西田俊夫・竹田英二:ファジィ集合とその応用

作成日 : 2024-10-08
最終更新日 :

概要

「まえがき」から引用する

ふつう数学で取り扱う集合というものは,その集合に属する要素と,属さない要素がはっきり区別されていなければならない.(中略)境界のぼんやりした集合をファジィ集合という.(中略)

日常生活で用いられる表現には,ファジィなものが多い.しかし,そのなかから何らかの情報をとらえて,それが意思決定に役立つことになる.明確な表現による集合をハードな集合とみなせば, 不明確な表現によるファジィ集合はソフトな集合ともいえよう.その柔構造をしらべようとするのが本書の目的である.(後略)

章末には演習問題があり、巻末には演習問題の略解がある。

感想

演習問題[Ⅰ]を見てみた。

1. つぎのそれぞれの表現で,ファジィなものはどれか.

  1. イ)午後 6 時以降,ロ)夕刻,ハ)午後 8 時まで,ニ)午後 7 時ごろ.
  2. イ)絶世の美人,ロ)ミス・ユニバース,ハ)キャバレー「メトロ」のホステス.

私が解答をかんがえるより巻末の略解を見たほうが早い。p.155 には次のように書いてある。

1. ロ,ニ 2. イ

まあ、普通はそうなるだろう。ただ1. の時刻の表現で、ロ)やニ)がファジィな表現を含むが、イ)やハ)にファジィな表現がないと言い切れるのか。たとえば、イ)で日付を回って午前12時1分は午後 6 時以降といえるのか。 ハ)で午前11時59分は午後8時までに該当するのか。これは時と場合によるだろう。2. でイ)はファジィな表現があるから確かにそうだが、ロ)やハ)はどうだろうか。ロ)の厳密な意味は、 話題にしている、その年に選ばれたミス・ユニバースを指すのであってどんなときにでも一人しかいないはずだが、「過去にミス・ユニバースになった人」と捉えることも可能であり、 そうすると話題にしている、その年に複数いるのが当然となる。ハ)も、過去にキャバレー「メトロ」のホステスだった人、という意味もとると広くなるし、さらにキャバレー「メトロ」は日本のどの店なのか、 他国にある metro という名前のキャバレーも含めるのか、などなど、これはファジーというよりはことばの定義のあいまいさに起因するものだが、

2章は「ファジィ・グラフ」である。p.29 で、ここでグラフというのは,関数のグラフのことではなく,いくつかの点と,それらの点を適当に結んだ線とからできた図系のことである. と定義している。少し進んで、p.35 から以下引用する。なお、グラフの中心や周辺点の定義は省略する。

グラフの中心とか周辺点という考え方は,人間集団の構造とか,集団心理の研究に用いられる.(中略)グラフの中心になる人は,そのグループのボス的な存在となっている人であり, 周辺点の人は,そのグループで疎隔度の高い人である.ある目的のための集団を構成しようとするとき,リーダーシップ(指導力)のある人を中心にして, あまりコミュニケーションがなくても機械的に仕事をしておればよい人を周辺点に配置すればよい.これは産業心理など社会心理的な集団の構成によく利用されている.(後略)

私はコミュニケーション力がなかったので、周辺点に配置されていた。しかし、周辺点に配置されてもコミュニケーション力が必要とされたので、全く困った。

「2.2 グラフの連結性」は次のように始まる。

人間社会では個人が別々に行動することは少なく,何らかの組織に属していることが多い.(中略)そのとき,その組織の結合の強さが問題となる. それは,組織を構成する個々の人と,それらの人の間での人間関係によってきまる.そこで人間を頂点として,人間関係を弧として,グラフに表現したとき,その結合の強さを考えることになる.

