SciDev-Net 2011年8月25日
ナノテクの毒性に目を向ける 開発途上国における課題 情報源:SciDev-Net August 25, 2011 Address risk of nanotech toxicity Alok Dhawan and Vyom Sharma Nanomaterial Toxicology Group CSIR-Indian Institute of Toxicology Research, Lucknow, India http://www.scidev.net:80/en/science-and-innovation-policy /opinions/address-risk-of-nanotech-toxicity-1.html 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2011年8月31日 このページへのリンク http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/110825_SciDev_address_risk_nano_toxicity.html ナノテクノロジーの先頭を走る開発途上国は、規制と地域のリスクパターンの調査を必要としている。 直径100ナノメートル以下の微小の粒子を取り扱う科学であるナノテクノロジーは、消費者製品、生物医学機器、ドラッグ・デリバリー、そして多様な工業分野の中で多くの用途を見つけている。 消費者製品分野だけでも、30以上の諸国が、約1,300のナノテク・ベースの製品を製造しており、それらは、繊維製品、食品容器、化粧品、かばん、子どものおもちゃ、床洗浄剤、創傷被覆材などを含む。そのような製品の数は過去5年間で5倍増加した。 しかし、急速な成長(訳注0)はまた、ヒトの健康と環境に及ぼす有害影響の可能性についての懸念を提起している。有害性に関する研究はまだ、結論を出していないが、ナノテクノロジーを推進する開発途上国は、可能性あるリスクを見過ごすべきではなく、ナノ粒子を含む製品を規制しなくてはならない。 新たな特性、可能性ある有害性 ナノ粒子はもっと大きな粒子に比べて容積あたりの表面積比が大きいので、その小さなサイズということがナノ物質に通常ではない物理的特性を与える。このことはまた、ナノ粒子を生物学的に活性にする。例えば金の場合、通常は不活性物質であるが、ナノ形状であることによる高い表面活性を利用して、化学反応における触媒として作用する。 このことは、ナノ粒子はより大きな粒子に比べて生体系に対し異なる作用を及ぼすかも知れず、体内のさらに奥深くまで到達するかもしれないことを示唆している。 人々は、ナノベースの薬剤、局所的に塗られる化粧品やサンスクリーンのように間接的に、あるいは、例えばナノ粒子を合成中に吸入するというように直接的に曝露することがありえる。 人工的環境内(イン・ビトロ(in vitro))及び生体内(インビボ(in vivo))でのナノ粒子への曝露に関する多くの研究が報告されている。それらには、DNAの損傷、活性酸素(reactive oxygen species)(訳注1)、細胞小器官(訳注2)の損傷、細胞死などをもたらすことがあることを示す証拠が含まれる。 2009年に『European Respiratory Journal』に発表されたある研究(訳注3)では、7人の中国人労働者が印刷工場で製造されるポリアクリル酸(Polyacrylate)ナノ粒子を吸入後、重度の肺障害を引き起こしたと報告したが、これはナノ粒子への曝露とヒトの疾病とが関連付けられた最初のものである[1]。 この問題のリスクへの対応・・・ 現在、潜在的に有害なナノ粒子のラベル表示を消費者のために義務付けている国はない。しかし、英王立協会や米環境保護庁(EPA)を含んで、先進国の世界の政府や科学関連組織は、ナノ粒子の潜在的な有害性に目を向けており、リスク評価ガイドラインを作成するための委員会を設立している。 例えば、現行の規制の下に、EPAは、二つの化学物質、多層カーボンナノチューブと単層カーボンナノチューブを製造し、輸入し、又は加工する事業者に、EPAが健康と環境リスクを監視するのに役立つ情報を届け出ることを求める規則を提案している(訳注4)。 同様に、銀ナノ粒子を使用している洗濯機は、米政府により環境的安全性が評価されている。2005年にスウェーデンでは、微生物への毒性影響についての懸念により、銀ナノ粒子を使用している洗濯機は、暫定的に市場から撤去された。 銀ナノ粒子は消費者製品中で広く使用されており、また殺菌作用を持つが、米EPAはそれらを含む製品を規制することをすでに決定している。