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強制連行に関する裁判外の支援活動

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中国人強制連行事件の解決をめざす全国連絡会の運動

 2013年8月に「中国人戦争被害者の要求を支える会」が解散した際に、強制連行事件に関する運動を継続するため、各地で裁判を支援してきた諸団体が連帯して結成された運動団体です(略称:強制連行事件全国連絡会)。各地の強制連行事件の支援団体のほか、希望する団体を加入単位としています(個人での加入は予定していません)。

 強制連行事件の全面解決のために、加入団体間の連絡と協力を進め、全国弁護団や中国の被害者・遺族との共同で、加害企業に対する解決交渉要請、慰霊祭の開催、慰霊碑の建立、被害者・遺族との交流、調査・研究、資料提供、講演会、写真展などの事業を行っています。

強制連行事件の政治的解決をめざして

 強制連行事件に関する裁判はすべて敗訴に終わりました。しかし、2007年4月に最高裁(第二小法廷)は、広島の西松建設強制連行事件の判決の中で、次のような重要な提言(勧告)をしました。

 

2007年4月27日 最高裁判決の提言(勧告)

 本件被害者らの被った精神的・肉体的苦痛が極めて大きかった一方、上告人(西松建設)は前述したような勤務条件で中国人労働者らを強制労働に従事させて相応の利益を受け、さらに前記の補償金を取得しているなどの諸般の事情にかんがみると、上告人を含む関係者において、本件被害者らの被害の救済に向けた努力をすることが期待されるところである。 

 

 つまり最高裁のこの提言(勧告)は、(裁判ではなく)政治的な交渉による問題解決を国と企業に求めたものとして、きわめて重要な意味をもっているのです。実際に、この最高裁判決の後で、2010年には西松建設との和解成立による当該被害者全員の解決という画期的な出来事もありました。しかし国は、強制連行事件のすべての判決で勝訴したことを口実に、政治的な全面解決のためにまったく動こうとしていません。そのため、西松建設以外の加害企業もまた、解決のための交渉には応じない態度を続けています。中国人強制連行事件の解決をめざす全国連絡会は、鹿島建設・ハザマ・三菱マテリアルなどの加害企業に対して交渉に応じるように要請を続けています。

三菱マテリアルとの和解

 2016年6月1日、被害者代表である生存者3名と三菱マテリアルとの間で和解が成立しました。

 三菱マテリアルは、@強制連行の事実と責任を認めて被害者に謝罪し、A被害者全員を対象に設立される基金に対して一人当たり10万元(約170万円)の金銭を拠出するほか、B記念碑を建立して慰霊追悼を行うことを約束しました。

 就労した全員を対象にした和解という点では、西松建設に次いで2社目(西松安野と西松信濃川を分ければ3社目)です。

 

 


三菱マテリアルとの和解についての声明

 

中国人戦争被害賠償請求事件弁護団

  弁護団長  小 野 寺  利 孝

中国人強制連行・強制労働事件全国弁護団

名誉団長  高   橋    融

弁護団長  森  田  太  三

 

 本日,北京において,中国人強制連行・強制労働事件のうち,三菱マテリアル株式会社(旧三菱鉱業株式会社)関係の事業場12か所に強制連行され,強制労働させられた事件(以下「三菱マテリアル事件」)について,被害者代表である生存者3名と加害企業の三菱マテリアル株式会社(以下「三菱マテリアル」)との間で,和解が成立した。

 

■本和解の概要

 本和解は,和解書に調印した生存被害者3名のみならず,三菱マテリアルの関係事業場で苦役に従事させられた被害者3765名全体についての終局的・包括的解決を目的とするものである。

 本和解の内容は,三菱マテリアルが人権侵害の事実とその歴史的責任を認め,被害者に対して深く謝罪し,その謝罪の証として,被害者1人当たり10万元の金員を今後設立される基金に拠出するとともに,三菱マテリアルの負担で,同社の旧事業場などに記念碑を建立し被害者遺族等による慰霊追悼事業を行うものである。

