著者曰く、
本分冊は,
科学技術の諸分野における応用数理の諸問題に関数解析の手法を用いて取り組むことを意図される人達の学習に役立つことを目指している.
まえがきで、『「微積分は二度学べ」とよく云われる.」と述べている。 そのすぐあとで、『同じことは,関数解析にも当てはまる』とも続けている。 二度学ぶ前に、挫折しそうだ。
人名をカタカナで表記するのか、原語で表記するのかは悩ましい問題だ。 カタカナ書きで登場するのが、 グリーン関数(p.4)、 シュバルツの不等式、フーリエ級数、ポアンカレの不等式、 バナッハ空間、ヒルベルト空間、ソボレフ空間、ノイマン境界条件(p.119)、 ポアッソン方程式(p.14, p.120)、 シュミットの直交化法などがある。
一方、原語で表記されるのは、Fréchet 空間のほか、 Bessel の不等式(p.110) Riesz の表現定理(p.114)、 Helmholtz 型方程式(pp.116-117)、 Dirichlet (境界)条件(p.14, p.117)、 Hahn-Banach の定理、 Volterra 型積分作用素、Rayleigh の原理、Schrödinger 方程式、Dunford 積分、 などである。区別が俺にはわからない。
シュバルツの不等式 (Schwarz inequality)は有用な不等式である。 シュバルツ(Schwarz)はシュワルツ、シュヴァルツとの表記もある。 また、コーシー=シュバルツの不等式(Cauchy–Schwarz inequality)と呼ばれることもある。
本書ではp.34 で (2.29) という式で出てくる。
`abs(int_a^b u(x)v(x)dx) <= norm(u) * norm(v) (AA u, v in L^2(a,b))`
証明は演習問題 2.6 で取り上げられている。そこではこのようになっている。
`L^2(a, b)` に属する実数値関数 `u, v` に関するシュバルツの不等式 (2.29) を不等式
`(u(x)v(y) - u(y)v(x))^2 >= 0`
の両辺を` (a, b) xx (a, b)` 上で積分することによって示せ.
私の解答はこうだ。以下、同値変形で示す。
`(u(x)v(y) - u(y)v(x))^2 >= 0`
誘導の通り、上式の両辺を` (a, b) xx (a, b)` 上で積分すると次の不等式を得る。このとき、 積分は上式の左辺を展開してから適用する。
`int_a^b{u(x)}^2dx int_a^b {v(y)}^2 dy - 2 int_a^bu(x)v(x)dx int_a^bu(y)v(y)dy + int_a^b{v(x)}^2dx + int_a^b{u(y)}^2dy >= 0`
ところで定積分の値は積分変数によらないから、`int_a^b {u(y)}^2 dy = int_a^b {u(x)}^2 dx` と書ける。他にも `y` が積分変数になっている項を `x` の積分変数に書き直すと下記と同値である。
`2 int_a^b{u(x)}^2dx int_a^b{v(x)}^2dx - 2 {int_a^bu(x)v(x)dx}^2 >= 0`
両辺を 2 で割り、移項する。それとノルムの定義から
`norm(u)^2 * norm(v)^2 >= {int_a^bu(x)v(x)dx}^2 `
両辺の平方根をとり、左辺と右辺を交換する。
`abs(int_a^bu(x)v(x)dx) <= norm(u) * norm(v)`
これは証明すべき式である。
pp.40-43 で、ノルムと収束について述べられている。ノルム空間を `X = C[0,1]` で定める。 いわゆる最大値ノルムである。`f_n = x^n (1-x) `とおけば、 ` norm(f_n) = max_(x in [0,1]) f_n = (n/(n+1))^n 1/(n+1) `
であるので、`n -> oo ` のとき `norm(f_n) -> 0` である。 したがって、`f_n` はこのノルムで `f_0 -= 0`に収束(一様収束)する。
さて同じ関数列をノルム空間 `Y = L^2(0,1)` で考える。
`norm(f_n)^2 = int_0^1 x^(2n) (1-x)^2 dx = 2 / ((2n + 1) (2n + 2) (2n + 3))`
となる。その後を引用する。
計算は `B` 関数を用いるか,展開して頑張るか,信用するかである
ここで `B` 関数とはベータ関数を指す(ビー関数ではない)。ベータ関数`B(x,y)`は次で定義される。
`B(x, y) = int_0^1 t^(x-1) (1-t)^(y-1) dt `
ベータ関数を使うのだったら、ベータ関数とガンマ関数 ` Gamma (x)` の関係を使うのがよさそうだ。
`B(x, y) = (Gamma(x)Gamma(y)) / (Gamma(x+y)) `
ガンマ関数は次で定義される:
`Gamma(x) = int_0^oo e^(-t) t^(x-1) dt`。
また、`x` が整数のとき
`Gamma(x) = (x-1)!`
である。この最後の式を使って、
`int_0^1 x^(2n) (1-x)^2 dx = (Gamma(2n+1) Gamma(3)) / (Gamma(2n+4)) = (2n)! * 2 / ((2n+3)!) = 2/((2n+3)(2n+2)(2n+1))`
となる。信用しないときでも、ベータ関数とガンマ関数、そして両関数の関係を知っていればよい。
p.30 は次のようにあるが誤植だろう。
例 2.12 `X = C[0,1]` において
`K_1 = {v in X | u(x) >=0 (0 <= x <= 1)}`
`K_2 = {v in X | u(x) >2 (0 <= x <= 1)}`
`K_3 = {v in X | |u(x)| <=1(0 <= x <= 1)}` は凸集合である.
ここで `v in X` は誤りで、`u in X` が正しいと思われる。
p.90 は字体がおかしい。
`A` を $ \mathcal{D}$ `(A) sube X` を定義域とし,`R(A) sube Y` である線形作用素とする
とあるが、これは `R` の書体をカリグラフにする必要がある。すなわち、こうでなければならないはずだ。
`A` を $ \mathcal{D}$ `(A) sube X` を定義域とし,$ \mathcal{R} $`(A) sube Y` である線形作用素とする。
p.214 に誤植がある。
数式表現は ASCIIMathML を、数式表現はMathJax を用いている。
書 名 | 関数解析 |
著 者 | 藤田 宏 |
発行日 | 1995 年 11 月 29 日 |
発行元 | 岩波書店 |
定 価 | 4,500円(本体、4分冊合計) |
サイズ | A5 版 |
ISBN | 4-00-010525-6 |
NDC | |
備考 | 岩波講座応用数学第15回配本分冊, [基礎5] |