小林龍一:推定と検定

作成日:2024-08-28
最終更新日:

概要

「まえがき」から著者のことばを引用する。

(前略)統計学の入門書は多く,それにまた著者の拙い仕事を加えることは恥かしいことであるが,統計学の教育・普及について多少の工夫を試みて, 読者諸氏のご批評をうけたい気持もあって,執筆をさせて戴いた.(後略)

節末には練習問題があり,巻末には一部の練習問題の答がある。

感想

本書は統計と検定について扱っているが、t 分布表や F 分布表がない。今の統計本は知らないが、一昔前の統計本、 たとえば小針晛宏の「確率・統計入門」や本間鶴千代の「統計数学入門」では t 分布表がある。 近年の、特に Excel などの表計算ソフトや R などの統計ソフトを援用した統計の書籍にはないだろう。

pp.146-147 練習問題 13 の 2. を解いてみよう。本問の答は本書にはない。

弱電器機に使用されているバネについて,そのバネ圧が接触不良の雑音の原因となることがわかったが,微小な部品であるため,測定がかなり困難で, 測定値の精度が問題となった.そこで 10 個のバネを選び,これをA, B 2 人の測定者に測定させて下表の結果を得た. はたして A, B 2 人の測定者はその癖に差がないか(たとえば A は大きく測る傾向があるなど).

試験バネ番号12345678910
A80.977.979.380.780.979.479.579.980.981.0
B80.477.578.880.380.479.179.179.380.280.4

同じページにある問題 1.の解答が p.190 にあり、これをまねて解答する。

このような場合はバネごとに測定の変動があると考え、対応あるデータとして解析する。 2 人の測定値での対応する測定値の差をとる。

0.5, 0.4, 0.5, 0.4, 0.5, 0.3, 0.4, 0.6, 0.7, 0.6

帰無仮説 `H_0 : mu_A - mu_B = 0, ` 対立仮説 `H_1: mu_d = mu_A - mu_B !=0`

`bar(d) = 4.9 / 10 =0.49`

`S_d = 0.5^2 + 0.4^2 + cdots + 0.6^2 - (4.9^2)/10 = 0.129`

`t_0 = 0.49/(sqrt(0.129/9)//sqrt(10)) = 12.94...`

t 分布表から `t(9, 0.05) = 2.262` であるから、5 % の有意水準で帰無仮説は棄却される。したがって、A は大きく測る傾向があるといえる。

なお、`S_d` の式は、コンピュータで計算する場合は計算誤差を考えて `S_d = (0.5-0.49)^2 + (0.4- 0.49)^2 + cdots + (0.6-0.49)^2 = 0.129`

のように、定義そのままに計算するのがよいことが知られている。

ルベック測度

p.28 「2.確率論」の脚注で、コルモゴロフについて述べた箇所で彼は確率とはルベック測度であるという事実を発見し, 確率論がルベック積分論の知識をもって厳密に書き改めることを発見した.と書かれている。Lebesgue をルベッグと表記すべきだとしたのは梶原先生だったと思う。

誤植

先に引用した練習問題 13 の 2. は弱電器機とあるが、正しくは《弱電機器》だと思う。

数式の記述

数式表現は ASCIIMathML を、数式表現はMathJax を用いている。

朝倉書店 基礎数学シリーズ

書誌情報

書名 推定と検定
著者 小林龍一
発行日 昭和 50 年(1975 年) 6 月 30 日 7 版
発行元 朝倉書店
定価 1700 円(本体)
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MARUYAMA Satosi