 

本和解までの道のり

 アジア太平洋戦争末期,日本国内の労働力不足を補うという日本の国策によって,中国から日本へ強制連行された中国人捕虜や農民,一般市民などの被害者約4万人は,これを促しあるいは受け入れた日本の企業35社によって,日本全国135の事業所(炭坑・鉱山・土建現場・港湾など)において,賃金を支払われることなく劣悪・過酷な労働を強いられた。非人間的な処遇のもと6800名を超える人たちが死亡した。

 これらの被害者・遺族は,1975年以降,日本で企業や国を被告として訴訟を提起したが,2007年4月27日の西松安野事件最高裁判決によって,被害者個人の実体的請求権は消滅していないが裁判上これを請求する権利(訴権)は消滅したとして請求を棄却され,日本での訴訟の道は事実上閉ざされた。

 札幌,東京,福岡,長崎,宮崎での訴訟には,三菱マテリアルをも被告としたものがあった。それらの事件の判決も,強制連行・強制労働とその被害につき国と企業の共同の加害行為・不法行為責任を認めながら,西松安野事件最高裁判決に沿って,請求を棄却した。しかし,それにもかかわらず,少なくない裁判所が,訴訟上の和解成立に向け粘り強く訴訟当事者の説得に努め,あるいは,和解の努力を求める所見を文書で示し,和解が成立しないときであっても,加害者である国や企業に解決の努力を促す付言を判決書に記載し,あるいは,判決言渡しに際し解決の必要性を口頭で述べるなど,本問題の解決を強く促す姿勢を示した。

 ただ,すべての被害者との包括的・統一的な解決を望み、また日本政府との共同の解決を期待する三菱マテリアルの同意を得ることができなかったため,裁判中は和解成立まで至らなかった。しかし,被害者側はその後も粘り強い交渉を続け,本日の和解に結実した。

 

■本和解の意義

 本和解で,三菱マテリアルは,中国人被害者が強制連行された事実を認め,三菱マテリアルが劣悪な条件下で労働を強い,人権を侵害した事実を認めて痛切な反省の意を表し,また,被害者が重大なる苦痛および損害を被ったことにつき歴史的責任を認め,深甚なる謝罪の意,深甚なる哀悼の意を表した。そして,この謝罪の証として被害者1人に対して10万元を交付するために,基金に一定の金額を拠出する。

 これまでも加害企業と被害者が和解した例はあるが,本和解は,加害者が人権侵害を明確に認め謝罪したもので,加害者側の責任の認識としては,これまでにないものといえる。また,謝罪の証として交付される金額も,これまでの和解を上回るものとなっている。日本政府や他の多くの加害企業が,いまだ加害の事実さえ明確に認めず,謝罪もしていないことからすれば,本和解の内容は,これまでの被害者の闘いの到達点として大いに評価できる。

 また,本和解において,三菱マテリアルが,二度と過去の過ちを繰り返さないために記念碑の建立に協力し,この事実を次世代に伝えていくことを約束していることも,これまでの強制連行・強制労働事件の和解解決にはない本和解の画期的な側面である。戦争の惨禍を繰り返さないこと,そのためにも悲惨な戦争被害と加害の事実を記憶にとどめ,その記憶を世代を超えて継承していくことは,日中両国民にとっての課題であり,悲願である。

 さらに,本和解では,加害者である三菱マテリアルの役員が,自ら中国に赴き,生存被害者に対して,事実と責任を認めて直接に謝罪し,その証として金員を交付している。これもまた,加害企業の責任の表明と謝罪のあり方として新たな段階に進んだものであり,この点についての三菱マテリアルの決断を評価したい。

 

■今こそ全面解決を

 本和解の成立は,それが一企業の決断であっても,被害者の心を癒やして信頼を築き,日中における平和と友好の促進に重要な役割を果たしうることを示した。同時に,本和解は,一企業との解決にとどまらず,中国人強制連行・強制労働事件の全面解決への重要な足がかりとなるものである。

