
最近の報告では、10mm以下の未破裂脳動脈瘤(くも膜下出血の既往のない人)の破裂率は年間0.05%以下、10mm以上の脳動脈瘤でも年間1%未満であったとかなり低い数値が報告されています。この報告は症例の選択に偏りがあるとの指摘もありますが、2621人というこれまでで最大の数を集めた大規模研究によって、単発の未破裂脳動脈瘤の破裂率が従来考えられていたよりかなり低い可能性があることが示されたことは確かです。
全国で500以上の病院で脳ドックが行われ、脳ドック学会も毎年開かれている日本においても、脳ドックで見つかった未破裂脳動脈瘤の年間破裂率を科学的に追跡調査したデータは未だありません。
未破裂脳動脈瘤の治療
治療すべきか?
積極的な治療を進める上で、まず必要な検査は脳血管撮影です。 カテーテルと呼ばれる細く管を足の付け根の血管から、頚動脈にまで挿入し、造影剤を注入しながら頭部のレントゲン撮影をします。脳動脈瘤の部位、大きさや形を正確に診断するために必須の検査です。しかし、稀に脳梗塞を起こしたり、造影剤によるアレルギー反応でショックを起こしたりすることがあります。それによって永久的な後遺症が残る危険性は、0.3%以下、死亡するようなことは0.1%以下とされています。これらの脳血管撮影の危険性をよく理解した上で、検査を受けて下さい。
一般的には、脳動脈瘤の大きさが5mmより大きく、年齢が70歳以下の場合には、手術をすることが推奨されています。但し、脳動脈瘤の部位によって手術の安全性は大きく異なります。
何もしないで放置することも選択枝の一つです。仮に年間破裂率を最大1%であると仮定しても、20年で20%が破裂し、残り80%は破裂しません。つまり破れない確率の方が高いのです。
比較的低い破裂率である脳動脈瘤に対して、危険を冒して手術するかどうかは、本人、家族が医師と十分に話し合ってから決定すべきです。その場合、年齢、今までの脳卒中の既往歴、さらに全身の合併症の有無とその程度などが重要となってきます。さらに、手術を受けられる方のQOL(生活の質)や価値観をも考慮した判断が重要となると考えられます。そして放置する場合には、その後の血圧の管理などは厳重にすべきです。
手術方法
開頭による直達手術(脳動脈瘤クリッピング術)
脳血管内治療による未破裂脳動脈瘤のコイル塞栓術
手術の危険性
手術の危険性は、動脈瘤の部位や大きさ、術者の経験と技量、また合併症の有無とその種類によって左右されるものです。一般的には、開頭手術による後遺症の出現率は2-7%、死亡率は1%以下と報告されています。また、脳血管内治療によるコイル塞栓術も、十分に経験のある術者が行う場合には、開頭手術とほぼ同等の危険率であるとされています。
また、脳の前方(内頚動脈、前大脳動脈、中大脳動脈)にある動脈瘤は、直達手術の成績は良好であり、後方(脳底動脈、椎骨動脈)にある動脈瘤は、直達手術はやや困難とされています。
一方脳血管内治療によるコイル塞栓術は、塞栓に適した形態ならば、動脈瘤の部位に関係なく施行できます。特に、直達手術が困難な部位の動脈瘤では、コイル塞栓術を選択することが多くなってきています。