QアンドA105
インドラ・キーラと『熱帯語の記憶・記憶をたどりゆく』


『熱帯語の記憶』に最終章が加わりました。『熱帯語の記憶3・記憶をたどりゆく』(キンドル版)は日本語とシンハラ語に現れる特異な現象を神話の言葉の中に訪ねてゆきます。


No-105 2015-Dec-21


 インド北西部にあるメルの山はアルピニストのあこがれの山。雪と氷に覆われたその頂は切り立った巨大な崖になっていて、サメが尾びれを突き立てたような姿をしています。そのピークに立ちたいと思うのは、そこが古代にインドを征服した神の都の置かれたところだからで、西からやって来たアーリア人の神話の究極のルーツだからだ。
 メルの山の白い頂に神の都があります。それはインドラの不死の都アマラプラ。神はそこでアムリタの酒を飲み永遠の命を得ました。古代のアーリア人は呪術師バラモンの魔術を借りて不死の都へ昇ってアムリタを飲み、神の力を得て鳥のように羽を広げ天空を羽ばたきました。
 こんなうわさがあります。メルの山の頂を風の神ルドラが一息で吹き飛ばしてしまった。北のインドから大地を飛び越えて南に飛んだメルの山の頂は海に落ちた。メルの山の頂は島になり、インド亜大陸にぶら下がるようにして海に浮いた。
 その島を麗しの聖なるランカーと言います。私たちがスリランカと表記する ශ්‍රී ලංකා スリー・ランカーです。

 『熱帯語の記憶・スリランカ』という本を2000年に南船北馬舎という版元から出しました。それから15年が過ぎて今年、新たに『熱帯語の記憶』をキンドル版でKhasyaReportから出しました。「エピソード編」「日本語とシンハラ語」「記憶をたどりゆく」という全3巻の体裁です。
 「エピソード編」と「日本語とシンハラ語」は南船北馬舎版の『熱帯語の記憶』を新たに書き下ろしたもの。3巻目の「記憶をたどりゆく」はそこに含まれなかった原稿を加えた章で構成されています。2000年の『熱帯語の記憶』は、もともとその3年前に出版された『あじまさの島見る』と一つの作品として創られました。それが出版の都合で二つに分けられ別々になったのですが、今回、それを元に戻しました。同時に、ここには2015年現在の加筆と新しい章を設けました。「記憶をたどりゆく」では『あじまさの島見ゆ』のテーマがより鮮明に記されています。それは2015年に起きた出来事が日本の退化と日本語の孤立をさらに推し進めたからです。日本語が孤立すると想像力が退化して言葉が委縮してゆきます。言葉が委縮すると私たちは、あの時代の、空虚と威圧と残虐を好む民族に成り下がります。

 「記憶をたどりゆく」はシンハラ語と日本語に宿る言語の記憶をヒンドゥのヴェーダ神話と日本神話の最も古い物語に現れる「柱」を追って人々のたどった道を訪ねます。
 この「シンハラ語QアンドA」は2000年に『熱帯語の記憶、スリランカ』を出した後に読者の皆さんからさまざまな感想やお問合わせをいただき、それに応える形で始められたコーナーです。15年が過ぎてみると様々なことが様々に渦巻いて海の底にたまりました。海を掻きまわして、それらを曳き出して文字に起こしたのが今回の「記憶をたどりゆく」です。

 熱帯のアジアから温帯のアジアへ流れる海の道。
 その道をたどった人々のこころの中の記憶。

 インドラ・キーラという言葉。その記憶…
 インドラ・キーラと不死の都。

 それは勝者が持つ最高の武器。
 勝者の戦いの日々の記憶…

 スリランカは不死の都そのもの…

 「記憶をたどりゆく」を加えて一冊の『熱帯語の記憶』となるはずの本がやっと今、完結したことになります。

「熱帯語の記憶全3巻・キンドル版」の詳細