 私たち弁護団は,ドイツの「記憶・責任・未来」基金に学び,日本政府と企業がその責任を認めて謝罪し,その証として基金を設立する全面解決構想をかねてより提唱している。

 中国人強制連行・強制労働事件は,外務省が自ら作成した報告書にその事実が記載され,さらに多くの裁判所がその事実を認定している。本和解を機に,今こそ政府の主導と責任において,すべての加害企業の参加を得,さらには経済団体等の参加をも得て,中国人強制連行・強制労働の被害者約4万人のすべてを対象とする全面解決が果たされるべきである。被害者が高齢化し,日に日に生存者が少なくなっていることを思えば,一日も早い解決が求められることは言うまでもない。

 私たち弁護団は,すべての強制連行・強制労働被害者,その遺族と連帯して,日中両国の内外で運動を展開し,さまざまな障害を乗り越えて全面解決を実現することをここに宣言する。

以 上

 

 

 

 

三菱マテリアルの声明


2016年(平成28年)6月1日

三菱マテリアル株式会社

中国人元労働者との和解について

 三菱マテリアル株式会社(取締役社長:竹内 章、資本金1,194億円)は、本日中国北京市において、第二次世界大戦中に中国人元労働者(以下、元労働者)が当社の前身である旧三菱鉱業株式会社(以下、旧三菱鉱業)の事業所において労働を強いられたことについて、3名の元労働者の方々と和解致しました。

 当社は、本日の和解に関する調印式で、歴史的責任に対し真摯かつ誠実な謝罪の意を表明し、3名の元労働者の方々にこれを受け入れていただくとともに、謝罪の証として1人当り10万人民元を支払うことで合意致しました。

 また、今後中国国内で基金を設立し、旧三菱鉱業の事業所において労働を強いられた、その他の元労働者またはそのご遺族の方々の所在調査と和解、記念碑の建立等(以下、和解事業)を行うこととしております。

 なお、元労働者やそのご遺族の方々を支援する団体からも、本和解への賛同と、和解事業に協力する意思を表明していただいております。当社は、和解事業によって、元労働者およびそのご遺族の方々との包括的かつ終局的な解決を図ってまいりたいと考えております。

 

 

三菱マテリアル株式会社の謝罪文言は、以下のとおり。


第二次世界大戦中,日本国政府の閣議決定「華人労務者内地移入に関する件」に基づき,約39,000人の中国人労働者が日本に強制連行された。弊社の前身である三菱鉱業株式会社及びその下請け会社(三菱鉱業株式会社子会社の下請け会社を含む)は,その一部である3,765名の中国人労働者をその事業所に受け入れ,劣悪な条件下で労働を強いた。また,この間,722人という多くの中国人労働者が亡くなられた。本件については,今日に至るまで終局的な解決がなされていない。

 

『過ちて改めざる,是を過ちという。』 弊社は,このように中国人労働者の皆様の人権が侵害された歴史的事実を率直かつ誠実に認め,痛切なる反省の意を表する。また,中国人労働者の皆様が祖国や家族と遠く離れた異国の地において重大なる苦痛及び損害を被ったことにつき,弊社は当時の使用者としての歴史的責任を認め,中国人労働者及びその遺族の皆様に対し深甚なる謝罪の意を表する。併せて,お亡くなりになった中国人労働者の皆様に対し,深甚なる哀悼の意を表する。

 

『過去のことを忘れずに,将来の戒めとする。』 弊社は,上記の歴史的事実及び歴史的責任を認め,且つ今後の日中両国の友好的発展への貢献の観点から,本件の終局的・包括的解決のため設立される中国人労働者及びその遺族のための基金に金員を拠出する。また,二度と過去の過ちを繰り返さないために,記念碑の建立に協力し,この事実を次の世代に伝えていくことを約束する。

以 上

 

 

 

 

中国人強制連行事件解決をめざす全国連絡会の声明

 

