『宇宙年齢17才、イカイ少年のエレナ探し』人びとが月や火星に住み、多くの地球外生命体も発見されはじめた2050年代の世界。 地球の生活も大きく変わった。人びとは、日常生活ではロボットスーツを洗練されたファッションとして愛用し、自己の分身として付き合うようになり、電脳空間では第三世代BMIシステムにより優秀な秘書ロボットを競って育て、さらには現実と異界の間を能力に応じて自由に往来できるスペーストンネルの通行技術を身につけた。その結果、コミュニケーションも、愛も、戦争も、家族も、死も、大きく変化した。 そして、また別の日、スペーストンネルの中で、僕はエレナに出会った。 エレナは、美しい少女なのに、からだの寸法が人間の女の子とはまるで違っていた。身長は180センチくらい。足は際立って細く長く、上半身はレスラーのように肩も胸も盛りあがり、まるで宇宙戦士そのものという体格だ。頭の形だけはキベやタナと同じで、正面から見ると両方の耳の上が大きくふくらんでいる。エレナも脳の側頭葉が異様に膨張している。しかし、澄んだ利発そうな目をした美少女であることは間違いない。このエレナが、自分は火星人と言ったのだ。 僕たちの『ヒト宇宙化計画』では、火星との関係が最も重要で、新しい人間科学の成果をもとに地球人を火星に送り、地球人と火星人の合体により新しい宇宙人種を誕生させる、という筋書きになっている。僕は、以前からこの話しが面白いと思いなからも、その理由がわからず、ただ不思議な話しだと思っていた。エレナから、なぜそんな必要があるのかを、直接聞き出すことが出来るかも知れない。 「君がエレナ? やっと君に会えたね」 「こんにちは。あなたがイカイね?」 エレナが、真っ直ぐに僕を見ている。微笑しながら。聡明な目をして。 「僕は、ずっと君に会いたいと思っていた」 「私もよ」 「君も僕を知ってるの?」 「あなたのことは何でも知ってるわ。あなたがキベやタナと出会っていた時、私も一緒にいたのよ。あなたは気づかなかったけど」 「えっ、ホント? わからなかった。君はキベやタナも知ってるの?」 「もちろん。私たちは、あなたよりずっと以前からの友だち」 「知らなかった。でもどうしてその時に僕に声をかけてくれなかったの?」 「あなたがまだ幼なすぎたから」 「えっ?」 エレナはやさしく笑っている。何という不思議な笑い方だろう。でもほんとうにおかしそうだ。僕はこういう笑い方が好きだ。 「うそよ」 「じゃ、どうして?」 「二人だけで会える日を待っていたの」 「それが今日なの?」 「私に会えて嬉しい?」 「もちろん」 「私も、この機会をずっと待っていたのよ」 「それは知らなかったよ」 「それより、私の名前はどこで知ったの?」 「新・国連のフジイ博士から聞いたよ」 「でもエレナなんて名前は平凡で、どこにもあるけど」 「君の記録に特別の磁力があって惹きつけられた」 「ふーん」 「君は何度も地球に来ていたんだね」 「記録が残っているのね」 「君の記録が僕には不思議だった為、印象につよく残った。それ以来、 君は僕の夢にしょっちゅう出てくるよ。それで、調べてみたら、君の経歴が意外なところから出てきた。君は、宇宙飛行士ラッセル・シュワイカートのひ孫で、名前は正確にはエレナ・M・シュワイカート。僕はラッセルにもすごく興味を持っていた」 「私の遠い昔のおじいさん。懐かしいわ。私の親族は地球に住んでいたから。そんな古い話しではないわね。でも、どうしておじいさんに興味があったの?」 「ラッセルは、地球の宇宙飛行士の中では抜群の哲学者で有名な人なんだ。僕も尊敬している。面白いことを予言していたよ」 「どんな?」 僕はいまでも暗記しているラッセルの詩の一部を引用した。 風に吹かれて飛んだタンポポの種子が、 土の上に落ちたものは花咲き、 岩の上に落ちたものは死に絶えるように、 ある方面に行った人類は生き延び、 ある方面に行った人類は死に絶えるだろう。 しかし、人類全体としては、多様な発展を宇宙でとげるだろう。 