Particle and Fibre Toxicology, 2020年6月8日
プラスチック脳: マイクロ及びナノ・プラスチック 情報源:Particle and Fibre Toxicology, 8 June 2020 The plastic brain: neurotoxicity of micro- and nanoplastics Minne Prust, Jonelle Meijer & Remco H. S. Westerink https://particleandfibretoxicology.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12989-020-00358-y 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2020年7月30日 更新日:2020年8月 3日 訳注1:金属ナノ粒子の脳への到達と神経毒性を報告する記事リストを追加 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/journal/200608_PFT_ The_plastic_brain_neurotoxicity_of_micro-and_nanoplastics.html アブストラクト 世界的な量の多さと環境中での残留性を考えると、人間と(水生)動物のマイクロ及びナノ・プラスチックへの暴露は避けることができない。現在の証拠は、マイクロ及びナノ・プラスチックが水生生物だけでなく、哺乳動物にも取り込まれる可能性があることを示している。摂取すると、マイクロ及びナノ・プラスチックは脳に到達できるが、脳に到達する粒子の数とこれらの小さなプラスチック粒子の潜在的な神経毒性に関する情報は限られている。 以前の研究では、金(Au)や二酸化チタン(TiO2)ナノ粒子などの金属及び金属酸化物ナノ粒子も、脳に到達してさまざまな神経毒性効果を発揮できることが示されていた(訳注1)。これらの化学的に不活性な金属(酸化物)ナノ粒子とプラスチック粒子の類似性があるので、このレビューは、異なる生物種と生体外(in vitro)でのマイクロ及びナノ・プラスチックの報告されている神経毒性影響の概要を提供することを目的としている。組み合わされたデータは断片的ではあるが、マイクロ及びナノ・プラスチックへの暴露が酸化ストレスを誘発し、細胞障害と神経障害を発症する脆弱性の増加をもたらす可能性があることを示している。さらに、マイクロ及びナノ・プラスチックへの暴露は、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)活性の阻害および神経伝達物質レベルの変化を引き起こす可能性があり、どちらも報告された行動変化の一因となる可能性がある。 現在、様々な粒子の種類、形状、サイズの様々な暴露濃度と期間での神経毒性効果の体系的な比較は少ないが、神経毒性の危険性とマイクロ及びナノ・プラスチックへの暴露リスクをさらに解明することが急務である。 背景 長年にわたり、環境は数百万トンのプラスチックで汚染されてきた。プラスチックには様々な種類があり、使い捨ての用途のために製造されることがよくある。 最も主要なプラスチックは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、及びポリエチレンテレフタレート(PETとして知られている)である。 近年、プラスチックの年間生産量は、2009年の2億5,000万トン[1]から2013年の2億9,900万トン[2]、2016年の3億3,500万トン[1]に増加している。 毎年生産される全てのプラスチックの約10%が海洋環境で残骸となる[3]。 海洋だけでサイズがナノからバルクまでのプラスチック片が 5兆個以上、そして重さが25万トンを超えて浮遊していると推定される。それらは淡水域、陸域、及び海底のプラスチック破片の量は含んでいない[4]。 プラスチックは非常に残留性があるが、容器、漁網、車のタイヤなどの海洋のバルク・プラスチックは、光分解や波の作用、動物との接触、砂との摩耗、水自体によるや侵食によって断片化する[4、5]。 これらの断片の分解は、いわゆる二次マイクロ・プラスチック(直径0.1μm〜5μmmの粒子として定義)と二次ナノ・プラスチック(直径100μnm未満の粒子として定義)の継続的な増加に寄与する。 主要なマイクロ及びナノ・プラスチックは、化粧品、塗料、身体手入れ用品または繊維製品の要素として機能するよう意図的に超極小サイズで製造される[1、5、6]。 マイクロ及びナノ・プラスチックは全ての水生生態系に見られる[7、8、9]が、これらの物質がどのように危険であるかについてはまだ議論されている。マイクロ及びナノ・プラスチックの物理的な存在によって引き起こされる潜在的な悪影響に加えて、それらは、金属、残留性有機汚染物質(POP)、抗生物質、及び(病原性)微生物を含む、様々なな(化学)汚染物質のキャリアとして機能する[10、11 、12、13、14]。 水生食物連鎖では、マイクロ及びナノ・プラスチックの生物蓄積は、魚や海洋哺乳類などの水生生物による摂取と、それに続く、取り込まれた粒子の栄養レベルによる移動の後に発生する[15、16]。ナノ粒子の場合、えらを介した取り込みにより、追加の暴露経路が生じる[17、18]。マイクロ及びナノ・プラスチックは、消化管及び/又はえらから循環器系に移動する可能性があるが[1、18]、正確な転座メカニズム(例えば、腸壁上皮の密着結合を介した傍細胞転座、または細胞内取込み作用(エンドサイトーシス)、食作用(ファゴサイトーシス)、または微小飲作用(マイクロピノサイトーシス)による経細胞移動)はまだ不明である。