極私的関数解析:分極公式

作成日:2015-07-11
最終更新日:

分極公式とは

分極公式(polariza idento, polarization identity)とは、 内積空間においてノルムによって内積を表す恒等式である。 中線定理と対になって話題になることが多い。

分極公式

`H` を実数上の内積空間とする。内積を用いて定義されたノルム `||x|| := (x,x)^(1/2)` は、任意の `x, y in H` に対して次をみたす:
`(x, y) = 1/4 {||x + y||^2 - ||x - y||^2}`

`H` を複素数上の内積空間とする。内積を用いて定義されたノルム `||x|| := (x,x)^(1/2)` は、任意の `x, y in H` に対して次をみたす:
`(x, y) = 1/4 {||x + y||^2 - ||x - y||^2 + i(||x + iy||^2 - ||x - iy||^2)} ( i = sqrt(-1) )`

証明

`H` が実数上の内積空間の場合について証明する。

`||x + y||^2 - ||x - y||^2 `` = (x + y, x + y) - (x - y, x - y)`
` = {(x, x) + 2(x, y) + (y, y)} - {(x, x) - 2(x, y) + (y, y)}`
` = 4(x, y)`

よって、
`(x, y) = 1/4 {||x + y||^2 - ||x - y||^2}`

`H` が複素数上の内積空間の場合について証明する。`A = ||x + y||^2 - ||x - y||^2 , B = ||x + iy||^2 - ||x - iy||^2` とおく。

`A = ||x + y||^2 - ||x - y||^2 `` = (x + y, x + y) - (x - y, x - y)`
` = {(x, x) + (x, y) + (y, x) + (y, y)} - {(x, x) - (x, y) + (y, x) + (y, y)}`
` = 4Re({:x, y:})`
`B = ||x + iy||^2 - ||x - iy||^2 `` = (x + iy, x + iy) - (x - iy, x - iy)`
` = {(x, x) + (x, iy) + (iy, x) + (iy, iy)} - {(x, x) - (x, iy) - (iy, x) + (iy, iy)}`
` = 2 (x, iy) + 2(iy, x)`
` = -2 i(x, y) + 2 i(y, x)`
` = -4i Im({:x, y:})`

よって、
`{||x + y||^2 - ||x - y||^2} = 4A + 4iB = 4Re({:x, y:}) + 4Im({:x, y:}) = 4(x, y)`

よって、
`(x, y) = 1/4 {||x + y||^2 - ||x - y||^2}`

なぜ分極公式というのか

分極とは英語 polarization の訳である。ふつう、polarization は物理学の分野で偏光と訳し、 電磁場が制限された方向に振動している状態を指す。右は中線定理でも掲げた図であり、 中線 AM は線分 AB と 線分 AC の平均のようなものと考えることができ、 中線定理は中線 AM の長さに着目した性質である。 そうすると、平均成分を除去した性質が何かと問われると、AB と AC の角度のようなものに着目することができる。 実際には角度のようなものというあいまいなことはできず、内積という数学的に定義されたものになるが、 それをノルムを使って表せるのだろうか、という考えから来ている。

ノルム空間と内積空間

内積空間は自動的にノルム空間である。というのは、`X` が内積空間であるとき、任意の `u in X` に対して、 `||u|| = sqrt(({:u, u:}))` とおけば `||quad||` はノルムの公理を満たすからである。すなわち、 `|| * || = sqrt(({:* , *:}))` は `X` のノルムである。証明は省略する。

分極公式から内積が自動的に定義されるか

さて、内積空間がノルム空間になったということを知ると、私は不安になる。なぜかというと、 ノルムを定義しただけでこの分極公式を使えば内積が定義できてしまうのではないか、せっかく内積の公理を用いて空間に計量を導入したのに、 ノルムだけで勝手なことができるのだろうか、という不安がよぎるからだ。 数学者はそのあたりの心配を先手を打って考慮している。何かというと、分極公式で内積(もどき)が定義されたとしても、 中線定理を満たしていなければ分極公式による内積もどきは内積の公理を満たさないこと、 一方、中線定理を満たしていれば分極公式により表現される内積は、もどきではなく、内積の公理を満たす、ということが証明されている。

そのあたりは証明は他所に譲る。

数式記述

このページの数式は MathJax で記述している。

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MARUYAMA Satosi