「まえがき」から引用する。
本書は線型代数学の入門的概説書である.
本書の第 1 刷は 1982 年 2 月 25 日付となっている。
本書の文中には問が、節末には問題がある。問の解答はないが、「問題の解答および解法要旨」が巻末に付されている。参考文献は挙げられていない。
「まえがき」の ⅲ ページから引用する。
Giraudoux に Amphitryon 38 という作品がある.それにならえば,本書は線型代数学 999 にでもなろうか.(後略)
Giraudoux とはフランスの劇作家であるジャン・ジロドゥのことだろう。アンフィトリオン 38 とはジロドゥの戯曲であるが、どのような筋なのかは知らない。
「まえがき」にもあるが、他の書籍ではあまり使われない用語や、他の書籍とは少し違う意味で使われる用語が本書にはある。
他書で使わない用語の例は「可逆行列」である。通常正則行列と呼ばれている行列は、本書では可逆行列と呼んでいる。本書 p.39 の脚注では、あまりに多用される‘正則’よりも,
明確な‘可逆’の方を用いる.
とある。私はこの方針に賛成だ。
また他の書籍とは少し違う意味で使われる用語が「基本行列」である。連立一次方程式の解法である消去法において、基本操作は 3 種類ある。 そのうちの一つは、拡大係数行列の行に関して、第 `j` 方程式の `c` 倍を第 `i` 方程式に加えるという操作である(ただし `i != j` )。この操作を、拡大係数行列に左からかけることによって実現するような行列があり、 本書ではこの行列のみを基本行列と呼んでいる。また、3 種類の基本操作に対応する行列は基本行列を含め 3 種類あり、本書では基本型の行列と総称している。 一方、3 種類の行列すべてを基本行列と呼んでいるのは、 永田 雅宜ほか:理系のための線型代数の基礎や伊理正夫:線形代数Iである。
本書の p.113 に `f-`不変部分空間が定義されている。この不変部分空間に基づいて、ジョルダン標準形を導いている。 吉野雄二「基礎課程線形代数」では `f-` 安定部分空間であり、ちょっと違う。
§15. 体積および関連事項にある問題 15 を解いてみる。
5. ベクトル積について,次の等式が成り立つことを証明せよ.なお、本書の斜体太字は引用では立体太字に変更している。
i) `(bba times bb b) times bbc = (bba, bbc) bb b - (bb b, bbc) bba`.
バカの一つ覚えで、成分ごとに計算してみよう。左辺を計算する。まず左辺の`bbe_1` 成分は次の通りである。
`c_3 abs((a_3,b_3),(a_1,b_1)) - c_2 abs((a_1,b_1),(a_2,b_2)) = c_3(a_3b_1 - a_1b_3) - c_2(a_1b_2 - a_2b_1)`
次の右辺の `bbe_1` 成分を計算すると次のようになる。
`(a_1c_1+a_2c_2 + a_3c_3)b_1 - (b_1c_1 + b_2c_2 + b_3c_3)a_1 = (a_2c_2 + a_3c_3)b_1 - (b_2c_2 + b_3c_3)a_1`
それぞれが同じだから `bbe_1` 成分が等しい。`bbe_2` 成分や `bbe_3` 成分も対称性により同様に成り立つので、ベクトルとしての等式が成り立つ。
ところが本書 p.178の「問題の解答および解法要旨」はこうだった。
i) (15.7), (15.11) により,任意の `bbd` について,`((bba times bb b) times bbc, bbd) = ((bba, bbc) bb b - (bb b, bbc) bba, bbd)` が成り立つことからわかる.
では、(15.7) と (15.11) はどんな式なのだろう。どちらも p.89 にある。(15.7) は次の式だ。
`det(bba, bb b, bbc) = (bba times bb b, bbc)`.
(15.11) 式はこうだ。(ここだけ引用は本書の通り斜体太字)
\( (\boldsymbol{a} \times \boldsymbol{b}, \boldsymbol{a'} \times \boldsymbol{b'}) = \begin{vmatrix} (\boldsymbol{a} , \boldsymbol{a'}) & (\boldsymbol{a} , \boldsymbol{b'}) \\ (\boldsymbol{b} , \boldsymbol{a'}) & (\boldsymbol{b} , \boldsymbol{b'}) \end{vmatrix} \)
うーむ、私の弱い頭ではわからない。
数式は MathJax を用いている。
書名 | 線型代数学 |
著者 | 服部昭 |
発行日 | 2002 年 4 月 25 日 初版第 13 刷 |
発行元 | 朝倉書店 |
定価 | 3500 円(本体) |
サイズ | A5 版 |
ISBN | 4-254-11432-X |
備考 | 草加市立図書館で借りて読む |
まりんきょ学問所 > 数学の部屋 > 数学の本 > 服部昭:線型代数学