『宇宙年齢17才、イカイ少年のエレナ探し』人びとが月や火星に住み、多くの地球外生命体も発見されはじめた2050年代の世界。 地球の生活も大きく変わった。人びとは、日常生活ではロボットスーツを洗練されたファッションとして愛用し、自己の分身として付き合うようになり、電脳空間では第三世代BMIシステムにより優秀な秘書ロボットを競って育て、さらには現実と異界の間を能力に応じて自由に往来できるスペーストンネルの通行技術を身につけた。その結果、コミュニケーションも、愛も、戦争も、家族も、死も、大きく変化した。 僕たちの準備は遅かった。事態が一挙に動いたのだ。 喫茶店を出た途端、僕は『ヒト宇宙化計画』の本部から緊急事態を知らせるメッセージを受け取った。何と、僕がエリカにエダの計画について喋っている間に、実行された。エダには僕たちの行動が筒抜けになっていた。 ただ、攻撃されたのは月ではなく、これも最近移住が終了したばかりの地球人による火星居住地域だった。僕がエレナと出会って以来、火星には新しく少数の地球人が送られ、新しい火星居住地域が建設されて、元・地球人の火星人との間で試験的な合体プログラムが開始されていた。この火星居住地域の規模は10万人。新・月移住計画に比べればはるかに小規模だが、『ヒト宇宙化計画』にとっては非常に重要だった。この火星居住地域が、核攻撃により全滅させられた。地球人の半数が死亡という報告だ。犯行声明は出ていない。犯人は不明。しかし、僕にはわかる。この新たな火星計画は極秘で進められていた。火星人でさえ、エレナとごく一部の政府関係者以外、誰も知らない。地球人も、直接の関係者以外は誰も知らない。だから、エダの犯行に違いない。エダは、何もかもお見通しであることを僕たちに知らしめるために、まず火星居住地域を攻撃したのだ。その次が月というわけだ。 このニュースは、フジイ博士が報道許可を出した後、世界中のメディアにより一斉に流され始めた。世界中で大きなパニックが起きたのは言うまでもない。 「臨時ニュース。 2043年9月12日。地球のNY時間の午前8時。火星で前代未聞の大惨事が発生しました。 新設された火星居住地域が何者かの核攻撃をうけ、全滅。住民5万人が死亡。 現在、生き残った5万人は地球への帰還船に乗り込んでいます。 原因は、地球住民の中に紛れ込んでいた中東過激派の自爆テロと推定されています。 詳細は不明。分かり次第・・・」 僕には、これがエダによる作戦であることがわかっていた。モリスからのメッセージには、エダの脳から行動開始のサインが検出され、メタトロン軍が動いたと報告されていたからだ。その事をフジイ博士にも伝えた。フジイ博士はこの件は極秘扱いにしたいと言い、僕はエダの居場所を至急に特定するように依頼された。僕たちがメタトロン軍の犯行であることを掴んだ事を公表すれば、世界は事前に防げなかったエックハルト軍の非を追及するし、それでは何よりも僕たちの対応がエダたちに把握しやすくなる。ここは、博士が言う通り、僕たちも知らないことにしておいた方が得策だ。 僕もすぐに行動を開始し、モリスに指令を出した。いまならエダを特定できる。エダが動いている最中だからだ。エダはこの作戦では自分の生命を賭けたりはしていない。この事件も僕たちを探る誘導作戦に違いない。すぐにモリスから返事が来た。 「エダは、いま南米チリの首都サンティアゴにいます。傷を負っているようです。あなたが仕掛けたワナに効き目があったようです」 「有難う。僕の予想通りか。少し意外だけどね」 僕も最低限の対策として、エダが動けば、その分だけエダに僕の本心が見えなくなるように僕の脳を細工した。僕の読みでは、エダは僕の本心を知りたい。僕の心を見たければ、行動を停止する必要がある。しかし、彼女の使命は行動することだ。エダが負った傷とは、二つの情動に引き裂かれたまま行動したことによる、心の涙だ。エダが決して流したことがない涙。その涙は僕だけに見える。 「予想通りだったことがですか? どんな点が意外ですか?」 「僕のワナを知っていたことを、エダの方からほのめかしている。そのように、故意に僕に証拠を残した」 「故意に?」 「エダの目的は何だと思う? 