わかりやすいという評判の関数解析の教科書。
同書のよさは語り口だろう。 たとえば、これは他の方も引用しているが、p.140 の 2.9 節 Hahn-Banach の分離定理で、次のことばがある。
この節の目標は,Hahn-Banach の拡張定理を幾何学的に表現することであり, 平面上で言うと,「二つの交わらない凸集合があればその間を通るような直線が引ける」,という事実の一般化を証明することになる.
そのあとで、上記の記述についての注釈などがはいるが、このような関数解析のこころがわかるのがうれしい。
pp.280-281 では中線定理と分極公式が掲げられている。著者の言はこうである。
これらの確認は,誰でも一生に一度はやってみるとよいと言われているものなので,読者にお任せすることにする.
ということで、中線定理と、
分極公式の証明を試みた。
p.99 に、Banach 空間の例として挙げられている `C(S)` について考えよう。
ここで `S` は一般の位相空間、`C(S)` は `S` 上で実数値または複素数値の連続関数の全体とする。
さて、`{x_n}_n` を `sum_(n=1)^oo norm(x_n) < oo ` をみたす `S` 上の数列とする。`y_n := {x_n}_n` を考えると、`y(s) := lim_(n -> 0) y_n(s) `
が連続であることをいうにはどうしたらいいか。著者は、 `y` の連続性は `epsilon/3`論法と呼ばれる有名な議論で示される
、
という。では実際の変形はどうか。
`abs(y(s) - y(s_0))` | `<= abs(y(s) - y_(n_0)(s)) + abs(y_(n_0)(s) - y_(n_0)(s_0)) + abs(y_(n_0)(s_0) - y(s_0))` |
`<= epsilon/3 + epsilon/3 + epsilon/3 = epsilon` |
このような流れとなっている。おそらく `epsilon / 3` 論法として言いたいことは、 `abs(a - b)` の差を上から評価したいときのテクニックのことであろう。 すなわち、`a` と近い仲の `x` を呼び、また `b` と近い仲の `y` を呼ぶこと、このとき、呼んだ `x` と `y` も仲が良いことである。 これら3種類の差がどれも仲がよければ、それぞれの項は三角不等式で上から抑えられる。したがって、 `abs(a - b) = abs((a - x) + (x - y) + (y - a)) <= abs(a - x) + abs(x - y) + abs(y - z)` となる。したがって、極限でそれぞれを `epsilon / 3` に抑え込めば、 全体の差も `epsilon` 以下となり、収束が言える、ということになる。
なお、連続関数がある区間で一様収束するならば、極限関数も連続であるという定理の証明が、 藤田と今野による基礎解析 II にある。この証明の形式も、`epsilon / 3` 論法といえるのかもしれない。
付記:山上滋氏(名古屋大学)による、
解析学外論2012
(www.math.nagoya-u.ac.jp) に、
連続関数列の一様極限は連続であるという、`3epsilon` argument とも通底する内容
という記載があった。
きっとこれが `epsilon / 3` 論法のことだろう。ちなみに `3epsilon `論法、という用語は一件だけヒットする。
私がもっているのは第 3 版(第1刷)で、第 2 版までにあった誤植はかなりなくなっているが、一部は残っている。 第 1 版、第 2 版にあった誤植とその訂正は、横浜図書のホームページ(yokohamapublishers.jp)からたどれる 宮島氏のホームページ(www.ma.kagu.tus.ac.jp、2024-06-11現在リンク切れ) にある。 にある。第 3 版(第1刷)の誤植は次の通り。
p.87 上から 11 行目から12行目にかけて、`norm((a_n + b_n)_n) <= 2(norm((a_n)_n)^p + norm((b_n))^p)^(1//p)` とあるが、 正しくは `norm((a_n + b_n)_n) <= 2(norm((a_n)_n)^p + norm((b_n)_n)^p)^(1//p)` である。
p.89 の `epsilon/3` 論法の式で、右辺の第3項は`abs(y_(n_0)(s) - y(s_0))` は誤りで、`abs(y_(n_0)(s_0) - y(s_0))` が正しい。
p.103 下から 1 行めで Lebesuge とあるが、正しくは Lebesgue である。
p.327 上から 3行め、「複素形数」は誤りで、正しくは「複素係数」である。
p.540 は参考文献のページで、[15] の本の題名が「バナッハータルスキーのパラドックス」とあるが、 これは正しくは「バナッハ―タルスキーのパラドックス」だろう。長音か、全角ハイフンの違いだけである。
その他、第2版の正誤表で掲げられているが第3版でもそのままとなっている誤りがあるのでこれらも掲げる。 ここで行の欄の↑は下から n 行目の意味である。矢印がないのは上から n 行目を表す。
ページ | 行 | 誤 | 正 |
---|---|---|---|
35 | 9 | 位相空間 `x` | 位相空間 `X` |
94 | 11 | `norm(pi(u)) = norm(pi + (u + w))` | `norm(pi(u + Y)) = norm(pi(u + w + Y))` |
94 | 12 | `norm(pi(u))` | `norm(pi(u + Y))` |
94 | 14 | `norm(pi(u))` | `norm(pi(u + Y))` |
94 | 15 | `norm(pi(u))` | `norm(pi(u + Y))` |
100 | 10 | Lebesuge | Lebesgue |
107 | 11 | `uuu_(t in [0, 1])U_t` | `{U_t}_(t in [0, 1])` |
113 | 9 | `|| lambda | norm(T)` | `abs(lambda) norm(T)` |
120 | 4 | `sum_(k=1)^n (1/2 + cos kx)` | `(1/2 + sum_(k=1)^n cos kx)` |
124 | 1 | (b) が `n + 1` でも | (a), (b) が `n + 1` でも |
126 | ↑6 | `sum_(k=0)^n abs(b_k)` | `sum_(k=0)^(n-1) abs(b_k)` |
162 | 15 | `x_2 := x` | `x_2 := y` |
164 | 6 | `{:sum_(n=1)^N abs(f(x_i)-g(x_i))/ (2^n ( 1+abs(f(x_i)-g(x_i)) ) ) :} + sum_(n=N+1)^oo abs(f(x_i)-g(x_i))/ (2^n ( 1+abs(f(x_i)-g(x_i)) ) ) ` | `{:sum_(n=1)^N abs(f(x_n)-g(x_n))/ (2^n ( 1+abs(f(x_n)-g(x_n)) ) ) :} + sum_(n=N+1)^oo abs(f(x_n)-g(x_n))/ (2^n ( 1+abs(f(x_n)-g(x_n)) ) ) ` |
168 | 8 | `(sum_(k=0)^(n-1)T^(k+1)x) // n` | `(sum_(k=0)^(n-1)T^(k+1)y) // n` |
169 | 4 | `f(bb(1)) = 1` | `mu(bb(1)) = 1` |
173 | `N` (定理 2.121 の (2) の5か所) | `M` | |
175 | 12 | `X in X^(** **)` | `X sub X^(** **)` |
177 | 13-16 | (`g` の加法性の証明部分) | (独立させて掲載) |
396 | (定理5.33 の証明) | (正誤表参照) |
数式記述はMathJax を用いている。
書名 | 関数解析 |
著者 | 宮島静雄 |
発行日 | 年 月 日 |
発行元 | 横浜図書 |
定価 | 円 |
サイズ | |
ISBN | |
NDC |