「ステキね」 「すごく暗示的だね」 「おじいさんのこの詩は知らなかったわ」 確かにラッセルが予言した通りで、現在までのところ、2035年に火星に飛び出した地球人だけが「生存」に成功している。それも、早々に火星に住む地球人から地球に対する独立宣言を出されてしまったことからもわかるように、猛烈な勢いで進化していると聞いている。 2023年に開始された月居住については、一部の「生存」が実現されているとは言え、とても成功したミッションであるとは言えない。訓練された宇宙飛行士たちと一部の住民だけが何とか生き伸びている状態で、いまだ一般の人間には住みやすい環境になっていないのだ。2040年に木星の惑星に出発した地球人については、残念ながら原因不明の理由で全員が死亡した。既に3回の木星ミッションが試みられたが、いずれも失敗。全員死亡。いまだに原因の究明作業が続けられている。その他の惑星居住も、もちろん全滅。こんな関係もあって、いま地球では火星に特別熱い視線が注がれているわけだ。 エレナは、僕の夢の中に出てくる登場人物の中で、最も不思議な存在。飛び切りアタマがよさそうで、よく理解できない暗合をたくさん使い、夢の中でいろいろ話しかけてくる。『ヒト宇宙化計画』のリーダーを依頼された時、一番驚いたのがエレナが僕の宇宙での協同者に指定されていたことだ。えっ、なぜ、エレナが相棒なのか? まだ少女なのに。しかし、その後に度々夢の中に現れるエレナの様子を見ているうちに、その指定を受け入れた方がいいのかも知れないと考え始めた。僕の夢の中にしょっちゅう出て来るのも、この件に関係しているに違いないからだ。 僕はエレナに聞いてみた。 「僕が君に会いたい理由がわかる?」 「わかるわ。あなたの顔に書いてある」 「君は人の心も読めるんだね」 「或る程度はね」 「君の方は、どうして僕に用事があるの?」 「あなたがスペーストンネルやロボットスーツによる<新しい身体>の開発に成功したから。それは、キベやタナたちのためだけではなく、私たち火星人のためにも使える」 「どうして?」 エレナが改まった顔をしている。 「これから言うことは、火星ミッションとして、一般の火星人はもちろん、地球人にもまだ知られたくないことだから、秘密なの。あなただけに言うけど、秘密を守れる?」 「もちろん。守るよ」 「有難う。世間的には、火星はいま凄い進化の道を進んでいると騒がれてるけど、致命的欠陥があることが最近の研究でわかったの。2035年に地球から移住してからまだ19年しか経っていないのにね」 「君はいつ火星で生まれたの?」 「2037年よ。いまは2054年だから、私の年齢は17才」 「やはり17才か。タナとも同じだね」 「そうよ」 ノアやアスカとも同じだ。近い内に、皆が一緒に会うことになるのだろうか? 「それで、どんな欠陥なの?」 「私たちの火星ではもう<身体>をつくれない。子供の出生率も、この5年で驚くほど落ちている。火星人は地球人に愛想をつかして早々に独立したけど、この独立が早すぎた。地球人が抱える地球問題が深刻なことは私たちも知っている。でも火星人の火星問題はもっと深刻。この問題を知ったら誰も火星人を羨ましいとは思わない。しかも地球問題と火星問題の二つの問題はリンクしていて、一緒じゃないと解決できない」 「リンクする問題を解決するために僕たちは出会う必要があった?」 「そういう事ね」 「君たちはいまでも人間なの?」 「半分はね。身体の透明化がはじまっている。やがて身体を失くす運命」 「どういうこと?」 「脳の構造が違う。火星人の脳には地球人の脳が残している動物の爬虫類脳がない。切除したのよ。それで、生存に必要な部分と、理性と情動をコントロールする人間の哺乳類脳だけを残したの。人間の闘争本能が動物の爬虫類脳と人間の理性脳の対立から生まれることを知っていたから。これで地球人のような愚かな抗争をやめられると思って」 「解決を急ぎ過ぎたということ?」 「そうね。急ぎ過ぎた」 「つまり、どういうことかな?」 