また,組織に属する個々の人についても,必ずしもすべての人が,その組織にの目的にとってプラスになっているとは限らない.(中略)人によっては,いてもいなくても変わらないという人もある.(後略)

最後の文を読んで身につまされた。私がまさにそうだったからである。私が会社を退職した後も、何もなかったのように業務が遂行されているのだ。

演習問題[Ⅱ] から抜粋する。

4. 図 2.28 のファジィグラフでは `m_(G_2)(FG) = m_(G_1)(FG)` であるが,`W_2` 点が `W_3` 点でないことを示せ.

xk 0.6 0.5 0.3 0.4 0.2

図 2.28

解答を見ると次のようになっている。

4. `m_(G_3)(FG) = 0.4, m_(G_2)(FG) = 0.6, m_(G_1)(FG) = 0.6` したがって `M_(G_2)(FG) = M_(G_1)(FG)`.
また `m_(G_3)(FG_k) = 0.2, m_(G_2)(FG_k) = 1.0, m_(G_1)(FG_k) = 1.0` であるから `x_k` は `W_2` 点であるが `W_3` 点でない.

解答を見ると、本文の後半は、《`x_k` は `W_2` 点であるが `W_3` 点でないことを示せ.》が適切であるように思われる。

ともあれ、この解答から、`m_(G_i)(FG)` の値や `m_(G_i)(FG_k)` の値 `(i = 1, 2, 3)` が求められないとどうしようもないことがわかる。まず、`G_i` とは何かを調べよう。 本書の p.37 によれば、弱連結グラフの集合が `G_1`、片連結グラフの集合が `G_2` 、強連結グラフの集合が `G_3` である。 強連結グラフとはグラフの任意の 2 頂点の間にどちらからも相互に経路が存在するグラフをいう。また、グラフの任意の 2 頂点間で、少なくとも一方からの経路が存在するグラフをいう。 そして、任意の 2 頂点の間に連鎖が存在するグラフをいう。連鎖とは、矢印の向きを問題とせずに、ともかく連結する弧があってつながっていることをいう。`G_1` は一番連結度が高く、次が `G_2` で、 `G_3` が一番連結度が低い。以上は、ファジィでないグラフに対しての定義である。

ファジィ・グラフでは、連結性がファジィ度で表されているので、`G_i` への分類もファジィ度で表されるのが自然だ。そこで分類が属する程度をファジィ度として求める計算が本書で示されている。 ここではその詳細は割愛する。計算だけ追っていくと次のようになる。まず、与えられたファジィ・グラフの3点を時計の12時、4時、8時の位置にある点から順に `x_1, x_2, x_3` とする。 `x_i` から `x_j` への関係行列 `A` は次のようになる。

`A = [[0,0.4,0.5],[0.3,0,1],[0.6,0.2,0]]`
次に `A^2, A^3` を求める。ここで行列の乗算は要素の積和演算で行うが、演算にあたっては通常の積・和ではなくそれぞれ最小値、最大値をとる演算とする(理由は本書を参照)。
`A^2 = [[0.5,0.2,0.4],[0.6,0.3,0.3],[0.2,0.4,0.5]], A^3 = [[0.4,0.4,0.5],[0.3,0.4,0.5],[0.5,0.2,0.4]]`
そして行列 `hat A = A + A^2 + A^3 ` を求めるが、この行列の和も要素ごとに最大値をとる演算である。
`hatA = [[0.5,0.4,0.5],[0.6,0.4,1],[0.6,0.4,0.5]]`
行列 `P` を `P = I_n + hatA` で定義する。ここで、`I_n` は `n` 次の単位行列である。また加法は最大値をとることを意味している。`P` の `i` 行 `j` 列の要素を `p_(ij)` とおく。
`P = I_n + hatA = [[1,0.4,0.5],[0.6,1,1],[0.6,0.4,1]]`
`P` と `P` の転置行列 `P'` の最大値の意味での和を求める。
`P + P' = [[1,0.6,0.6],[0.6,1,1],[0.6,1,1]]`

