シンハラ文字が分からないので
シンハラ辞書が使えない

シンハラ語質問箱 Sinhala QA119
2019-May-13 2019-Mar-11




シンハラ語辞書を使いたい。でも、どうやって辞書を引けばいいのやら…

 

シンハラ語に取り組む人たちが増えています

 

 シンハラ語に取り組む人たちが増えています。「かしゃぐら通信」に寄せられる問合せにはシンハラ文字の「あいうえお」はどう書くの?、kaputaフォントのインストゥールは?、という質問に始まって、「料理」はシンハラ語でどう言うの、どう書くの?、といった個々の単語へのお問合せまでいろいろと増えています。
 単語はご自分でお調べになったほうが身につくのですけど、そうするとシンハラ語辞書を使いこなすことが肝心だ、となって来ます。
 最近はシンハラ辞書を使いたいという方も増えて、インドの出版社からシンハラ語辞書を直接取り寄せたという方や、Amazonで買えるぞ、もう買いました、という情報を寄せてくれる方まであって、へぇぇ、アマゾンで買えるんだ、便利になったもんだと思うことしきり。
 辞書にはそれぞれ個性があります。だから、どの辞書を使うかが大事。シンハラ語への距離感も親しみの度合いも辞書によって違ってきます。


シンハラ語辞書を選ぶ

 コロンボのレイク・ハウス書店ではレア本のセールをよくやってました。レイク・ハウスが旧店舗で営業していた時代のことでした。
 アイランドなどの新聞に古書セールの広告が載る。それはパーカーH.Paekerの「Ancient Ceylon」だったり、テンネントJ.E.Tennentの「Ceylon」だったりするのですが、それに誘われてレイクハウスに行きます。
 店の入り口で手荷物を預けて、這入って右の書棚。そこに古書セールの本が並んでいるのですが、大体はAESの復刻版が置いてあったりでがっかりさせられます。
 大体、古本を愛でるという偏狂な気質が、残念ながらこの島では薄い。新しい本ばかりが好まれる。
 ある日のこと、いつものように古本セールの新聞広告に乗せられて、その時は古地図の展示即売ということでしたが、レイクハウスに出かけて行きました。
 入り口脇の平置き書棚にはセイロンの古地図が並んでいるはずなのに、並んでいるのはやはり古地図の復刻版で、これなら駿河台下の三省堂本店でいつでも買えるとブツブツ嘆いて店を出ようとしたら、黒背表紙に金文字を浮かび上がらせた本がうつむいた目線に飛びこんで来ました。
 書棚の最下列に立ててある本を手に取り金文字を確かめるとチャールス・カーターCharles Carter 編纂の Sinhalese English Dictionaryだった。まさか、と疑ったけど確かにグナセーナ社M.D.Gunasenaが1965年に発行した原本だった。AESの復刻版ではない。AESの縮小コピーめく胡散臭さは性に合わない。この辞書が目に飛び込んできたときは驚きとうれしさと。
 辞書の初版は1924年。それから40年ほどして2版が出た。そして、その2版を私がレイク・ハウスで手にしたのが1986年。え、もしや。この辞書は20年間もレイク・ハウスの書棚に眠っていた、なんて。
 カーターの辞書の魅力はなんと言っても収録語彙数が多いこと。見だし語彙が6万あります。そして、語彙の説明が飲み込みやすい。英文説明だけど、これがシンハラ語の不可思議に痒い刺激を受ける特徴をぴったりとフォローしています。名詞・動詞の語形変化に対する目配りはこまやかで、名詞から動詞へ、動詞から名詞への変化も見分けやすい。更に動詞の現在形・過去形を語彙ごとに記しているので日本語動詞活用のように不規則変化する動詞語形を確認するにも役立ちます。

それは宣教師の離れ業だった

   辞書の編者カーターがバプティスト教会の宣教師としてスリランカにやってきたのが1853年。辞書編纂に着手したのが1892年。それから10年が費やされて編まれた辞書なのですが、果たしてそんな短期間にこれだけの辞書が作れるものか、と怪ぶみたくなるほどに濃密なのがこの辞書です。
 同様のシンハラ語‐英語辞書には、例えばクルーガClough の Sinhala-English Dictionaryがあります。こちらは語彙数が4万ほどで、単語の説明はやや大まか。おまけにア行4音の「ア」音のうち2音が「オ」列の次に掲載されるという体裁は意標を突くからはじめは使いにくい。ただ、クルーガの辞書はカーターが辞書づくりに取り組んだ年に刊行されていて、カーターの辞書づくりに与えた影響もあちこちに見られます。カーターの辞書にはクルーガの辞書と同じ語句で説明されている見出し語があったりするのです。

 カーターCharles CarterはEnglish-Sinhalese Dictionaryも編纂しています。こちらはSinhalese English Dictionaryとリバースするのですが、編集方針がまったく異なります。English=shinhaleseはシンハラ口語例文を豊富に揃えることが中心におかれています。シンハラ会話文例集として十分に使える例文が掲載されている、と言うか、バプチスト宣教師のためのシンハラ会話文例集という趣があります。口語実例として見事なサンプルですが、いかんせん、1889年というこの辞書の成立年が現代シンハラ語の実用にはちょっと追いつかない。
 辞書刊行当時の言いまわしが現代では通じないことがままあるし、この辞書で知った用例を口にして、「古風な言い回しだね」とシンハラの話し相手から揶揄される。それぐらいならまだしも、「そんな言葉知らない」と邪険に無視され突き放されるとしぼみます。単語が、フレーズが時代とともに変化するという理はまさに正しい。

 カーターとクルーガーの辞書の成立年はどれも百年を越える昔。古典的な存在になってしまいましたが、シンハラ語を徹底して学ぶにはこれらに代わる辞書が今のところ現れていません。

 古風すぎる辞書ですが、この辞書の用例をグーグル翻訳でsinhala → english に換えて、これを更に日本語へ転換すると面白い結果が出ます。転換された日本語をもとのsinhalaに戻すと、いや、戻しても元のsinhalaとはまったく別の語が表示されます。単語が次々ファジーに変化して現れます。
 単語が変わり意味まで変わる。グーグルのシンハラ語翻訳は現在、お遊びの段階ですが、こうして遊んでいれば必ずこの翻訳マシンはきっと進化します。進化させるために、翻訳マシンでシンハラ語遊びしてマシンの誤りに気づいたときは直しを投稿してください。

グーグル翻訳でシンハラ語を読む

 シンハラ語サイトのシンハラ文をコピーしてグーグル翻訳の書き込み欄にペーストすれば、シンハラ文の翻訳ができます。

 たとえば、次のようなディワイナ2019-03-14のトップ記事。

 ජනාධිපතිවරයාගේ වැය ශීර්ෂය සම්මත කිරීම සඳහා ඡුන්දයක් අවශ්‍ය බවට එජාප පසු පෙළ මන්ත‍්‍රීවරයකු වන චමින්ද විජේසිරි මහතා කථානායකවරයාගෙන් කළ ඉල්ලීම අගමැතිවරයා සහ සභානායකවරයා නැගිට ප‍්‍රතික්‍ෂේප කිරීම නිසා ජනාධිපති වැය ශීර්ෂය ඡන්ද විමසීමකින් තොරව පාර්ලිමේන්තුවේදී ඊයේ (13 වැනිදා) සම්මත විය.

これをそのまま、コピーしてグーグル翻訳すると、

大統領スポークスマンVass Gunawardenaは昨日、首相と下院議長にパスポートを渡すよう要求するという国民党(UNP)のMP Chaminda Wijesiriによる要求を受け入れることを拒否した。

Presidential Spokesperson Vass Gunawardena yesterday refused to accept the request made by the United National Party (UNP) MP Chaminda Wijesiri to demand the passport to be passed by the Prime Minister and the Leader of the House.


とグーグルの日本語と英語で翻訳を抽出するのですが、これらはめちゃくちゃ。Vass Gunawardenaの名なんてどこから出てきたのかしら。パスポート云々なんていったい何。記事は国会での予算案審議の経過に関することなのだけど。スリランカの予算審議はヘルタースケルターでもう何がなんだか、だけど、このシンハラ語翻訳もどこがどうなっているのやら、しっちゃかめっちゃか。
 ところが、最初の一語ජනාධිපතිවරයාගේ をカットして、再び翻訳すると、

議長の予算は昨日(13日)議会で可決されました、投票を可決するためのUNPの後援MP Chaminda Wijesiriの要求は首相と下院のリーダーによって拒否されました。

The President's budget was passed in Parliament yesterday (13th), as the UNP's backing MP Chaminda Wijesiri's request for a vote to pass the vote was rejected by the Prime Minister and the Leader of the House.


と翻訳されて、なんか予算案可決承認されたらしい、と分かるようになります。でも、voteをpassするためにvoteをrequestするなんて訳されてしまうから、それにつられる日本語訳も意味不明になってる。

 シンハラ文はチャンクして読もうとか、シンハラ文解釈は助詞が命とか、かしゃぐら通信は常々言ってきました。だから、この長い新聞記事も文節チャンクして、かしゃぐら通信風にそのまま日本語化すると、

