これをグーグルで機械翻訳すると…
では、この日本語文をグーグルでシンハラ語翻訳してみる。
私は彼にたくさんのお金を借りている
මම ඔහුට මුදල් ගොඩක් ණය ගැතියි
I owe him a lot of money
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となる。これを次のように言い換えると、こんな訳になる。
私は彼から沢山お金を借りている
මම ඔහුගෙන් විශාල මුදලක් ණයට ගන්නවා
I borrow a lot of money from him
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グーグル翻訳が問題にするのは「借りている」というモダリティにあるのではなくて、「彼に=彼から」の表現の対応にある。例題の日本語文にある「彼に(借りる)」は英文訳で「owe him」つまり「彼」が到達点になっている。「彼から(借りる)」は起点を示すのだから「from him」となる。
「に」の使い方はなかなかけったいだ。「あいつに惚れている」「山里に住む」「大阪に行く」などなど。ほんとにみんな「に」でいいのかしら。使い方、間違っていない?
グーグル翻訳が英語を介して日本語をシンハラ語転換するのなら、「彼
に→彼
から」と助詞転換をして、つまり、機械にわかりやすいように、これを英語のfromに転換して、これをさらに日本語の「から」に置き換えて、「私は彼から沢山お金を借りている」としてやって、もう一度グーグル多言語翻訳機に諮ると、
මම ඔහුගෙන් විශාල මුදලක් ණයට ගන්නවා
わたし かれから 大きなお金 借りる/借りている
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とシンハラ語の助詞をうまく当てはめてくれた。
ඔහුට ではなくて
ඔහුගෙන් なら「彼に負債を負っている」ではなくて「彼から借りている」となり、本来の日本語の意味が生きる。何のことはない。こんなことならシンハラ口語文法のコーパスを思い切り増やしてやればいいだけだ。
グーグル翻訳、進化の途中
「彼
にお金を借りる」のか、「彼
からお金を借りる」のか。この場合、「に」と「から」は意味を違える。この部分の言語機能に関しては宮岸哲也氏がシンハラ語コーパスの詳細な一覧を認知言語学の視点で作っているので、日本語の助詞がシンハラ語ではどのような転換を図るか、容易に検証できるようになった。
いまのところ、グーグル翻訳は完璧に程遠いので、宮岸コーパスを利用させていただいてのグーグル翻訳操作に取り組むことになってしまう。でも、これって簡単にネット上で操作できるからシンハラ語を通しての日本語再考にはとても役に立っている。シンハラ語の格接辞(ニパータ)と日本語の格助詞を対照すると融通無碍な日本語格助詞の使い回しが、ほんのちょっと規則的になる。
ところで、グーグルの翻訳ソフトは転換した後のシンハラ語をきれいなネイティーブで発音してくれる。それに無料だし。うれしい。
機械翻訳のシステム構築は膨大な量の資料の蓄積がなくてはとても叶うものではない。グーグル翻訳は日本語を書き込めば何かしらのシンハラ文を翻訳例として提供する。いくつかの翻訳パターンが可能なときは翻訳文を複数提示してくれる。また、翻訳に不満なときは適切な翻訳文を書き込むようにも指示してくる。wikiのように。
え? 翻訳が間違っていたら正しいシンハラ文を書き込んでくれだって?
これって、シンハラ語と日本語の両方を知っている人しか利用できないじゃん、って、気づきます?
そう、今のところ、グーグルのシンハラ語自動翻訳はそういう状態ですけど、使う人が多ければそれだけ学習能力も増大するし、使用者の中には誤訳を訂正してから自動翻訳機に差し戻して機械のシステム向上に協力してくれる人もいるし、そのうち、自前の言語情報をセンス・アップして適切な翻訳エンジンになることは間違いありません。翻訳マシンを使う人たちが使いながら作りあげる翻訳マシンって、何か夢がある。早くJaw/Sinhaleseもそうなって。
参考 Japanese-Sinhalese" machine translation system Jaw/Sinhalese J.Natn.Sci.Fondation Sri Lanka 2006 35(2) 81-96
シンハラ語QandA Index