次に `A` の転置行列 `A'` を求める。

`A' = [[0,0.3,0.6],[0.4,0,0.2],[0.4,1,0]]`
次の関係行列 `Delta` を次の式で定義する。加法は最大値をとることを意味する。
`Delta = A + A' = [[0,0.4,0.6],[0.4,0,1],[0.6,1,0]]`
`Delta^2, Delta^3` も `A^2` や `A^3` と同じ要領で作る。積和は例によって最小値・最大値である。
`Delta^2 = [[0.6,0.6,0.4],[0.6,1,0.4],[0.4,0.4,1]], Delta^3 = [[0.4,0.4,0.6],[0.4,0.4,1],[0.6,1,0.4]]`
`hat Delta = Delta + Delta^2 + Delta^3 ` を `hat A` と同じ要領で作る。和は最大値である。そして `I_n + hat A` を `Q` とする。`Q` の `i` 行 `j` 列の要素を `q_(ij)` とおく。
`hat Delta = Q = [[0.6,0.6,0.6],[0.6,1,1],[0.6,1,1]]`
以上で前半の解答の準備ができた。 `m_(G_3)(FG) = min_(i,j) p_(ij), \quad m_(G_2)(FG) = min_(i,j) (p_(ij) + p_(ji)), \quad m_(G_1)(FG) = min_(i, j) q_(ij)` である(和は最大値)。よって、
`m_(G_3)(FG) = 0.4, m_(G_2)(FG) = 0.6, m_(G_1)(FG) = 0.6`
以上が前半の解答である。

次に後半の解答である。`W_i` 点の定義を述べよう。頂点 `x_k` を取り除いたグラフを `FG_k` で表す。また連結性の組を `G_i (i = 1, 2, 3)` で表す。 このとき、`m_(G_i)(FG_k) gt m_(G_i)(FG)` であったとする。 これは、頂点 `x_k` をグラフから取り除いたことによって `G_i` に属する度合いが大きくなった、ということである。言い方を変えれば、 `x_k` が存在することで `G_i` に属する度合いを弱めていることになっている。このとき、頂点 `x_k` を `G_i` に関する弱化点といい、`W_i` で表す。`W` は weak から来ていると思われる。 では、`x_k` を除いたファジィ・サブグラフを作ろう。図は省略する。図 2.28 で求めた `P, Q` などを求めよう。元のグラフと同じ `A, P, Q` を使うが混乱はないだろう。

`A = [[0, 1],[0.2, 0]], A^2 = [[0.2,0],[0,0.2]], P = I_n + A + A^2 = [[1,1],[0.2,1]], P + P' = [[1,1],[1,1]]`
`Delta = A + A' = [[0, 1],[1, 0]], Delta^2 = [[1,0],[0,1]], Q = I_n + Delta + Delta^2 = [[1,1],[1,1]]`
よって、`m_(G_3)(FG_k) = 0.2, m_(G_2)(FG_k) = 1.0, m_(G_1)(FG_k) = 1.0` が得られる。 `x_k` を取り除いたファジィ・サブグラフに関して、 `m_(G_2)(FG_k) gt m_(G_2)(FG)` であるから `W_2` 点であるが、 `m_(G_3)(FG_k) lt m_(G_3)(FG)` であるから `W_3` 点でない。

3章は「ファジィ環境での意思決定」である。p.87 にはこんな記述がある。

決定すべき種々の問題に直面したとき,まず問題をできるだけ正確に把握する必要がある.そのために,5W1H といわれているものを考えるのがよい.

  1. WHAT: 何が問題であるか,
  2. WHO: 誰々が関係があるか,
  3. WHEN: 時期はいつがよいか,
  4. WHERE: どこで取り扱うべきか,
  5. WHY: なぜ問題となるのか,
  6. HOW: どのように考えるべきか.

まさか数学の本で 5W1H に出会うとは思わなかった。もっとも、5W2H でなかっただけまだましかもしれない。5W2H というときのもう一つの H は "HOW MUCH"、つまり「いくら費用がかかるか」だ。

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書誌情報

書名 ファジィ集合とその応用
著者 西田俊夫・竹田英二
発行日 1988 年 2 月 10 日 第 1 版 第 7 刷発行
発行元 森北出版
定価 1900 円(本体)
サイズ A5版 170 ページ
ISBN 4-627-00480-X
その他 草加市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi