらいに映る自分は何?

生き甲斐を感じない有益な仕事と無意味な人生

地面で枯れ果てたひとひらの落ち葉と空

ひたすら胸に溜めてきた理想と現実

ずっと握ってきたひとひらの自由を知らず知らずのうちに失っていた



それでも決して手放さなかった過去と想い出の類

そこで今なほ光り続ける理想や夢の類

叶う願いを叶わせなかった自分に対する後悔は止まらない

そして今なほ叶えようとしない無変化の自分に無力感は募り

しかし変わらないSTARTに対して人並みに感じる憂鬱・・



ひとひらの青葉がひらひらと地に落ちるように

窓から四角い都会へひとひらの自由を投げかけて

縛られた道を自ら進む理由こそが弱さだと知る

自分に与えられた自由を受け止め我が道を行く強さが要る

そこに感じた歓びと感動を糧に

忘れずに行こう理想の現実 夢と希望

この雁字搦めの現代という街を越えて・・・

まずは投げたひとひらの自由を拾いにさぁ

その腐った椅子から立ち上がろう

大きく育てた大事な何かが枯れる前に

・・・そして自分のために

・・・皆に届け、これがボクの想い・・・。



























































 夜想曲        
         
夜行星



固く締め付けたはずの

こころの窓枠

小さな隙間をこすって

悲しい調べの

風のヴァイオリン



近づいた春を

受け入れられない

北風の通り道が

まだどこかにきっと

残ってるんだね



頑なに締め付けたはずの

涙腺をこすって

取り消せない夜の

後悔ばかり繰り返す

風のヴァイオリン



弾かれた掌の疼痛が

いつまでも消えない

唇が離れた夜

小刻みに揺れていた

背を向けた肩が

あんなに小さかったなんて



明日の答えなど

見つかる当ても無いから

その余韻だけ

温もりの無い毛布で包んで

共に夜を明かすよ

だから

軋むほど激しい

その調べで

もっともっと叩いてくれ

凍りついたこの扉を

壊してしまうほど



風のヴァイオリン













作者のサイト































 竹 馬
                        青野3吉


小学六年生の僕は竹馬を作った
二階の窓から屋根に出て乗り出さねばならぬ
背の高い竹馬であった


お天気のよい昼すぎだった
家には誰もいなかった
屋根の先に腰を下ろして足を乗せ
親指と人差し指の股を竹によくくい込ませた
僕の足の指は比較的長くて竹馬乗りに向いているのだ

呼吸を整えて腰を浮かせた
だが立ち上がってすぐに腰を下ろしてしまった
ふうっ、尋常の高さではないと思った
こういうことには勢いが要るんだなと思った

再び足の指に力を入れて立ち上がった
足の裏全体ではなく指の股に体重を込めて立ち上がった
手を伸ばしてバランスを取ると左足に重心を移した
軽くなった右足を前方に蹴り出してから
右半身に重心を乗り移した

一歩

二歩

三歩

少し体が軽くなった風に感じた
一歩の歩幅の大きさに驚いたことを覚えている
体が宙にあることを感じ
空気の軽さと大地の遠さを思った

世界は足下に拡がったのだ
確かに歩き出したのだ
新しい世界であった


しかし四歩目以降を思い出すことはなかった

次につながる記憶は
屋根にかかった竹馬を片づける僕であり
その後しばらくの間物置の妻側の壁にに立てかけてあった
竹馬の記憶だけなのである

そして少し大人になった僕がいた


それからは二度とその竹馬に乗らなかったのだった



 






作者のサイト











 風 待 草
               榎本 初



チョコレィト色の鞄背負い初めて街を歩いて

コンクリィトグラウンドに囲まれていた公園

いや溢れていた光の奥のベンチには三人ほど

掛けられるだろうか鞄降ろさずに独り真ん中

両腕伸ばして深く吸い込んだ空が容易く街を

包んでいたことなんて大したことではなくて

梅の花の白メジロの歌に太陽がこぼれていて

揺れていないブランコから南へ伸びる小径へ

踏み出そうか子猫の尻尾が地球を擽っている












作者のサイト














































飛び立つ
           
七呼



ゆらり と不安定です

しかしそれも必要です

空の果て見据える小鳥たち

不安定でも飛び立ちます


ふわり と包まれます

しかしそれを振り切ります

空の果てゆく小鳥たち

淡い風の中飛び立ちます












2002年Photo&Poem特集3月号






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