2001年Photo&Poem特集 No.8

   
12月号
  












































 雪が降る夜
                      空本林梨



手を伸ばすと

白い粉がゆっくり 舞い降りてきた

この冬の挨拶をするように

つんと張った夜の冷たい空から

まばたきの合間にも 肩につもる雪




ちいさなちいさな結晶のかけらは

君が流す涙にも似て 僕のこの手では

温めて 溶かしてやることしかできず

そうしてるうちに

月はオリオンと一緒に居場所をなくし

深い戸張の中

静かに容姿を変えてゆく




時の魔法はきっと

気持ちを消してゆくんじゃなくて

記憶をゆっくり 思い出に変えていくちから

この白い雪の中で胸を痛める

想いもいつか 大切な時間の結晶になるはず




手は

温めるための体温を絶やしはしない




舞い降りてくる粉が

全てを真白に輝かせてゆく夜で

流した涙は僕の肩に

降つもるちいさな君のかけら




静かに

景色は変わってゆく


mail appletommy@hotmail.com











 
冬の日
          榎本 初




 部屋の中に、

 ひかりだけが

 はいってくる。

 風は、

 音だけが

 聞こえてくる。



 あたたかさのなかに、

 独り。






作者のHP http://www1.gateway.ne.jp/~well/




ストーブ
            
ひろゆき  ひろゆき


外では雪が降っていて

中ではストーブが燃えていて

チョコバーなんか齧りながら

布団で新しいご本を読んでいる

うらうらと

そんな冬













  
  ふう
              くた




レンガ通りの喫茶店は

小さい頃もお爺に連れられてよくきた

店の中の古いインクのような匂いと

通りに出された置き看板

「新世紀」は

その頃から変わっていない

コーヒー啜りながら




ときどきは

ふりかえろか

みらい

ということばのひびきに

いみもしらずにむねおどらせたころ

ろびー

あとむ

うちゅうのたび

あといっぽふみだせば

そこはもう

あのころのみらい

まだ

はれてる

のかな

まだ

みえてる

のかな




コーヒー啜りながら

師走の様子を眺めてる

今年も相変わらずで

肩をすぼめる人と

角の欠けた置き看板に

木枯らしの当たる音




site 




 雨、氷色の空から
                      七呼




夜がまだ残っている 早朝

吹いてくる風も 夜から 

流れてきているような 冷気



低 く 広 が る  氷 色 の 空 の 下



雨粒たちも 私の頭のすぐ上で

やっと 溶けたような冷たさ


それを落とす この氷色の空に

まだ暫く 朝は訪れそうもない


冬の日 太陽も眠る早朝

通りには 傘ひとつ・・・





 
 
冬時雨の夜更け
                 
夜行星

 

夜半過ぎに

静かな時雨

忘れ去られた小さな公園にも

降り注ぐ

いつもからっ風に追いまわされ

激しく舞踊る枯葉達も

今宵濡れそぼったまま

幾分温んだ風に

心地よく揺れて

 

重そうな雲のまぶた少し上げて

月が半目を見開く

予定外の開幕

にわかに降り注ぐスポットライト

あわてた妖精の残像が

青白く輝くベンチ

置かれた小道具

モノトーンの影を曳いて

片方だけのドロだらけくつしたが

動かないパントマイムを演じる

誰かが夢を見つづけるために

そこだけは微かに

時間が動いていたという記憶を

 

