著者曰く、
フーリエ級数から入れば,
微分積分と線形代数を終えた学生も入れるような講義になるのではないかと思って,書き出したのがこの原稿である.
人名がカタカナで表記されているのはありがたい。 フェイェールの定理など、たいていは Fejér の定理と書かれているから読み方がわからず困っていた。 ではここでフェイェールの定理を記す。
`f` を円周上の連続関数とし,`S_N` で `f` の `N` 次フーリエ多項式を表す.このとき,
`sigma_N(x) = (S_0(x) + cdots + S_N(x))/(N+1)`
は,`N -> oo ` のとき `f` に一様収束する.すなわち,
`||sigma_N - f||_bbT = en:"sup"{|sigma_N(x) - f(x)|; x in bbT} -> 0 ( N -> oo ) `
なお、フェイェールはハンガリーの数学者である。
フレシェ空間に付随してモンテルの性質が記載されている。モンテルの性質については他所ではあまり書かれていないと思われる。
シュワルツのディスティビューションを distribution を分布と訳しているのはおもしろい。通常は「超関数」を当てるが、 著者は原語を尊重したという。 なお、私見であるが、著者は佐藤幹夫による超関数 (hyperfunction) と区別をしたかったのかもしれない。
フーリエ級数の応用として、熱伝導方程式、多重フーリエ級数、定数係数線型偏微分方程式が扱われている。 そのなかで多重フーリエ級数(多変数フーリエ級数)は類書であまり取り扱われていない題材と思われる。
熱伝導方程式では、次の熱伝導方程式を所与のものとして解を導いている。
`del / (del t) u(t, x) = 1/2 del^2 / (del x^2) u(t, x), t > 0, -pi < x <= pi`
初期条件は `u(0, x) = u_0(x)` とする。途中は省略して解は次のようになる。
`u(t, x) = sqrt(pi/(2t)) int_-oo^oo u_0(y) exp(-(x-y)^2 / (2t)) dy`
さて、副産物としてヤコビのテータ関数について説明されている。この関数は次で定義されている。
`theta(t) = sum_(n=-oo)^oo exp(-pi n^2 t)`
ところが、他の文献を見るとみな `exp` の引数に虚数単位 `i` がついている。たとえば、次の通りである。
`vartheta(z; tau) = sum_(n=-oo)^oo exp(pi i n^2 tau + 2pi i n z) = 1 + 2 sum_(n=1)^oo (e^(pi i r))^(n^2) cos (2pi n z) = sum_(n=-oo)^oo q ^ (n ^ 2) eta ^n`
ここで、`q = exp(pi i tau) , eta = exp(2 pi i z)` である。
その違いは何か。解決につながる記述がテータ関数に関する英語版の Wikipedia にあった。以下、 訳す。
熱伝導方程式の解
ヤコビのテータ関数は時刻 `t = 0` で周期的境界条件をもつ一次元熱伝導方程式の一意な解である。 これは、`z = x` という実数でみて、`tau = it` として `t` を実数で正の値とすればよい。 すると次のようにかける。
`vartheta(x, it) = 1 + 2pi sum_(n=1)^oo exp(-pi n^2 t) cos (2pi n x)`
これは次の式を満たす。
`del / (del t) vartheta(x, it) = 1/(4 pi) del^2 / (del x^2) vartheta (x, it).`
この解が一意であることは t = 0 のときに注意すればわかる。テータ関数は次のくし型関数になる。
`lim_(t->0) vartheta(x, it) = sum_(n=-oo)^oo delta(x - n)`
ということは、`vartheta(z, tau)` の式で、`z = 0, tau = i t` とおけば同書の式が出てくるということだ。
数式表現は ASCIIMathML を、数式表現はMathJax を用いている。
書 名 | 関数解析とフーリエ級数 |
著 者 | 森本 光生 |
発行日 | 年 月 日 |
発行元 | 朝倉書店 |
定 価 | 円 |
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その他 | 草加市立図書館で借りて読む |