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雪が降る夜に
空本林梨
手を伸ばすと
白い粉がゆっくり 舞い降りてきた
この冬の挨拶をするように
つんと張った夜の冷たい空から
まばたきの合間にも 肩につもる雪
ちいさなちいさな結晶のかけらは
君が流す涙にも似て 僕のこの手では
温めて 溶かしてやることしかできず
そうしてるうちに
月はオリオンと一緒に居場所をなくし
深い戸張の中
静かに容姿を変えてゆく
時の魔法はきっと
気持ちを消してゆくんじゃなくて
記憶をゆっくり 思い出に変えていくちから
この白い雪の中で胸を痛める
想いもいつか 大切な時間の結晶になるはず
手は
温めるための体温を絶やしはしない
舞い降りてくる粉が
全てを真白に輝かせてゆく夜で
流した涙は僕の肩に
降つもるちいさな君のかけら
静かに
景色は変わってゆく
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mail appletommy@hotmail.com
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冬の日
榎本 初
部屋の中に、
ひかりだけが
はいってくる。
風は、
音だけが
聞こえてくる。
あたたかさのなかに、
独り。
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作者のHP http://www1.gateway.ne.jp/~well/
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ストーブ
ひろゆき ひろゆき
外では雪が降っていて
中ではストーブが燃えていて
チョコバーなんか齧りながら
布団で新しいご本を読んでいる
うらうらと
そんな冬
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ふう
くた
レンガ通りの喫茶店は
小さい頃もお爺に連れられてよくきた
店の中の古いインクのような匂いと
通りに出された置き看板
「新世紀」は
その頃から変わっていない
コーヒー啜りながら
ときどきは
ふりかえろか
みらい
ということばのひびきに
いみもしらずにむねおどらせたころ
ろびー
あとむ
うちゅうのたび
あといっぽふみだせば
そこはもう
あのころのみらい
まだ
はれてる
のかな
まだ
みえてる
のかな
コーヒー啜りながら
師走の様子を眺めてる
今年も相変わらずで
肩をすぼめる人と
角の欠けた置き看板に
木枯らしの当たる音
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雨、氷色の空から
七呼
夜がまだ残っている 早朝
吹いてくる風も 夜から
流れてきているような 冷気
低 く 広 が る 氷 色 の 空 の 下
雨粒たちも 私の頭のすぐ上で
やっと 溶けたような冷たさ
それを落とす この氷色の空に
まだ暫く 朝は訪れそうもない
冬の日 太陽も眠る早朝
通りには 傘ひとつ・・・
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冬時雨の夜更け
夜行星
夜半過ぎに 静かな時雨 忘れ去られた小さな公園にも 降り注ぐ いつもからっ風に追いまわされ 激しく舞踊る枯葉達も 今宵濡れそぼったまま 幾分温んだ風に 心地よく揺れて 重そうな雲のまぶた少し上げて 月が半目を見開く 予定外の開幕 にわかに降り注ぐスポットライト あわてた妖精の残像が 青白く輝くベンチ 置かれた小道具 モノトーンの影を曳いて 片方だけのドロだらけくつしたが 動かないパントマイムを演じる 誰かが夢を見つづけるために そこだけは微かに 時間が動いていたという記憶を 今日唯一の来訪者は 思い出せない冒険の形見を 母親の叱責と涙に変えて 寝床の中 一度だけのSHOW TIME 気まぐれな空 更けてゆく
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作者のHP http://homepage1.nifty.com/yakousei/
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師走の空の下で
nonya
穏やかな冬晴れの午後
緩やかな稜線を
滑り降りてくる
冬将軍の切っ先に
いつもの鋭さはない
枯野を柔らかく慈しむ
頼りなげな陽射しは
誰かの誤魔化し笑いに
とてもよく似ている
西高東低が崩れて
心の等圧線が開くと
棚上げにしたはずの昨日が
次々と崩れ落ちてくる
暮れなずむ時間の扉に
後ろ向きで錠を下ろし
当たり前のような顔をして
歩き出してもいいのだろうか
叶わなかった想いが
ふくよかな結晶になって
枯野を白一色に
塗りつぶしてしまう前に
奥歯に引っかかったままの
言葉の亡霊達を
青く張りつめた空へ
ぶちまけてやりたい
そんな衝動に
駆られながら今年も
ただ立ち尽くす
何も終わらずに
何も始まらない
師走の空の下で
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共 振 RESONANCE
yk
冬
木々の梢たちはもうすっかりその葉を落とし尽くし
いっせいに空に向かって大きく背伸びをする
たおやかに のびやかに
凛とした冷気の中の
青く清澄なひかりを求めて
そのひかりの中の 命のもとを探りながら
梢たちは懸命に なにか大いなるものとつながろうとしている
僕の神経の樹状突起も
あまりの寒さにすこしかじかみながらも
やはり何かを求めて
何か遠く果てしないものにとけこもうとして
梢たちとおなじように 心の空で背伸びしている
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オレンジ マジック
七呼
まだ ぼくらなんて存在がない
はるか 昔のこと
初めて太陽が その輝きで
そこにいる 全てを染めた日
広がる空も 流れる雲も 揺れる草木も 連なる山も
その輝くオレンジに 染められてゆく
自分たちに ただ ただ 驚いていた
マジックショーのような出来事
ラストは そのオレンジどころか
自分自身さえ 消えて見せた太陽に
そこにいる 全てたちは
驚かされながらも また見たいと
思わずには いられなくなっていたのでした
そして ぼくらなんて存在がある今
その輝くオレンジは ぼくらもみんな染めてゆく
思わずには いられない
明日もまた 見せてくれるよね?と
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また明日
nonya
「あいつどこ行ったんだろ」
「ずっとオニやってたもんな」
「怒って帰っちゃったんじゃないの」
「あいつヘンジンだからな」
「もうそろそろ帰ろうか」
「帰ろ」「帰ろ」
「それじゃ」「また明日」
遠い日のカンケリオニ
トラクターの下にもぐり込んだ
あまりにも無謀な僕を
誰も見つけてくれなかった
慌てて這い出した僕の足元で
空缶の細長い影だけが
とろけた夕日に浮かんでいた
いつもやりすぎてしまう
書きかけの自画像の僅かな余白まで
正体がなくなるまで塗り潰してしまう
いつもやりすぎてしまう
気がつくと遊びと本気の境目が消えて
帰れないほど遠くに来てしまっている
「あいつどこ行ったんだろ」
「まだゲーセンにいるんじゃねえの」
「いい歳して好きだよなあ」
「ストレス溜まってんじゃねえの」
「俺そろそろ帰るわ」
「俺も」「俺も」
「それじゃ」「また明日」
慌てて声をかけようとして
思わず言葉を飲み込んだ
空缶の細長い影が夕日の中に
一瞬だけ見えたような気がした
唇の端に薄笑いを灯したら
自分の影を折りたたんで
闇に向かって歩き出す
言えなかった「また明日」を
吐き捨てられたガムのように
かかとに張りつけたまま
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ゆき
夜行星
最後の夜に降る星屑は
僕たちの一年分の罪と罰
全て小さな結晶に昇華させて
薄汚れた街を
少しずつ白く塗り替える
静かに振り返る
君の肩にも
たわいないいたずらみたいに
ひとつ
またひとつ
古い暦を
消し込んで
淡い残像が溶けていく
いつのまにか僕らも
あたり一面に同化して
除夜の鐘に送られる
誰にも汚されて無い
真新しいキャンバスに
最初の一歩を
刻み付けるために
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作者のHP http://homepage1.nifty.com/yakousei/
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