「動物だった時代から蓄積された記憶の重要性を軽く見たことになるわ。それ以来、火星人は夢から覚めて我に帰るための、帰る場所としての身体を失くしはじめた。ゼロポイントに対する感覚の喪失よ。あなたにはよくわかると思うけど、夢の中に住む度合いがつよいと、夢と現実の区別がつかなくなるの。だから、文化・経済・政治のどんな点でも地球人より急速に進歩したのに、肝心のその価値の偉大さが自分たちでわからなくなってきた」 「逆に、地球人は夢見る力を失いつつあるよ。相変わらずの戦争続きで、絶望や倦怠が地上に広がりすぎたから」 「火星はその反対。美しいだけの清潔なクリーンルーム。カオスがないから、闘争もないし、愛もない」 「僕の合体の理論は正しいと思う?」 「地球人と火星人の合体ね? 正しいわ。地球人が動物の爬虫類脳を残し、相変わらず争いに苦しむ人間だけど、でもそのことで身体に支えられたゼロポイントをキープしている」 「それはその通りだけど」 「でも、あなたの望みは何?」 「宇宙で生きられる新しいヒトを創造すること。宇宙の終りまで旅をする<大きな家族>をつくること」 「どうして宇宙の終りまでなの?」 「僕にもわからない。ただ、ヒトという種族には宇宙の終末を確認する責任がある気がする」 「責任?」 「うん。ヒトとして生まれたことの。こんな風に意識をもち、こんな風に文明を開拓して生きてきた者としての。いいことも悪いことも含めてね。僕は、なぜか、この世に生まれたすべての者が宇宙の終りに到着する光景を見たいんだ」 「地球人だけでなく?」 「もちろん。すべての者」 「すべての者って?」 「君たち異星人や、キベたちや、タナたちのすべて。一度誕生した者たちのすべて」 「それがあなたの愛?」 「そう」 「その為に必要などんな闘いにも耐えられる?」 「耐えるよ」 「それなら協力するわ」 「ありがとう」 最初にエレナが僕を抱きしめた。つよい力。僕も、急いで抱き返した。でも、空気を抱いてるような感じがした。エレナの体重は極端に軽い。見かけの印象の半分なのだ。 こうして、僕はとうとう、エレナという異星人にも会えた。 現在、新・国連の惑星調査隊により、全宇宙の範囲において、異界の住人たちの生態を明らかにすべき探査プロジェクトが進められていて、そのマップが作成されつつある。キベやタナやエレナからの情報は、間違いなくこのマップを大幅に変更するものになる。太陽圏外の宇宙人についての情報も、最近続々と集まっている。これらの情報で、僕たちは、異界の住人たちの世界についていかに無知であったかについて、あらためて思い知ることになる。 フジイ博士は、以前から、『ヒト宇宙化計画』には火星人の参加が必須だと強調していた。僕たちが開発したロボットスーツと秘書ロボットだけでは、新しいヒトの種子をつくれるだけで、それ以上は展開できないと言うのだ。たしかに、種子だけなら発芽しない。その種子を、どんな土地で、どう育てるのか。宇宙への進出といっても、具体的にいつ、誰と、どんな装置をもち、どこに向って出発すべきなのか? エレナの話しを聞いていて、フジイ博士の話しがこれでやっとわかる気がした。僕にとっても、どうやらエレナは特別な存在になるようだ。 「ねぇ、エレナ。火星人の現状については君の話しでよく理解できたけど、結局、僕たち地球人にはない能力として君たちが育てたものは何なの?」 「一番大事なポイントね」 「それを話してくれる?」 「それは、簡単に言って、私たちが地球人をはじめて客体化できた存在であるということ。私たち火星人は地球から来たわけだから、それは毎日毎日地球人を意識して生きてきたの。でも、ただぼんやりと意識してきたわけじゃない。つねに地球を見て、地球を私たちの火星の延長として客体化してきたの。地球人は地球人を意識するだけで精 一杯だったと思うけど、私たちは地球も意識に取り入れながら火星人として生きてきた。それは大変な作業よ。脳にはそんな作業はものすごく負担なの。でも、イカイも知っているはずだけど、客体化の効果は大きいわ。