EHP 2006年8月号 Science Selections
超微粒子 神経系を直撃
脳への直接経路で


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 8, August 2006
Science Selections
Ultrafines' Quick Neurological Hit
Particles Take a Direct Route to the Brain
http://www.ehponline.org/docs/2006/114-8/ss.html#ultr

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年8月7日


 微粒子の浸透能力を証明する研究報告が出現し続けている。今回、アメリカの研究チームが、吸入された酸化マンガンの超微粒子が肺や多くの脳の部位に顕著で急速に蓄積することを報告して、従来の証拠を新たに書き加え明瞭化した[EHP 114:1172?1178; Elder et al.]。彼らはまた、粒子は拡散するために溶解する必要はなく、呼吸器系の経路は循環系の経路よりも効率がよいことを示した。

 研究者らは、溶接工が一般的に経験するような中程度の濃度の酸化マンガン超微粒子を1日6時間、ほとんど不溶解性の固体形状でラットに吸入させてラットの体内移動と組織内分布を評価した。暴露して12日後、嗅球(鼻腔に隣接する脳のある部分)におけるマンガン濃度が約3.5倍以上増加した。同時に、肺のマンガン濃度は2倍になっており、また少ないが明らかな増加が小脳、前頭皮質、線条体など他の脳の部位に見られた。

 吸入された超微粒子は明確な肺の炎症を起こさなかった。しかし脳には、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor)やファージ炎症性タンパク質(Macrophage Inflammatory Protein)等いくつかの炎症とストレス反応の兆候が約2倍から30倍増加した。

 吸入された酸化マンガン超微粒子がどのように拡散するのかを見るために、同チームはいくつかのラットの右の鼻孔を詰まらせ、酸化マンガンを左の鼻孔だけから吸入させた。彼らはマンガンの大部分は急速に左の嗅球に蓄積したことを確認した。このことは、循環系を通じた溶解や分布など他の経路による蓄積はほとんど起こらないことを示している。もしそうでなければ左右両方の嗅球にマンガンが蓄積するはずであるからである。

 循環系の役割は無視できるという結果は、もうひとつ他のマンガン研究の結果と対照的であるが、その研究は、この研究で使用した約30ナノメートルの酸化マンガン塊より数桁大きい、ほとんど溶解しないリン酸マンガン粒子を使用した。この研究における粒子は嗅覚神経の径の約6分の1であり、その神経に沿って脳まで移動した。

 炭素、金、ポリオウィルス、そして人工ナノ粒子についての他の研究はもちろん、この研究の結果も、他の吸入された超微粒子もまた急速に広がり、動物の体中で影響を及ぼすかどうかを検証するために、もっと多くの研究が必要であることを示している。

ボブ・ワインホールド(Bob Weinhold)



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る