火星攻撃に現在どれだけの意味があるのか?」 「火星攻撃には重大な意義が認められます。まず最初に、『ヒト宇宙化計画』の火星プロジェクトを少しでも叩いておくこと。それに成功しました。次に、これが今回の主な目的と思われますが、メタトロン軍が犯行の痕跡を残さずに任務を遂行できるかどうか、それを試すこと。それも実証されました。ただ、エダは自分の居場所を特定されない方法が今回もあったはずなのに、なぜか? 傷がひどいのか。或いは他の理由があるのか」 「知らせることで、僕に何かを考えて欲しいのだと思う」 「多分。ボクも、エダはあなたに何かを託していると思います」 「有難う。あとは自分で考えてみるよ。休んでいいよ」 いずれにしても、事態は風雲急を告げていた。会議も、予想以上に慌しいものになった。月への本格的攻撃を防ぐたに、エダを一刻も早く逮捕し、メカトロン軍の動きを止める必要があったからだ。僕はエリカに話したことを、僕の解釈であることを断った上で、もう一度会議の参加メンバーに説明した。フジイ博士は黙って聞いていた。僕がエダの居場所を掴んでいることは、フジイ博士だけに告げ、参加メンバーには話さなかった。 『ヒト宇宙化計画』は、実行部隊のエックハルト軍の他に、世界の各国に点在する30の開発部門・研究部門・教育部門を持っている。今日の会議には、この3つの組織のトップを含む100名程度のメンバーが参加していた。僕は、ロボットスーツとネットロボットの能力の説明からはじめ、ネットロボットが他人の脳を乗っ取る様子や、人間の不死を実現する可能性や、エダの計画について、最後に情報戦争について、その要点を報告した。 会議は、紛糾した。フジイ博士とサイード・S博士を除き、メタトロン軍がそこまで大掛かりな作戦を考え、こんなに早く攻撃してくるとは誰も予想していなかったからだ。 しかし、いくら会議が紛糾しても、結論はわかっている。誰が考えても同じだ。月への攻撃が決行される時期を把握し、『宇宙の花計画』の実行を中止させること。そのために対策を至急立て、実行すること。したがって、エダ逮捕のために、まずはエリカが重要な入り口になる。そのために、僕は、次にエリカについて、僕とエリカとエダの関係について、会議のメンバーに報告した。エリカは、この会議で、正式に僕の戦闘パートナーとして任命された。エダがエリカへの侵入を通して僕への侵入を図ろうとしていることを、僕たちの方で利用するためだ。 僕の報告の中でも、会議のメンバーに特に理解が困難だったのは、人間の不死を実現する可能性と、情報戦争についてだった。会議のメンバーは、通常の戦争や紛争については名だたる専門家だ。しかし、誰も、経験したことがないことはわからない。特に、情報戦争ほど目新しいものはないからだ。 情報戦争とは何か。 すでに、僕や仲間たちにとっては、 ロボット兵士とネットロボットが動員される戦闘において勝利するためには、 情報戦争に勝利する必要があることは自明のことだった。 しかし、会議参加者の多くは政治家・軍人・学者たちであり、情報戦争の実践の経験はない。ネットロボットの使用テクニックも、世界中の若い女の子たちやアニメ少年にもはるかに及ばない。メタトロン軍の中でも、同様の認識を持つ者として僕が強敵と感じるのは、エダとその部隊だけだ。他の部隊にはその認識が薄いため、装備も古く、僕の部隊の敵ではない。 いつも積極的に発言するドイツのケラー博士が、まず僕に質問した。ケラー博士は精神医学者として有名だ。 「まず、ネットロボットは人間を不死にする能力をもつとのお話しでしたが、君の部隊とエダの部隊もその能力をもち、不死なのですか?」 「僕たちはその技術を手に入れました」 「具体的には?」 「僕たちは、戦闘服であるロボットスーツを<心>をもつ存在として成長させています。自分の全記憶をこのロボットの<心>に貯蔵できます。このロボットの一対として働くネットロボットが貯蔵に必要な作業を行い、全記憶を管理します。万一、ロボットスーツが破壊された場合には、全記憶をネットロボットが自分の人工知能に移し保管します」 「しかし、それではネットロボットも破壊されたらおしまいでは?」 「ネットロボットを破壊することは誰にも出来ません。