そのお蔭で、私たちの脳の側頭葉が発達し、意識の力が強力になった」 「そうか。それで君の耳の上の方が大きく膨らんでいるんだね」 「そう。地球人でも一部の若い子たちが側頭葉を発達させているけど、私の場合は 爬虫類脳がないからよけいに目立つのよ。私もこの側頭葉の膨らみが気に入っている。私が言う客体化の意味、わかってもらえるかしら? この膨らみがその証しなの」 「もちろん理解できる。もともと、地球の人間が、道具を使うことからスタートし、自己を客体化できたことで文化を発達させ、サルとは違うレベルの意識を発達させた。つまり、二足歩行を完成させ、新しく人間の文化をつくることで、サルから完全に独立した。だから、君が言うように、その時の原動力が客体化であることは僕も理解できるよ」 「有難う。それがあなたが新・国連の宇宙開発部に提出した論文だったから、理解してくれるのも当然よね。でも、あなたにも、わからないことがあった。つまり、実際に、人間の<新しい身体>をどう設計すべきか。そのイメージは決定できなかったはず。どうかしら?」 「その通り。凄いね、君がそこまで知っているとは思わなかった」 エレナは楽しそうだ。 「フフフ。だって、私はストーカー。火星から遣わされた、あなたに対するおっかけなのよ」 「そうなの? 君みたいな聡明な子におっかけされるなんて、嬉しいね」 「つまり、私が言いたいことは、人間とサルの関係と同じで、今度は、地球人を客体化する事で得た新しい意識の力で、既成の人間種から新しい人間種を誕生させることができる、ということよ。地球にも火星にもなかった新しい宇宙文化を創造する事を条件にね」 「凄いよ! 火星人の意識の力がヒト宇宙化計画に役立つわけだね」 「そのはずよ。少なくとも、この力で、<新しい身体>対する設計プランをつくれる。このプラン創造力が、私たち火星人の知恵ね。地球人のあなたはその種を用意してくれた」 「なるほど。僕の地球人としての知恵は、開発したロボットスーツに<心>を持たせ、分身ロボットとして、人間の輪廻を託せるようにする技術だった。僕たちは、分身ロボットに<心>を預け、再生医療で人工身体を形成し、望むなら、不死として生き続けることができるようになった。その技術を、僕と君が協力すれば具体化出来るというわけだ」 「そういうことね」 僕は興奮を押さえきれなくなってきた。こんな議論は誰とも出来ないからだ。急き込んでさらにエレナに聞いた。 「具体的には?」 「<新しい身体>については、0G−1G間の可変重力場に耐えられる<回転する身体>として設計すべきね。その関係から必要な新しい脳改造プランが出てくる。現在の脳では、地球人の脳も火星人の脳も、0G−1G間の可変重力場での回転には耐えられない」 「そうか! いま言うと負け惜しみだけど、実は僕も、<回転する身体>だと見当はつけていた。だから、その訓練も、スペーストンネル少年少女学校で始めていた。ただ、脳との関係の解明は難しいし、自信はなかった。裏付けが得られないまま時間が過ぎていた。だから、不安だったんだ」 「人間が月の1/6重力下で学んだことも、私たちが火星の1/3重力下で学んだことも、結局は身体と環境の密接な関係という基本的なことだった。あなたも、姿勢こそ文化創造の母胎、という説をさっきの論文で主張していたわね」 「そうだ。あの論文で、フジイ博士が僕をヒト宇宙化計画のリーダーに抜擢してくれた」 「よくわかるわ。地球人も頭でっかちになり、身体のことを忘れていたから、そんな単純な真理も理解できない状態になっていた。だからあなたの考えは、フジイ博士のような一部の人たちに強烈なインパクトを与えたのよ」 「有難う。評価してくれて嬉しいよ。僕が書いたのは、要するに、身体と環境の関係は一体で、姿勢は重力の関数であるということ。魚・両生類・鳥・サルには、その姿勢に応じた固有の文化がある。人間もまったく同じ。二足歩行という独特な姿勢に応じた独特な文化を形成してきたのが、人間だ。だから、人間が<人間の進化>を希望するなら、宇宙の無重力環境に出て何もしないなら、衰退を招くだけだけだ。