(訳注5) ・・・開発途上国では指針がない しかし開発途上国では、ナノベースの消費者製品の潜在的な有害性に関する知識が周知されておらず、わずかにいくつかの指針文書がパブリックドメイン(訳注6)から入手可能なだけである。 インドのある会社は、世界最大のナノテクベースの布地製造者であると主張している。例えば、化粧品や水浄化装置に用いられるナノ粒子を製造する他の多くの会社が中国やインドのような国に出現している。 ナノ粒子の製造、使用、処分のための規制と指針の枠組みを作ることは、開発途上国におけるナノテクノロジーの責任ある開発にとって非常に重要である。国際機関と先進国は、環境と健康の安全を評価するための科学的データと技術を共有することにより、開発途上国を支援することができる。 そして、職業曝露を管理するために、規制の枠組みは、開発されるナノ物質と関与する人に関する義務的な文書と予防のための労働者の訓練を含むべきである。 我々、インド毒性調査研究所、ラックナウは、研究室でのナノ物質の安全な取扱いに関する指針を最近発表したが、これは正しい方向である[2] 。 応用だけでなくその影響も しかし開発途上国における政府の基金のほとんどは、ナノテクノロジーの影響よりもむしろ、応用のための研究に費やされている。 例えば、インドで旗艦であるのナノ・ミッション・プログラムの下に、インド科学技術省により2001年から2010年の間に資金提供のあった200以上の研究プロジェクトのうち、わずかひとつだけがナノ粒子毒性研究に関連しており、我々の研究所に授与された。 その結果として、科学者らは、集団に特有の又は貧しい諸国での製品の使用のナノテクノロジーの影響、環境的な分布と曝露ののパターンを特定することができないかもしれない。 現行のナノ毒性に関する研究は、異なる地域の環境と集団がどのようにリスクに影響を与えるか考慮していない。開発途上国の人々は、基礎的な健康状態と栄養不良のためにナノ粒子の有害影響を受けやすいかもしれない。さらに、有害影響に対する遺伝的な感受性は、多様な民族集団の中で、また地理的な地域で異なる。 科学界は、規制と、ナノ毒性評価のための標準的手法を開発する前に、これらの情報のギャップを特定する必要がある。 Alok Dhawan is principal scientist and Vyom Sharma is a senior research fellow at the Nanomaterial Toxicology Group, CSIR-Indian Institute of Toxicology Research, Lucknow, India. 参照 [1] Song, Y. et al. Exposure to nanoparticles is related to pleural effusion, pulmonary fibrosis and granuloma. European Respiratory Journal 34, 559?567 (2009) [2] Dhawan, A. et al. Guidance for safe handling of nanomaterials. Journal of Biomedical Nanotechnology 7, 218-224 (2011) 訳注0 Nanotechnology's rapidly growing footprint on the scientific landscape Nanowerk Spotlight Posted: August 23, 2011 http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=22504.php 訳注1 活性酸素/ウィキペディア 活性酸素(かっせいさんそ、英: reactive oxygen species)は、酸素が化学的に活性になった化学種を指す用語で、一般に非常に不安定で強い酸化力を示す。活性酸素のうちスーパーオキシドアニオンラジカルおよび一重項酸素は、酸素原子のみでできており、その分子構造は普通の酸素分子とそれほど大きく違わないが電子配置が異なっている。 訳注2 細胞小器官/ウィキペディア 細胞小器官(さいぼうしょうきかん、英: organelle)とは、細胞の内部で特に分化した形態や機能を持つ構造の総称である。細胞内器官、あるいは英名であるオルガネラとも呼ばれる。 訳注3 European Respiratory Journal Online 2009年8月20日 ナノ粒子への暴露は肋膜胸水流出、肺繊維症、肉芽腫に関連する(アブストラクト) 訳注4:EPAによるCNT規制関連情報
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