まず、ネットロボットの実態は<モノ>ではなく、<情報>です。そして、ネットロボットは<情報>として電脳空間に属していますが、異界にも所属する新たな<実体>として成長しています。ネットロボットは、異界に自分の固有の世界を築きつつあります。このようなネットロボットを破壊するためには、異界も破壊しなければなりません。しかしそれは誰にもできません。重力を人間が創造したり破壊したりできないのと同様で、人間には空間の構造に直接介入できる能力は与えられていません」 「つまり、ネットロボットは、理論物理学者のリサ・ランドール博士たちが唱える並行宇宙に半身を入れているということですね?」 「その通りです。したがって、この能力をもつ者たちは、死を迎えても、生身の身体は再生医療とサイボーグ工学による人工身体として再生できるため、全記憶をネットロボットから自分の人工身体の人工脳にコピーすることで、復活できるようになりました」 ケラー博士は、僕にも興味があるらしく、聞いてきた。 「君は、噂では、年齢不詳といわれていますが、そのためだったのですか?」 「それは博士の想像にお任せします」 「私には、君はどう見ても30代の前半にしか見えない。ほんとうの年齢は100才を超えているとか。或いは、一度死んだことがあるという噂もありますね?」 この質問には会議参加者の全員が関心があるようで、彼らも聞き耳を立てている。フジイ博士だけがその事実を知っている。 「私が一度死に、復活した人間なのかどうかは、私にもわかりません。私が異界に何度も出かけている事は事実です。しかし、そこで何があったのか。詳しい事は、エックハルト軍の機密のため、お答えできません」 「残念ですな」 「いずれにしても、はじめて地球上に、人は死なない、という可能性が実現されました。望む者は、その技術さえ獲得すれば、蘇ることが可能になったのです。この技術は、門外不出の極秘技術のはずですが、エックハルト軍の退役兵士たちを介して一般社会にも流失しています。人間の社会は経験したことがない変化に見舞われています」 「メタトロン軍も、すでに人工身体の開発にも成功しているのですか?」 「成功しています。オスマンの国にその秘密工場があります。彼らも人工身体を使用し不死を手に入れています」 ケリー博士の質問はこれで終った。代わりに、今度は中国のリー博士が質問に立った。リー博士の専門は脳科学と情報工学だ。 リー博士が言った。 「情報戦争について説明してください」 僕は端的に答えた。 「戦争や殺人において、そのやり方に根本的な変化が起きました。優秀なロボットスーツとネットロボットを持たない者たちの間では、いままで通り、生身の身体に対する物理的攻撃で済み、相手の身体を破壊すればそれで終わりです。しかし、相手が優秀なロボットスーツとネットロボットを持つ場合には、それでは殺せません。身体を殺しても、人工脳から蘇ります。身体は、何度でも再生技術で再生可能です」 「すぐ蘇るのですか?」 「個人差があります。人工身体を携帯していれば、その場で蘇る者もいます。技術が未熟な者は、時間がかかります。メンテナンスを受けなければ立ち上がれない者もいます」 「情報戦争とは、具体的には?」 「僕は、いつも部下に、次のように教えています。相手をよく見ること。そして、相手がもつロボットスーツとネットロボットの能力を正確に見抜くこと。優秀な能力をもつ相手には情報戦争を仕掛けること。油断すればこっちがやられること」 「具体的にどうするのですか?」 「はじめに、ロボットスーツを攻撃します。ロボットスーツを破壊した後に、スペーストンネルを移動するネットロボットの動きを阻止しなければなりません。そのために新しい方法が必要になります。ネットロボット同士が殴り合ったり、機関銃などの武器で撃ち合うというような光景は展開されません。それは物理的身体を相手にする場合のことですから。情報に対しては別の攻撃が必要です」 「それで?」 「まず、スペーストンネル内での標的とするネットロボットの自由な移動を、スペーストンネルの分断によりストップさせます。スペーストンネルを分断することは、スペーストンネル技術が相手より上である限り、可能です」 「その次は?」 