高村 多賀子:関数解析入門

作成日:2013-03-05
最終更新日:

概要

「はじめに」から著者のことばを引用する。

本書では関数解析が如何なるものであるかを理解していただくことを主眼とし, その基本的事項を丁寧に解説したあと,一つのモデルとして偏微分方程式への分り易い応用を採り上げた. 応用に触れた分だけ,難解と思われるものを割愛することになったが,入門書として何よりも読み易くしたいという著者の念願が, かえって実現し易くなったように思う.

目次

1. 序論
 1.1 位相空間
 1.2 距離空間
 1.3 線形空間
2. バナッハ空間
 2.1 バナッハ空間
 2.2 バナッハ空間の例(数列空間)
 2.3 バナッハ空間の例(関数空間)
 2.4 可分性
3. バナッハ空間の線形作用素
 3.1 有界線形作用素
 3.2 一様有界性の原理
 3.3 閉作用素
 3.4 開写像定理・閉グラフ定理
4. 局所凸線形位相空間
 4.1 線形位相空間
 4.2 局所凸位相と半ノルム
 4.3 フレッシェ空間
 4.4 有開集合と線形作用素
5. 共役空間Ⅰ
 5.1 ハーン・バナッハの定理
 5.2 双対性
 5.3 回帰性と弱コンパクト性
6. 共役空間Ⅱ
 6.1 有限次元空間
 6.2 共役空間と可分性
 6.3 一様凸性
 6.4 商空間
 6.5 共役空間の例
 6.6 線形汎関数と超平面
7. ヒルベルト空間
 7.1 内積空間・ヒルベルト空間
 7.2 完備正規直交系
 7.3 直和分解定理・リースの表現定理
8. 固有値と固有ベクトル
 8.1 スペクトルとリゾルベント
 8.2 双対作用素
 8.3 完全連続作用素
 8.4 共役作用素
 8.5 自己共役完全連続作用素
9. ソボレフ空間
 9.1 種々の関数空間
 9.2 ソボレフ空間 `H^ℓ(Omega)`
 9.3 ソボレフ空間 `H_0^1(Omega)`
 9.4 完備正規直交系と有界集合
10. 楕円形偏微分方程式への応用
 10.1 物理学的説明
 10.2 直交射影の方法
 10.3 弱解の微分可能性
演習問題の略解
参考書
記号表
索引

感想

カリグラフ体のリーゼント

p.1 は序論である。集合の近傍系について、次のように記述されている。

集合 `X` の各元 `x` に `X` の部分集合の族 $ \mathcal{V}(x) $ が対応して,次の 4 条件:

(1.1) すべての $ V \in \mathcal{V}(x) $ に対して `x in V`,
(1.2) $ V, W \in \mathcal{V}(x) ならば V \cap W \in \mathcal{V}(x)$ ,
(1.3) $ V \in \mathcal{V}(x) $ ,`V sub W` ならば $ W \in \mathcal{V}(x)$ ,
(1.4) 任意の $ V \in \mathcal{V}(x) $ に対して $ W \in \mathcal{V}(x)$ が存在して,すべての `y in W` について $ V \in \mathcal{V}(y) $

を満たすとき,$ \mathcal{V}(x) $ を `x` の近傍系といい,各 $ V \in \mathcal{V}(x) $ を `x` の近傍という.(後略)

さて、この本の V のカリグラフ体は、左側の端がぐんと伸びていて、さらにそれが下に向かって湾曲している。まるでリーゼントのようだ。画像を次に掲げる。

このようなリーゼントカリグラフ体は、越昭三:線形位相入門でも見られる。

なお今書いたばかりのことを否定するのだが、ひさしのような前髪の盛り上がりは正しくはポンパドールといい、リーゼントと呼ぶのは誤りである。

本書の特徴

本書の特徴は、「はじめに」にあるとおり、ルベーグ積分の知識を一切仮定していない ことにある。これは、ソボレフ空間 `H^ℓ(Omega)` の取り扱いが完備化の方法によるのが自然である ということ、このことから、空間 `L^p(Omega)` を完備化によって導入するのが、 むしろ関数解析の手法を紹介するうえで意味があると考えたからである.という理由による。 もっとも、著者はルベーグ積分が不要といっているのではなく、 関数解析を深く理解するにはルベーグ積分は不可欠のものであると著者は考える.ともいっている。

誤植

誤植は見つかっていない。

数式の記述

数式表現は ASCIIMathML を、数式表現はMathJax を用いている。

関数解析の本

書 名関数解析入門
著 者高村 多賀子
発行日2012 年 4 月 25 日 復刊第2刷
発行元朝倉書店
定 価3,200 円
サイズ
ISBN978-4-254-11719-6
NDC

まりんきょ学問所数学の本 > 高村 多賀子:関数解析入門


MARUYAMA Satosi