「序」から著者のことばを引用する。
高校の数学にベクトルが導入されてからすでに久しい.したがってベクトルはポピュラーな概念になりつつある. しかし,高校における取り扱いは,“内積を使っての計算” が主であるかのようで,ベクトルの意味の理解には到底及ぶべくもないと思われる. 本書はそのベクトルを正しく理解できるよう,さらにすすんでベクトル空間の概念にまで発展させて解説したものである.(後略)
いくつかの節には問があり、巻末に解答がある。
「序」では2章も準備の章で,計量的構造をもたないアフィン空間の説明である.
と述べられている。アフィン空間の説明が線形空間の本にあるのは珍しいと思ったが、
線形空間とアフィン空間は親戚みたいなものだからいいのだろう。p.36 に3次元のメネラウスの定理やチェバの定理があったのがおもしろかった。以下引用するが、図版は省略する。
なお、下記引用で例題 2 とあるのは、平面上のメネラウスの定理を指す。また、下記引用のうち、問 2 の (i) で本来 `l(B_3, A_2)` とあるべきところが
`(B_3, A_2)` となっていたので引用にあたって修正した。
問 1 (メネラウスの定理)4 点 `A_1, cdots, A_4` は 1 平面上にないとき,
`x_ivec(B_iA_i) = vec(B_iA_(i+1)), quad x_i != 0, 1, `(`A_5=A_1`) をみたす点 `B_i(1 le i le 4)` が 1 平面上にあるためには `x_1x_2x_3x_4 = 1` が必要十分である.問 2 (チェバ(Čeva)の定理)(i) 例題 2 において,3 直線 `l(B_1, A_3), l(B_2, A_1), l(B_3, A_2)` が 1 点 `C` で交わるためには `x_1x_2x_3 = -1` が必要十分である.
(ii) 上の問において `A_(4+i) = A_i` とする.4 平面 `epsilon_i = epsilon(B_i, A_(i+2), A_(i+3)) (1 le i le 4)` が 1 点 `C` を共有するためには `x_1x_2x_3x_4 = 1` が必要十分である.
メネラウスの定理やチェバの定理は、 小平邦彦:幾何のおもしろさなど、ほとんどの初等幾何学の本で紹介されているが、 3次元のメネラウスの定理やチェバの定理を見たのははじめてだった。
一つは問題を解こう。3 章「ベクトルの線形性」の章末にある p.67 の問 6 である。
問 6 直線
`2x_1 - 4x_2 + 2x_3 = 6, quad 2x_1 + 3x_2 - 2x_3 = 1`を含み, 直線`3x_1 + x_2 + 2x_3 = 4, quad 6x_1 - 9x_2 - 3x_3 = -15`と平行な平面の方程式を求めよ.
解答にはヒントも書かれているが、一応自分なりに考えてみる。ただ、もう頭が回らない。おまけに、今から述べる解答は内積を使うものであるから、 つまり計量が入っている空間を考える解答だから、本書の意図とは異なっている可能性が高い。本書で計量が入るのは 4 章になってからである。
第 1 の直線を含む平面の方程式は、実数 `p, q` を使って次のようにかける。ただし、`p, q` は同時に 0 にはならない。
数式表現は ASCIIMathML を、数式表現はMathJax を用いている。
書名 | ベクトル空間入門 |
著者 | 小松醇郎・菅原正博 |
発行日 | 昭和 49 年(1974 年) 11 月 25 日 初版 |
発行元 | 朝倉書店 |
定価 | 1800 円(本体) |
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