ජනාධිපතිවරයාගේ වැය ශීර්ෂය සම්මත කිරීම සඳහා
大統領の予算案を国会通過させることに関し、

ඡුන්දයක් අවශ්‍ය බවට එජාප පසු පෙළ මන්ත‍්‍රීවරයකු වන
投票採決が必要であるとUNP所属議員の

චමින්ද විජේසිරි මහතා කථානායකවරයාගෙන් කළ ඉල්ලීම
チャミンダ・ウィジェーシリ議員が委員会議長に行った要請は

අගමැතිවරයා සහ සභානායකවරයා නැගිට ප‍්‍රතික්‍ෂේප කිරීම නිසා
首相と国会議長が拒否した為に

ජනාධිපති වැය ශීර්ෂය ඡන්ද විමසීමකින් තොරව
大統領予算案は投票によることなく

පාර්ලිමේන්තුවේදී ඊයේ (13 වැනිදා) සම්මත විය.
昨日(13日)国会において承認された。


となります。文をつなぐ接続詞や助詞の類--- සඳහා / වන / නිසා / තොරවの部分---と、ඉල්ලීමの名詞止めでチャンクすると文の意味がうまい具合にまとまる。日本語の文節と同じようにシンハラ文は後置詞(助詞)や動詞活用のところでチャンクのまとまりを切り取るのです。
 こうしてチャン区分けした文をグーグル翻訳に当てはめると辞書を引かなくても、未知のシンハラ単語の意味が読み込めてくるから面白いもの。しめたもの。

 先ほど、記事冒頭のජනාධිපතිවරයාගේ を省いたら翻訳がちょっと上手くなった。今度はこのシンハラ単語だけをグーグル翻訳の左欄にペーストしてみます。すると右の欄にPresidentが表示されます。
 Presidentを確認したら「日本語」訳に再変換。すると「社長」と表示されます。そうだ、プレジデントって社長だ。そんな名前の雑誌がある。
ජනාධිපතිවරයාගේ =President=社長。おお繋がった、って、ぜんぜん繋がってないんだけど。しかもニパータ(助詞)のගේ を無視して翻訳しているのだけど。
 とにかく、ディワイナ記事の流れからすればこの「社長」は「大統領」じゃないといけない。そこで、訳を修正したい。そのときは右下の「その他」から「情報の修正を提案」へ進んであなたが正しいと考える翻訳案を書き込んでください。これでグーグル翻訳は進化する。
 グーグル翻訳では単語の辞書的な探索ができないのだけどシンハラ文の意味をさっとおさらいしたいだけならちょっと便利。再度加えておきますが、この翻訳は今のところ、お遊び程度の段階ですけど。


マニフェストをシンハラ語でなんと言う?

 カーターのシンハラ語=英語辞書は収録語彙が見出し単語で6万にのぼります。100年を経た現代でもこれを越えるシンハラ語辞書はありません。
 となれば、この辞書の日本語訳の刊行が待ち望まれるのですが、日本でのシンハラ語研究は地盤が弱くて、この先何年立てば百年前に英語がシンハラ語を理解したレベルに並ぶのか、見通しが立ちません。文系レベルの日本の立ち遅れは世界に冠たるものだし、スリランカには膨大なODA予算が計上されて100件を越えるプロジェクトが施行されても弱小言語シンハラへのまなざしはとっても寒い。

 シンハラ語の特徴を一つ挙げましょう。シンハラ語は外来語をそのまま使いません。英語がシンハラ語を侵している、嘆かわしいばかりだ、という憤懣がスリランカの新聞紙上を度々賑わせますが、アルファベットの外来語はシンハラ語が旧知のサンスクリット(パーリ)の中に飲み込んで咀嚼してしまいます。
 たとえばよく使われる現代用語の「マニフェスト」。
 これはシンハラ語で ප්‍රතිපත්ත ප්‍රකාෂනය prethipattha prakaashanayaと訳されます。百年前のカーターの辞書にそう載っています。そう、つまり、マニフェストは別に斬新な意味を持った言葉ではないということ。シンハラ人と話していて、たまたまマニフェストという「現代用語」を使うことになったとして、この単語に対する両者の下地はまったく異なるのです。そもそもマニフェストに当たる言葉があるのですから、日本語が取り入れたカタカナ語「マニフェスト」のようにමනිෆෙසුටො と綴ってそのまま「マニフェスト」と読んで有難がるようなことはしません。
 また、地球上の世界を連係するシステムとして捉える「グローバリズム」という用語。これはගෝලීයකරනය gooliiyakaranayaと訳されます。
 ගෝල goolaは「球体」を意味する単語でグローブ(地球)を表しますからシンハラ語の旧来の辞書で探せます。これは新しい単語でも旧来の辞書で確かめられるということ。カーターの辞書でも、クルーガの辞書でも探すことができます。
 