今日唯一の来訪者は

思い出せない冒険の形見を

母親の叱責と涙に変えて

寝床の中

一度だけのSHOW TIME

気まぐれな空

更けてゆく



作者のHP http://homepage1.nifty.com/yakousei/












 
師走の空の下で
                 nonya



穏やかな冬晴れの午後



緩やかな稜線を

滑り降りてくる

冬将軍の切っ先に

いつもの鋭さはない



枯野を柔らかく慈しむ

頼りなげな陽射しは

誰かの誤魔化し笑いに

とてもよく似ている



西高東低が崩れて

心の等圧線が開くと

棚上げにしたはずの昨日が

次々と崩れ落ちてくる



暮れなずむ時間の扉に

後ろ向きで錠を下ろし

当たり前のような顔をして

歩き出してもいいのだろうか



叶わなかった想いが

ふくよかな結晶になって

枯野を白一色に

塗りつぶしてしまう前に



奥歯に引っかかったままの

言葉の亡霊達を

青く張りつめた空へ

ぶちまけてやりたい



そんな衝動に

駆られながら今年も

ただ立ち尽くす



何も終わらずに

何も始まらない

師走の空の下で








共 振
 RESONANCE 
                           yk





木々の梢たちはもうすっかりその葉を落とし尽くし

いっせいに空に向かって大きく背伸びをする

たおやかに のびやかに 



凛とした冷気の中の

青く清澄なひかりを求めて

そのひかりの中の 命のもとを探りながら

梢たちは懸命に なにか大いなるものとつながろうとしている



僕の神経の樹状突起も

あまりの寒さにすこしかじかみながらも

やはり何かを求めて

何か遠く果てしないものにとけこもうとして

梢たちとおなじように 心の空で背伸びしている







 オレンジ マジック
                     
七呼




まだ ぼくらなんて存在がない

はるか 昔のこと


初めて太陽が その輝きで

そこにいる 全てを染めた日


広がる空も 流れる雲も 揺れる草木も 連なる山も


その輝くオレンジに 染められてゆく

自分たちに ただ ただ 驚いていた



マジックショーのような出来事



ラストは そのオレンジどころか

自分自身さえ 消えて見せた太陽に


そこにいる 全てたちは

驚かされながらも また見たいと



思わずには いられなくなっていたのでした



そして ぼくらなんて存在がある今 

その輝くオレンジは ぼくらもみんな染めてゆく



思わずには いられない

明日もまた 見せてくれるよね?と


 また明日
            nonya



「あいつどこ行ったんだろ」

「ずっとオニやってたもんな」

「怒って帰っちゃったんじゃないの」

「あいつヘンジンだからな」

「もうそろそろ帰ろうか」

「帰ろ」「帰ろ」

「それじゃ」「また明日」



遠い日のカンケリオニ

トラクターの下にもぐり込んだ

あまりにも無謀な僕を

誰も見つけてくれなかった



慌てて這い出した僕の足元で

空缶の細長い影だけが

とろけた夕日に浮かんでいた



いつもやりすぎてしまう

書きかけの自画像の僅かな余白まで

正体がなくなるまで塗り潰してしまう



いつもやりすぎてしまう

気がつくと遊びと本気の境目が消えて

帰れないほど遠くに来てしまっている



「あいつどこ行ったんだろ」

「まだゲーセンにいるんじゃねえの」

「いい歳して好きだよなあ」

「ストレス溜まってんじゃねえの」

「俺そろそろ帰るわ」

「俺も」「俺も」

「それじゃ」「また明日」



慌てて声をかけようとして

思わず言葉を飲み込んだ

空缶の細長い影が夕日の中に

一瞬だけ見えたような気がした



唇の端に薄笑いを灯したら

自分の影を折りたたんで

闇に向かって歩き出す



言えなかった「また明日」を

吐き捨てられたガムのように

かかとに張りつけたまま



 ゆき

          夜行星

 

最後の夜に降る星屑は
僕たちの一年分の罪と罰
全て小さな結晶に昇華させて
薄汚れた街を
少しずつ白く塗り替える

 

静かに振り返る
君の肩にも
たわいないいたずらみたいに
ひとつ
またひとつ
古い暦を
消し込んで
淡い残像が溶けていく

 

いつのまにか僕らも
あたり一面に同化して
除夜の鐘に送られる
誰にも汚されて無い
真新しいキャンバスに
最初の一歩を
刻み付けるために


作者のHP
 http://homepage1.nifty.com/yakousei/





    2001年Photo&Poem特集 No.8

   
12月号
  


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