小針 晛宏:確率・統計入門

作成日:2017-11-03
最終更新日:

概要

小針晛宏という個性を通しての‘ひとつの数学’(小針の同僚4人によるあとがきより)。

感想

記述の誤り

Studio RAIN 氏による統計学の有名教科書の誤りに気づく (studio-rain.cocolog-nifty.com) というページの指摘でわかったのだが、私が持っている版の同書には看過しがたい誤りがある。

第2章 §3 変数の変換は p.49 から始まっている。このページの命題 2.6 を引用する。

命題 2.6 関数 `y = f(x)` は連続な導関数を持つ単調な関数とする. `x` 軸上に分布 `p(x)` があるとき `y = f(x)` によって `y` 軸上に移される分布 `q(y)` は
`q(y)dy = p(x)dx`
を満足する.すなわち逆関数を `x = varphi(y)` とするとき
`q(y) = p(varphi(y)) (d varphi(y))/(dy)`
で与えられる.

Studio RAIN 氏によれば、逆関数の式は次でなければならない。

`q(y) = p(varphi(y)) abs((d varphi(y))/(dy))`

理由は氏のページを見ればわかる。同じ理由で、下記の命題 2.7 も誤りである。

命題 2.7 `y = f(x)` の逆関数を
`x_i = varphi_i(y) `
とし,これは有限個の点を除いて連続な導関数を持っているとする.そのとき、`x` 軸上の分布 `p(x)` は `y` 軸上の分布
`q(y) = sum_i p(varphi_i(y)) (d varphi_i(y))/(dy)`
に写される.ただし和はすべての逆関数についてである.

正しくは、`q(y)` は次でなければならない。

`q(y) = sum_i p(varphi_i(y)) abs((d varphi_i(y))/(dy))`

初版は1973 年 5 月 31 日第1刷であり、今でも新刊本として入手可能である。 この点が訂正されているか、いつかは確かめてみたい。

2017年12月のある日、最新の(版数は失念)同書を調べてみたが、訂正されていなかった。(2018-01-01)

この変数変換における絶対値の記載漏れについて、ほかの確率関係の書物でどのように記載されているか調べた。 坂元らによる情報量統計学では、変数変換における絶対値は記載されている。

くだけた書き方

岩波書店の本にしてはくだけている。著者と京都大学でいっしょに教鞭をとっていた森毅の語り口を彷佛とさせる。 なお、著者の名前は「こはり・あきひろ」と読む。

チェビシェフの不等式

pp.43-pp.45 にかけて、チェビシェフの不等式の証明とその批評が述べられている。面白いので引用する。 (2021-06-30)

 この証明を見て‘ずい分気前がいい’と思わない人はいないだろう. 不等式の証明というものは,大抵の場合,いろいろと苦心の末, 一歩また一歩,じりじり評価して達成するものだが, ここでは右辺の第 2 項,どまん中のふくらみの部分を‘正だから’という一言の下に切り捨てご免にしている. まるで大根の頭としっぽだけ残して,真中の部分を切り捨てるようなことをしている. まさに殿様のようなぜい沢をした不等式になっている.
 チェビシェフ氏にはお気の毒だが,数学に接するときは, これくらい悪たれを言う批評精神は是非ほしいものである.

書誌情報

書 名確率・統計入門
著 者小針 晛宏
発行日1984 年 3 月15日 (第11刷)
発行元岩波書店
定 価1900 円
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MARUYAMA Satosi