「次に、ネットロボットが存在する残されたスペーストンネルを占拠します。ネットロボットを身動きできないようにした上で、ネットロボットの<心>に侵入し、その<心>を支配し、自分の<心>として改造します。これが情報戦争における勝利の方程式です」 「支配するとは?」 「後ほどこの会議に参加しているエリカに直接報告してもらいますが、エリカの場合では、エダに中学生の時の友だちの記憶を送りこまれ、エリカは2分間の昏睡状態に陥りました。この昏睡状態が支配されている状態です。あと1分続いたら、エリカは改造されていた可能性がありました」 「改造の証しは?」 「エリカが、私はエダ、と思ってしまうことです。エダをそれをねらっています。改造に成功すれば、それ以後、エダはエリカを自由に扱えます。エダは直接私の脳に侵入する力はありませんが、エリカの脳を入り口に、エリカの姿を取り、私の脳に侵入することが出来ます。私も、私のネットロボットも、エリカには警戒しないからです」 「侵入しても、改造できない時はどうなりますか?」 「侵入者が逆に支配されたり、改造されたりすることがあります」 「たとえば、もし私が完全に改造された場合には、私はどうなり、どこに存在することになるのですか?」 リー博士も、自分のことが心配になるようだ。それは聞いている会議の参加者の全員が同じだったと思う。 僕はさらに続けた。 「リー博士は存在しなくなります。残されるのはリー博士の身体だけです」 「死と同じで、認識もできないということですね」 「完全に改造される場合には、すでに相手のモノになっているので、そんな心配も出てきません」 「それ以外のケースは?」 「相手に改造されたことを自覚しながら生きることもあります」 「その時は、窮状を誰かに打ち明けることはできますか?」 「隙を見てできるかも知れません。しかし、相手はすぐに気づくので難しい」 「少なくとも私はもとには戻れないのですね?」 「基本的に、戻れません」 「例外もありますか?」 「あります。相手が死に、リー博士に帰る場所が保存されていた場合。つまりネットロボットが保管していた記憶内容が解体されていない場合には、帰還が可能になります」 「いずれにしても、恐ろしいことですね」 「はい、恐ろしいと思います」 僕は最後に言った。 これが、情報戦争です。 いかに、ネットロボットの居場所を突き止めるか。 いかに、スペーストンネルを分断するか。 いかに、ネットロボットを固定するか。 いかに、その「心」に進入するか。 いかに、その「心」を改造するか。 それが僕たちに求められる新しい技術です。 陣取りと、相手の心を改造できる能力が、勝敗の決め手になります。 会議の後、僕はエリカと一緒にいつものホテルのロビーでフジイ博士に会った。博士は特別に心配していなかった。今後のエダによる月攻撃の脅威についても、僕とエリカが協力すれば何とかなると言って微笑した。博士の言葉にはいつも謎が含まれているが、僕にはそれが面白い。エリカとフジイ博士がついていてくれれば、僕には何も怖いものがない。さっきの博士の言葉で一番印象に残ったのは、次の言葉だ。 エダは、死ぬこともできない。 僕の家への帰り道、僕はエリカとまた話しはじめた。今日は久しぶりにエリカが僕の家に泊まることになっている。明日の朝一番でエリカはまた東京に戻るのだ。 「フジイ博士の言葉はどういう意味だろう?」 「さぁ。わかる気もするけど」 「サイード博士も言っていたけど、エダが苦しんでいることは確かなようだ」 「あなたも苦しいの? あなたは、エダが死んだら、その姿を見たいと思う?」 「確認したいとは思う」 「エダの作戦が成功したかどうかを?」 「いや。エダの表情だ。僕たちがいる限り、作戦が成功するわけはないからね」 「エダはいまもチリに身を隠しているのかしら?」 「モリスの報告では、いまはチリ。でも、もう動きはじめているはずだよ」 「あなたは居場所を特定できるのに、逮捕できないの? なぜ? 私を気づかって本当のことを言わないだけじゃないの?」 「ほんとだよ。ウソをつきたくても君にはウソはつけない。ウソをつけば君にはわかる。