中国人強制連行・強制労働

三菱マテリアル事件和解成立についての声明

 

                 

 6月1日、北京において三菱マテリアル(旧三菱鉱業)と強制連行・強制労働された被害者が和解合意書に調印を行いました。これは長年にわたって企業側と交渉を続けてきた被害者・遺族すべてを代表して行われたものであり、今回の和解成立は裁判終結後も事件の全面解決をめざしてたたかってきた私たち全国連絡会として心から歓迎するものです。

 アジア太平洋戦争の末期、日本の国策によって中国から4万名近くの人々が日本軍によって強制連行され、日本国内135事業所に配置され過酷な労働と家畜にも劣る劣悪な処遇のなか全国で6830人の死亡者がでています。

 三菱マテリアルは、連行してきた3765名の中国人を北海道から九州まで全国12カ所(下請け3か所を含む)の炭鉱・鉱山で使役し、一年たらずの間に722名という驚くべき数の死亡者を出しています。ところがこれらの中国人を使役することによって相応の利益を得ているのに賃金を支払わず、国から多額な補償金さえ獲得しています。

 そして戦後70年という時が経過しましたが、この間に被害者は日本政府と企業に謝罪と補償を求め、日本各地の裁判所に提訴してたたかってきました。三菱マテリアルに対しては札幌、東京、福岡、長崎、宮崎の5カ所の法廷でのたたかいを行いました。裁判では事件の被害・加害の事実認定をさせるという成果を勝ち取ることはできましたが、勝訴を手にすることはできず被害者の大多数がいまは亡くなっています。

 今回の和解成立は、被害者原告たちの裁判でのたたかいの成果の上に立ったものであり、この裁判で奮闘した全国各地の弁護団、支援団体と支援する市民の力によるもので、ここに私たち全国連絡会は喜びをともにするものです。さらに裁判の終結後も事件の全面解決のために奮闘し、西松建設信濃川事件の和解成立に引きつづき、困難な企業交渉に当たってきた中国人強制連行・強制労働事件全国弁護団に対し敬意を表します。

 

 以下に今回の「和解合意書」の内容をまとめます。

 1.三菱マテリアルの前身企業と下請け企業で使役した3765人を対象にした解決をする。

 2.当時の使用者としての歴史的責任を認め、中国人労働者及びその遺族に深甚なる謝罪の意を表する。

 3.基金を設立して資金を拠出し、一人当たり10万元を支払う。

 4.記念碑建立に1億円、行方不明者の調査費に2億円を拠出する。

 5.日本で行われる慰霊追悼行事に協力する。

 

 この内容は、三菱マテリアルの被害者・遺族が提出した「統一要求書」にも基本的に合致するもので、当該企業の全被害者の解決、歴史的な責任と謝罪、記念碑建立が明記され、金額についても要求に沿うものであり画期的な成果と言うことができます。

 これから基金創設と管理委員会の確立、被害者・遺族への基金の交付、調査活動、記念碑建立などが始まりますが、これらの諸事業が早急にそして円滑に進められることを心から願うものです。

 中国人強制連行・強制労働事件の後、余りにも多大な時間が経過しましたが、今回の三菱マテリアルの和解への決断を評価するとともに、これを契機としてこの事件に関わったすべての企業に対して解決に向き合うことを呼びかけます。過去のことであったとしても人間の尊厳を奪った重大な行為について解決に当たることは企業の社会的責任であり、今後の企業発展にもつながるものと確信するからです。

 また、日本政府には閣議決定による国策として行った強制連行・強制労働の不法な行為を直視して、その責任を認め全被害者の全面解決のために動くことが求められています。このことこそが日中間の平和と信頼醸成に必ず役立つことになります。

 私たち全国連絡会は、今後とも全面解決実現のために中国人被害者・遺族と連帯してたたかいを進めて行く決意です。

 

  2016年 6月 1日

 

            中国人強制連行事件解決をめざす全国連絡会

 



    >>愛知・大府飛行場中国人強制連行被害者を支援する会の声明


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