 シンハラ語辞書は「マニフェスト」のことを「物事をはっきりとさせて、広く伝えること」と記しています。
 私はシンハラ語辞書でマニフェストを知るまでこの言葉の意味が何だかよく分からなかった。日本ではこれが新規な選挙用語で、マニフェストには「はっきりとさせて、広く伝える」という意味などなくて、公約したことを守る、という意味に置きかえられます。つまり、公約だから大体守らない。うやむやにして、言いっぱなし、というのが「マニフェスト」の表すところ、か?
 グローバリズムのグローブは「手袋glove」じゃなくて「地球globe」、だから「地球主義」であると訳すのは目新しい気分があるようだけど判じ物。シンハラ語のように「球体にすること」と訳すのは、-ismでもなんでもなくなって、哲学するって感じ。イメージが沸いて来る。シンハラ語はイメージする言語だから。

 

シンハラ語辞書の使い方

 シンハラ語辞書を初めて使われる方は次の三つの点にご留意ください。

①シンハラ語「あいうえお」の順番を覚える。
②名詞に単数形・複数形のあることを見極める。
③動詞の原型(辞書形)を語幹+活用に分けて察知する。

①シンハラ語「あいうえお」の順番を覚える

 シンハラ語辞書の単語は「あいうえお」順に並んでいます。シンハラ50音は日本語50音と順番が少し違います。まずはシンハラ50音を覚えましょう。「た」「な」行が複数あることや、「は」行が「さ」行の後に置かれていることなどに注意すれば簡単に違いが覚えられます。「あ」音が四つあることや、母音が短音長音の順に並んでいることも忘れないでください。
 シンハラ語「アイウエオ」の順番はここ(シンハラ語のアイウエオ)でご確認ください。ここでシンハラ文字の書き順も覚えられます。

②名詞に単数形・複数形のあることを見極める
 
 シンハラ語の名詞には単数・複数の違いがあります。辞書の場合、単数形で見出しが掲載されています。単数名詞から複数を作るにはさまざまな方法があるのですが、単数名詞に「ලා ラー」をつけて複数形を作る名詞ならその「ලා ラー」を取った形で見だし語を探します。例えば、複数「ඔබලා オバラーあなたら」は単数が「ඔබオバ あなた」です。辞書の見出しには「ඔබ オバ」が使われています。名詞の複数形には単数「මම ママわたし」と複数「අපි アピわたしたち」のようにまったく語形を変えるものがあります。名詞の複数形は要チェックです。参考→「シンハラ語の話し方・増補改訂」

③「名詞+ニパータ」の語形からニパータを探し出す

 シンハラ語のニパータには名詞の後に付けて用いるタイプのものが大部分です。これらは日本語でいう助詞のことで、殆ど助詞と対応します。この助詞を名詞と分離して名詞の元の形を再現すればそれが辞書の見だし語に形になります。
 「「わたしと」というように日本語で書いてあれば「わたし+と」であるとすぐに分かります。「大阪へ」なら「大阪+へ」、「「手に」なら「手+に」。私たちは一つのまとまりを持った言葉をこうして名詞と助詞に分けることができます。
 「大阪へ」はシンハラ語で「ඕසක කරා オオサカ・カラー」と言って「から」と「カラー」が対応し、「手に」は「අහ්ටින් アテ-ィン」で、「に」と「ィン」が対応します。「අතින් アティン」は昔「අතනි アタ・ニ」でした。
 何はともあれ、シンハラ語も日本語と同じように「名詞+助詞(シンハラ語ではニパータと言います)」が一つのまとまりになっていますから、まずはそれを因数分解する必要があります。そのためにはシンハラ語のニパータを一通り覚える必要があります。

④動詞の原型(辞書形)を察知する

 もっとも厄介なのがこの動詞です。シンハラ語の動詞は日本語の動詞のように活用します。そうした活用形から動詞の終止形(辞書形)を察知するにはどうすればいいでしょうか。

 動詞は文の中ではさまざまな活用形で現れます。辞書の見だし語には動詞の原形(終止形・辞書形)が使われていますから、活用形を辞書形に読替える必要があるのです。
 シンハラ動詞の活用部分は多く「‐ナワ」を終止形に取ります。あるいは「カラナワ」「ウェナワ」という形で終わります。これは日本語の「する」動詞、「なる」動詞にあたります。
 現在形の動詞の場合はこの原則を頭に入れておけば大体いいのですが、動詞の過去形の場合はいくつかの変化パターンがあるので動詞毎に過去形を覚えておく必要があります。面倒な動詞活用ですが、慣れてくると過去形にもいくつかの定型パターンがあると自然と分かってきます。弊社刊の「増補改訂・シンハラ語の話し方」をご参照ください。 


 以上の4項目を意識しながら辞書を引いて見てください。名詞や動詞の変化パターンに慣れてくると調べたい単語の辞書形がどんな形か、自然と見えてきます。シンハラ単語の辞書形を探し出すのはそれほど面妖なことではありません。