この点をまず認識する必要がある。無重力環境でプカプカ浮いていることが楽しいなんて、とんでもない誤解だ。二足歩行を奪われるから、放置しておけば人間は魚や両生類に退化してしまう。それは大変な事だよ。進化ではなく、退行だ。そして、その逆に、0G−1G間を調整できて、多様な重力場を経験できるなら、人間はさらに新しい姿勢を獲得し、その姿勢に応じた新しい文化を創造する可能性がある」 「私も、それが正しいと思う。その新しい姿勢こそ<回転する身体>が生み出すの。あなたの提案は、0G−1G間を調整するための、人工重力を創出できるロボットスーツを開発するというものだったわね。素晴らしいわ」 「有難う。嬉しいよ。でも、はじめのうちは、誰も理解してくれなかった。フジイ博士だけが認めてくれた」 「それが独創の運命だから、時間がかかるのは仕方ないわね」 「それはそうだ。そして、いつか君に出会う日が来ることをフジイ博士は予言し、僕を励まし続けてくれたというわけだ」 「素晴らしい人ね。私にも大切な恩人だわ」 「君に会って、僕はいまやっと、その日を迎えた」 「今日がその創造の第1日ね。さっそく、あなたのチームと私たちのチームが組み、あなたの分身ロボットを<回転する身体>として構成するための実験をはじめましょう」 「面白いね! 僕はこの機会を待っていた」 「火星人もこれで、身体喪失による消滅という最大の危機から救われる。<回転する身体>がどんな新しい文化を誕生させることになるか、私もシュミレーションを開始するわ」 「僕の考えと君の考えの関係はどうなっているの?」 「双子の兄妹よ」 「創造すべき新しい文化について、君は既にイメージを持っているの?」 「具体的には、私だってわからない。ただ・・・」 「ただ?」 「何年後になるのかわからないけど、私はあなたと結婚して子供を産みたいわ」 「その子供が<新しい身体>の体現者で、その子供の成長過程により新しい文化の創造の姿がわかる。そう理解していいのかな?」 「そうだと思う」 「君は、17才でまだ若いけど、僕みたいな年寄りと結婚できるの?」 「出来るわ。私は火星では17才だけど、脳改造のお蔭で、地球時代の輪廻も継承しているわ」 「どういう事?」 「つまり、地球の言葉でわかりやすく言えば、私の実年齢は700才。火星人としては17才」 僕は、もう何を聞いてももう驚かない身になったはずだったけど、エレナの700年という年齢については、驚いたというより、流石に深い感慨をもたざるを得ない。 「僕は?」 「あなたの場合は、地球人としての実年齢は70才位だと思うけど、宇宙年齢では17才」 「まだ若いということ?」 「えぇ、あなたはとても若いわ」 「そして、君は若くない?」 「だって、700年も生きてきたなんて、まるでバンパイアと同じよ」 「でも、見かけは若い女の子だ」 「若づくりも、全ては私たちの結婚のため。もちろん、私の若づくりは着ている服のことじゃなくて、私のからだ。私のからだは、まるごと17才よ」 エレナが楽しそうに笑っている。僕を試しているのだ。 「結婚するなら、僕にはエリカの了解が必要だけど」 「それは、勿論わかってる。彼女の承認はとても大切だわ。でも、反対しないと思う」 「どうしてわかるの?」 「だって、あなたも知っているはずよ。私も、もう長いこと、エリカの心の中に入って、彼女といろんな話しをしてきたから」 「そうか。君もエリカの夢の住人になっていたんだね」 「エリカの中に住み込んでいる人が多いので、私も最初は驚いたけど」 「それで、宇宙進出は、いつ開始する?」 「それはもう少し後ね。あなたがエックハルト軍のリーダーとして地球人同士の争いに解決のメドをつけた時かしら? そうしないと宇宙航路の安全性が満たされないしね」 「エダのことも知ってるの?」 「何でも知ってるわ。メタトロン軍とエックハルト軍の戦争は、火星でも注目の的なのよ。たぶん、地球人の最後の善と悪の大戦争だから」 TOP HOME |