それは君もよくわかっている」 「だって、何だか私もエダを好きになりそう。あなたがエダを好きになりそうなように。そしたら、私は、エダに簡単に改造されてしまうわよ。私がメグミさんを受け入れたように。自分から進んで」 「好きという気持ちとはまったく違うよ。そういうことじゃない」 「でも、あなたは自分とエダを一つコインの裏表と思っているでしょう?」 「最初は、意識していなかった。でも、途中から、『ヒト宇宙化計画』が成功するためにはエダのような存在が必要なのかも知れないと思いはじめた。それは確かだよ」 「エダの善悪論の裏返しね?」 「そうかも知れないね」 「エダの場合は、悪の限りを尽くし、悪の自壊を待つという方法。あなたの場合は、エダと対極の地点で行動することで、最後の最後でエダを転換させる。でも、世界を一身に背負ってしまったという運命では、エダもあなたも同じ。エダに死んで欲しくないのはあなたね。エダも、あなたからその気持ちを引き出したい。エダは、あなたに注視されている中で死にたいのよ」 僕も、エリカの言うことは、当っているような気がする。 僕には、フジイ博士が言う意味は正確にはわからない。でも、現在、僕とエリカが世界のどこかに生きていて、一方の対照的な氷のような場所に、エダが一人で孤独のまま立っている。博士がエダの苦しさについて言っているのだとすれば、それほど僕とエリカの一対は完璧に美しいのだと思う。エダも、口が裂けても言わないだろうけど、ほんとうは僕とエリカのような一対をつくりたいのではないか? その意味で、僕とエダは一つコインの裏表なのかも知れない。そうだとすれば、その新しい一対は、エダの場所ではなく、僕が立っている場所で形成される必要がある。僕がエダに吸収されるのではなく、僕がエダを吸収しなければならないのだ。やはり、エダをほっておいてはいけないようだ。 しかし、僕とエックハルト軍が南米チリの首都サンティアゴに到着した時、エダもメカトロン軍ももはやそこには居なかった。今度はどこに行ったのか。モリスは、メカトロン軍はイスラエル上空の空中基地に帰還し、エダはふたたび一人で姿を隠した模様だと伝えた。 エダは何を考えているのか。僕に自分の考えの大部分を読み取られたことで、今は僕に勝ち目はないと考え、しばらくは身を隠し、月への攻撃のあらたな機会を探るつもりなのか。 僕は、エダの行方を追跡すると共に、フジイ博士と相談し、『ヒト宇宙化計画』の具体化を急ぐことにした。 まず、破壊された地球人のための火星居住地域に対しては、至急に再建計画を立ち上げる必要がある。同時に、火星居住地域を対象としたテラフォーミングも開始する。地球人は、やはり空気を酸素マスクなどつけないで自由に吸いたいからだ。また、火星人との合体プログラムについては、予定通り進めること。身体を喪失しつつある火星住民にも焦りがあり、僕たちも悠長にしていられないからである。 月居住地域については、今回のメカトロン軍による火星攻撃について詳細に分析し、必要な対応策を決定する必要がある。動員されたのはアジェイが開発した兵士ロボットだけであり、エダが望む魔術的ロボットではなかった事は、エリカと僕が健在である以上、僕には既にわかっていた。以上の火星と月に対する対策として、僕はそれに必要な技術者たちを新・国連を通して世界各国から召集した。 火星については、僕は既にエレナと連絡を取った。僕が直接火星に行く必要があるからだ。火星人と地球人の合体プログラムは、僕とエレナが先頭に立たなければ進まない。 また、ノアとアスカには、『ヒト宇宙化計画』の研究部門の仕事として、『脳回路を使い分けるための研究』を依頼した。エリカには、教育部門の仕事として、『電脳恋愛塾』の開設を依頼した。 さらに、僕は、キベとの間で『失われた動物たちの再生計画』を、タナ・メグミとの間で『異界移動計画』を、それぞれ推進することにする。最後に、特にフジイ博士からつよく推薦されたサイード・S博士に対しては、サイード・S博士の宇宙飛行士の最後の仕事として、『分身創造計画』を依頼した。 これらは、いずれも『ヒト宇宙化計画』の核心を形成するものであり、非常に大切なものばかりだ。 TOP HOME |