小さなプラスチック粒子の存在は、その後、動物プランクトン[19]、ムール貝[20]、甲殻類[21]及び魚の脳[22]を含んで魚[17]の臓器や組織で観察されたが、報告されている摂取量は通常、水生種で低レベルである(動物プランクトンとムール貝でそれぞれ30〜50個の粒子[19、20])。 人間は、汚染された(海洋)動物や、歯磨き粉、ビール、蜂蜜、塩、砂糖などのその他の食品や消費者製品の消費によって、マイクロ及びナノ・プラスチックに暴露する[14、23、24、25]。追加的な人間の経口暴露は、飲料水及びプラスチック・ボトルや大型容器(カートン)に入ったミネラルウォーターから生じる[26、27]。追加的な吸入暴露は繊維、合成ゴムタイヤ、プラスチック・カバーから放出されるマイクロ及びナノ・プラスチックによりもたらされる[14、18、24、25、28]。 げっ歯類のマイクロ及びナノ・プラスチック( 0.3μmb以下)の取り込み及びそれに続く肝臓、脾臓、及びリンパ系への移動は、低レベルではあるものの[30]、数十年前に報告されている[29]。同様に、人間では、マイクロサイズのプラスチック繊維が肺組織で検出されており、粒子吸入によるマイクロ及びナノ・プラスチックの人体への移動の可能性を示している[31]。さらに、生分解性高分子微粒子の消化管への限定的な取り込みが報告されている[32]。これらの組み合わされた研究は、経口及び吸入暴露後の人体へのマイクロ及びナノ・プラスチックの取り込み及び移動の可能性を強調しているが[33]、粒子量と粒子サイズに関連して、様々な器官への粒子移動の程度を綿密に体系的に調査した研究は全体的に少ない。さらに、マイクロ及びナノ・プラスチックの暴露、摂取、および移動に起因する潜在的な健康リスクは十分に調査されておらず、進行中の議論の重要な問題である[14、18、34、35、36]。 本文 略 結論 環境におけるマイクロ及びナノ・プラスチックの遍在的な存在にもかかわらず、それらの摂取と毒性に関するデータは一般的に不足している。いくつかの研究では、マイクロ及びナノ・プラスチックが、魚や哺乳類を含む様々な生物によって、異なる暴露経路を介して取り込まれることが示されている。マイクロ及びナノ・プラスチックの潜在的な神経毒性に関する主要な知識のギャップにもかかわらず、これらの研究は、プラスチック粒子が酸化ストレスを誘発し、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)活性を抑制し、神経伝達物質レベルを変更し、いくつかの種の行動を変えることができることを示している。これらの効果が、金属ナノ粒子で示されているように、(人間の)神経発達障害及び/又は神経変性障害に関連するかどうかは、まだわかっていない。 特に、これまでに使用されたほとんどの実験的な暴露は、人間の暴露に対してあまり現実的ではない。人間は慢性的に低レベルにさらされているが、ほとんどの研究は、高レベルの暴露で短い暴露期間を使用していた。利用可能な研究に見られる欠点には、環境に関連しない(未使用)粒子タイプと形状の使用が含まれる。さらに、さまざまな粒子のタイプ、形状、サイズ、および濃度の体系的な比較が欠如しており、現在までのところ、ほとんどの研究は水生種に焦点を当てている。 神経毒性のハザードとマイクロ及びナノ・ナノプラスチックへの暴露のリスクを完全に解明するには、いくつかの措置が必要である。第一に、特に人間の場合、暴露レベルはより良いモニタリングを必要とする。暴露レベルの決定だけでなく、粒子の特性(タイプ、サイズ、形状、風化)はもとより、暴露経路(摂取、吸入、及び鼻腔内暴露後の逆行性輸送)も強調する必要がある。 同時に、暴露評価は、腸、肺(又はエラ)または鼻上皮を介した取り込みの程度、潜在的な血液脳関門の通過、および臓器(脳を含む)への潜在的な移動または蓄積にさえも焦点を合わせる必要がある。これは、粒子が嗅覚および味覚神経終末を介して脳に直接移動するか、血流を介して間接的に、又は両方を介して移動するかどうかを明らかにするであろう。このような情報は、大気中の粒子または食品ベースの粒子が人間の健康にとって最も危険かどうかを判断するのに役立つ。これは、どの暴露タイプの緩和策が最も価値があるかについての指標も提供するであろう。 ハザード特性の改善には、用量と時間の応答曲線の利用を可能にするために暴露時間と粒子用量の範囲の標準化を行ない、また粒子の重量と数も勘案する必要がある。さらに、さまざまな粒子の種類、形状、サイズ、表面電荷が使用されるべきであり、これらは、可能なら環境中で最も豊富に存在するプラスチック粒子に対応していることが望ましい。さらに、現実的なリスク評価のためには、混合物の毒性に関する課題が生じているにもかかわらず、製造された未使用粒子以外に、古くて汚染された粒子を使用することが有益であろう。 種によって暴露経路が異なるため、哺乳類を含む複数の種を使用することが不可欠である。特に、必要なハザードの特性評価は、生体外アッセイを使用することにより、かなりの程度まで実行できるため、スループットの向上、コストの削減、及び機械論的な洞察の向上に役立つ。ただし、これらは非現実的な暴露レベルでのみ影響を受ける可能性があるため、細胞死などの明白な(神経)毒性エンドポイントだけでなく、より微妙で機能的なエンドポイントにも焦点を当てるよう注意する必要がある。マイクロ及びナノ・プラスチックのそのようなハザード及びリスク評価の結果に関係なく、環境へのマクロ、マイクロ、及びナノ・プラスチックのさらなる汚染と拡散を最小限に抑えるために予防的措置を講じる必要がある。 訳注1:金属ナノ粒子の脳への到達と神経毒性を報告する当研究会紹介記事
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